第15話 愛の天使
『愛の天使』
うーん。どうなんだろうか、この名前。
表通りに堂々と看板を出して営業をしている。
この街には奴隷を扱っているお店が二軒ある。
一軒は純粋に労働力としての奴隷が中心。
もう一軒がこの『愛の天使』だ。
このお店も奴隷を扱っている。
だけど、ただの労働力としての奴隷じゃない。
愛玩性も含めた奴隷だ。
「いらっしゃいませ」
すらっと背か高くてきっちりした服装の男性が迎えてくれる。
執事という感じがするスタイルだ。
「今日はどのような天使をお探しですか?」
このお店では奴隷とは言わずに天使と言うらしい。
「実はこういうお店に来るのは初めてで。どんな感じなのか知りたくて・・・」
ついつい、しどろもどろになってしまう。
「その歳ならそうでしょう。まずは天使のいる生活を体験してみませんか?」
「体験って?」
「こちらへ来てください」
隣の部屋に入ると、まるでワンルームマンションの様な作りの部屋になっている。
キッチンと寝室と居間がコンパクトにまとめられた部屋だ。
まるで新婚の部屋といった感じにセッティングされている。
「こちらは、天使のマールさん。お客さんより5歳ほど年上ですね」
「はい。えっと・・・どうしたら・・・」
「それでは、天使のいる生活を体験してみてください。呼び鈴を押したら私が戻ってきます」
「あ、はい。あ、なにしたらいいんですか」
「お好きなように。ただし、駄目なことも当然ありますので、その場合は彼女が止めますから、それまでは自由にしてくださいね」
「あ、はい」
天使のマールさんとふたりきりになってしまった。
「こちらに座ってくださいな」
「あ、はい」
「お茶はどうでしょう」
「いただきます」
マールさんはキッチンスペースにいき、お茶をいれる。
お湯は沸かしてあるみたい。
「どうぞ。リラックスするハーブティーです」
「ありがとう」
良い香りがするハーブティだ。
たしかに緊張が解けていく気がする。
「お疲れ様」
そう言って、そっと手を重ねてくる。
体温が感じられて暖かい。
「今、おひとりなんですか?」
「はい。ひとりで宿に泊まっています」
「お寂しいのですね」
「はい」
そんな話をしているだけで、心が温かくなる。
女性のいる飲み屋でも、風俗でも感じることができない感覚。
「ひとりより、ふたり」
「そうですね。ふたりのほうがいいですね」
たいした話をした訳でもないのに、心が癒されていく。
このまま、一緒に過ごしていけたらいいな。
「そろそろ、呼びましょうか」
「えっ、何を」
「これですよ」
呼び鈴を見せる天使のマール。
「あ、そうですね」
りんりんりん♪
「いかがでしたか。短い時間でしたが天使のいる生活、感じていただけましたか?」
「はい。とっても」
「では、また、こちらへどうぞ」
入口の部屋に戻ってきた。
快適な部屋だけど、ごく普通の部屋。
天使のいる部屋とは全く違う。
「天使のいる生活、どうですか?」
「素晴らしいです」
「お買い上げ、検討していただけますか?」
「あ、その前にお値段を聞きたいんですが」
全く奴隷を買うということが初めての私に対して、丁寧に教えてくれる。
「まずは、普通の奴隷。労働の奴隷の話をしましょう」
「はい」
「労働奴隷は労働対価の10年分が基本です」
「じっさいにはどのくらいになりますか?」
例えばメイドの奴隷は、メイドの給金は住み込みで食事つきの条件で最低が月当たり銀貨5枚。
ベテランのメイドになると倍くらいになる。
だから、メイドの基本訓練を受けていて未経験の奴隷は10年分で銀貨5枚の120倍、金貨で60枚になる。
「金貨60枚ですか」
「はい。そのあたりが病気とかがない奴隷で一番安い値段になります」
うーん、金貨60枚か。全然足りない。
今あるのは、金貨22枚くらいか。
「正直言いまして、お金が足りません。今は買えません」
「今後、買えるようになりそうですか?」
「ええ。ちゃんとお金を貯めて買いに来ます」
「そうですね。ただし。奴隷と言っても天使の値段は違います」
「あ、いくらになるんですか?」
ちょっと落ち込んだ。
どうみてもお金が足りない。
もっと高くなるのか。
「値段はまちまちです。たとえば、今のマールが基本的な値段のタイプで、金貨120枚です」
「倍ですね」
「はい。メイドとしては初心者です。条件によっては金貨1000枚を超える天使もいます」
金貨1000枚あれば、もっと高級な天使が手に入るのか。
小屋を500軒建てるとして。
1日10軒で50日・・・遠いな。
「はぁ。今度くるときは最低200枚の金貨を持ってきます」
「それはそれは。お待ちしていますよ」
にっこり笑って、見送ってくれた。