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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜四章『再会』〜
35/80

【魔王、別れる】


「爆破属性、位階上。爆破鳥ばくはちょう


 マサトが放った四匹の白い鳥は、アレフへと向かっていく。

 アレフは向かってくる鳥を避けようとしたが、それらは追尾してきた。


(追尾式の鳥か。おそらくあの鳥に触れると爆発するはず。ならば)


底無イレイサー


 アレフは向かってくる鳥に闇をぶつけた。それにより一匹が爆発。その爆発で近くにいたもう一匹も誘爆した。

 だが後の二匹は迂回して接近していたためにそれを逃れた。


 左右どちらからも接近してくる鳥に対しアレフは動かなかった。

 アレフが鳥の対処をしている隙にマサトは注意が向いていないと思い魔法を続けて放つ。


爆蓮ばくれん!」


 アレフの目の前で火花が散る。瞬間その辺りに爆発が起きた。続けて鳥がその爆発の中に突っ込んで行き、更に爆発が発生する。


(よしっ)


 マサトはアレフに攻撃が命中したと思い、喜んだ。そのままトドメを刺すためにエクスカリバーを構えた。


「爆破属性、位階極。爆砕ばくさいのつるぎ」


 そのままマサトは爆煙の中に入り倒れているであろうアレフの元へ向かった。しかしマサトは歩みを止める。それもそのはず、爆発の中心地にいるはずのアレフがいないのだ。

 マサトはその場にとどまり、辺りを見渡すがやはりいない。


 瞬間マサトは上空から何かが落下して来るような空気の抵抗音を聞いた。マサトが上を見上げるとそこには剣を持ち落下してくるアレフの姿があった。


「何で上にいるんだっ!?」

底無イレイサー


 アレフの放った闇に対してマサトは剣でガードした。そのため剣に付与していた極大魔法が発動する。


「しまっ――」


 マサトは自分の失敗に気づくがもう遅い。辺りを覆い尽くす超爆発が起きた。マサト自身はエクスカリバーの加護によって爆発を喰らわないが、もともとゼロ距離でアレフにぶつけるつもりだった魔法だ。


 アレフは案の定“反射板ミラー”の魔法を駆使して自分に当たる爆発の部分を少し跳ね返し、爆発の威力を和らげると“暗黒結晶ブラックプリズム”で自らを結晶に閉じ込めて身を守った。

 ゼロ距離で受けていたら暗黒結晶であろうとも粉々に吹き飛んでいたがある程度距離があったためにアレフは多少の傷で済んだ。


 爆煙であたりが見えなくなっている中、アレフは正確にマサトの位置を把握していた。それは上空からこうなる事を計算していたためにできることだった。


 そしてアレフは完全にマサトの背後を取った。そのまま魔法を唱える。


「闇属性、位階極。闇煉獄やみれんごく

「後ろっ!?――」


 マサトは背後にアレフがいることに気づくがもう遅かった。アレフの放った魔法は巨大な黒い三角錐型の闇エネルギーであり、それにマサトは囲われた。

 そのまま三角錐は凄まじい速度で圧縮していき、最後には弾けるように消えた。その衝撃でマサトは上空に吹き飛ばされ、彼はなすすべもなく無防備なまま地面に落下した。


 マサトの身体はズタズタに引き裂かれたようになっていた。だが、死んでいない。


「俺の極大魔法を食らっても死なないとはな。それもそのエクスカリバーによるものか」


 アレフの言うように、マサトがその攻撃に耐えられたのはエクスカリバーを盾のようにして攻撃に逆らっていたからである。

 マサトはうっすらと目を開くと、悔しそうにアレフを見つめた。


「く、くそっ、聞いてねえよ。こんな強キャラいるなんて。ふざけんなよマジで……ごほっ」

「エクスカリバーの鞘に触れることすらできないくらい傷が深いようだな。ふん、“ちーと”などに頼るからそうなるのだ」

「くそっ、くそっ。剣も剣術スキルも魔法力も全部チートレベルのはずなのに、何で負けたんだ……」


 マサトは忌々しそうに眉をしかめる。アレフはそれを見て呆れるようにため息をついた。


「教えてやろう。貴様は確かに強かった。並大抵の者ではその剣術に敵わないだろう。俺も真正面から剣勝負をしていたら負けてたかもな。だがこれは試合ではない、殺し合いだ。剣と魔法だけに頼った貴様に俺に勝てる道理などない。貴様には圧倒的に“経験”というものが足りていない。戦場で血と泥にまみれながら得た経験がな」

