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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜六章『儚き過去に想いを重ねて』〜
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【魔王、勇者】


 アレフとディーノ、2人による奥義のぶつかり合いはあたりに激しい衝撃を生んだ。


 アレフの剣は衝撃にたえきれず粉々に砕け、アレフ自身は後方に吹き飛んだ。同様にディーノも剣こそ無事だったものの後方に吹き飛ぶ。


 ディーノはよろよろと立ち上がると、自身の胸から胴にかけて剣による深い切り傷が刻まれていることに気づく。傷口からは血が流れていた。


「はぁはぁ……お、おかしい。僕の強化された体をもってしてここまでの傷を負うなんて……」

「はぁ、はぁ……俺に言わせれば俺の全力でその程度しか傷を与えられないことがおかしいがな」


 アレフもディーノから受けた傷が同じように肩から胴にかけてあり、流血している。

 2人とも決して浅いとは言えない傷だった。


「それに今の君は人間の体なのに、なぜそこまで頑丈なんだ」

「5年前の貴様もこれくらい頑丈だったさ」

「答えになってないよ」


 2人の間に沈黙が訪れる。

 だがどちらともなく2人は同時に魔法を唱え始めた。


底無イレイサー闇雷やみいかづち、ブラックスピア!」

天上アピア、ライトネスギル! ホワイトスピア!」


 2人の魔法は激突し、再び衝撃が発生する。2人は煙も止まぬまま、魔法を放ち続ける。


「闇属性位階上、黒き渦!」

「光属性位階上、煌めく黄金炎(ホーリーフレア)!」

「闇属性位階上、ダークネスグロリア!」

「光属性位階上、春光ブロックライト!」


 さらに大きな魔法同士がぶつかり合い、その衝撃はあたりの壁を次々と破壊していく。

 すでに2人とも息を切らし、肩を上下させていた。


「ちっ……完全に互角か……!」

「馬鹿な……強化された僕の魔法に何故対抗できるっ……!?」

「……本当はわかってるんじゃないのか……?」

「わけのわからない事を……! これで決めてやるっ!」

「極大魔法か、いいだろう。受けて立つ」


 言葉をかわしつつ、2人の体には強大な魔力が漂っていた。そしてそれが頂点に達した時、2人は同時に魔法を唱える。


「闇属性位階極! 闇煉獄やみれんごく!」

「光属性位階極! 終わりの光(ジ・エンド)!」


 凄まじい闇と光のぶつかり合いが辺りを覆う。その余波で遂に城の天井は壊れ、崩れ去った。

 ぶつかり合い行き場を失った闇と光が、逃げ場を探すようにしてはじけ、爆発が起きる。


 それに巻き込まれたディーノとアレフは上に打ち上げられ、はるか上空に到達するとその後自然落下し床に叩きつけられた。 それによって床が抜け落ち彼らは下の階に落ちる。


「ぐっ……ごほっ」


 アレフは這い蹲り、血反吐を吐いた。身体中には傷ができていた。そしてふらふらになりながらも彼は立ち上がる。


「ぜぇ……ぜぇ。くっ、まだだ……」


 ディーノも同じように傷だらけの体に鞭を打って立ち上がった。

 ディーノは聖剣を手に持ち、アレフの元へよろよろと歩き始める。


「はぁ……はぁ……世界に、平和を……!」

「か、かかってこいディーノ……。貴様は俺が……」

「うぉおおおおおおっ!」

「あああああああっ!」


 振り絞るように2人は雄叫びを上げ、ぶつかり合った。もはやその動きに先ほどのようなキレはなく、魂と魂のぶつかり合いというほかない。

 ディーノの剣をアレフが隙をつきその場に叩き落とし、そしてそのままディーノの顔面に拳を叩き込む。


「ぐっ、がぁ!」


 だがディーノもそのまま殴っているアレフの腕を掴むと引っ張り、同様にアレフの顔面に拳を叩き込んだ。


「ぐぁっ」


 もはやお互いに避ける事すら出来ない体力で、2人は泥のように肉弾戦を繰り広げる。


 再び殴ろうとしたディーノをアレフはしゃがんで避けると胴に体当たりをかましてそのまま床に倒れこむ。

 マウントをとったアレフは、ディーノに馬乗りになると、そのまま拳を顔に叩きつける。


 3発ほどディーノにパンチを食らわせたが、アレフの疲労を読み取ったディーノはそこをうまく使い上下を逆転させマウントを取り返した。


「はぁはぁ……お返しだよ」

「ごぼっ!」


 ディーノが同じように拳をアレフの顔に何発も叩きつける。あたりには鈍い骨と骨がぶつかる音が響いていた。


 その後もごろごろとあたりを転がりながら彼らはひたすらにお互いを殴りあっていた。

 そして、どちらかともなく殴り合いが終わるとお互いに顔を腫らしながらも立ち上がり、2人は見つめ合った。


「ぜぇ……ぜぇ。し、しつこいな。君も……」

「はぁっ……はぁ。き、貴様ほどではない。さっさと、倒れろ……」

「ふ、ふふ。わ、わかってるんだろ? アレフ。次の攻撃で……最後さ」

「……結局、前と同じ技か…………」


 ぼろぼろの体の2人から、全てを注ぎ込むような強大な魔力が練り上げられていく。あたりの大気や地面は震え始めた。


 ディーノの持つ血で紅く染まった聖剣は、練り上げられた光属性で眩く輝き始める。


「……皮肉だな。僕の心はこんなにも酷く汚れてしまったのに、この剣はこんなにも眩くて、美しい」

