【クレア、怒る】
クレアたちを縛っていた“つる”はアレフたちが去っていき少しすると消滅した。
「あ、つる消えたっ」
クレアは拘束がとけるとすぐにアレフたちが消えていった方角に少し走り下を見てみたが既に彼らの姿はなかった。
「ア、レ、フのやろぉおおお」
めらめらと魔法を使ってもいないのに彼女の体は燃えあがっているようにみえた。
クレアは拘束が解けたにもかかわらず未だその場にへたり込んでいるアリスの元へ向かい、腕を引っ張った。
「アリス! さっさとあの馬鹿追いかけるわよっ」
するとアリスはびくびくと体を痙攣させるかのように震わせた。
「あっ。ちょっ、ちょっとまだ触らないでくれ。今敏感だから」
「駄目だこの変態」
「マサト様ーっ!」
クレアが呆れていると同じように拘束を解除されたマサトの仲間たちがマサトに駆け寄っていった。
マサトは彼女たちを見ると悔しそうに唇をかんだ。
「う……リンナ。ごめん、俺お前の仇取れなかった……」
「いいんですっ……いいんですそんなこと! そんな事より早くエクスカリバーの鞘を触らないとっ……」
「ご主人様死んじゃやだーっ!」
「馬鹿言うなですっ。マサト様が死ぬわけないのですっ」
獣人の幼女二人が泣きだす。彼女たちは小さい故にあまり聖剣などの事を理解していないがエクスカリバーにはある特性がある。
実は所有者以外が聖剣に触れようとすると結界が発動し焼け焦がしてしまうのだ。
そのためリンナは鞘ではなくマサトの腕と手を掴み鞘を持たせそれをそのまま彼の胸に置いた。
するとマサトの傷はみるみるうちに塞がっていき少しすると彼は完全に復活した。
「マサト様っ」
「助かったよリンナ。クロにシロも、心配をかけたな」
そう言われ頭を撫でられて心地好さそうにする犬族のクロと猫族のシロ。
「くそっ……なんなんだあいつの強さは。負けイベント並みに勝てる気がしなかったぞ」
「マサト様?」
「あ、ああごめん。今すぐあいつらを追いかけたいけど今の俺じゃ駄目だ。強くならないと」
(手っ取り早い覚醒イベントでも起きてくれればいいんだけどな……)
マサトはアレフの規格外の強さを実際に目の当たりにして実力の差を痛感していた。
そして彼はクレアたちの方に目線をやった。
「なぁ、そこの君たち」
「アタシたち?」
「あの男はいったいなんなんだ? 何故あんなに強い」
「アタシだって……よくわかんないのよっ! 今頭ごちゃごちゃなんだから! ふざけんなアレフ! 馬鹿馬鹿ばーか!!」
「お、おう……」
クレアの謎の迫力に気圧されてしまったマサトだった。
「なら君たち俺らと一緒にあの男を追いかけるというのはどうだい?」
「あり得ないわね。あんたみたいないやらしい目をした奴と一緒に旅したくないわ」
「い、いやらしい? 俺が?」
「えぇさっきからアタシを見る目が気持ち悪いのよ。普通アタシみたいな子どもを見たら子どもとして見るのにあんたは性の対象としてみてるでしょ! こんなお子様な身体に! 変態ね!」
(お子様な身体って、自分で言ってて悲しくならないのかクレア)
正気に戻ったアリスは冷静にそう思ったが口には出さなかった。
一方クレアに散々言われたマサトは狼狽えていた。何を隠そうこの男、本人は否定しているがクレアのいうとおり少女でもなんでもいける男だった。
「お、俺はそんな男じゃない!」
「それにさっきあんたはあいつの事を強いって言ったけどアタシからしたらあんたも十分おかしいくらい強いわよ。そんな奴が何でプロ勇者にもならずにいるのよ。おまけに“聖剣”なんてのも持ってるなんてどうもおかしいわ」
「そ、それは……」
マサトの誘いをバッサリと切り捨てたクレア。今まで自分の誘いを断った女がいなかったマサトはその事実に困惑していた。
「あ、あなた失礼ですよっ。マサト様は優しい方ですっ。良い方なんです!」
「そうですぅ、ご主人様は凄いんですよっ」
「マサト様をいじめるなっ」
次々にマサトを擁護し始めるリンナたち。
「別にいじめてないわ。とにかくアタシはアタシで行動するわ。アリス、あんたはどうするの?」
クレアがアリスにそう訊くとアリスはおもむろにマサトの前にいき、腕の袖をまくって腕をマサトに差し出した。
「お前、一回ここ叩いてみてくれ」
「は?」
「いいから早く叩け」
マサトは訳もわからずアリスの腕を平手で叩いた。
「痛いじゃないか何をするっ!」
「えぇ!?」
アリスはマサトの頬をビンタした。その場にいた全員がその意味不明な行動に混乱していた。
(痛いだけで全然気持ちよくないな。やはりアレフがいないと駄目ということか)
「よし、行こうクレア」
「えっ、ええ……あんたさっきの何だったの?」
「強いて言うなら、“選別”ってところか?」
「意味わからないわ……」
本人以外誰も意味がわからないアリスの選別によって振られてしまったマサトはその場にただ立ち尽くし、去っていくクレアたちを見つめていた。
「えっ、何で俺今ビンタされたのっ!?」
マサトのその当然のような疑問に答える事ができるものはいなかった……。