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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜五章『消せない罪』〜
53/80

【勇者⑥】

すみません、タイトル変更しました

内容に変化はないです!


 結婚式の次の日、ディーノは王に呼ばれる事になる。


(王からの呼び出しなんて珍しいな。いったいなんだろう?)


 王の間に到着したディーノは周囲の異様な雰囲気に気づいた。


(なんだ、この……不信感? 僕に対しての疑心が感じられる)


 周りにいる兵士や王が自分に対して何か良くない感情を抱いているという事をディーノは彼らの目線で察した。


「今日呼んだのは他でもない。ディーノよ、貴公にはある疑いがかけられている」

「疑い、ですか……?」

「そうだ。噂によると貴公は“魔族との共存”を目指しているとか?」


 ディーノは王のその問いに対してはそこまで驚かなかった。というのもその魔族共存の考えはここ2ヶ月の活動の際に様々な人々に話してきたからだ。恐らくそれが王の耳に入ったのだろうという事は想像に難くない。


 ダムステルア王国は世界を見渡しても魔族差別の意識が高い国である。ディーノは慎重な対応を迫られていた。


「……はい。確かに私にはそのような考えがございます」


 その瞬間周囲がどよめいた。

 “魔王”を討ち取った“勇者”が魔族との共存を目指していると話したのだ。それも当然であった。

 王は眉をひそめる。


「それはいったいどういう意味だ? 貴公は魔族と我々人間が分かり合えると本気で思っているのか?」

「はい。私は人間と魔族はきっと分かり合えるものだと思っています。これは私が魔王討伐の旅で出した結論です」

「貴公は我が国にとって英雄だ。英雄にこのような事で説教はしたくないが……魔族は人間の敵だ。わかり合う事など出来ない、まして共存など」


 王のその言葉に周りも同意している様子だった。

 だがディーノは恐れずに続ける。


「畏れながら王、魔族だから悪というわけではありません。人間に悪がいるように魔族にも悪がいる。それだけの事でございます」

「だから魔族を受け入れろと? 確かに魔族にはエルフやドワーフなど同盟を結んでいる者達もいるが、それは紙面上のものだ。実際に彼奴等が何を考えているのかは分からん。種族が違うのだ、わかり合う事など出来ん。人間が犬とわかりあえんのと同じだ」


 王はまくしたてるようにそう言った。


「魔族は犬とは違います。彼らにはちゃんと人間と同じ“心”と“理性”があります」

「事もあろうに魔族が人間と同じとな。それはいかに貴公といえど見過ごせぬ不敬だ。やはり勇者殿は魔族か何かに操作されている可能性があるな。おい」

「はっ」


 王が近くの兵に指示を飛ばすと彼らはディーノの元に近寄り、彼を拘束し始めた。


「な、何をするんだ。僕は操られてなんかいない」

「大人しくするのだ。操られていないにせよ一旦牢獄で頭を冷やすのだな。連れて行け」

「はっ」

「ちっ、こんな拘束なんて魔法で……」


(魔法が発動しない……?)


 ディーノは縛られた腕を解放させるために魔法を発動させようとしたがそれが叶わない事に気づいた。

 彼を拘束している手錠は、魔法を遮断する特殊な古代文字が刻まれており、更に世界一の強度を誇る伝説の金属【レイダーラ鉱石】であり、城にあった秘宝の1つだった。


「くそっ、いったいどういうつもりですか、国王!」

「すぐわかる」

「なにっ……?」


 牢屋に連れて行く前にディーノが最後に見た国王は邪気に溢れた笑みを浮かべていた。


 そのまま城の地下牢に連れて行かれたディーノは冷たい牢獄に閉じ込められた。


(急になんだというんだ……王はいったい僕に何をさせるつもりだ)


