【一方その頃】
一方その頃、東の大陸。
「どこだ、どこに行ったの! アレフ!」
褐色の肌を持ち艶やかな黒髪を持つダークエルフの女が苛立ちを隠せずに道を歩いていた。
その女、イーシェス=ムーンライト。元魔王軍の幹部、四大帝の1人である。
「あのチビに聞いても本当に知らなそうだったし……」
チビとは、クレア=レイゼンフォールのことである。
イーシェスは、逃げるアレフを追いかけ回して楽しんでいたのだが、ある日急にアレフが消えたのだ。クレアに尋ねてみても困惑するばかりで誰もどこに行ったのか知らないという状況になっていた。
イーシェスはその後から全力でアレフを捜索している。アレフが訪れた街は全て周ったがそれでも発見には至らなかった。方法としてはクレアや他の人間と探すというものもあったが、彼女はそれをしなかった。そもそもイーシェスは人間を信用していないからだ。
捜索を開始してから今日で5日目になる。イーシェスは苛ついていた。
「こんな時に部下がいれば、効率よく探せるのに……」
イーシェス直属の部下は東の大陸にはいない。彼女はこちら側に来る際に、部下達に待機するように命令を出したからだ。
彼女は自分から逃げおおせて自由気ままに過ごしてそうなアレフを想像して、さらに苛ついた。
(黙っていなくなったりなんかしたら、また会えなくなるかもしれないって心配になるよ……アレフ)
イーシェスはアレフのことが心配だった。一度はもう会えないと思っていた彼に再び会えた故に、いなくなると恐ろしいほど不安に駆られる。彼女はそんな気持ちだった。
そしてイーシェスは北へと向かい、ダムステルア王国ではなくオルレリア王国領域へと足を踏み入れていた。
♦︎
アレフ達が街を出て、オーガを探し始めること数十分。彼らは想像より早くオーガに出会うことになった。
「い、命だけは助けてくれっ」
アレフが歩いていると荷馬を連れて歩いていた行商人がオーガに襲われているところを発見したのだ。
オーガは確かに1人じゃなかった。赤い肌を持つオーガの他に、人間が2人いる。
「随分と早く見つかったな」
「アレフ、あの人襲われてるよ。助けなきゃ」
アレフはそのまま襲われている行商人の元へと向かう。オーガ達は向かってくるアレフ達に気づいた。
「なんだ、お前はぁ!」
オーガは青年だった。赤い肌を持ち、ツノを2本持っている正真正銘のオーガだが、どこか顔に残る幼さが彼が青年だと裏付けている。
よく見ると彼の後ろにいる人間2人も青年だった。アレフ達を見て驚いてはいるが恐れている様子はない。
「貴様が最近盗みを働いてるオーガに人間か?」
アレフのその問いに、オーガの青年は待ってましたと言わんばかりに勢いつけて名乗りをあげる。
「そうだっ、俺様こそが世界最強のオーガ! ガンズ様だぁ!」
それに倣うように、後ろの人間2人も名乗りをあげる。
「そして俺はセイ!」
「俺はカーマ!」
そして3人は小声で「せーの」と言うと、
「「「3人揃って、『ガンズ盗賊団』!」」」
そう言って各々が格好つけたポーズを取っていた。アレフ達はそれを痛々しそうに見ていた。
「町の男達はこんな奴らに負けたのか? まだガキじゃないか。情けなくなってくるな」
「ガキって言うんじゃねえ! 強さは歳じゃねえんだ!」
ガンズのその言葉に、アレフは少し目を見開くと、そのあと微笑した。
(強さは歳じゃない、か。確かにその通りだったな……)
アレフは小さい頃の思い出を思い返していた。
「確かにお前の言う通りだ。強さに年齢は関係ない」
「なんだ、話のわかるやつじゃねえか! だったら話がわかるついでに金目のもん置いてけぇ!」
「悪いがそんな気は無いな」
アレフがそう断言すると、ガンズはニヤリと笑う。そしてその光景を見ていた行商人は腰を抜かしたままアレフに尋ねた。
「あ、あんた助けてくれるのか?」
「ああ。依頼を受けてる。死にたくなかったら少し離れてろ」
「こ、腰をやっちまったんだ」
「ちっ……アイ。このおやじをそこの木の陰まで連れてけ。お前も隠れてろ」
「はーい」
アイは指示通り、行商人の肩を担いで木まで運んだ。そのあと荷馬も木まで運ぶ。
その様子を見ていたガンズは、挑戦的な笑みを止めずに尋ねた。
「なぁあんた! 今のやり取りを聞いてると、まるで俺たちに勝つ気でいるみたいだなぁ!」
「そのつもりだ」
「はっはっは! あんた馬鹿か? 俺たちは3人いるんだぞ。どうやって勝つ気だよ」
「御託ばかり並べてないで、さっさとかかってこい、『ガキ』ども」
アレフが煽るようにそういうと、ガンズ達は面白いように怒りを露わにした。
「上等だぁぁあああ!」
ガンズ達はそのまま走り出し、アレフに襲いかかってくる。全員剣を腰から抜き取り、斬りかかろうとしていた。
「死ねぇ!」
「全員でかかってくるのは、合格。だが――」
アレフは初めに斬りかかってきたガンズの手首を叩き、剣を落とさせる。そしてそのまま腕を掴んで投げ飛ばす。そして間髪入れずに第二撃を繰り出したセイの腹めがけて中段蹴りをかます。うめき声をあげながらセイは数メートル吹き飛び、そのまま迫っていたカーマに激突した。
「――甘いな」
「ぐ、ぐぅ……」
ガンズ達は3人全員地面に伏せながらアレフのことを睨みつけていた。
「まだ戦意は残っているようだな。貴様ら、格上相手に魔法を使わんとは、馬鹿なのか」
「くそっ、あんたがこんなに強いなんて……」
「ほら、さっさと立て。魔法を使ってみせろ」
そう言ってアレフは人差し指でガンズ達に早く立ち上がれとジェスチャーをする。
ガンズ達は既に弄ばれていることを理解していた。だがもはや後には引けなかった。彼らは立ち上がり、魔法を唱え始める。
「土属性、位階上! 大地隆起!」
「風属性位階中! 業風!」
「水属性位階中! 水鉄砲!」
上からガンズ、セイ、カーマの順に魔法を放った。まずセイの放った風がアレフを襲い、彼の動きを一瞬止めた。動けないアレフにカーマの放った水のレーザーが迫る。更にガンズの放った魔法により、アレフの周りの土が盛り上がると、柱のような形に変わり、アレフに襲いかかった。
攻撃はアレフに激突し、あたりには土ぼこりが舞っていた。
「や、やった。直撃しやがったぜあいつ!」
「ははっ、大したことねえじゃん!」
「俺たちの勝ちだ!」
ガンズ達は口々にそう言った。その時、ガンズの放った土の柱が、ピキピキと音を立ててひび割れ始める。
「な、なんだ……?」
ヒビは広がり、そのまま音を立てて土の柱は崩れた。中から現れたのは、紫色の結晶に包まれているアレフの姿だった。
アレフは結晶を解除して、ガンズ達の方へと歩き出す。アレフの体に傷の跡はなかった。
「惜しかったな。さっきよりはマシな攻撃だったぞ」
「う、嘘だろ。無傷だと……?」
「ば、化けもんだ」
「う、うあぁ……」
流石のガンズ達も心が折れ、アレフを恐れ始める。
「さて……じゃあ俺も、魔法を使うとするか」
「「「う、うわぁあああ!」」」
3人の青年達の恐怖が、あたりに響き渡ったのだった。




