第160話 ファイヤーボールと土嵐
S級火魔導士。
どんな魔法を使うか見てやろう。
「まずは小手調べで、これをお前にやろう」
そういうと、右手の手のひらを上に向ける。
手のひらの上に炎の球が現れる。
「ほう。ファイヤーボールかい。随分と初心者級のを使うな」
「バカたれ。大きさを見ろ。まだまだ大きくなるぞ
最初バレーボールサイズだったのが、あっと言う間に直径1mを超えて3mまで大きくなる。
「大きいだけではないぞ。炎の温度も倍はあるぞ」
さすがにそんなファイヤーボールを食らったら、ただでは済まされないな。
「それ、喰らったらヤバいっすか?」
「ああ、消し炭になる気があるのか?」
「ないっす」
「なら、何をしたらいいか、分かるか?土下座だよ、土下座」
いままで、見た中では一番すごい魔法だ。
さすがS級の火魔法ともなると半端ない。
「土下座すか。それは嫌だな」
「水魔法の使えないお前に、これを止める手立てはないぞ」
「そうかな。早く投げてみろよ、それ」
「言ったな」
まるでボールを投げるモーションでどでかいファイヤーボールを投げつけてくる。
すかさず、土魔法で対応する。
いきなり、地面から土が舞い上がり、ファイヤーボールを覆い隠す。
しかし、ファイヤーボールは止まらない。
「甘いな、そんな土嵐程度で止められるはずないだろう」
「そうかなぁ。止まるというか、無くなるというか」
土煙が立ち込めているので、どうなったか見えない。
しばらく待つと、土煙が拡散していく。
「やったか?」
「えっ、なんのこと?」
何事もなかったように立っている土魔法士。
「なんだ?どう対応したんだ?」
「まぁー。土に還したというか、なんというか」
土魔法士の使ったのは、土嵐などではない。
巨大な穴を掘り、中の土を舞い上げたのだ。
そして、ファイヤーボールを包み強制的に大きな穴にファイヤーボールを落とし込んだのだ。
火は確かに水によって消える。
しかし土によっても空気を遮断することで消すことができる。
「なかなかやるな土魔導士。次はお前の番だ。受けて立とう」
「えっ、立っているというか、潜っていませんか?」
「が。なんだこれ、うわぁ」
ファイヤーボールを埋めた次は火魔導士を埋めてみた。
ぎりぎり口が地上に出る様に。
ただ、S級火魔導士なので敬意を払って、埋めた周りの土をセラミックレベルで硬化した。
「おい。なんだこれ。卑怯だぞ」
「えっ、土魔法なんで、土に埋めるのは基本なんです」
「正々堂々と戦え」
「うーん、どんなのが正々堂々なのかな。こういうのかな?」
とりあえず、埋まって身動きできない火魔導士の頭の上に強化セラミックのどでかい杭をおっ立ててみた。
「こんな物でどうでしょう」
「なんだ。何もないぞ」
あ、上は見えないか。顎まで埋めちゃっているから。
作った杭はだいたい50センチくらいの鉛筆型で先端は尖っている。
全長は30mくらいある。
「ね、水魔道士さん。あの杭を高速で打ち込むのがいいですかね」
「あ、あ。やめてください。お願いします。ま、参りました」
あれ。水魔道士さん、土下座を始めてしまった。
気魔道士さんも、土下座して他の剣士達も土下座している。
「なんだ、お前ら。なんで土下座するんだ」
「土下座が無理なら謝ってください。リーダー」
「なんでだ?」