第145話 令嬢さんの晩餐会
「今宵は私の晩餐会に参加していただいてありがとうございます」
この街の領主である伯爵様。
その娘さんが主催する晩餐会。
伯爵様と一緒にこの街に来るときは、令嬢晩餐会が開かれる。
本当は伯爵夫人が開催するのが通例なのだけど、伯爵夫人は令嬢が幼い頃に亡くなり再婚もしていないため、令嬢開催となっているのだ。
「楽しんでいってくださいね」
楽し気に話している令嬢ではあるが、よく知っている人が見ると少し暗い表情をしている。
原因は明確だ。
空き席がぽつりぽつりとあるのだ。
前回まで空き席など全くなかったのに、今回に限り何席か。
一席や二席なら急病等も考えられるが、それよりも多い。
つまり、令嬢晩餐会に出る予定の人が他のところに行っている可能性がある。
「なぜ、こんなに空席があるの?どういうこと?」
「すみません。キャンセルが連発しまして。新たに招待した人もいるんですがさすがにすぐには集めきれず・・・」
何かが起きている。
令嬢と仲良くなるのが目的なこの晩餐会。
それよりも優先するべきことがあるのだろうか。
「欠席した人がどこにいるのか調べてください」
「わかりました」
そのころ、24街区の劇場では、『メイドさんナイト』が開催されていた。
ミントと5人のコスプレアイドルを中心に練習生も含めて総勢12人。
ステージあり、観客席での握手会ありと、盛りだくさんのメニュー。
この夜は、急遽VIPコーナーが用意されていた。
というのも、オークションでミント像が出品されて、ミントのことが上流階級の人たちの間で有名になると、
ミントの参加するイベントに上流階級の人たちが参加を希望してきたのだ。
「「「ミントーー、ミント、ミント、ミントーーー」」」
いつもの応援団ももちろん来ているけど、強引にチケットをゲットした貴族やお金持ちも来ている。
「今夜は一緒に大いに盛り上がりましょう~」
メイドピンクが宣言する。
巫女ピンクと同じ女の子で、メイド衣装でもリーダーを務めている。
その後には、楽団の音楽にのせてステージではメイドダンスが始まった。
「しかしまぁ、ここの主人はイベントが大好きやな」
「本当に好きだな。それも女の子ばかりの」
そんな話をしているのは、影の護衛の双子。
イベントの時は暗殺者が紛れ込む最高のチャンスだから、いつもは姿を見せないけどここでは表に出て護衛している。
護衛目標は、ミントと土魔導士のふたり。
「ほら、同業がちらほらいるよ」
「本当だ。ファンのふりしているけど、表情が違うね」
周りも警戒しているのがバレバレの人が何人かいる。
情報収集とか暗殺とか工作とか、そういうのを専門にする影。
「まぁ、動きをみていると情報収集らしいから、マークだけしておこう」
「大したレベルの奴らじゃないしね」
同じ影として相手のレベルを読むのは基本だ。
殺意を出している奴はいないところをみると、まだ暗殺者はきていない様子。
「まぁ、情報収集の奴は泳がせておけばいいね」
「そうそう。泳がせよう」
そんな話をしていると、一人の影が観客席が抜けて外に向かう。
追跡してみると、劇場からも出たから、報告のために帰るのだろう。
「あれはどこの影かな」
「土魔導士さん、有名になっちゃっているからなぁ。あちこちの恨み買っているかもね」
劇場をぬけだした影が向かうのは、令嬢晩餐会。
そして、令嬢にこっそりと報告する。
「あの像のミントの劇場にこちらの出席予定者が10名ほどいました」
「なにぃーーー。ただの巫女でしょう。なんでそんなところに」
「いえ、メイドでした」
「メイド!!!メイドに令嬢の私が負けているってこと?」
「いいづらいんですか。伯爵様、こちらにいますか?」
影が周りを見て質問する。
「さっきまでいたわよ」
「今、いませんね」
「あれ?いないわね」
「あっちの劇場で仮装した伯爵様らしき人がいたものですから」
「お父様まで!」
ミントと令嬢の第2戦は、ミントの知らない間にミントに軍配があがっていた。
そして、おもいっきり令嬢の怒りを買っていた。
令嬢さん、怒ってます。怖いわぁ~
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