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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜六章『儚き過去に想いを重ねて』〜
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【勇者、魔王】


「それにしても意外だよ。君が身内の事になるとここまで熱くなるなんてさ」

「……あいつに死なれると寝覚めが悪そうなんでな」

「へぇ……」


 ディーノは興味深そうにアレフを眺め、そして続けた。


「アレフはさ、本当にこんな世界が正しいと思ってるのか?」


 ディーノの問いにアレフは眉をしかめたがそのまま答える。


「世界に正しさなど無い。矛盾が蔓延る事が当たり前だ。理性と知性を持った俺たちに絶対的な正しさなど持ち得るはずがない」

「それは逃げてるだけだ、真の平和から。弱者が理不尽に虐げられるこの世界は醜い! 君はこんな世界が在り続けている事に疑問を感じないのか! 愛する人が理不尽に奪われる世界が!」


 ディーノの叫びには、まるで泣いているかのような切なさが混じっていた。

 アレフはその言葉を聞き、目を閉じる。


(俺にも……守れなかったものはある。だが、だからこそ……)


 アレフの脳裏に浮かぶのは遠い昔の記憶。彼が無力を感じてしまった小さき頃の思い出だった。


「貴様の気持ちもわかる。俺もかつて治める立場だったからな。だが偶然にもその立場から降りれた俺はわかったんだ。この世界は広い、俺が思ってたよりな」


「君が言いたい事はわかってる。そりゃそうさ! 僕だって旅の途中で数え切れないほどの人たちに救われてきた! 人間にはいい人もいれば悪い人もいる! 魔族だってそう。当たり前だ! だけど……それじゃ駄目なんだ。ただの“平和”じゃ愛する人を守れない! 傷つく人が出てきてしまう! “真の平和”じゃなきゃ駄目なんだ!」


  「王族を殺したいなら殺せばいい。腐った権力を潰したいなら潰せばいい……だが、問題はその後だ。痛みに支配された自由のない恐怖の世界で、貴様は幸せと言えるのか? 人は人を疑い、互いに信じる事はなくなるだろう。そこに、貴様の求めた愛する人との世界はあるのか?」


 アレフのその言葉にディーノは一瞬たじろぐ。だが振り絞るように声を出した。


「それでもっ! 僕は彼女に生きていて欲しかったっ!」

「……そうか。なら俺も俺が守りたいものを守るだけだ」

「君は何も守れなどしないっ! だから僕からクレアを守れなかったんだろう!」


(そう……クレアを守り切れなかったのは俺の失敗だ。だから俺がけじめをつける……!)


「あいつは死なない。俺はそう信じている。そしてあいつを傷つけたお前を赦す気は無い。俺は俺のために戦う」

「君が自分の為に戦うというなら、僕は世界のために戦う! 僕が“正義”だ! 光速ライトフェザー!」

「なら俺が“悪”だな。ふん、慣れたものだ! 闇属性位階上、黒き渦!」


 2人は再び激突した。アレフが手のひらから暗黒の渦を出現させ、ディーノに放つが既にディーノはその場にいなかった。

 そして、瞬間移動したかのようにディーノはアレフの目の前に現れると、聖剣で斬りつける。


反射板ミラー!」


 再びアレフの目の前に現れた六角形の鏡を、ディーノは直前で攻撃の軌道を変えてよけ、すり抜けるようにしてアレフの胴に斬りかかった。

 アレフは咄嗟に半歩下がったが流石によけ切れず、少し腹を斬られる。


「ちっ……流石に速い……」

「光となった僕を捉えられるかな?」


 アレフの腹からは少し血が滴る。そしてその血がついた聖剣をディーノはじっと見つめていた。


「僕の聖剣の名は、“犠牲ヴィクティム”と言ってね。今となっては、なんだか運命を感じざるを得ないよ」

「ふん……かつてその剣を持っていたとされる勇者は、非業の死を遂げたらしいな」

「ああ。数百年の眠りを僕が呼び起こした。聖剣の本来の力を失った今、この剣はこの世界の“犠牲者”たちの依り代だ。君を斬って、終わりにしよう」


 再びディーノはアレフの前から消える。否、高速で移動しているのだ。光の速さでは無いがそれに近いほどの速さで移動している。

 光速ライトフェザーの効果は、自身の質量を小さくした上で速くなるものである。


「確かに速くて見えんな。だが――闇雷やみいかづち


 アレフは両の手のひらを左右に広げるとあたり一帯に暗黒の雷を放った。

 手応えはない。だがアレフの狙いはそこにあった。一瞬にしてアレフの頭上から現れたディーノの攻撃を、アレフはあっさりと避けると隙だらけのディーノの腹に思い切り拳を叩き込んだ。


