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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
過ぎ去りし罪の唄〜一章『謎の少女』〜
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【繋がり】


 アイが古代文字を読めたことに驚愕していたアレフ達だが、目的は達成したので帰路につこうとしていた。


(アイの事も気になるが、あの石碑……いったい何の目的であんなものがあるんだ?)


 アレフはそんな事を考えながら、アクア殿から出たが、そこでは思わぬできごとが起きていた。

 外で待機していたはずの馬とその御者が、血を流して倒れていたのだ。


「えっ!? 何があったの!?」


 思わず駆け寄るマリン。アレフも様子を伺う。


「馬は死んでるが、人間は息はある。だが気絶しているな」

「嘘……どういう事? まさか賊?」

「そうみたほうがいいな。アイ、俺の後ろに隠れてろ」

「う、うん」


 アイを己の背後に隠すと、アレフは辺りを注意深く観察した。そして目線をある一点に集中させる。


「そこか。底無イレイサー


 アレフが、木と木の草の陰に闇魔法を放つと、そこから人が逃げるようにして飛び出てきた。その人間は、女だった。修道着を着て、優しそうな顔をしている。


「貴様、何者――」

「――せ、先生……マリア先生」


 アレフが尋ねようとする前に、ガンズが身を乗り出していた。アレフは彼のその挙動で、目の前にいる女性が彼のいうシスターマリアだという事を理解した。


「よせ、近づくなガンズ。仮にそいつがシスター本人でも、正気じゃない」

「で、でも……」

「私に、あれを渡しなさい」

「なに?」


 シスターマリアは、虚ろな目のまま、何かを要求してきた。


「あなたたちが持っているんでしょう? ブルーオーブ」

「ブルー……オーブ?」

「石碑全体が光るのが見えたわ。中にある石碑から青い玉が現れたはず。それがブルーオーブ」

「知らんな、そんなものは」


 アレフはしらを切った。明らかに状況がややこしい方向へと向いているのを感じ取ったからだ。


「嘘をつくのなら、力づくで奪うまでだ! 無属性、位階中。パワーアップ」


 シスターマリアは、自身に身体強化魔法をかけると、そのままアレフへと襲いかかった。


(この見た目で身体強化か。やりづらいな)


 アレフは彼女の攻撃を受け流し、蹴りを加えて距離をとった。


「マリア先生! 俺だよ! わからないのか!?」

「馬鹿っ、ガンズ! 今のそいつに近づくんじゃない!」


 ガンズが、シスターの元へと近寄ると彼女はガンズを殴り飛ばした。


「ぐぁっ!」

 

 ガンズは無様にも平原に転がった。


「だから言ったろ。ガンズ、しばらくそこで寝てろ」

「アレフ! 手助けは?」

「いらん。マリンはアイを見ててくれ」

「わかった。アイちゃんこっちよ」


 マリンはアイを連れて、戦闘の場から少し離れた。


「さて、訊くのが遅れたが、そこにいた馬と人間をやったのは、貴様か?」


 アレフの問いに、シスターは興味なさそうに答える。


「そうよ。だったらなに?」

「そうか。その確認だけしたかった。他に賊がいても面倒だからな」

「そんなの関係ないわ。あなたは私に殺されるんですから!」


 再びシスターはアレフに襲いかかった。強化された足で一瞬で間合いを詰める彼女の攻撃を、アレフは完全に見切ると、ゼロ距離で闇のエネルギーを放った。


「ぐぁぅ!」

 

 シスターは、無残に草原に転がる。彼女は起き上がると苦悶の表情でアレフを睨みつけた。


「な、何故こうも私の攻撃を……」

「馬鹿め。他に敵がいないとわかれば注意を払う必要もない。なれば貴様1人程度どうということはないわ」

「く、くそっ」

「安心しろ、殺しはしない。貴様には訊きたいことがある。ただこの場では眠ってもらうがな。闇属性――」

「マ、マリア先生!! 俺だよガンズだ! なんでわからないんだ!」


 アレフが魔法を唱え用としたところ、倒れていたガンズが目を覚まして、再びシスターの元へと向かった。


「しめたっ」

「えっ?」


 シスターはそれを好機とみたのか。ガンズを後ろから抱きしめるようにして捕まえると、彼の首元に短剣を当てた。


(ちっ、あの馬鹿が)


