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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜六章『儚き過去に想いを重ねて』〜
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【魔王、二度目の決戦】

 


 アレフは銀の槍のアジトから抜け出すと、道で馬車から馬を奪い、それを使って王都に向かって駆けた。


「アレフ! どうするつもり? 今から王都に行くの?」


 アレフの後方で同じく馬に乗っているイーシェスがそう尋ねる。


「ああ。別に王族を助ける気なぞさらさらないが……ディーノがいるというなら、俺は行かなければならない。奴が行なっている事の真意を聞くためにもな。それに――」

「それに?」

「いや……なんでもない」


(それに、嫌な予感がする。クレアが王都に向かっているのだとしたら……)


 アレフの嫌な予感は的中することになる。

 彼が王都につき、城下町でロキ達が銀の槍の団員達と戦っているのを見ると、アレフはクレアが城の方にいるという事を確信した。


 そのまま城下町は放って、アレフは城の中へと進んでいった。彼が王の間にたどり着き、目にした光景は最悪のものだったと言えるだろう。


「う、うぅ……」


 アリスが呻きながら傷だらけの体で倒れていた。そしてそれ見ているディーノの姿があった。


「ディーノ……!」

「アレフか……遅かったね」


 ディーノは無言で視線を別の場所に移す。

 アレフはつられるように辺りを見渡した。すると、壁が崩れている場所にうつ伏せに倒れているクレアを発見する。


「クレアッ!」


 思わずアレフは走り出し、彼女の元へと向かう。アレフは倒れた彼女を仰向けにして抱き抱えるが、彼女が腹に致命傷を負ってしまっていることに気づいた。


 かなりの重体だが、かろうじてクレアの息はまだあった。アレフは彼女がうっすらと呼吸をしている事を確認すると呼びかける。


「クレアッ! しっかりしろ! おいクレアッ!」


 するとクレアはうっすらと目を開けると、ほんの少しだけ笑った。


「……遅いのよ……馬鹿」

「よし、意識をしっかりもて!」

「聞いて……言いたい事があるの……」

「そんなものは後でいいっ!」

「私ね……退屈だった。今までずっと……でもあんたが現れて変わった……世の中ってこんなに面白かったのね……」

「面白いなら生きろ! まだきっとその先がある!」


 アレフの呼びかけに、クレアは反応しなかった。

(あんたと、その先も行ってみたかった。けど私は十分楽しかったわ。だから、だからね……)


「アレ、フ……ありがとう……」


 それだけ言って彼女は目を閉じた。


「クレアッ! くそっ! この傷は……まずい」


 アレフは辺りを見渡す。そして近くにマサトがいる事を確認すると、彼に尋ねた。


「おい! 貴様のエクスカリバーの能力でこいつを治せないのか!」

「む、無理だ……俺の聖剣は俺以外には適用されない」

「ちっ! ……時間がない。一か八か……」


 アレフは自らの拳を深く握りしめ、肉を裂いて血を滴らせた。そしてアレフはクレアの腹から出ている血を手のひらにすくい取り、それを口に含めた。


(人間になった今の俺にどれほどの力が残っているかわからないが……後で幾らでも怒れ! だがお前を死なせはしない……!)


 そしてそのままアレフはクレアに口移しで混ぜ合わせたその血をクレアに与えた。

 アレフはうまく彼女が飲み込むのを確認し、少し安堵する。


(うまく血が適合すれば、助かるはずだ……!)


「イーシェス!」

「はっ!」


 アレフはイーシェスを呼びつける。するとイーシェスは即座にアレフの元に参上した。


「そいつを回復術士の元へ連れていけ! 王都になら一人はいるはずだ! 絶対に死なすな!」

「……はっ! 命に代えても!」


 イーシェスは即座にクレアを抱きかかえると、走ってどこかへと去っていった。


(……アレフはこの娘の事を、そこまで……)


  去り際、イーシェスはそんな感情を抱いたが、私情を捨て回復術士を探すことに専念した。

 アレフは彼女を見送ると、その目線をディーノに向けた。


「随分と必死だね、魔王なのに。そんなにあの子の命が大事かい?」

「あいつをやったのは……貴様か?」

「だとしたら、なんなの?」

「目的がわからないな……貴様が今、こんな事をしている意味が。貴様自身の復讐は終わったのだろう?」


 アレフの言葉には怒気が含まれていた。静かに漂う彼の怒りは辺りの空気を重く支配していく。


「君が言ったんじゃないか、世界を頼むと。僕はね、悟ったんだ。人の心を信じているうちは争いを断つことはできやしない。人は誰かに管理されなきゃ平和に生きていけないんだ」


