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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜一章『変化する世界』〜
6/80

【魔王、お茶に感動する】

 

「もうっ。なんなのよあの受付! 話になんない!」


 路上の石ころを蹴りながらプンスカと文句を言うクレア。

 受付に迷子の子扱いされ相当ご立腹である。


「まぁよかったではないか。『俺が』プロ勇者になったおかげで少しとは言え情報を得られたのだから」


 そう言ってアレフはクレアを煽る。

 そう、あの後試しにアレフが聞いて見たところ、レベル1だから魔物の情報は教えられないが、西にある【テミサの町】で呪いと呼ばれる現象が流行っているという情報を得られたのだ。


「むーっ。アタシはレベル4なのにぃ。まぁいいわ、テミサの町ね、お茶が有名な。よしっ行くわよ、あんたも付いて来なさいネームレス」


 さも当然であるかのようにアレフを連れて行こうとするクレア。


(図々しい奴だ。しかしこの事件、中々面白そうな匂いがする。付いて行くか)


「いいだろう。あと俺の名前はネームレスではない。アレフだ、プロ勇者のあれは偽名だ」

「えええ?」


 魔王の直感らしきものでついて行くことを決めたアレフであった。



 そんなこんなで都を抜けて歩き始めた二人。クレアはアレフの頭部をじっと見つつ質問する。


「あんたってどこ出身なの? ここらでそんな髪色した人見た事ないんだけど」

「出身? そうだな、西の大陸の方だ」


 アレフがいた、いわゆる魔王城がある場所は今彼らがいる【ザラマール大陸】ではなく、西の大陸である【レイド大陸】の方にある。

 比較的西の方が魔物も強く、物騒であるため武装している国も多い。


「ええ? よくこっちまで来れたのね。内海を通って来たにしても今は海にも強力な魔物がいたでしょう」

「俺もどうやって来たのかよくわかってないがな……気づいたら棺桶だし」

「え?」

「そんな事よりクレア、そろそろ貴様の幼児化現象の謎が知りたいのだが」


 そう言ってアレフはクレアを見つめる。クレアは顎に手を当てて唸り始めると、長考に入った。

 アレフに自身の呪いの話を聞かせるかどうか迷っているのだ。


 唸り終えて、まぁ別にいいか、と一言呟いたあと、クレアはアレフの方へと顔を向け喋り始めた。


「10日ほど前の話なんだけどね、アタシは【クエスト】に出かけてたのよ。一人でね」


(クエスト。それなら俺の生きてた時にもあったな。確か人間たちが依頼を出してそれを勇者が解決していた。あれのせいで随分と効率的に部下をやられたものだ)


 アレフはそう思った。そう、クエスト自体は昔からある。

 しかしプロ勇者が発足されてから張り出される依頼は増え、それを受注する勇者も増えたため、昔の比ではないくらいにクエストは盛んである。


「しかし一人でか。そういうのは普通パーティを組んで数人で行うのではないのか?」


 アレフがそういうと、クレアは痛いところを突かれたかのように目をパッチリと開くと、目線をそらし、早口でまくし立てた。


「う、うっさいわね。アタシに見合うレベルのやつがいなかったのよ。別に誘う仲間がいなかったとかそういうことじゃないからね? 断じて違うわ」

「仲間がいないのか……」

「違うって言ってるでしょう!」


 むきーっと言いながら腕をぐるぐる回しアレフの胸元へとポカポカ殴るクレア。

 彼女は物理的力はほぼない為アレフは止まることなく歩き続ける。


「ま、まぁそこはいいのよ。で! そのクエストはグリズリークラスの魔物の討伐だったの。余裕だと思って行ってみたら魔物が三体もいてね。かなりの長期戦になったんだけどなんとか倒せそう! ってところで謎の煙幕が張られて、魔物に逃げられたのよ。で、追いかけようとしたら徐々に体が小さくなって、こうなったってわけ」


 ふうっと一息ついてクレアは話し終えた。そしてカバンから水筒を取り出すとゴクゴクと飲み始める。喉が渇いたらしい。

 そして話を聞いたアレフが発した一言目は、


「ふーん」


 であった。

 もちろんそれを聞いたクレアはわなわなと震え始め恐ろしい剣幕で起こり始める。


「ふーんって何よ! だいたいそっちが聞いてきたんでしょ! なんで興味なさそうなのよ、ていうか今の話も聞いてないでしょ! ねえちょっと!」


 アレフに向かって指をさしながらそうまくし立てるクレアだったが、当のアレフは全然違う事を考えていた。


(煙幕か。元のクレアからここまで小さくするとは、相当協力な力だ。宝具か何か? しかしそんなものを持っているとも考えにくい。とすると……やはり魔法?)


