【エルムート突破作戦(前編)】
それは遠い昔。世界を見守る世界樹に花が咲き誇る陽気な季節の頃だった。
「さて……どうなるか」
厳かな椅子に座り、煌びやかな装飾をつけた服を着飾った男は、そう呟いた。男は魔族だった。赤い肌に黒の髪。そして黒いツノを額から二本出し、背中には翼が、尻からは尻尾が生えている。顔には少しシワが目立つが、放たれる威圧感は並大抵のものではなかった。
彼の周りには、同じように魔族たちが数名、彼を守るために警護している。
そんな時、突然部屋の扉が開いた。扉から現れたのは軍服に身を包んだ魔族の兵士だった。
「魔王様!」
兵士は、椅子に座った男に向かってそう言った。
そう、彼こそが魔王。イルガミア=デリオラーその人である。
「どうした」
魔王に尋ねられた彼の部下は、緊張しながらも答える。
「はっ! ミラボレア、シルダーは共に膠着状態! しかしながら……エ、エルムートは味方軍全滅!」
「そうか……エルムートは駄目か」
魔王は、どこか納得した様子でそう言った。
エルムートは、東大陸と西大陸を結ぶリーン王国へ続く重要な平地がある地域であり、そこが潰れればリーン王国へなだれ込めるため、西大陸の人間達は、決定的な痛手になるのは見えていた。ミラボレアとシルダーも、リーン王国の国境付近の地域だが、山に囲まれているため侵入が難しい上に戦術的劣勢であり、戦いも膠着状態にならざるを得なかった。
エルムートは、魔族がリーン王国に攻め入るために一番落としたい場所であるが故に、人間族の西大陸において最も強固な防衛線が張ってあり、攻めようとしてもうまくいかなかった。
「おい、カルレイド」
そして、魔王はそばにいた魔族に話しかけた。彼の名はカルレイド=テンタルウィン。魔王の右腕である。
「ええ、魔王様。恐らくエルムートは、多大な犠牲無くして勝利はありません。つまり……」
「ここが正念場か。エルムートには以前どの程度を出した」
「かなり動員しており、3000ほど。そして全滅しました」
「なれば……10000を動員する」
魔王のその言葉に、その場にいた全員が驚いた。
「お、お言葉ですが魔王様。1万の軍勢を動員して、再びエルムートで撤退などが起きれば、人間どもに攻め込まれます!」
「わかっている。だがこのまま消耗戦を続けていても、東大陸の魔族たちは疲弊する上に、数で勝る人間達にはいずれ負ける。ここしかないのだ。ここでエルムートを落し、一気に東大陸に攻め込む」
「し、しかし……1万の軍勢ともなると、並大抵の者では将軍は務まりません!」
「ああ。ギルガメッシュか、アーダインか……カルレイド、お前もだな」
「お、王! 私は……」
魔王に急に言われたカルレイドは、焦った様子を見せた。
「わかっている。お主はここにいてもらわねば困る。しかし……どちらにせよ、今大局を担っている奴らをエルムートに当てるしかない。それはつまり、今ギルガメッシュ達に守ってもらっている場所を、捨てることになる」
「彼らが守っているのはいずれも我が軍の要です! そんなことをすれば、一気に負ける可能性だってあります!」
「だが……これしかない。奴ら以外にはいないのだ。くっ……俺が出られれば。病で弱った身体をこれほど憎んだことはない……!」
「魔王様……!」
血が出るほど拳を握りしめている魔王を見て、配下達は心を痛めた。
そんな時だった。王座の間の扉が開かれた。
「父上。俺が行きます」
中から現れたのは、魔王と同じく赤い肌に黒いツノと翼、尻尾を持った魔族だった。だが、髪は美しい銀色をしており、若い美青年だった。
「「「若様!」」」
「アレフ……!」
驚いた配下達と、魔王がそう言った。
そう、この青年こそ、若かりし時のアレフ=デリオラーである。
「どうした。みんな驚いた顔をして。俺ならギルガメッシュ達のような認知度と実力を持っているはずだ。俺がエルムートに行く」