 ディーノは大げさに手を広げてそう言った。


「その結論がこれか。人と魔族の共存はどうした?」

「普通なら難しいだろうね。種族が違うんだ。根っこの部分で分かり合えっこない。ただ種族間の争いは無くすことは出来る。平等に痛みと恐怖を味あわせる事で、真の平和が訪れるんだ。罰と痛みを恐れた彼らはお互いに差別する事もなくなると思うよ」


 ディーノは全く自分の意見を疑う様子もなく真っ直ぐな瞳でアレフに語る。


「だが貴様の圧迫された世界が嫌なものが出てくるだろう。それらはどうするんだ」

「全員ねじ伏せるさ。例外はない。僕にはその力がある」

「ふん、たいそうな自信だな、例外が無いとは。だが誤算だったな」

「何が?」


 疑問を浮かべるディーノに対して、アレフは無表情のままゆっくりと告げた。


「俺が唯一の例外だ――底無イレイサー

「面白い。天上アピア


 アレフの放った闇のエネルギーとディーノの放った光エネルギーが互いにぶつかり合う。2つは激しい衝撃音を放ちながら同時に消滅した。


 アレフは走り出すとディーノに魔法を使い牽制しつつ、倒れているアリスの元へと近づいた。


「無事か」

「あ、ああ。アレフ、私はクレアを……」

「今はお前が無事ならいい。いくぞ」

「へっ?」


 アレフはアリスを引っ張り上げてマサトのいる方へと投げ飛ばした。


「うぁっ!?」


 アリスはいきなりの事に驚いた。

 投げ飛ばされたアリスをマサトは慌てて受け止める。


「え、ちょ」

「マサトとか言ったか。貴様はそっちの男をやれ! アリスは俺たちの戦いに巻き込まれない安全な場所に移れ!」

「わ、わかった……」

「む、無理無理無理だよっ、俺もう――」

「さっさとしろ! やらないなら俺が貴様を殺すぞ」

「く、くそっ。わかったよ! そっちのディーノとかいうのよりはマシか……」


 そう言ってマサトはディーノと暇そうにしているラゲルを見比べる。


「言ってくれるじゃねえか。俺なら勝てるってか?」


 ラゲルは嬉しそうに太刀を構えると、不敵な笑みを浮かべる。


「こりゃ覚醒を期待するしかないな……」

「それより場所を移した方がいい。ディーノとあの男の戦いに巻き込まれたら死ぬぞ」

「そ、それもそうだな」


 そう言ってマサトはラゲルと供に王の間から出て行った。アリスは怪我をした腕を抑えつつも、アレフに言われた通り王の間から出て行った。


(アレフ……死ぬな)


 アリスは去り際にそう心の中で祈った。

 アレフはマサトとアリスが去った事を確認すると、ディーノの方に向き直った。


 そして先程の衝撃で自分の頬が少し切れて血が出ている事を確認してそれを拭った。


「ふん。どうやら……前の貴様より強くなっているようだな」

「そうだよ。僕は5年前より強い。当時の僕にすら負けた君が今の僕に勝てるかな?」

「さぁ、なっ!」


 アレフが蹴りを放った。その蹴りはディーノが構えていた剣を上にはじき飛ばす。


「おっと」

「余所見してていいのか?」


 アレフはそのまま即座に拳を繰り出す。ディーノはそれを手のひらで受け止めつつお返しとばかりにカウンターを放つ。


 アレフはそれを首の動きだけでそれをよけ、足払いをかける。ディーノはそれをジャンプして躱すと、空中から回りながら落下してきた聖剣を掴み取りアレフへと斬りかかる。


反射板ミラー


 アレフの目の前に手のひらより少し大きい程度の六角形の薄い鏡のようなものが現れる。斬りつけたディーノの剣はそれに飲み込まれると全く同じ攻撃が自分に帰ってきた。


「くっ」


 ディーノはそれによって意識が一瞬遅れ、アレフが蹴りを放った事に気づいていなかった。

 アレフの蹴りはもろにディーノの頬に当たり、彼をそのまま床に叩きつけた。叩きつけた床には凹みができる。


 ディーノはすぐに立ち上がるが、口の中が切れて唇の端から血が垂れていた。


「貴様は許さん」

「いいね」


 無表情でそう言ったアレフに対してディーノはうっすらと笑うのだった。


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