表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜五章『消せない罪』〜
47/80

【魔王、運命の糸】


「知っている人物だと? 俺の魔法を? そんな奴らは四大帝くらいしか……」


 アレフはそう言ってイーシェスの方を見る。


「まさかっ。私はそんな情報言ってないよ! 他の四大帝もそうだよ! きっと!」


 イーシェスは必死でそう言った。


(俺も四大帝が裏切ったなどあり得ないと分かっている。だがだとすると一体誰が……)


 するとゼロはアレフの考えを読み取ったかのように笑みを止めず口を開く。


「いるさぁ。あんたが忘れているだけで、もっともあんたの魔法を身近でみた人物がね」

「何だと?」

「ザリエルって聞いた事ないかい?」

「ザリエル? そんな奴聞いた事も……いや待て」


 どこか頭の隅で引っかかる記憶を、アレフは呼び覚ました。それはアレフが蘇って初めて出会った魔物、カブトンが言っていた台詞だった。


『魔王を知らないわけねーだろが。新生魔王のザリエル様をな!』


(そうだ、あいつはそう言っていた。つまりザリエルは今の、魔王……?)


「新生魔王とやらの話か?」

「それそれ、ザリエルはねラゲルと繋がってるんだよ。というかぶっちゃけると銀の槍の本当の頭はザリエルなのさ」

「ザリエルが、銀の槍の……?」


 アレフは眉をひそめる。話が見えてこないからだ。


「いったいそれが俺と何の関係がある。俺はそんな奴と会ったことはないぞ」

「まぁまぁ落ち着いて聞きなよ。順を追って話すさ。今の魔界はね、君に従っていた元魔王軍とザリエル率いる新生魔王軍に分かれてるんだ。それに関してはそこにいるイーシェスも知っているだろう?」


 アレフがイーシェスの方を見ると、彼女は少し気まずそうに目を逸らしながら答えた。


「え、ええ……確かにそうよ。今、新生魔王を名乗る者達の勢力が台頭してきてる」

「なぜ俺に言わなかった、イーシェ」

「アレフに、お、怒られると思って。私達四大帝が不甲斐ないからあっちに皆行っちゃうから」


 そう言ってイーシェスはアレフをちらちら見る。アレフは深くため息をついた。


「ガキかお前は。そんな事で俺が怒るか。それよりそのザリエルは何者なんだ」

「それが、わからないの。五年前アレフが死んだという情報が流れて少しした後にその勢力は現れたわ」

「俺が死んで少しか。俺が死ぬの待ってたみたいだな」

「最初は小規模で全然気にも留めてなかったんだけど、徐々に手下を増やしていって圧倒的な速度で魔軍を作り上げたのよ」

「そんな実力と統率力に溢れた奴いたかな……いたら俺がスカウトしてると思うんだが……」


 アレフは優秀な人材は身分や種族に関わらず登用する考えを持っていた。


「それでね、流石にギルレイド達も放っておけなくなったらしいんだけど彼らが私達に戦争を仕掛ける事は無くて……組織のトップの情報はあまり手に入らずって感じだったみたい」

「お前らに戦争を仕掛けなかった? 意味がわからん。それじゃそいつらの目的はいったい……いや、違うそうじゃない……ザリエルは銀の槍の頭……そうかそういうことか。それなら辻褄があう」


 アレフはひとり頷き、答えを導き出していた。イーシェスはそれを聞いてもピンときていなかった。


「どういうことなの?」

「いいか。新生魔王軍なんてものは元から“存在しなかった”んだ」

「はっ? え、いやあるよ。だって実際に魔族達が……」

「つまりだ。新生魔王軍という名で兵を集めてはいたが、実態は“銀の槍”だったという事だ。頭はどちらもザリエルという者だ。そいつが魔族を集め、ラゲルと協力し、強力な人魔入り乱れる銀の槍という集団を作った。目的は恐らく、“人間への復讐”」

「人間への復讐……」


 アレフはさらに続ける。


「前にイーシェが言ってただろう。銀の槍にいた人達の唯一の共通点は、“人間を恨んでる事”だって。ここダムステルア王国の現王は魔族に対して差別的だ。実際に同盟していた魔族すら絶滅させてる。そんな王へ復讐したがってる奴らはごまんといる筈だ。勿論人間達でも圧政や奴隷など王を恨む要素は幾らでもある。ラゲルも恐らくそうだ。ザリエルは、そんな奴らを集めて王達へ、理不尽な王族や貴族達に復讐する気なんだろう」