アレフは淡々とそう言った。それに対して、カルレイドは走ってアレフの元へと近づくと、まくしたてるように話し始めた。
「何を言っておられる! 若様は、正統なる魔王後継者! そんな事が許されるわけがありません! 仮に魔王軍が敗れても、父君と若様さえ生きておられれば、また立ち上がる事が出来るのです!」
「それでまた人間達に迫害される日々を過ごすのか? いつか勝てると信じて? 違うだろ。今だろ! 今、行動を起こして、戦うんだ! 俺たちは何のために戦ってるのか思い出せ! 勝つためじゃない! 自由を勝ち取るためだ! そうだろう!?」
アレフのその言葉に、聞いている他の魔族達は、涙を流していた。
カルレイドは、もはや何も言えなかった。ただ彼は、床に片膝をつけてアレフの前に跪いた。
「無茶を言って悪いな、カルレイド」
「いえ……私は安心しております」
「何がだ?」
「やはり……あなた様こそ正統なる次期魔王。私は、誇りに思います」
「ふん、気が早いぞ。まだまだ父上には健康でいてもらわねば」
そう言って、アレフは父である魔王イルガミアを見つめた。魔王は何も言わずに、ただ頷くと、立ち上がってアレフの元へと歩いていった。
「アレフ……お前に、エルムート戦の全指揮権を与える!」
魔王のその言葉は、よく響いた。
アレフはその場で片膝をついて、頭を下げた。
「謹んでお受けします、父上」
「顔を上げよ、アレフ……顔をよく見せてくれ」
「なんです、父上」
「立派になった……俺は、お前のような息子を持てた事を、心から誇りに思う」
「それは、俺がエルムートを陥落させてから言って欲しいですね」
アレフは苦笑してそう言った。
「アレフ……死ぬなよ」
「はい……!」
アレフは、そう力強く答えると、踵を返して部屋から出て行った。
そんなアレフの後ろ姿を見て、魔王はどこか嬉しくもありながら寂しさも感じていたのだった。
部屋から出たアレフは、そのまま自分の部屋へと向かう。そして自分の部屋の前まで行くと、そこには小さな少女が立っていた。
白い肌を持ち、可愛らしく銀色の髪を横に2つで縛った美少女。とはいえ、アレフと同じように頭からはツノが2つ生え、翼と尻尾を持っていた。
「リズ」
「あ、アレフお兄様!」
アレフが少女を呼ぶと、気づいた彼女はアレフに飛び込んで抱きついた。アレフは、慣れた手つきでそれを受け止める。
彼女は、リズレーナ=デリオラー。アレフの妹である。
「お兄様。どうなったんですか?」
「俺がエルムートに行くことになった」
「……そうですか」
「嫌がらないんだな。てっきり行かないでと駄々をこねると思ったが」
「リズはわかっていました。お兄様は、決めたことは貫く人ですから。だからリズは、わがままを言わないと決めたんです」
「そうか……まぁ大丈夫だ。明日出るが、すぐ帰ってくる。リズは城で安心して待ってろ」
「はい……あの、お兄様」
「どうした」
「今日は、久しぶりに一緒に寝ても、いいですか?」
アレフは、泣きそうな顔をしながら言ってくるリズの頼みを断れるはずもなく、承諾した。
その日の夜、リズは兄との別れを惜しむようにアレフの身体を抱きしめながら眠りについた。
そして、まだ朝日が出ていない時間帯になり、アレフはまだ寝ているリズを起こさないように引き剥がして、準備を始めた。
装備を整えて、城門の方へと向かうと、既に兵士達が整列を始めていた。1つの隊を500ほどに小分けにして、既にエルムート付近まで順次出発させているのだ。
アレフの登場に、魔族達は一斉に頭を下げた。そして、アレフは部下達に声をかけながら最後の隊列の先頭に立った。その隊の隊員は、普段アレフが率いている優れた部下達だった。
「さて……行くとするか」