 訳も分からぬままディーノはそこで一晩過ごした。そして次の日になると、兵士が迎えに来て手錠は解放しないまま、ディーノを王の間に再び連れて行った。


「どうだディーノ。一晩暗い牢獄で過ごして考えは変わったかな?」


 王は少し薄ら笑いを浮かべながらそう尋ねる。

 ディーノはうつ伏せに倒れながら王の方を睨め付けた。


「お言葉ですが、私はもとより正気です」

「……そうか。実はな、余は貴公に言わなければいけないことがあるのだ」

「どういうことです」

「勇者よ、貴公には死んで貰わねばならぬ」

「は……?」


 ディーノは王の言っている意味が理解できなかった。


「い、言っている意味がわかりません」

「何を。簡単な事よ。貴公は是より死ぬのだ。余に叛逆の疑いがある故にな」

「は、叛逆? 私は叛逆など全く考えておりません!」

「そんなものを信じられると思うか? 既に民衆はあろうことか王である余より勇者を崇めているようだ。何故だかわかるか? うん?」


 王は椅子から立ち上がると伏せているディーノの目の前まで行き、そしてしゃがんだ。


「それは貴公が魔法学園やプロ勇者制度などというものを導入し始めたからだ。貴族や農民などの地位に関わらず魔法を学べる? なるほど素晴らしい。それはさぞ底辺の者共には光明に見えるだろう」

「わ、私はただ……皆に平等に機会を」

「そんな事をされては余の支持が益々落ちてしまうではないか。だがそれだけならまだ余は様子を見れた。しかしなんと貴公は魔族と共存したいなどと言うではないか。いかんな、それだけは駄目だ」


 王はわざとらしく首を横に振りながらそう言った。


「穢らわしい魔族がこの国に入るなど身の毛がよだつわ。余は貴公なんぞにこの国を渡すわけにはいかないのだ」

「私は国を乗っ取ろうなどと考えた事はありません!」

「貴公がそう思っていなくとも民がそれを後押しするやもしれん。もしくは貴公が魔族と親密になれば奴らを虐げてきた余を失脚させようと奴等は画策するやもしれん。理由なぞ幾らでもあるのだ。貴公が何と言おうが、余からすれば“勇者には叛逆の疑いがある”のだ。ご理解いただけたかな?」


 王のその言葉でディーノはようやく自分の状況に気づいた。そう、もはや彼は“詰み”の状態であるということに。


(王にとって僕が死ぬ事は決定事項というわけか……)


「くそ……まさかあなたがここまでする人物だったとは」

「それは褒めてくれているのか? 安心したまえ、貴公は逆賊として死ぬわけではない。英雄のまま行方をくらました、とでもしておこう。魔法学園もプロ勇者制度もちゃんと存続させておくよ」

「……僕はまだこんなところで死ぬ訳にはいかないんだ!」

「だが死ぬ。魔王を倒した勇者が、こんなところで這い蹲りながら殺されるのだ。実に空虚だとは思わんかね。ああ、一応言っておくが助けは期待しない方が良いぞ。貴公の仲間達は今、余の命でルーン王国まで出向いているからな」


 王はそう言いながら近くにいる兵士から剣を受け取った。


「さて、最期に言い残す事はあるかね」


 そう言われたディーノは最期の最期まで打開策を見つけようと考えていたがもはやそんな方法はないという結論に至り、振り絞るように声を出した。


「故郷の、ローグディンにいるレオナという娘に一言、“愛している”と」


 その言葉を聞いて、王はこれまでにないほどニンマリと笑顔を見せた。


「それならば死んだ後に自分で言え。その女もあの世で待っておろう」

「な……? そ、それはいったいどういう」


 ディーノは自ら訊きながらそうであって欲しくないと願っていた。

 だが現実は残酷であった。


「ローグディンならば昨日、滅びた。生存者はおらん」


 王のその一言は、ディーノの心を折るには十分だった。


「い、意味がわかりません……意味が」

「貴公の育った故郷だ。貴公がいなければ流石に不審に思うだろう。疑いは余を危険に晒す。そういう“芽”は摘まねばならぬ。表向きは魔族に手を貸した罪という事でローグディンの村人達は惨殺した。1人残らずな」

