【魔王、焦る】
アレフたちはヤヨイと別れ、ゼゴの町に向かっていた。
「ゼゴってなんかある町なの? アタシは聞いたことないんだけど」
「ゼゴからは、よく王都にハムが送られていたな。あとソーセージとか。まぁ私の知る限りゼゴに大した名産品はないな」
「ふぅん。じゃあなんでそんなところにその旅人は行ったのかしら」
「さぁ?」
そんなこんなでアレフたちはゼゴの町にたどり着いた。
ゼゴの町にはあまり人が訪れることがないため、アレフたちはすぐに町の人に声をかけられた。
「おや、旅の方かい? どこから来なすった?」
「王都からよ。この町にエルフと一緒にいるっていう旅人はいるかしら?」
クレアのその質問に男は少し驚いたそぶりを見せた。
「あんたら、マサトさんに会いに来たのか?」
「マサトさん?」
「ああ、少し前にこの町に来て、犬族と猫族の縄張り争いからこの町を救ってくださった方さ」
「へぇ。で、そのマサトさんはどこに?」
「今は出かけてるよ。あっちの山に近頃出る魔物退治しに行ったね」
「なるほど。情報ありがとう、感謝するわ」
「行く気か? 危ねえぞ?」
「大丈夫よ、アタシたちこう見えても強いから」
こうしてアレフたちは山に向かった。そして歩くこと十分ほどで彼らは、噂の旅人たちに出会う事になった。
彼らは四人行動をしていた。まず黒髪の中性的な顔をした男。そして耳の長い金髪のエルフの女。そしてクレアくらいの身長の幼女が二人。その二人も獣人である。
「あんたら、誰だ?」
アレフたちの存在に気づいた男が、そう言った。
「旅の者だ。貴様が噂のマサトか?」
「噂? なんだか知らないが俺は確かにマサトだ」
「マサト様はもう噂になってるのですねぇ、流石ですー」
「当たり前です、ご主人様は偉大ですから!」
獣人である幼女二人がマサトを称え始める。それをアレフは興味深そうに見た。
「犬族と猫族、それにエルフか。随分と魔族と仲がいいな」
「悪いか?」
「別に好きにしたらいい。俺たちが用があるのはそこのエルフだからな」
「わ、私ですか?」
アレフがエルフに指を指すと、エルフの女は困ったように慌て始めた。
するとエルフをかばうようにしてマサトが前に出て来た。
「リンナに何の用だ」
「訳あってエルフの涙というものを探していてな。そこのエルフなら何か知ってるんじゃないか?」
「そうなのか? リンナ」
「え、ええ。確かにエルフの涙の事なら知っています。エルフ族に伝わる秘薬ですから。けど、私は持っていません。私が元いた里ならありましたが……」
そこでエルフのリンナは俯いてしまった。
「ではその里に俺たちを案内して欲しいんだが」
「それは、出来ません」
「何故だ?」
そこで少し間を置くと彼女は重々しく言った。
「……滅びたんです」
「なに?」
「私がいたエルフの里は襲撃を受けて滅びました。私はその時にマサト様に助けていただいてなんとか逃げ延びましたが……里は壊滅してエルフの涙も奪われました」
「そんなことがあったのか。誰にやられたんだ」
「イーシェス。あの四大帝の一人、ダークエルフのイーシェスです」
(イーシェス、だと)
その名前にはもちろんアレフは聞き覚えがあった。かつてアレフが魔王だった時、自分に従っていた四人の従順な部下の一人。
その中でもイーシェスはアレフにとって思い出深い一人だった。
「どうかしましたか?」
「い、いや」
「イーシェスは、このゼゴの町の近くで目撃されている。つまり、俺たちはそのイーシェスを倒すためにこの町に留まっているんだ」
「そ、そうか」
「俺はもうこの山にいる魔物は倒した。そしてその魔物が持っていたツノは血をつければその特定の魔力の持ち主がいる方を教えてくれる。俺はイーシェスに一太刀浴びせてやったからな、その時に採取した血を使えば……」
マサトは懐から血の入った小瓶を取り出すとそれを持っているツノにかけた。
するとツノが光り出し、浮遊するとある一定の方角を指し始めた。
「イーシェスは北にいる。しかも割と近い。行こう、みんな! リンナの悔しさを晴らす時がきた!」
「はいっ」
マサトがそう檄を飛ばすと、メンバーの三人は勢いよく返事をした。
アレフはそれを見て少し思案すると、
「おい、悪いがこいつらを連れてってやってくれ」
そう言ってクレアとアリスを差し出す。
「どういうこと? アレフはどうすんのよ?」
「俺は俺でやる事ができた。貴様らはこいつらについていけ。もしかしたらエルフの涙が手に入るかもしれん。ということで頼んだぞマサトとやら」
「えっ、おいっ」
アレフはそう言うと、一人で走り出して下山してしまった。
(イーシェスがエルフの里を襲うのは考えにくい……お前になにがあったんだイーシェ!)