 アレフは急いた行動をしたガンズにそう思ったがもはや遅い。


「ふふ、この子の命が惜しければ、ブルーオーブを渡しなさい!」

「せ、先生……嘘だろ? 俺の事がわからないのか?」


 囚われていてもなおガンズはシスターに呼びかけようとしていた。その光景を見てアレフは考えていた。


(現時点でブルーオーブとやらにどんな価値があるのかは分からん。だがおそらくあの執着度からいって明らかに重要なものだ。ここでむざむざ渡すのも後々面倒なことになりそうで考えものだ。さて、どうしたものか……)


「ぐ、うぅっ……!」

「せ、先生っ!?」

「ん?」


 アレフが考え事をしていると、急にシスターマリアが苦しみ始めた。彼女は額を手でおさえ、顔をしかめている。


「ぐ……出てくるなっ……くそっ……」

「マリア先生!? 先生!」


 シスターはおもむろにガンズの首元から腕を離した。


「ガ、ガンズ……今のうちに、逃げなさい」

「先生! い、意識が戻ったんですか!」

「早く! 私が私でいられる間に、早く!」

「えっ?」

「ちっ、馬鹿が、早くしろ!」


 アレフは好機とみて、一瞬のうちにガンズをシスターマリアの元から引きずり出した。

 その様子を見て、彼女は苦しそうな顔ながらも、微笑んだのだった。


「ありがとう、ございます……ガンズ、私のことはもう、忘れて」

「先生! 何があったんですか! 先生!」

「私は……うぅ!」


 再びシスターは苦しみ始めた。


「待てガンズ、俺にはあの現象覚えがある。恐らく、強力な傀儡術だ。普通の呼びかけでは無理だ」

「そんな! じゃあどうしたら」

「お前、魔石を使ってシスターを治したと言っていたな。その魔石、今持っているか?」


 アレフがガンズに尋ねると、彼は懐から小さな魔石を取り出した。


「え? 一応、お守りとしてひとつだけあるけど……ひとつじゃ無理だよ。あの時はもっと沢山使ったんだ」

「いいか。傀儡を解くには対象者との繋がりが重要だ。操っている奴との繋がりを断ち切るために、対象者の意識を深く呼び起こす必要がある」


 それはかつてアレフがイーシェスの傀儡を解いた時と同様のことであった。あの時は、イーシェスが魔力を使い弱ったところを奴隷の紋様を利用して解放していたが。



「繋がり?」

「そうだ。今から俺があの女に魔法を放つ。おそらくそれであの女の体や魔力は弱る筈だ。その時、対象者と操作者の繋がりは少し薄くなっている。その時にガンズ、お前が魔石を使ってありったけの魔力を女に注ぎ、彼女の意識に呼びかけろ。うまくいけば女の意識が支配権を取り戻す筈だ」

「し、失敗したら?」

「意識が戻らない。それだけだ。だが何もやらなければそのままだ。シスターを取り戻したいんじゃなかったのか」

「取り戻したいさ! またみんなで孤児院で暮らしたい!」

「ふん、ならやるぞ」


 アレフの問いかけにガンズはゆっくりと頷いた。瞬間、アレフはシスターの後ろへと回り込み、詠唱を唱える。


「悪いな、無抵抗の女にやるのは趣味じゃないんだが。闇属性、位階極。闇煉獄」


 アレフの放った三角錐型の闇エネルギーは、シスターを捉えると急速に圧縮していき、やがて爆発し弾けるようにしてシスターを上空へと打ち上げた。

 彼女はボロボロの体のまま地面に叩きつけられたが、まだ意識が残っていた。


「ぐ、ぐぅ……!」

「ガンズ!」

「ああ!」


 アレフの声でガンズは走り出して、既に魔力を込め始めていた魔石をシスターの頭へと押し付けた。魔石が彼女の額で光りだす。


「戻ってこい! マリア先生!」

「あ、ああああ――あああっ!!」


 ガンズの呼びかけで魔石は更に輝くと、シスターは苦しみ始めた。魔石は更に光を強めて、光がシスターを包んだ。そして光が収まると、シスターマリアの瞳には、光が戻っていた。


「……ガンズ」

「先生! 意識が戻ったんだな!」

「ええ。あなたの声が聞こえました。私を闇から打ちはらう、強い声だったわ。ガンズ……成長したのね」

「へへ。まぁな! いやでも先生が元気になってよかったよ! 本当。元気になって……グス……よ、よかった」


 ガンズは強気な態度を取っていたが、徐々に涙ぐみ始めて、やがてほろほろと涙を流し始めた。


「あら、駄目ねガンズ。泣き虫なのが直ってないわ」

「う、うるせぇやいっ」


 シスターのその笑顔で、ガンズは恥ずかしくなって、そっぽを向くのだった。

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