「ぜ、全然聞いてないわねこいつー。もういいわよ! ふん!」


 クレアは頬を膨らませてそっぽを向いたのだが、アレフはそれすらも気づいていないので意味がなかった。




 そんなこんなで二人は歩き続け、途中休憩を挟みながらもテミサの町に到着した。


 テミサの町は小規模な街で、家々は全て木材からできている。町人は基本的に自給自足で暮らしており、自然と共に生きる町である。


「なんか全然人が出歩いてないわね」


 クレアが言うように、町には見る限りで人の姿がなかった。

 何度かこの町を訪れたことのあるクレアにとってこれは異常な光景に見えていた。


「普段はこうではないのか?」

「全然違うわ。この町の人はすごく愉快だもの。なのに誰も出歩いてないなんて」

「ふむ、【呪い】とやらが関係してそうだな」


 アレフたちがそんな会話をしていると、彼らの背後から声がした。


「旅の人、ですかな?」


 アレフたちが振り向くと、そこには腰が曲がり杖をつき白ひげと白髪を蓄えた老人がいた。


「ええ、そうよ。アタシたち、【呪い】に興味があってきたの。なのに町の人が一人もいなくて」

「そうでしょうなぁ。いいでしょう、私が話します。ここじゃなんですから私の家までどうぞ」


 そう言って老人は杖をつきながら歩き始めた。アレフたちはその後をついて行く。

 老人の家は町の奥にあった。他の家と比べると少し広めである。


 老人はアレフたちを家に招くと、椅子に座らせ、お茶を出した。


「どうぞ、ここのお茶は名産品でね、絶品ですよ」

「ありがとおじいちゃん! アタシここのお茶すきなのよねー」

「お茶か」


(お茶はあまり飲んだことがないな。ふん、所詮名産品といえどたかがお茶、程度が知れ美味っ! 美味い! なんだこれ美味い!)