「ぐぅ!?」


 続くアレフの体術による猛攻に、ディーノはなんとか防御をして凌ぐ。そして駄目押しと言わんばかりにアレフは底無イレイサーを放った。


「ごほっ……!」


 ゼロ距離攻撃に回避などできなかったディーノはそれをもろに食らって吹き飛ぶ。床に何回か叩きつけられた後、すぐに立ち上がったが血反吐を吐いた。


「……はぁ、はぁ」

「貴様のその高速移動は、おそらく質量を殆ど無くす効果があるはずだ。だから攻撃の瞬間は魔法を解除しないと俺に傷は負わせられない。そこを狙った」

「ふふふ、流石だよ。けど僕に夢中でそれ、気づかなかった?」

「何――?」


 アレフの右肩を指差したディーノ。アレフは己の右肩に視線をやると、薄黄色の小さい円状のものが光り輝いていた。


「これはっ! 暗黒結ブラックプリ――」

「遅い――光の鉄槌てっつい


 瞬間、アレフの目の前に2メートルほどの巨大な光の拳が出現し、凄まじい速さでその円もろともアレフを打ち抜いた。

 ミシミシと音を立てながらアレフは壁を破壊して奥の部屋に吹き飛んでいく。


 瓦礫に埋もれたアレフはそれを押しのけて、立ち上がるとボロボロになった服の上半身の部分を引きちぎった。

 ディーノの方に歩きながら首を数回回して、ポキポキと骨を鳴らした後口の中に溜まった血をその場に吐き捨てる。


「クソが」

「くく。目が血走ってるよ魔王。ようやく君らしくなってきた」

「ディーノ貴様……その魔力、その耐久力。人間のものじゃないな……!」

「バレちゃったか」


 そう言ってディーノは着ていた服の右腕部分を引きちぎった。すると肘より上には人間の肌はなく、赤い鱗のようなものが生えていた。


「魔物化か……ゼロの仕業だな」

「その通り。僕の身体は5年前の時点でもう動かす事が出来なくなっててね。魔物化させる事でなんとか動けるようになったんだ。馴染むまでにえらく時間がかかったよ」

「その魔物化はさらに身体を蝕んでいくのか?」

「うん。僕は全身を魔物細胞にしたから、そのうちヒト型じゃ無くなると思う。完全な魔物になるはずさ」

「抵抗はないのか?」


 アレフのその疑問は自身が人間になってしまったからこそ訊いたものだった。アレフは魔人から人間への変化でヒト型だったからまだしも、魔物になるというのは完全にヒト型じゃ無くなるという事である。


 差別などという次元のものでなくヒト型から動物型への変化など、ディーノのアイデンティティが保てるのかどうかが疑問だったのだ。

 だがディーノはその質問を一笑に付した。


「“真の平和”のためなら些細な事だ」

「……愚問だったな」


 アレフはそう言いながら床に転がっていた殺された兵士の剣を手に取ると、それを持ってディーノに襲いかかった。

 ディーノもそれを聖剣で迎え撃つ。彼らは剣戟を繰り広げながら会話を交わす。


「アレフ! 神の悪戯とは数奇なものだね!」

「なんの話だ!」

「かつて魔王だった君が、今は人間! かつて勇者だった僕が今は魔物だ! これを神の悪戯と言わずになんという!?」


 アレフの剣をディーノは仰け反ってギリギリで躱す。そしてディーノはアレフの手を掴み床に叩きつけようとする。

 だがアレフは持っていた剣を、掴まれていない方の手に投げて持ち替え、掴むディーノの手を切り落とそうとした。しかしディーノは手を離す。


「これが神の悪戯だと言うのなら! 俺は神とやらを許さないな!」

「僕は感謝してるさ! 君という存在と二度も会うことができた事にね!」


 2人は同じタイミングで剣を振り払い、お互いに距離を取る。


「……俺は一度死んだ。だから二度目の今、俺はただの“アレフ”として生きようと思った」

「僕は逆さ。二度目だからこそディーノという名を捨て、“勇者”、“魔王”という称号を上手く使う事にした」

「だが俺たちは今、ここで再び出逢ってる」

「お互いにわかっているからだよ。僕たちは最も近く、だが相容れない。だから戦うんだ……」


 2人はお互いに剣を構え気を整える。


鬼神流きじんりゅう剣術奥義――」

御影流みかげりゅうダムステルア式剣術奥義――」


 そして2人は同時に動いた。


辻風つじかぜ

花吹雪はなふぶき

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