 アレフのその考えにイーシェスも合点がいった様子だった。


「じゃあ宝を奪った後も王都を襲おうとしてる理由は……!」

「そうだ。宝は本当の理由じゃない。狙いは、“国王の命”……! そうなんだろう、ゼロ」


 アレフはゼロの方を見る。するとゼロは笑顔をやめて真顔になっていた。


「驚いた。まさかそこまで一人で推理されちゃうとはね。素晴らしい、殆ど合ってる。80%と言ったところか。けどそこまで分ったなら、一つだけわからない事があるだろう?」

「ああ。ザリエルは何者なんだ。そこだけが全く見当がつかない」

「そうさ、結局質問は最初に戻ってきたね。あんたの情報をくれたのはザリエル。さてザリエルは誰でしょうか。じゃあこのクイズを当てる為の大きな大きなヒントをあげましょう」

「下らない事を……」

「まぁまぁまぁ。ヒントというのはね、“銀の槍”の名前の由来さ」

「名前の、由来……?」


 アレフには皆目見当もつかないものだった。ゼロはそのまま続ける。


「銀の槍の銀はね、あんたのことさ魔王」

「何?」

「銀色のあんたの髪から取ったのさ。そして槍は、ザリエルの心構えさ。世界の悪を貫くっていうね。つまり銀の槍ってのは、【銀の意思を持つ、悪を貫く聖なる槍】って意味なのさ」

「意味がわからん……俺の意思? 世界の悪って……」


 瞬間、アレフの中である己の言葉が閃光のように蘇る。



『世界を頼んだ――』



 そしてアレフは何かを察したのか驚きの表情をする。


「ま、待て、まさか……!」

「そう、ザリエルとは……あんたの事を唯一知る人物の本当の名とは――」

 