他の隊たちは全部出発したため、アレフは馬に乗って、エルムートに出発しようとした。
「アレフ様! 私も行きますよ!」
そう言って、走って城から出てきたのは、薄黒い肌と黒い長髪を持った美男子だった。
「ギルレイド! お前……いいのか?」
そう、彼はギルレイド=テンタルウィン。その後四大帝として、アレフを支える1人である。そして彼は名の通り、カルレイド=テンタルウィンの一人息子だ。
ギルレイドは、アレフの幼き頃よりアレフの第一の部下として共に育ってきた。そんな彼も魔族においては高貴な血を持つ一族。本来ならば、このような危険な戦場に出るべきではない。しかし、ギルレイドは周りの反対を押し切って、参加する事を決めた。
「アレフ様が行くならば、不肖ギルレイド、どこまでもついて参ります」
「ふん、そうか。ならば……行くぞ!」
アレフの号令と共に、部隊は出発した。
行軍は2日かけて戦場であるエルムート付近の山岳地帯にたどり着いた。そこでは、先に着いていた部隊が陣を敷いており、全部隊の総指揮を持つ、アレフの到着を待っていた。
そして、アレフが到着すると、およそ7千の兵士達が一斉にアレフの方に注目した。
「噂の若様だ」
「ほう……こりゃ……流石魔王の息子って感じだな……」
「ああ、魔力の練り上げ方が並じゃねぇな」
魔王の息子というだけで、選ばれた七光り。彼らはそんな感情を持っていた。しかしアレフを一目見ただけで、その実力を見抜き、認識を改めていた。その一方で、
「あれが、魔王様の……息子か」
「へっ、なんだあのツラは。美形でてんで戦えそうにねえぜ」
「おい、滅多な事言うもんじゃねえぞ。若様は次期魔王様だぞ」
「んなこと言ってもよ。みんな言ってるぜ。少々小さい部隊で戦果あげてたって、血筋で魔王になるなんて納得いかねえってな」
アレフに対して、よくない感情を抱く者の方が圧倒的に多く存在していた。
そんな嫉妬と嫌悪に包まれる殺伐とした空気の中アレフは、臆する事なく高台の上に立ち、大勢の前に顔を見せた。
「さて……お初にお目にかかる。俺が貴様らの指揮を任せられたアレフ=デリオラーだ」
アレフの声は、よく通った。
アレフが名を告げると、少なからず隊内ではどよめきが起こる。
それに対して、アレフは指を鳴らして空中を軽く爆発させる事で黙らせた。
「俺の事は知っている人も多いだろう。何せ魔王の息子だからな。だが俺の名前は、知らない者が殆どのはずだ。今の動揺を見ていてもわかる。名を明かしてない理由は機密と俺の安全を考えての面が強いが……何故今俺が貴様らの前で明かしたか。わかるか?」
アレフは、周りを見渡しながらそう問いかけた。兵士たちは、ただ黙ってアレフを見つめている。
「名前も知らぬ隊長の為に、命をかけようとは思わないからだ。そうだろう? 少なくとも俺はそうだ。さて、命を……かけるとは何か。これから起きるエルムートの戦いでは正に命をかけることになる。おそらくこの戦争において最大の山場がこの戦いだ」
アレフは、一呼吸置いた。
「ここで我らが負けたら……魔王軍は敗北すると言っても過言ではない。4日前、エルムートに導入された兵士は3千を超える。だが全滅した。敵はエルムートを西大陸最後の砦としており、人間兵器とも言われる長詠唱呪文を使う強力な魔法使いを多く導入し、エルムートの国境付近を徹底的に守っている。これがどういうことかわかるか? 俺たちも、同じ規模で死人が出る可能性があるという事だ。死ぬ者も多く出るだろう。逃げたくなる者も出るだろう。そんな中で、俺たちは……何のために『命をかける』?」
アレフは、目をつぶって自分自身にも問いかけるようにしてそう言った。
そして、少しの前を空けて、目を開けると話し始める。
「俺のために命をかけろ、などとは言わない。当たり前だ。俺はお前らのために命をかけて戦った事がないからだ。ならば、何か。思い出して欲しい。この戦争は、何のための戦いだ? エルフ族! そう、そこにいる貴様だ。貴様は、何のために戦う」
