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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
過ぎ去りし罪の唄〜一章『謎の少女』〜
72/80

【マーメイド眼鏡】


「邪魔したな」

「ねえっ、アレフさん! もーちょっといよーよ! ここは天国だよ!」

「マジ泣きするなガンズ。みっともないぞ」

「不潔ねー、ガンズ」


 情報収集を終えたので、マーメイドバーを出ようとするとガンズが離れたくないとガン泣きしているのだった。

 アレフがガンズの頭を鷲掴みして連れて行こうとすると、接客をしていた人魚族の1人がおもむろにアレフに近づいてくると耳打ちしてきた。


「ねぇ、お兄さん。私まじであんたタイプだからさ。ほらこれ、私の家の住所。いつでもいいから来てよ。天国を見せてあげるよ、人魚族のテクで……」


 そう言って彼女は住所を書いた紙をアレフの懐に無理矢理忍ばせた。アレフは面倒くさそうにそれを受け取ると、ガンズを引きずってその場から去った。


「アレフー、最後何話してたの?」

「また来てくれ、とかそんな感じだ」

「アレフはもうあんな店行かないもんね? アイは信じてるもん」

「馬鹿野郎ー! 行くに決まってるだろーが!」

「ガンズには聞いてないー!」


 わちゃわちゃと騒いでる2人を置いて、アレフは町の中央に位置する建物にやって来ていた。建物は大きく、ざっと見ても3階はある大きさだった。

 扉を開け、中に入るとそこには受付があり、女性が座っていた、というか泳いでいた。


「こんにちは。こちらは中央管理局です」

「長官のマリン=セイレーン氏に会いたいんだが、どうすればいい?」

「長官ですか。今いらっしゃいますが確認が必要になります。なので一度こちらの方で長官に伺ってみますので、お名前と御用件をお願いします」

「あー、えーと……ネームレス=サタンだ。要件は、この街に古代魔法の使い手がいた可能性があるからその話について語りたい、としてくれ」

「わかりました……少々お待ちください」


 そう言って彼女はスイスイと泳いでどこかへ行った。


「ねーアレフー。ネームレス=サタンって誰?」

「俺のもう1つの名だ」

「えっ、アレフ2つ名前あるの! 凄いね!」

「ばっか、偽名だろ。アイは馬鹿だなー」

「うるさいよガンズ!」


 少しして、受付嬢が戻ってきた。


「お待たせしました。長官がお会いになられるようなので、こちらへお越しください」

「わかった。悪いが、アイとガンズはここで待っててくれ」

「えー」

「ぶーぶー」


 ごねる2人をアレフは無視して三階にある長官の部屋へと向かった。扉を開け、アレフは中に入る。


「こんにちは。私が長官のマリン=セイレーンよ――ってア、アレ……アレフ……!?」


 アレフは部屋の扉を閉めて、やはりこうなったかとため息を吐く。

 マリン=セイレーン。紫がかった黒髪で、肩あたりまで伸びている。メガネをかけていて顔は少しおっとりとしているが、性格はそれと反するように強烈である。ちなみに彼女は仕事もあるため足は人間に変化させている。


「アレフ! なんであんたがここに!」

「悪いが俺はネームレスというんだ。人違いはよしてくれ」

「私があんたを見間違えるわけないでしょーがっ!! ウォーター!」

「いきなり魔法を……使うなよ」


 マリンが放った水魔法を、アレフは片手でかき消した。そしてやった後に彼はしまったと思ったのだった。


「その身のこなし、間違いない。アレフね」

「お前、俺じゃなきゃ顔面に穴空いてたぞ……」

「なんで人間の姿なのかは知らないけど……私の憎い憎い男の顔に間違いないわ……」

 

 眼鏡をくいっと持ち上げて、忌々しげにアレフを睨む彼女。流石にアレフも言い逃れできないと考えて、諦めたのだった。


「ちっ……貴様まだあの事を恨んでるのか」

「まだって何よ! あんたがハミング選んだ理由を忘れたとは言わせないわよ! 『そっちの方が、面白そうだから』って何よそれ!」


 まくしたてるようにアレフに近づいてくるマリン。アレフは何も言い返せなかった。

 昔この水上都市で天才と言われた2人の人魚族がいた。その2人がこのマリンとセイレーンの姉妹で、その才を見込んだアレフがどちらか一方を魔王軍に連れて行こうとしたのだ。だが2人とも魔王軍に入りたいと言うので、アレフはハミングの方を連れて行ったのであった。


