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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
過ぎ去りし罪の唄〜一章『謎の少女』〜
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番外編:ロキ【帰郷】


 大きな屋敷に大きな庭。訓練場もまで携えたその家に、ロキ=サザンクロスは辿り着いていた。

 ここは、オルレリア王国王都にあるサザンクロス家の屋敷。つまりロキの実家だった。


「ここを出たのは15の時、つまり5年ぶりか……」


 彼は神妙な面持ちで、家の前に行くと立っている警備兵に尋ねられる。


「ご用件はなんですか?」

「僕の事を覚えていないかい?」

「はっ?」

「僕の顔さ。ほら、見覚えないか?」


 ロキはそう言って警備兵に顔を見せる。警備兵は最初こそ戸惑ったものの、ロキの顔を見るに連れて徐々に焦り始めた。


「ま、まさか……ロ、ロキ様……!」

「父様とロイドに会いに来たんだ。開けてくれるよね?」

「わ、わかりました……」


 兵士は扉を開けて、ロキを中に入れた。するとロキは、そのまま迷う事なく家の中に入ると、真っ直ぐに父親のいる部屋へと向かったのだった。そして部屋の扉を叩く。


「誰だ」

「僕ですよ、お父様」

「ロ、ロキ……!」


 部屋の中で椅子に座っていたロキの父、ダムド=サザンクロスは、息子の顔を見て驚きを隠せていなかった。


「何故今更貴様が……もうここに貴様の居場所などないぞ」

「そんなもの探しに来たわけじゃありませんよ。ただ挨拶をしに来ただけです」

「挨拶だと? なんのつもりだ」

「5年前ここに置いてきた心残りを、清算しようと思いまして。ロイドはどこにいるんです?」

「ロイドだと。なるほど貴様、ロイドを倒して『金色の守り人』団長の座にでもつこうとしているのか? 無駄だ、貴様の才能ではロイドには勝てん」


 ダムドがそういうと、ロキは真剣な眼差しでダムドを見つめてこう言った。


「そんなものには興味ありません。お父様、僕はロイドに勝ちます」


 ロキの発言に、ダムドは鼻を鳴らして馬鹿にした。


「何を馬鹿な事を。貴様がロイドに勝てるわけなかろう。出来損ないの貴様にな」

「サザンクロスに負けは許されない。そうですよね? だからこそ僕が彼に勝ちます」


 ダムドは、ロキのぶれない瞳を見て、思わず視線を逸らした。


「ちっ……何が目的なのか知らんが、貴様がロイドに勝てるはずがない。そんなに戦いたいなら戦えばいい。皆が見る前で無様にやられるんだな。ただし貴様が負けたら二度と私の前に顔を出すな。そしてサザンクロスの姓を名乗ることも許さん」

「わかりました」

「ふん、なら下がれ。客間にでもいろ、後で準備が出来次第使いのものに呼ばせる」

「はい」


 そう言ってロキは部屋から出る。そして廊下を歩き客間へと向かうと、そこには懐かしい顔があった。白毛の生えた髪を整え、老いてはいるが、凛々しい佇まいをしている男性がそこにいた。


「坊っちゃま。ご立派になられました……!」

「カラマツ!」


 ロキにカラマツと呼ばれたその男性は、ロキの執事をしていた男性だった。カラマツはシワのできた顔に笑みを浮かべる。


「このカラマツ、坊っちゃまにお会いできて幸福でございます」

「僕もさ、カラマツ。元気そうで何よりだ。お前はいつ見ても歳が変わってないように見えるな」

「私ももう体が言うことを聞かなくなってきましたよ。しかし、坊っちゃま、何故今更ここに?」

「ああ、けじめをつけに来たんだ。僕自身のけじめを」


 ロキのまっすぐな目を見て、カラマツは瞳を潤ませた。


「ロイド様と戦われるおつもりですか」

「ああ」

「その理由を……お聞かせ願います」

「僕は、ずっと心の底にお父様への執着があった。いや、サザンクロス家への執着か。敗北は許されない、才能がなにより大事。僕にとってそれは呪縛だった。その鎖は僕を捉えて今でも離さない」


 ロキの話を、カラマツはじっと聞いていた。ロキは続ける。


「けれど、僕は最近変な奴らばかりと会ってね。そいつらは、己の中に信念のようなものを持ってるんだ。僕より弱い奴もいるのにね。そいつは常に先を見ている。過去を変えようと今をもがいている。そんな彼を見ていたら僕も思ったんだ。自分の手でこの鎖は断ち切るべきだと。僕は、ロイドに勝って、自分自身を超える」


 ロキの話を聞き終えて、カラマツはポツリと語り始めた。


「……ロキ坊っちゃま。私は、いつもあなた様を見てきました。人一倍負けず嫌いで、努力して、素直なとてもいい子でした。私はそんなあなたこそ、当主たるにふさわしいと思っていた。しかしあなたにはロイド様を超える才能がなかった。私は酷くショックでした。にも関わらず再びここにいる。もはや私からかけられる言葉はございません。ただ前に、そう前に、進んでください」

「カラマツ……」

「ご武運を」


 カラマツはそれだけ言って、お辞儀をすると、その場から去った。ロキは手のひらを握り、その感触を確かめる。


「前に……ただ前に」


 ロキはそう繰り返す。

 すると1人の従者が彼を迎えに来た。準備ができたようだ。ロキは彼に連れられるまま、練習場へと向かった。ひらけたその場所には既にサザンクロス家に使える人々が集まっていた。そしてロキの姿を見て、ざわつき始める。