「汚れていても、心に曇りはなかろう」


 同様にアレフの右手には圧縮された暗黒のエネルギーが漂う。


「そうだね……今の僕には、君の闇もとても美しく見える」

「光も闇も、全てを平等に照らし飲み込む。そこに差はない」


 ディーノはその言葉を受けて少し目を見開くと、微笑を浮かべた。


「……さて、終わらせようか」

「ああ……」

「この一撃に僕の想いを全て重ねる。儚き過去に、僕の想いを……」


 ディーノの笑みを見て、アレフも少しだけ笑みを浮かべた。

 その後2人は迷いを振り払うようにその笑みを捨て去り、詠唱を唱え始める。


「漆黒なる闇夜の世界。深淵より来りしは絶対なる一撃――」

「光属性位階極――」


 そして同時に放った。




聖なる光剣(ライトブレイブ)!」


魔大葬ダークドレアム!」




 あたりは昼と夜が交互に訪れるが如く白と黒が点滅する。瞬間、衝撃によって音が消え去り、城の中心を起点としてあたりのものは全て消失した。


 その範囲は城だけにとどまらず、城下町や貴族院にもその爆風は行き届いた。



 まるで無限のように感じる静寂の後、瓦礫になった城の跡からアレフが這い出していた。アレフは流血している右肩を抑え、息を切らしながらもある一点に向かって歩く。


 アレフがその場所の瓦礫を退けると、そこには右腕を失ったディーノの姿があった。

 アレフは無言のまま、彼を崩れた柱に寄りかからせる。

 ディーノは、アレフを見上げると落ち着いた声で話し始める。


「僕は……負けたのか」

「……お前はわかっていたはずだ。人間として究極に完成されていたお前の魔力は、魔物としてのお前の身体を受け付けなかったことを」

「それは君だって同じだろう?」

「そうだ。だが俺は魔人から人間な分お前より魔力伝達はさほど変わらなかった。お前は人間から魔物だからな。そんな事はお前もわかっていたはずだ」

「……もういいじゃないか。君の勝利だよ」

「さぁな……少なくとも俺は勝ったつもりなんてない」

「ふ、ふふ……君はクレアちゃんの仇である僕を討てたんだ。君の勝ちさ」

「今思えば本当に貴様にクレアを殺す気はあったのか? 何故わざと致命傷を外した」


 アレフがそう訊くと、ディーノは目をつぶり口の端を歪めるとこう呟いた。


「さぁ、なんのことかな……」

「ディーノ、お前は不器用すぎる。お前の本当の目的はなんだったんだ」

「最初に、言ったろう? “真の平和”……さ。レオナを奪ったこの世界を僕が正したかった」

「お前は本当は恋人を生き返らせたかったんじゃないのか? だからあんな研究をしたんじゃないのか」


 ディーノはその問いに少しだけ間を開けると、どこか哀しそうな声で答える。


「僕は彼女には生きていて欲しかった。でも、今生き返って欲しいとは思わない。冗談じゃないさ……この腐った世界に、レオナを生き返らせてたまるか」


 そしてディーノは続ける。


「あれは、僕が転生や若返りをする為の研究だ。僕がこの世界に監視者として居続けなければ、平和は成り立たない」

「何故そうまでして犠牲になろうとするっ! こんな世界のためにっ、お前は、お前の好きなように生きればいいだろうっ! 何故そうまでしてっ……!」


 アレフのその叫びは、静寂な空間に響いた。ディーノは空を見上げると、眼帯をした方の目から涙を流しながら答える。



「この世界は……醜い……醜いんだ。けど……けどさ……それ以上に……ここは僕とレオナが出会った世界なんだよ……」



 アレフは何も言えなかった。ただ、拳を握りしめる。



「どんなに醜い世界でも、いつだって空は美しい。ねぇアレフ、僕は間違ってたのか? それとも世界が間違ってるのかな」

「答は……見つからないのかもしれないな。だから人は探し続ける」

「そうだね……ごほっ……ああ、そろそろ時間みたいだ」


 ディーノはその場に吐血すると、どんどん虚ろになっていく目でそう言った。


「死んだら、生まれ変われるのかな」

「さぁな、俺はこうしてここにいるが」

「ふふ、夢がないね。けどさぁ……生まれ変われるのなら……小さい頃に夢描いた、魔族と人間が楽しそうに暮らす世界。そんな世界に、次は生まれたいな」

「……きっといけるさ」


 ディーノは笑いながらそういうと、アレフも優しく微笑んだ。


「ラゲルやヤヨイやレイには迷惑をかけたなぁ。けどみんななら許してくれるよね……?」


 ディーノの声はどんどんか細くなっていく。


「アレフ……ありがとう」

「何をだ……?」

「僕を殺せるのは、君しかいない……だからだよ。これ、で……終わ……れる」

「ディーノ……お前は……」


 ディーノは最後の力を振り絞り左手を懐に伸ばすと、一枚の絵を取り出した。それはディーノとレオナの結婚式の絵だった。


 それを見てディーノは、小さい頃のような純粋な笑みを浮かべた。




「……レオナ……また待たせてごめんね……今、いくよ…………」




 それを最期に、彼は動かなくなった。アレフは、そっと彼のまぶたに手を当て、目を閉じた。


 世界を救った勇者は、この日消えた。












活動報告にも書きましたが次話、エピローグです

最後までよろしくどうぞ!

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