第108話 村娘の夢
「それでは歓迎パーティはじめたいと思います」
おっさん村長の司会でパーティは始まった。
「お酒は強いんでしょう」
「それほどでもないんですが」
「まぁまぁ。飲んでくださいね」
村の一番の美人だと紹介された村娘がお酌をしてくれる。
16歳でまだ結婚していない。
「私、本当のこと言うと街に行ってみたいの」
「へぇ、遊びに?」
「ううん。街でお仕事したくて」
「どんな仕事?」
やっぱり美人な女の子はいろんな夢もるんだなぁ。
いつの時代でも一緒で。
「もしさ。街に出てくることがあったら、私のとこに訪ねてきなさい」
「えっ、本当ですか?」
「だけど、ただではないがな」
「えっ・・・どうしたら?」
「わかないかな?私が求めていること」
村娘はさぐるような目で見てくる。
ただの冗談なんだけどなぁ。
本気にされたっぽい。
これじゃ、権力をかさに庶民の娘を好き勝手する悪人役だな。
「冗談だよ。街にきたら遊びにきてよね。困ったことがあったら相談くらいのるからさ」
あれ?返事しないなぁ。
女の子は難しいな・・・嫌われてしまったかもね。
そんな話をしていたら、特設ステージで村の音楽隊が楽器を演奏しはじめる。
ラッパ、太鼓、笛、鐘。
独特なメロディーが繰り返され音が大きくなっていく。
すると、ステージにミントが登場した。
音楽に合わせて、巫女舞を踊る。
ただ、服装は持ってきたメイド服だから、メイド舞だね。
村人たちは、美しい舞に最高潮に盛り上がっている。
酒が入って、陽気になっているのねあるけどね。
「この音楽。愛のはじまりって曲なのよ」
「そうなんですね。初めて聞きました」
村娘はいつのまにか横に座り、一緒にミントの舞を見ている。
ミントは最初のクライマックスに入って、激しく回転しながら舞う。
3人のメイドちゃん達もバックで舞はじめる。
ミントとシンクロしていたり、違う動きだったり。
なかなか複雑な連携をしている。
「悪くないな」
「素敵っ。あの人たち、皆さん、メイドさんですか」
「ええ。うちのメイド達です」
「この料理も作ってくれたんですよね」
「うちのメイドは歌って、踊って、料理ができるメイドなんです」
このフレーズ、言いたかったんだよね。
そのために、メイドアイドル作っているようなものだしね。
「だけど、メイドなんですよね」
「はい?」
「奥さんとか側室とか。そういうのではなく」
「あ、基本的に違いますね」
あー、正直言うと恋人みたいなのが紛れ込んでいるけど。
他の子たちも、これからどうなるか、自信はないけど。
今は、普通にメイドさん達。
「私もメイドになろうかな。街で。あんなに可愛くて踊りやすいメイド服ならいいなぁ」
あ、あれは、うちオリジナルだから。
普通のとこは、地味だよ。
なんて話をしてもしょうがないから、黙っている。
「街はなんか楽しそうですね」
「村も楽しいことあるんじゃないの?」
「ええ。お祭りとかありますし。意外といろんなイベントやるんですよ」
季節季節でイベントをして村民みんなが参加する。
今日の歓迎パーティも、いきなりだったけど、村が主催するイベントだ。
どうしてもでれない理由がある人以外、村民はすべて参加している。
「そういうのも楽しいじゃないですか」
「はい。だけど、私。もっと大きな世界で自分を試してみたいんです」
あ、やっぱり、村より街なのか。
刺激が多いのは街だから、わからないではないけどね。
「あの・・・迷惑でなかったら・・・今夜・・・」
「えっ」
「今夜、私と一緒に・・・」
ええっ。本当にお誘いがきちゃったよ。
別に権力をかざしてなんていないから。
悪役じゃないんだから・・・でも・・・お誘いは断ったら、恥かかせてしまうよね。
ステージでは狼娘が登場して、いきなり変身して村人の度肝を抜いている。
狼に追われて逃げ惑う、そんな舞になっている。
だけど、私はそっちではなく、横の村娘が気になって仕方なかった。
どこにいても気になることは一緒ってことだね。
今日も5話アップ予定です。
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