「ほ、本当にロキ様だ」

「ダムステルアでプロ勇者をやっているというのは聞いていたが」

「大きくなったな。しかしなんで今更ロイド様と」

「サザンクロス家を乗っ取るつもりなんじゃないか?」

「いくらプロ勇者で活躍してるとはいえ、ロイド様を倒す事は出来ないだろう」

「ああ、無謀すぎる」


 好き勝手言う彼らの声を無視して、ロキはただ一点を見つめていた。その視線の先に佇むのは、自分とよく似た顔。金色の髪、ロイド=サザンクロス。自分の弟だ。

 ロイドも同様にして、ロキのことを見ていた。そしてロキが近づくにつれて、ロイドは話し始める。


「久しぶりだね兄様」

「ああ、久しぶりだなロイド」

「何しに来たのさ。今更騎士団長にでもなりたくなったの?」


 ロイドは馬鹿にしたように鼻を鳴らし、そう言った。ロキは顔色を変えず、淡々と返す。


「過去にけじめをつけにきた」

「それで僕と戦うって? 勝てるとでも思ってるの? 5年前、あんなにボロボロに負けたくせに」

「ああ、そうだな。僕は君に勝てると思っている」


 ロキの真剣なその表情に、ロイドはイラつきを隠せずにいた。眉をしかめて怒りをあらわにする。


「ふざけるのも大概にしろよ。前のでわかったはずだ、あんたには才能がない。あんたがいくら努力したところでそれは『無駄』なんだ!」

「そうかもな。しかし今日はやけに喋るじゃないか、久々の再会で感動でもしてるのか? ロイド」

「ちっ……! 煽るのだけは一丁前だね。今回は、真剣でいいんだよね?」

「ああ、殺す気で来い」

「言われなくとも、やってやるよぉ!」


 ロイドが走り出し、ロキに斬りかかった。ロキも懐から剣を取り出してそれを防ぐ。そしてそこからは同じ流派の剣術で剣戟を繰り出した。

 響く金属音に飛び散る火花。兵士たちはそのハイレベルな戦いを息を飲んで見ていた。


「やるじゃないか兄様! 剣術をここまで昇華するとは」

「実戦で鍛えたからな」

「なら魔法はどうだ! 風属性! 位階上! 斬斬舞!」

「風属性、位階上! 斬斬舞!」


 2人の風がぶつかり合う。そしてそれは消滅した。


「ちっ……位階上も使えるのか……!」

「僕を5年前の僕だと思わない方がいい」

「生意気な、才能の違いを見せつけてあげるよ! 本気で行くよ!」


 2人は再び剣でぶつかり合った。激しく鳴り響く2人の剣戟の音。互角の戦いは、お互いを激しく消耗させていった。


「ちっ、まさか出来損ないが本当に僕と競り合うとは……!」

「どうしたロイド! 僕はまだ戦えるぞ」


 2人は剣を弾き、後方へと跳ぶと一定の距離を保った。


「ふん、少しはやるじゃないか兄様。けれど、これで終わりだ!」

「来るか……!」

「風属性、位階極! 風の調べ!」


 ロイドの放った極大の旋風が、ロキの周りに吹き荒れる。もはやそこに物質が入る隙はなく、ロキの生死は決したかに見えた。


「は、はははは! どうだ! これが努力では埋めきれぬ才能の差だ! 消えろ! 消えてしまえ! サザンクロス家に敗北者はいらない! ははははは――は!?」


 風が消え去った後には、跡形もなく消えているはずのロキが、とくに目立つ傷もなくそこに立っていた。


「耐えきれたみたいだ……ありがとうラミア」

「ふん、あの程度の小僧にやられおって情けないのう」


 ロキは自分の持つ剣へとそう話しかけた。ラミアという名前を持つその剣は、鍔のあたりに目玉が付いている。


「――ば、馬鹿な!? 位階極の魔法だぞ! なぜ耐えられる! あり得ない!」

「さて、じゃあ次は僕の番だ、ロイド。風属性、位階上。斬斬舞!」

「くっ、位階上程度、僕なら……! な、なんだこの威力は!?」


 ロキの放った風は、防ごうとしたロイドを飲み込んでいった。


「ぐあああああっ!」


 ロイドは宙へと吹き飛ばされ、風が止むとそのまま地面に叩きつけられた。

 ロキは、倒れた彼の元へと歩く。


「ぐ……くっ、あり得ない……この僕が、出来損ないのあんたなんかに……」

「ああ、僕だけじゃお前には勝てなかったよ。間違いなく才能は君の方がある。けど僕はもう、才能だの努力だのに拘るのはやめたんだ」

「な、なにを……」

「これでもう、僕は過去の自分と決別できた。ありがとう、ロイド。騎士団長、頑張れよ」


 ロキは穏やかな表情でそれだけ伝えると、その場から立ち去っていった。サザンクロス家の人々は去っていく彼をただ目で追っていくことしかできなかった。


「ぐっ、ふ、ふざけるなっ……こんなもの、認めるかっ……! くそぉおお!」


 ロイドの虚しい咆哮が、あたりに響いた。ロキは振り返らず、歩いていく。すると彼の前には、お辞儀をしたカラマツの姿があった。


「坊っちゃま。お元気で」

「ああ、カラマツも元気でな。ありがとう」


 彼らはただそれだけの言葉を交わすと、満足気にお互い別の方向へと歩き始めた。

 ロキの顔は晴れやかになっていた。


(さて……ゴレアムにでも会いに行ってやるか)

これで一章は終わりです。

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