「――っ!」


 ディーノは声にならない声を上げた。自分を縛り上げている手錠を外そうと手首から血が滴りながらも抵抗し、歯を噛み締めすぎて口からは血が溢れていた。そしてその顔は修羅の如く険しきものだった。


「殺してやるっ!!! お前は絶対殺してやるっ!!!」


 ディーノはのたうちまわって王にそう叫んだ。王は叫ぶディーノの右目に剣を突き刺した。


「ぐあああああっ!」


 ディーノは激しく悶絶する。

 当の王はそれを愉しそうに見やると、剣を振りかぶり、


「良い働きだったぞ、“勇者”」


 そう言って剣をディーノの心臓に突き刺した。


「ご、殺して……や、や……る」

「くくく、是が勇者の最期か。まるで魔王よ」


 ディーノが完全に事切れたのを王は確認すると、兵士にそのまま用意していた抜け道から彼の遺体を運ばせ、城の裏にある山に埋めた。

 その山には野犬も魔物もいない上に結界魔法を張ったため、掘り起こされる心配はなかった。


 その次の日、王はルーン王国から帰ってきたラゲル達にはディーノと同じように手錠をはめ、事態を隠蔽するためにそれぞれ牢獄に放り込んだ。


 王は彼らにディーノにした事を話した。そしてそれぞれに家族や親しい者などの人質を用意し、ディーノやローグディンと同じ目にあいたいか? という脅しによりヤヨイとレイを服従させた。


「ふざけるなぁぁああああ! ディーノを! レオナを! お袋達を返せええええ!」


 だがラゲルはもはや故郷もないため抵抗。よって王は彼も殺す事に決めた。だがその日のうちには出来なかったため、ラゲルは手足の腱だけ切られ、処刑は次の日に持ち越された。


 一方その頃、ディーノが埋められた土から人が1人這い出してきた。


「はぁっ、はぁっ、はぁ」


 ディーノだった。

 なぜ彼が生きているのか。その時の彼には知る由もなかったが、それは彼が持つ聖剣ヴィクティムによるものだった。ヴィクティムは離れていようと一度だけ所有者の命の身代わりになる事が出来たのだ。ただし一命を取り留めるだけで瀕死の重傷なのに変わりはない。


「何で、僕は生きて……」


 ディーノは自分の生を実感した後、すぐさまやるべき事を思い出した。


「あいつを殺さなければっ……!」


 だが自分の身体がかなりの重傷である事も明らかだった。

 彼は、悩んだ末に山をゆっくりと降り、まず武器を手に戻すために、聖剣があるであろう牢獄へと向かった。


 かなりの深手とは言え、勇者。一対一なら負けるはずもなく、牢屋にいる兵士達を一撃のもとに気絶させていき、聖剣を手に入れるとそこで予想外にラゲルに遭遇した。


「ディ、ディーノっ? お、お前生きて……!」

「ラ、ラゲル……」


 2人とも状況は良いとは言えなかった。ディーノは重傷、ラゲルは手足の腱を切られているため、まともに歩けなかった。

 だがディーノはラゲルを見捨てる事はせず、彼を背中に背負って歩き始めた。


「ディーノ! お、俺はあいつを、王のクソッタレを許せねぇ!」

「僕だってそうだ……! 必ず殺してやる……必ずだ! 王の間のにいる筈だ。僕はそこへ行く。ラゲルはここで待っててくれ。必ずあいつは僕が殺す」

「くそっ……俺の手足が動けば……ディーノ! 親父とお袋の仇を! レオナの仇を取ってくれ!」

「ああ……!」


 ディーノはラゲルを人目のつかない場所に寄りかからせて、傷だらけのまま王のいる城へと向かった。

 彼の顔は今まで見せたことのないほど狂気に染まっており、潰れた片目から出る血も相まって鬼のようになっていた。


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