アレフは、隊員の中にいた男のエルフを指差して、そう尋ねた。彼は、緊張しながらも口を開く。
「お、俺は! 人間に森を切られて住処を追われた! 後からきたのは人間たちなのに、女は攫われ奴隷にされて……俺たちは人間に奪われたんだ!」
「……そうか、良く言ってくれた。ならば、そこの蛇人族! 貴様らは何のために戦う」
次にアレフは、下半身が蛇で上半身が人間のラミア族の女性にそう尋ねた。
すると女性も、声を震わせながら訴えた。
「私も、奪われた! 夫は、歩いてた人間とすれ違っただけなのに、殺された。犯人は人間だった。だけどその人間は罪に問われなかった。理由は、被害者が魔族だから。こんなのおかしい!」
「他にもいるだろう! 理不尽を感じた者が! なぁ、そうだろう!?」
アレフが声を大にしてそう叫ぶと、軍隊の中から次々と声が上がる。
「俺もだ!」
「俺も!」
「私もよ!」
「そうだそうだ!」
「こんなのはおかしい!」
声は1つのうねりとなり、その場は怒りに包まれていた。そして、アレフはその声を覆うように大きな声を出す。
「俺たちは! 何のために戦っているのか! 復讐? 違う、そんな事じゃない! 俺たちは『自由のために』戦っているんだ! 理不尽な世の中を変えて、自由を手に入れる! それこそがこの戦いの目的だ! 俺のために命をかけろなんて言わない! 貴様らは……いや違う! 俺たちは! 『自由のために』命をかける!!!」
「「「うぉぉオオオオオオオオ!!!!!」」」
「自由を掴むなら! 命をかけろ!!」
天高く振りかざしたアレフの拳を真似て、1万の軍隊は拳を天に突き出した。雄叫びは空を震わせ、地鳴りのような音となった。
アレフの演説が終わり、軍はいよいよエルムートへと進軍を始めることになる。アレフは、進軍を始める前に、1人離れた場所で立っていた。
それに気づいたギルレイドは、アレフに近づく。
「アレフ様。ここで何を?」
「ギルレイドか……ふっ、いや……嫌な役回りだな、大隊長というものは」
「どうしたんです」
「あれだけ皆を鼓舞させて、だがその殆どを死なせてしまう事が分かっていることがな」
「仕方ありません。それは我が父カルレイドが考えた作戦の通りです。もはや作戦と言えるかも怪しいものですがね」
「『エルムート突破作戦』か……要はただの物量作戦だ」
エルムート突破作戦。アレフが大隊長となった時点で、カルレイドはある作戦を思いついた。エルムートは、平地に人間が柵と塹壕と高台を作り、確実なローテーションで無限に魔法を撃ってくる地獄のような場所である。近寄れば、死。
それを突破するにはどうすればいいか。空を飛べる魔族が殆どいない今、もはや方法としては、『突破出来るまで突撃する』というものしかなかった。1万という圧倒的な物量。陣を3つに分けて次々と突撃させ、それで押し通すという方法だ。だが普通ならば、第一陣が全滅したのを見た時点で、怖気付いた兵士たちが逃げるのは目に見えている。生半可な指導者ではその恐怖を取り除くことはできない。心の底から死を恐れず戦わせる事ができる指導者でなくてはならない。カルレイドは、アレフならこれが可能だと考えた。
それはアレフが持つ特有のカリスマのようなものを踏まえた上でのものだった。
「仕方ありません。戦争に、犠牲は付き物です」
「割り切れるものでもない……わかってはいるが。やるしかない。自由のために。その言葉に嘘偽りはない。俺が言い出した事だ。行くか、ギルレイド」
「はい、アレフ様。私はあなたと共に生き、そして死にます」
「共に生きよう」
アレフの前に片膝をついて、誓いを立てるギルレイド。そんな彼らの近くに、1人の青年が現れた。青い髪で、頭には耳が付いている。
