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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
過ぎ去りし罪の唄〜一章『謎の少女』〜
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【Hello world 】


 薄暗い空間。辺りには鉄でできた管や怪しい液体の試験官が所狭しと並んでいる。


 そんな空間の奥には1人の少女が、1つの物体に触れていた。その物体は、黒く浮遊していて、カプセルのようなものに収められていた。そして、紫色の魔力を辺りに発散させ、カプセルをカタカタと振動させている。


 その振動はこの巨大な空間全体をも震わせていた。天井からは物が落下している。

 少女は、辺りに結界のようなものを張っていた。そしてその結界の外で、傷だらけになりながら、なんとか結界の中に入ろうとする青年がいた。


 その銀色の髪を持つ青年は叫んでいた。


「待て、リズ! 待つんだ――」


 だが彼の声は届かない。いや、届きはしても彼女が応えるつもりがないのだ。

 必死でその先に手を伸ばそうとしても、届かなかった。なんて強い結界だ、青年はそう思った。


 彼の魔力は人より遥かに優れている。にもかかわらず破れない結界。それはもはや力ではどうにもならないことを示していた。


 それでも、彼は結界を叩く。魔力がつきたら拳で。拳が擦り切れ、血が出てもなお叩く。

 声が擦り切れるほど青年は声を上げる。だがその声に少女は反応しない。


 青年はそれでも声を上げる。そしてやっと、少女が振り向き、青年と目があった。


 ――世界が、止まった気がした。


 少女は泣いていた。

 だが、それも一瞬だった。彼女は手でそれを拭う。


「――やめろっ、リズッ!!」


 そんな青年の想いを無視するように、彼女は儚げに微笑んだ。


「さようなら、アレフお兄様――」



 ♦︎



 ざざーん、ざざーんとあたりの波の音が響いている。ここは大陸と大量の間にある海である。いわゆる“内海”だ。

 内海は強い魔物がたくさんいて、基本的に一般人は通れない。軍隊並みの武装をして、やっと通れるかどうか、といったところだ。


 そんな物騒なところに、木でできた手製の船でたった1人で航海をしている男の姿があった。


「くそ……暑いな」


 男は、銀色の髪をしていた。

 彼はひたいにできた汗をぬぐい、オールで船をこぐ。


 男の名はアレフ=デリオラー。かつて魔王だった男。勇者との一騎打ちに敗れ、死んだと思われていたが、何故か人間となって蘇った。

 そんな彼が何故今こんな海で船を漕いでいるのか。理由は簡単であった。


「流石に俺が手漕ぎで内海を渡るとは、クレアもイーシェスも思うまい」


 クレアは人間になったアレフが親しくなったものの1人だ。炎の魔法を使う幼女で、アレフが人間になってからはずっと一緒にいた人物である。

 イーシェスはアレフの元魔王時代の幹部であり、アレフを崇拝する1人だ。


 アレフはその2人から離れたかった。1人で世界を見て回りたいと2人には言ったが、彼女達は頑なにそれを拒んだ。アレフはそんな2人から逃げ出したのだ。


「それにしても、全く進んでる気がしないぞ……やはり手漕ぎは無理があったか」


 アレフは魔法を使うわけにはいかなかった。魔法を使えば、彼女達に居場所を感知される恐れがあったからだ。


 どうしようかと迷っていると、突如彼の目の前には巨大な魔物が現れた。サメのような魔物である。


「はははは! この海をそんな船で渡ろうとする馬鹿がいるとはなぁ! ん? なんかどっかで見たことあるような……まぁ気のせいか! はははは! 今から喰ってやるぜ!」

「おぉ、ちょうどいいところに来たな貴様」

「へ?――」


 アレフの拳骨が魔物の脳天を貫いた。勝敗は一瞬でついたのだった。


「あの、本当すんません。まさか魔王様だったとは、生意気言ってすんませんした!」


 魔物の頭にアレフが堂々と座っていた。そして魔物は出来るだけ体を揺らさないようにして泳いでいる。


「よい。俺も退屈してたところだ、まぁ準備運動にもならなかったが」

「あの、俺頑張るんで殺さないでください! ていうか魔王様って死んだんじゃ……?」

「いいからさっさと進め。俺に会った事は未来永劫誰にも言うなよ、言ったらどこにいようが殺す」

「はいぃ!」


 アレフの言葉に魔物が逆らえるはずもなく、魔物は黙々と進み続けるのだった。

 そしてその後数日をかけ、時々海の生物を狩って食料を補給しつつ、アレフは大陸を目指した。


「あ、あの魔王様。と、とりあえず一番近い陸地に着きました」

「ん? あ、ああご苦労」


 いつのまにかうたた寝をしていたアレフは、大陸についたことを確認し、サメの頭から降りる。

 

「あ、あの俺はこれで失礼します」

「あー待て。貴様名前は? 次会う機会があったら褒美をやる」

「シ、シャークです」

「そうか、シャーク。数日間ご苦労だったな、感謝する」

「い、いえ滅相も無い! では失礼します!」


 シャークは少し嬉しそうな顔をして、海へと戻っていった。

 アレフは砂浜を歩いて、目的地もなく進んだ。あたりは夕方になっていた。歩いているとアレフは異変に気付いた。人が砂浜に倒れている。

 何か少し興味を持ったアレフは、倒れている人の方へと歩いた。


 人は、少女だった。流れるような透き通った金色の髪。金といっても少し白に近い。少女は服を着ていなかった。だが乱暴された形跡は無く、逆にひとつも傷がない。少女は目を閉じて、まるで昼寝でもしているかのようだ。


(全くもってどうなったらこんな状況になるのか分からん)


 アレフはこのままだと少女が波に攫われてしまいそうだったので、彼女を抱えようとする。アレフが彼女に触れようとしたとき、突如彼女の瞼が開いた。

 少女は、アレフと目が合う。そして、何回かパチクリと瞬きをした後、上半身だけ起こすと可愛らしい声で呟いた。


「あなたは、誰?――」

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