 ♦︎



爆蓮ばくれん!」

「詠唱破棄……!」


 ラゲルの目の前の空間に火花が散る。ラゲルはそれを爆発の前兆だと一瞬で判断し、後ろに跳ぶとその後の爆発を太刀で斬り伏せた。


「危ない危ない」

「爆発を、斬り伏せやがった。デタラメな奴だな」

「中々のレア魔法持ちだな。今度は俺の番だ。大文字だいもんじ!」


 ラゲルの手のひらから火の玉が高速で発射された。マサトはそれをラゲルのように斬り伏せようと剣を火の玉に当てた。


「真似すると思ったよ」

「ぐぉっ!?」


 しかし剣に触れた瞬間、火の玉は大の字に広がり、その一端がマサトの腹に突き刺さった。

 突き刺さった部分は一瞬にして焼け焦げる。


「終わりだな。よくやった方だ。楽に殺してやる」


 そう言ってラゲルは太刀をマサトの首めがけて振り下ろした。


「誰が、終わるかっ……!」


 マサトはその一瞬でエクスカリバーの鞘を腰から抜き取ると腹に当てた。傷が回復し、迫り来る太刀をマサトはエクスカリバーで受け止めた。

 その行為を見てラゲルは愕然とする。


「き、傷が治った? 一瞬で」

「エクスカリバーのお陰だっ」


 マサトは逆にラゲルを剣で攻め立てる。急に傷が治るという異常を目撃してしまったラゲルは動揺し、その攻撃を防ぐので精一杯だった。

 ラゲルはなんとかその剣戟から抜け出し、距離を取る。


「エクスカリバー? それはお伽話に出てくるあのエクスカリバーか?」

「俺は知らん。けどそうらしいね」

「本当にあるとはな。俺の剣が“ヴィクティム”じゃなくて少し残念だが……伝説と闘えるってわけか。わくわくするね」

「抜かせ。爆破属性、位階上。爆破鳥ばくはちょう!」


 四匹の白い鳥が舞う。それらはそのままラゲルに向かって行った。


「こいつらが爆発するってか。だが動きが直線的すぎる。こんなもん避けて……って追尾式かよ!」

「爆破属性、位階上。自動地雷じどうじらい


 マサトは右手をラゲルが鳥から逃げている方向の地面に向かってかざした。

 自動地雷は技の名前通り地雷である。手をかざし、地雷をセットする。敵がそこをふんだら爆発するシンプルな魔法だ。


「馬鹿鳥が。一列になった! レッドスピア!」


 ラゲルはジグザグに動いていた。そのためその不規則な動きに合わせるため鳥達も不規則に動かざるを得ず、鳥はある一瞬ラゲルから見て一直線に並んでいた。


 ラゲルはそれを見逃さず炎の槍を出現させ、迫り来る鳥達に向かって投擲した。槍は鳥を文字通りに串刺しにした後一気に爆発した。

 爆発はラゲルの方までには届かず彼は無傷だった。


「くそっ!」

「これが本当の焼き鳥って奴だな。レッドスピア!」


 ラゲルは爆煙であたりが見えないのを逆手に取り、再び炎の槍を出現させるとそれをマサトがいた方向へ向けて思い切りぶん投げた。


「えっ?」


 マサトが爆煙の中から炎の槍が出てくるのを目視した時には既に不可避の距離まで槍が迫っていた。マサトは槍をもろに膝に受け、その場に崩れ落ちる。


「ぐぁっ」

「回復させる間も無く、粉々にしてやる。大文――」


 カチッ。


 ラゲルが魔法を唱えようとした瞬間、足元から何かスイッチが入ったかのような音がした。ラゲルが異変に気付きその場から離れようとしたが遅かった。


 自動地雷は魔力検知型の地雷で対象者の魔力を検知した時点で爆発する。

 ラゲルを地雷による爆発が襲った。


「はぁ……はぁ。痛いなくそ。早く鞘で回復しないと」


 マサトはラゲルが爆発に巻き込まれたのを確認しつつ鞘に手を伸ばした。だが鞘を手が掴む前に自身に炎の槍が飛んできているのを察知し、それをとっさに避ける。


 槍が飛んできた方に咄嗟に目をやるとラゲルがいた。地雷を踏んだ左足が少し焦げてはいるものの大した傷は見られない。


「ちっ、避けたか」

「お、お前。俺の自動地雷を踏んでその程度の傷ですんだのか?」

「あぁ、これか。これは爆発する瞬間に足を囲うように魔法を使ってダメージを和らげた。流石に火傷はしたけどな」


 ラゲルは敢えて説明を省いたが、彼は炎上網と言われる普通相手を包囲する時などに使う魔法を足を囲うようにして使ったのだ。


「お前強いな。もしかしてお前も女神にチートでも与えられたのか?」


 マサトのその言葉にラゲルは困惑した。


「女神? ちーと? 何言ってんだお前。まぁけど、お前も中々強いな。久々に楽しめそうな相手だ」

「冗談じゃない。こっちは楽しくないぜ」

「なんだお前も俺と同じ戦闘が好きなタイプかと思ってた――」

「――ラゲル」


 唐突に、ラゲルの声を遮る声がした。それはマサトのものではなく、ラゲルの背後から歩いてきている男が発した言葉だった。


 ラゲルはその声を聞いた瞬間、ひたいから汗を流した。そしてそれはマサトも同じである。


(な、なんだこの圧倒的な“圧”は……?)


 マサトがそう思った相手の男はマサトの事などどうでもよさそうにラゲルにそのまま話しかける。


「いつまで経っても連絡が無いから来てみれば、こんな子と遊んでいたのか」


 そう言って男はマサトの方を見る。マサトは思わず怯み、後ずさりした。


 男は肩まで伸びた艶のある黒い髪を持ち、その目は儚げだがどこか強い意志を感じる、そうまるで自分達が“正義”である事を確信している目をしていた。


 そう、この男こそ銀の槍の真の頭にして新生魔王ザリエル。


 別名を――




 ♦︎





 ――ディーノ。



 アレフは目の前にいるゼロのその発言をまるで飲み込めないまま聞いていた。ゼロはそのまま続ける。



「――ディーノ=ホープレイ。世界を救った男だ」



 こうして勇者と魔王の運命の糸は五年の時を経て再び絡み始める事になる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