「あ、アレフ様……こんなところにいらしてたんですね……!」
「貴様、軽々しくアレフ様の名前を呼ぶなど!」
ギルレイドが青年に詰め寄った。
「ひぃっ!!」
「別にいい、ギルレイド。貴様の名は?」
「あっ、は、はいっ! 僕は、第三陣に選ばれました、狼族のロランと言います! 先ほどの演説、感動致しました!」
「そうか、ロラン。貴様は何のために戦う?」
「ぼ、僕はその……やっぱりこの世を変えたくて。魔族が煙たがれて満足に生きていけない世の中を。僕の父は人間に襲われて死にましたし、姉は奴隷に売られました。やっぱりそんなのはおかしいですよ。だから……」
「なるほど。だが貴様は何かまだ、心に引っかかりがあるように見えるが?」
アレフのその問いに、ロランは驚いたような顔をした。
「凄い。わかっちゃうんですね。僕、人魚族の彼女と約束したんです。生きて帰って世の中が変わったら、その時に結婚しようって。その時にお互いにこのペンダントを」
ロランは首にかけているペンダントを開けて中身をアレフに見せた。そこには女性の絵が書かれている。
「ほう。つまり、生きて帰れるか心配だから、不安が残ってると」
「はい……情けないですが。それに僕の魔法は戦闘向きではなくて……」
「なんだ、五大属性ではないのか。どういうものだ」
「えーとですね……失礼します」
ロランは一瞬アレフの肩に手を触れた。
「其方は此方。此方は其方。互いに触れ合う。惹かれ合う――瞬動」
ロランが言った瞬間、アレフとロランの立ち位置が一瞬で入れ替わった。それは高速移動などというものではなく、まさに瞬間移動だった。
「こんな感じです」
「な、こ、これは……一瞬で移動出来るのか!? これは秘伝魔法か」
「ええ。一族に伝わる秘伝魔法です。けどこれくらいの距離でないと駄目ですし、一度は体に触れないといけないし、戦闘には使えないですよ」
「いやいや、色々と使い道はあると思うが……例えば、倒されて乗りかかられた時に、相手と位置を入れ替えれば形勢逆転だぞ。恐ろしい魔法だ」
「た、確かに……考えたこともなかった。ありがとうございますアレフ様。戦いの際は、何かアレフ様の役立つような使い方も思いついてみせますね!」
「俺のためじゃなく自分のために使え」
アレフがそういうと、ロランは少し涙ぐんでいた。
「うぅ、優しい方だ。それに比べて僕は男なのに、死ぬことが怖いし……情けない」
「別に情け無くなどない。皆生きて帰りたいとは思っている。死のうだなんて思ってない。命をかけるとは、死ぬことではない。心で、芯を定めるんだ。彼女と再び会うことを目指すなら、命をかけて生き残れ。いいな?」
「は、はい……はいっ……! ありがとう、ございます……っ!」
ロランは、泣きながらアレフに礼を言った。その後ロランは気持ちを切り替えた後、兵士たちがいる方へと戻っていった。
そしてアレフたちも準備を済まし、行軍を開始した。
山岳地帯を抜け、歩き続けると、遠くからは煙が上がっているのが見える。方角的にミラボレア付近での戦闘によるものだろう。
歩くに連れて、部隊から緊張が走っていくのがわかる。アレフは、最後尾でその姿をただ見つめていた。
そして、平地に出ると、向こう側には柵が張ってあるのが見える。平地であたりは開けてはいるが、その全ての柵に無数の魔法戦士たちが準備していた。
驚くほど、静かな光景だった。まるで兵士の汗が垂れた音すらも聞こえるような静寂。そして、その静寂を断ち切るように、アレフは大きく息を吸い込んだ。
「第1軍――突撃ぃっっっ!!!!」
「「「「ぬぉぉ、おおお、オオオオオオオオ!!!!!」」」
地が割れんばかりの声と共に、今戦いの火蓋は切って落とされた。
これがのちに第二次人魔大戦史上、最大の戦い、作戦と言われる『エルムート突破作戦』である。