 アレフは心の中でとても感動し、ひたすらにお茶を飲み続けた。


「ご老人! とても美味しいなこのお茶は!」

「わっ、ビックリした。あんたでもそんな大きい声出すのね」

「ほっほっほ。そうでしょう、お茶でこの町は成り立っていますからね。しかし、今やそのお茶も無くなってしまうかもしれない……」


 老人はそういうと肩を落とした。

 その言葉を聞いたアレフはおもむろに席を立ち、机を手で叩く。

 その普段見かけない行動に対してクレアは目をパチクリとさせていた。


「許せぬ。こんな美味しいお茶を奪おうとする何かがいるとは! このアレフ、討伐してしんぜよう! ご老人! 話を!」

「あ、あんたキャラ変わってない……?」


 クレアは遂にツッコミを入れたがアレフには届いていなかった。

 老人も目の前にいるアレフの思わぬ力強さに唖然としたが、話を始めた。


「え、ええ。そもそもの始まりは二週間ほど前のことでした。その日私たちはいつものように農作業をしていたのですが――」



 ♦︎



 ――二週間前


 その日テミサの町の人々はいつも通りの生活を送っていた。


「おい、お前聞いたか。さっき王族が盗賊団に拐われそうになる事件が起きたらしいぞ」

「王族が? 誰だ? リリィ様か?」

「それはわからないが、ただ【迷彩のリンカ】という勇者が盗賊団を倒して未然に防いだらしい」


 その日町の噂は都で起きた王族の誘拐事件で埋め尽くされていた。

 テミサのお茶は王宮に運ぶことも多いため、町の人々は王族への関心が強いのだ。


「にしても最近物騒だな。ここ数年で魔物も増えたし何か起きなきゃいいが」

「まぁこの町は魔物が来ても平気だろ。なんてったってパイロがいるからな」

「そうだな」

「なんだ、俺の話か?」


 男二人が話しているところに現れた大柄の男、この男こそパイロ。

 パイロはプロ勇者であり、レベル3の実力者である。


「おお、パイロ。この町に魔物が攻めて来てもやっつけてくれよな!」

「当たり前だ。俺に任せとけ」

「さすが頼りになるぜ」


 そんな話をしていた時、町に異変が起きた。町の外れの方から悲鳴が聞こえて来たのだ。

 その声を聞いたパイロはすぐさま走り出し、悲鳴のあった方向へと向かった。


 結論から言えば、そこには魔物がいた。家と同じくらいの高さを持つ鳥の魔物は二足歩行しており、大きなくちばしを持っていた。


 周りには血だらけで倒れた人々。息はあるようだが、処置をしなければ命に関わるかもしれない状況だった。


「お前たちはけが人を運んでくれ!」

「お、おう!」


 パイロはついて来た男二人にそう命じると、背中に担いだ斧を構え、魔物と向き合った。

 魔物はパイロを見ると、ニンマリと笑った。


「お前がこの町で一番強いみたいだな。俺の名前はベレデロン。さて、お前は町を救えるかなぁ?」

「ふざけろ! 魔物風情が。お前など叩っ斬ってやる!」


 パイロは走り出し、斧を振り回した。

 魔物はそれを避けると口から火の息を吐く。パイロはそれを防ぐすべがなく、全身に受けてしまった。


「ぐあっ」

「ふふふふ、暑いなぁ」

「くそっ、無属性、位階中。剛力ごうりき!」


 魔法により力を増大させたパイロは先ほどよりも速い速度で斧を魔物に叩きつけようとした。だが魔物はそれをうまくかわす。

 そうこうしている内にパイロの体力は限界に近づき、呼吸が荒くなっていた。


「ふふふふ、もう限界か?」


(な、なんて強さだ。もしかしてこいつドラゴンクラスか? だとしたらまずい。救援要請は念のためしておいた。もう着くはずだが……)


 パイロはそう考えていた。事実この後すぐにパイロの救援要請を聞き駆けつけたプロ勇者が現れた。


 しかし魔物は彼らが来ると同時に翼をはためかせ、上空へと飛び上がると懐から白い玉を取り出し、それを投げつけた。


「ふふふふ、絶望しろ」


 叩きつけられたそれは煙になってあたりに広がり、煙が晴れた頃には魔物はいなくなっていた。


 それによって魔物は勇者に恐れをなして逃げたのだと解釈され、村は歓喜に包まれた。

 しかしその日の夜に異変は起きた。


 皆が寝静まった頃、パイロが住む家から、大きな叫び声が聞こえて来たのだ。


 驚いた隣人たちが家を訪ねると、パイロの右腕は黒く大きく変貌し、鱗が生え、魔物のそれになっていた。


 驚いた人々だったが、パイロが苦しそうにのたうちまわっているのを見てられず、何人かで介抱した。

 そのおかげでパイロは寝静まった。


 その次の日、パイロは自身の腕に大きくショックを受けたが、なんとか謎を解明しようと立ち直ろうとしていた。


 しかし悪夢はここから始まる。

 その日の夜、パイロを手厚く介抱していた数人の人々たちが突然発狂し、そして魔物化が始まったのだ。


 それは客観的にみれば、『魔物化の呪いは伝染する』という他になかった。魔物化は次々と感染していった。

 その日から町の人々は外に出ることをやめ、人と関わることをやめた。


 ♦︎


「――ということです」


 老人がそう話し終えると、クレアは口元に手を当てて、驚きと恐怖を抑えようとしていた。

 アレフは微動だにせず淡々と話を聞いていた。


「伝染する呪い……かなりの力を持った技だな」

「そ、それで今パイロって人とかはどうしてるの?」

「この魔物化の恐ろしいところは、徐々に全身が魔物化していくところです。パイロは全身が魔物化する前に魔物化していた腕を切り落とし、パーティを組んであの魔物を倒しに行きました」

「そんな、勝てるとは思えないわ。おそらく相手はドラゴンクラスよ!?」


 クレアは立ち上がってそう叫んだ。

 アレフは立ち上がったクレアを座らせると、落ち着いた声で老人に尋ねた。


「パイロはどこへ?」

「町の東にある【連鎖の森】へ行きましたが……?」

「ふん、なるほど。わかった。ご老人、安心するのだな。貴様らのお茶は俺が守ってやる」

「ど、どういうことですか?」


 アレフのその発言はクレアも老人も頭の上にクエスチョンマークがついてるように見えるほど二人には理解されなかった。

 だがアレフは自身たっぷりにこう言った。


「俺が行く」

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