「ぐ、ぐぅ……」

「しばらくそこで寝てろ」


 そう言うとアレフはイーシェスの元へと歩いていった。

 するとイーシェスはアレフに飛びつくように抱きついた。


「やっぱりアレフは強いね!」

「お前俺の話聞いてた? 俺今身体ボロボロなんだけど聞いてる? 聞いてないな。まぁちょっとお前ここで魔法かけたまま待っといて。俺あいつらと話してくる」

「はーい」


(短いのに、長く感じた旅だったな)


 アレフはクレアと別れる決意をしていた。それは実はイーシェスでなくとも他の四大帝と出会ってしまった時はそうしようと決めていたものだった。


 四大帝は妄信的にアレフを慕っている。当たり前だが彼らにとって魔王を討ち取らんとしている人間たちは敵である。そんな彼らが人間と一緒に旅などできるはずはない。


 そもそもアレフの目的は気ままに自由に人間界を見て回ることだった。クレアは偶然その中で出会っただけであり、彼女の旅の目的である身体を元に戻すのも、エルフの涙があればおそらく達成できるだろう。


 イーシェスと出会った今、おそらくイーシェスはアレフに魔王復権を望むだろう。そうすればアレフにはもう自由などない。


 仮にクレアたちを連れて行こうとしても人間を根絶させたい魔族の誰かが事故を装って始末してしまうかもしれない。


 復権がなくともイーシェスが現れた今、もう既に自分が何かの因果に巻き込まれているのだろうと感じ取っていたアレフは、更に危険になるだろう熾烈な戦いにクレアたちを巻き込みたくないというのが大きかった。


 そんな危険がつきまとう中、クレアたちを同行させるわけにはいかない。すなわちここでクレアたちと別れるのが最善の策なのである。


 アレフはつるで縛られているクレアたちの元へ向かった。当たり前だがマサトの仲間たちからは罵声が飛んでくる。だがアレフはそれを無視してクレアに話しかけた。


「さて」

「さて、じゃないわよ! あんたどういうつもり? 何で悪い魔族と一緒にいんのよていうか何で仲よさそうなのよ何でアタシに……何も言わないのよ」


 クレアはアレフへただただ切なそうな顔を向けた。アレフはその顔を見ていると、決心が鈍る気がして、目をそらした。


「騙してて悪かったな。俺は元魔族だ。お前と同じで呪いで人間になってるだけだ」

「えっ? ま、魔族?」

「これがエルフの涙だ。お前はこれを持って賢者のところへ行け」


 アレフは強引にクレアの手にエルフの涙が入った瓶を持たせた。


「これでお前も元の姿に戻れるだろう。お前と俺の旅はこれで終わりだ」

「ちょっと待ってよ。どういうことなの? いきなり何がなんだか」

「まぁ中々退屈しない旅だった」


 アレフはここまでの道のりを少し思い返していた。


(ふん、元魔王とは思えん自由ぶりだったな)


 ふとアレフはクレアの隣でつるに縛られているアリスを見た。アリスは何故か縛られているというのに恍惚とした表情をしていた。


「あ、アリスは……まぁ頑張れよ」

「えっ? わ、私にはそれだけか!? あっ」


 つるが身体に食い込んだのかアリスは艶かしい声を出す。

 なんだか締まらないな、と思ったアレフではあったが最後にアリスとクレアの頭に手をのせると少しだけ笑みを浮かべ、


「じゃあな」


 そう言って彼女らに背を向けた。クレアたちが何やら叫んでいたがアレフはそれを無視して、イーシェスとともに乗り魔物に乗ってそのまま山から降りた。


 山から降りていくアレフをクレアは何もできず見送ると、すうっと息を吸い込み、力の限り大声で叫んだ。


「なんなのよーっ!! あの身勝手馬鹿男はーっ!!! ふざけんじゃないわよーっ!!」


 わよーっ、わよーっ、とやまびこになってクレアの声は虚しくあたりに響いた。


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