第2話 土堀りは基本です
「大変そうですね。手伝いしましょう」
「おお、手伝ってくれるか。ありがたい」
「どのくらい粘土を掘るんですか?」
「ほら、あそこに粘土山があるだろう。あれと同じくらい今日中に掘らないと監督官に怒られるんだ」
「それは大変ですね、手伝いましょう」
「それなら、このスコップで粘土を掘ってくれ」
「あ、スコップいりません」
「えっ?」
粘土を掘りだしている穴に入って周りの壁の向こうの土の質をスキャンする。
うん。レンガに向く土の層がずっと続いている。
このあたりならどこを掘っても大丈夫だろう。
「この粘土山と同じくらいでいいのか。それっ」
地面をトンと叩いたら、そこから土がモリモリと上がってくる。
粘土山の隣の位置を指さして、土を移動させる。
土がまるで水の様に流れて、目的の場所に移動してもりあがりはじめる。
しばらくすると、隣の山と同じくらいの大きさになる。
それまでの時間、約1分。
「うわっ、なんだそれ?」
「土魔法ですよ。土を動かすのは一番簡単です」
腰を抜かしている作業員のおっさん。
「ほかに手伝うことないですか?」
「あー、それなら、あの粘土山と骨材の砂山の2つをレンガ工房の前に移動してくれないか」
「あ、レンガを焼いているとこですね。あそこにも土の山がありました。その隣でいいですか?」
「おうっ」
土の山をトンと叩くと水の様に流れてみるみるうに山が小さくなっていく。
一つ目がなくなると、次はさっき作った2つ目の山でも同じことをする。
「はい。できました。確認しにいきます?」
「・・・そうだな」
歩いて5分くらいの場所にあるレンガ工房にきた。
土の山が全部で3つ。
その周りにレンガ焼き職人が集まっている。
「どうしたのですか?」
「いやーびっくりした。なんか土が流れてきてよ。土の山がふたつできてしまったんだ」
「それはだな。土堀場から移動した山なんだ」
ドヤ顔で土堀りのおっさんが言う。
「ええっ、どうやったんだ、おまえ」
「それは、この土魔法使いの先生がやってくれたのだ」
「おおーーーっ」
照れるな先生だなんて。
ただのちょっと魔法ができる青年です、はい。
「あ、土魔法ならレンガ作りができるんじゃなかったっけ?」
「俺も聞いたことあるぞ」
土魔法というのは、あまり人気がないジャンルの魔法なんだ。
攻撃に使える火魔法や、回復ができる聖魔法が人気のジャンル。
「土魔法ってレンガを作るくらいしかできない奴だよね」
「そうそう。そんなの使うより窯で焼いた方が早いって」
たしかにレンガは作れる。
ただし、レベルが低い土魔法使いだと、作れる数に限界がある。
だから、魔法で作るより窯で焼いた方が早いといわれてしまうのだ。