第208話 ミントとふたりきりで話したこと
「ね。ちょっといい?」
「なんだい、ミント」
今は書斎として使っている部屋にひとりでいるとミントが入ってきた。
最近、ふたりっきりになることがなかった。
「ちょっとお話がしたいな、と思ってね」
「ああ。私も話をしないとって思っていた」
いままでと一緒なミント。
だけど、微妙に違ってしまった関係。
「お嫁さんのことだけど」
「うん。そのことだよね。私自身、ちょっと戸惑っているんだ。嫁ができたってことで。自分で決めたのにおかしいよね」
「わたしも。なんか戸惑ってしまって。なんて言ったらいいのかって」
不思議だ。
ずっとミントと話をしなければって思っていた。
だけど、なんか踏み切れなくて、先延ばしにしていた。
ミントとふたりで話してしまうと、何かを失ってしまう気がして。
「ね。前に約束したこと覚えている?」
「約束っていうと。天使の話かい」
「そう。ミントはずっとユウトの天使だっていうこと」
「うん。そして、唯一の天使だって」
「うん。もうひとつ伝えてなかったことがあるの」
「なんだい」
本当に不思議だ。
なぜか落ち着いて話している。
すごく重要な話をしているんだというのに。
「ユウトはミントの天使だってこと」
「僕が天使なのかい」
「そう。ずっと昔から。ミントにとってたったひとりの天使はユウト。そして、ユウトにとってもたったひとりの天使がミント」
なんだろう。
始めて話す話なのに、ずっと前から知っているような。
赤ん坊の頃、お母さんが話してくれていたこと。
そんな気がしている。
「ミントとユウトは、お互いの天使同士だったんだよな。ずっと前から」
「ユウト、思い出したの?」
「えっ、何を?」
正面から私の目をじっとみているミント。
思い出した?
そう。ずっとどこかにあった古い記憶が呼び覚まされている気がする。
「ユウトが天使だってこと。わたしも天使だってこと。龍神さんと繋がったから思い出したの。地上に降りてくる前のことを」
「地上に降りてくる前のこと?」
「思い出さない?あの時空激流の時のことよ」
なんだろう。
ふたつの記憶が混ざったようなこの不快感は。
「あの日。ユウトはひとりでわたしの前から消えてしまったの」
「あの日。僕は激流に流されていた。僕の前にミントとユウトがいた?」
「えっ、違うでしょ。あなたはユウト。わたしの横にいたのよ」
「あの日。私はミントの横にいた。そして激流に流されてきた勇斗とぶつかって・・・」
「勇斗?ユウトじゃなくて誰?」
「思い出した。すべて思い出した」
1500年の時空の流れを飛び越えてこの世界に来たことを。
そして、天空から地上に降りてきた時のことを。
やっと、出てきた。異世界に来る前の話。
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