【情けない名のマサト】
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クレア達に振られたマサトはしょうがないのでそのまま山を降りた。
ふとマサトは疑問に思う。
「そういえばあの子達、通報はしたのかな?」
「つーほー?」
黒い耳を持つ猫族のクロが首を傾げる。
「こっちの警察っているのか……? いやなんかほら悪い人とか捕まえる人にさっきの山で倒れてた賊の事は報告したのかなって」
「ああ、騎士団の事ですねっ。どうなんでしょうか。けどあんな失礼な人達ですからしていなくても不思議じゃないですよ」
そう言ってエルフ族のリンナは頬を膨らませて怒っていた。
「あ、ああそう騎士団騎士団。じゃあ俺たちが代わりに騎士団に報告しとこう。とは言えケータイは無いし……どうやって通報するんだ?」
「騎士団なら町に一人は担当の者がいると思いますよ。近くの町で報告しましょう」
「そ、そうだな」
「それはそうとマサト様。聞きたいことがあるのですが」
「な、なんだ急に」
リンナはマサトに詰め寄り、目をまっすぐに見つめた
「先程あの小娘に言われていたことは本当ですか? 年端もいかない子供をせ、性的な目で見ているとは」
リンナのその真剣な眼差しにマサトは少したじろいでしまった。
「ねえシロー、年端もいかないって何ー?」
クロがそう訊くと、白い耳を持つ犬族のシロが胸を張って答える。
「ふふん、そんな事も知らないのですかっ。年端もいかないとは私たちのような子供のことですっ」
「なるほどー、じゃあ“せいてき”って何ー?」
「それはー……シロにもよくわからないのです」
「なんだー、シロも大したことないなー」
「何をー!」
勝手に喧嘩を始めたクロ達を見て、マサトは和やかに笑った。
「まさか。俺はこの子達の事は妹とか家族のように思ってるよ。あの女の子は少し勘違いしただけだろうね」
「で、ですよねっ。よかったぁ。マサト様に幼児趣味があったらどうしようかと」
「はは、まさか。俺がそんなわけないだろ」
(別に俺はロリコンじゃない。ストライクゾーンが普通より広いだけだ)
マサトは心の中でそう思った。
彼らは山を降りて近くの町に行くと騎士団員の一人に事情を説明した。
「“サマル山”に四大帝の一人がいたというのかっ?」
「そうです。けどもう逃げてどこかに行きました」
騎士団員の女は声を上げて驚く。それもそうだ、四大帝など人生で一度も見ずに終わるのが普通で存在すら噂で聞く程度なのだ。それがこんなに身近にさっきまでいたとなると驚くのも無理はない。
「な、なるほど。貴様は偶然見つけたということか?」
「いや……まぁはいそんな感じですかね。とにかく、今山には四大帝の仲間達が大勢倒れてるんで今の内に捕まえちゃってください」
「わかった。貴様、身分を証明するものはあるか?」
「み、身分ですか……」
「住民カードや勇者ライセンスでもいいが」
そう言われてマサトは身体中を探るがあるはずがない。何故ならマサトはこの国に来てからまだあまり日が経っていないからだ。
その様子を女は怪しく思った。
「身分を証明できないのか? 貴様一体何者だ?」
「いや、その……」
「怪しい奴だな。お前もしかして私を騙しているんじゃないか? 四大帝など嘘で」
「そ、そんなことないっ!」
「そうですよっ。だいたいあなた騎士団とはいえ失礼じゃないですかっ?」
リンナがマサトを庇い騎士団員に文句をつける。団員は彼女の事をじろじろと見たあとクロとシロも見て鼻を鳴らした。
「エルフに犬族、猫族か。随分と魔族が好きなようだな。やはり貴様、怪しいぞ。名は?」
「マサトです……」
「マサト? なんだか情け無い名だな」
「す、すんません」
「むー、クロなんかあの女むかつくー」
「シロもですっ。腹が立ちますねっ」
クロとシロはマサトが責められてるのを見て腹を立てていた。だが団員はそんな事は御構い無しとばかりにマサトの腰にある剣に注目した。
「その剣、装飾が美しいな。とても高価な物だろう。どこで手に入れた?」
「これは……女神というかなんというか、そう! 親切な女の人に貰ったんですよ」
「そんな高価な物をあげる者がいるわけないだろう! 貴様、それを寄越せ。没収する」
団員はマサトの剣を奪い取ろうとするが彼はそれを嫌がり回避する。
「だ、駄目ですよっ。これは“聖剣”エクスカリバーなんで人に渡す訳にはいかないんです!」
マサトがそう言うと団員は一瞬静止し、その後腹を抱えて笑い始めた。
「せっ、聖剣っ、エクスカリバーだとぉ? くっくっく、笑わせるなっ。あんな童話の話、今時子供でも真似せんぞ!」
「いやそんな事言われても……」
「とにかく貴様らは怪しいから私が都まで連行してやる!」
「そ、そんなぁ」
そして団員がマサトを連れて歩き出そうとしたその時、一人の男が騎士団員に話しかけた。
「君がこの町の騎士団員か?」
「なんだ貴――こ、近衛兵っ?」
その男は王直属の兵士である“近衛兵”の装束を身につけていた。団員はすぐにかしこまり気をつけの姿勢をとる。
マサト達は何が起きたのやら理解が追い付かずその場で二人の会話をただただ聞いていた。
「な、何の御用でありましょうか?」
「今王が都を次の襲撃から守るための戦士を探しているのは知っているだろう? それで先程候補が上がってな。南にある“ゼコ”という町を知ってるか?」
「は、はい。確か最近犬族と猫族の縄張り争いに巻き込まれてるとか……」
「そうだ。それを最近解決した奴がいる」
「それは凄いですね」
「ああ、名はマサトというんだが……何か知らないか?」
「なっ!? ま、ままままマサト?」
団員は異常なまでの驚きを見せた。そしてちらりと振り返りマサトの方を見る。
マサトは彼女に対しにこにこ笑うとそれは自分ですよ、と言いたげにコクコクと頷いた。
団員の顔から大量の汗が吹き出る。彼女は再び近衛兵の方を向く。
「あ、ああの。他に何か特徴はありますか?」
「どうした汗が凄いぞ大丈夫か? 他にはそうだな、事件を解決した関係で旅に犬族と猫族の子供を連れて行く事になったと聞いたな。あと、エルフ……だったか」
団員は再び後ろを振り向き、リンナ、クロ、シロの順に見ていく。すると彼女たちもニヤニヤしながらそれは自分たちの事であると主張したげに頷いていた。
団員の汗はもはや身体中から出ていた。だがここまできたら彼女も引き返せない。
何か言い訳を考えて現実逃避をしようとしていたところ、近衛兵が思い出したかのように手を叩いた。
「ああ、重要な事を忘れていた! マサトさんはなんと“聖剣”を持っているらしい。あの神話で有名なエクスカリバーだそうだ」
そう言われた瞬間、団員は極度の緊張感から重心を失い背中から地面に倒れた。近衛兵は何事かと驚いたが、マサトが歩いて彼女を上から見下ろすとこう言い放った。
「どうも。“なんだか情け無い名”のマサトです」
「すぴばせんでしたぁぁああああ」
団員は号泣して謝った。