「だからあれはこの街を治めるにはお前の方が適任だと思ったからだと……」

「知ったこっちゃないわよそんなの!」

「だいたいなんでそこまで魔王軍に拘る。お前は実際この街を発展させてるし、適任だろう」

「うっ……そ、それは……まぁ別に、なんでもいいでしょうそんな事!」


 どこか照れた表情でそう言ったマリンだったが、アレフはなんなんだこいつはと困った顔をしていた。


「って! そういえば、アレフって死んだんじゃなかったの!?」

「今更か」

「ねぇなんで生きてるの!? ってそうか、これいつもの夢か!」

「安心しろ、現実だ。色々あって、生き返った。理由は訊くな、俺にもわからん」

「え? げ、現実? ……意味わかんないんだけど! ……こ、この事他の人は知ってるの?」

「知らん。四大帝で知ってるのはイーシェだけだ」

「へ、へー、ふーん。ハミングも知らないんだー、へー、ふふ……ふふふ」


 マリンは少し俯いてニヤケ顔を必死に隠していた。


「何笑ってんだお前は」

「笑ってないわよ、嬉しくなんかないんだからね、勘違いしないでよね!」

「なんの勘違いだよ」

「こほん。それで? あんた何しに来たわけ?」

「この街に古代魔法を使える人物が来た可能性がある」

「古代魔法? そんなの扱えるのはあんたと龍族とハイエルフくらいでしょ」

「ああ、だが実際に目撃した奴がいてな。さっきの話に戻るが、俺は自分を生き返らせた人物を探してるんだ。そうなると古代魔法を扱える奴が怪しいと思わないか?」


 アレフがそう言うと、マリンは顎に手を当てて考え始めた。


「確かに。転生、もしくは蘇生魔法と呼ばれるものを扱えるとしたら古代魔法に精通した人物である可能性が高いわね」

「そういうことだ。だから俺はその老人の行方を探してる」

「なるほど。けど、そんな凄い人なら記憶に残ってそうなものだけど……生憎記憶にはないわね……」

「そうか……水魔祭の事を聞くならお前だと聞いたが仕方ない。邪魔したな」

「あっ、ちょ、ちょっと待って。水魔祭にいた人なら調べるからちょっと待ってよ」


 このアクアリアという都市は、女性が多いという観点から普通の街よりも防犯がしっかりしているという特徴がある。門を通る時の身分証の提示、街中に配備している警備兵などがそれだ。


 さらに水魔祭の時になると、外部からの流入者が数多くいるため、門を通った人物を事細かに記録に残している。


 マリンは、部屋の奥の書庫から何やら分厚い本を取り出すと、パラパラとめくり始めた。


「半年前、半年前……これね。老人ってことは50か60歳以上かしら。他に特徴はないの?」

「えーと、あぁ、そういえば左目が傷で潰れていたと聞いたな」

「それは凄い絞れるわ! えと、左目……傷、あ! これじゃないかしら!」


 マリンが指差したところには年齢が64歳、特徴に左目に傷、隻眼と書かれているプロフィールがあった。


「名前は……カルマ=メイデンね」

「名前は偽名の可能性が高いが……これで手がかりは掴めた。礼を言うぞ、マリン」

「ふ、ふん。別に嬉しくなんかないんだから。てか何よあんたの偽名のネームレス=サタンって」

「先祖あたりから適当につけた名前だ。気にするな」

「まぁいいけど……」

「そういえば、話は変わるがハミングって今どこにいるんだ」


 アレフがそう尋ねると、彼女は露骨に嫌そうな顔をした。


「何? あの子がきになるの?」

「いや、イーシェからあいつは眠ったと聞かされていたんだがうっかり会ってしまうと面倒な事になりそうだからな。居場所を知ってるなら聞いておこうと」

「なんだ、そういうことか。詳しくは知らないけど、たぶん魔界との境界あたりにある、【ウンディーネの祠】じゃないかしら。性格的にもたぶんそのはずよ」

「なるほど。さて、老人の名前も分かったし、あとは地道に聞き込みでもするか。じゃあなマリン」

「えっ、ちょっ、もう帰っちゃうの!?」


 マリンは焦った様子でアレフの服を掴む。


「もうって……別に遊びに来たわけでもないし、お前は俺のこと嫌いなんだろう。だったら早くいなくなった方がいいと思ったんだが」

「き、嫌いだけど! 嫌いだけどほら、久しぶりに会ったんだし……少しくらいゆっくりしていっても……」

「悪いが下で連れも待ってるんだ。また今度な」

「わ、私の事抱いた癖に! そ、そうやって捨てるんだ!」


 マリンは真っ赤な顔で泣きそうな目をしてアレフに訴えかけた。アレフの方はやれやれまた始まったか、と呆れた表情である。


「お前それ……酔っ払ったお前が抱いてって言うから、そうしたのに……俺は何度もやめとけって確認したんだがな……」

「言ってないもん! 私そんなの言ってないもん!」

「あのな、俺知ってるんだぞ。お前がその後も会うたびに酔ったふりして俺と寝ようとしてきてたの。なんで酔ったふりなんてするんだ。そのネタで俺を脅すのはいいけど、体は大事にしろよ」

「ば、ばばばば、バレて……」


 マリンの顔は一瞬で茹でたタコのように真っ赤になってしまった。というのも酔っているというていで彼女は言うのも恥ずかしいような甘いセリフをアレフに言い続けていたからだ。


「じゃあな、そう泣きそうな顔するな。また来てやるさ」

「うぅ、うぅぅぅ……!」


 アレフは微笑を浮かべると、そう言って部屋から出ようとする。マリンは自分の考えが見透かされてることに気づき、泣きそうな顔になる。


「ちょっと待ちなさい! 手伝ってあげたんだから私の頼みも聞きなさいよーっ! これはギブアンドテイクよ!」


 そしてガッチリとアレフの腕を掴むと、そう言ったのだった。

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