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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜三章『勇気ある者』〜
29/80

番外編:アリス【マゾリネス家のヒミツ】


 アリス=マゾリネス。彼女は由緒正しきマゾリネス一族の長女として生まれた。

 マゾリネス一族は代々女性が家の実権を握っており、白薔薇の乙女騎士団を継ぐのも代々女性であった。


 そのためアリスは五歳の頃から剣を握り訓練を受けていたのだ。

 この時アリス、七歳。


「アリス! 何回言ったらわかる! そこは一度陽動をかけるんだ!」

「はい!」


 マゾリネス家の家長、アレイリ=マゾリネスは厳しい母だった。

 幼いアリスを全く甘やかさず、厳格に育てたのだ。


「違う!」

「あうぅっ」


 ぴしっというムチの音が辺りに響く。アレイリがアリスをムチで打ったのだ。

 もちろん子供ゆえに手加減はしているがそれでもムチ、当然痛みが走る。


「いたい……」

「痛いのが嫌なら上達しろ! 私は弱音を吐く女々しい奴が嫌いだ!」

「……はい」


(痛い……けど少しだけ気持ち、いい?)


 こうしてアリスは幼少期を過酷な環境で過ごした。そして彼女はこの頃からマゾリネス家特有の才能を発揮し始めていた。


 アリスが十歳になる時、マゾリネス家と交流があったサザンクロス家が訪れる。

 その時、アリスはロキと出会っていた。この時ロキ、八歳。


「や、やぁこんにちは。僕はロキって言うんだけど」

「お前がサザンクロス家の次期当主か? 随分弱そうだな」

「お、女の子なのに凄い言葉遣いだね。僕は、次期当主、じゃないのかもしれない」

「何を言ってる。お前長男なのだろう? じゃあ家を継ぐだろ」

「僕より弟のロイドの方が強いんだ。だから、弟が当主になるかも」


 ロキのその気弱そうな発言に、アリスはいらいらとしていた。


「はっ、お前は一番ダメなタイプの男だな。母上が言っていた通りだ。男なんて偉そうな事ばかり言っているがいざとなったら頼れないとな。お前には自信というものがない!」

「ひ、ひどいや。ま、まぁ僕のことはいいんだよ。それより父様たちは何話してるんだろう?」

「さあな、だが母上が珍しく嬉しそうな顔をしていたからな。何かいいことがあるのだろう」

「そっか。まぁ邪魔しちゃ怒られるし静かにしてないとね」

「ふん、そんな事は分かっている」


 ♦︎


 アリスとロキが話している一方で、彼らの親であるアレイリとダムドも話し合っていた。


「――つまりこの渓谷から攻めればいいという事か、マゾリネス」

「そういう事だ。その渓谷は私たちが管轄しているからなにかとやりやすいぞ」

「ふん、なるほどないい案だ。さすがマゾリネス。ではその案で行かせてもらおうか」

「わかった。ではその手はずでいこう。なればサザンクロス、ここにサインを」


 ダムドが頷いて、何かの契約書にサインをし終えると、おもむろに彼はアレイリを見た。

 するとアレイリはその視線に気づき、少し目をそらす。


「な、なんだ」

「今日はなんだか綺麗じゃないか。化粧をしているな。それは俺に見せるためか? アレイリ(、、、、)


 ダムドのその言葉でアレイリは顔が真っ赤になった。


「こ、これはその」

「ふん隠さなくていい。全く、あれだけ普段男嫌いで誠実を装っているくせにこれだ。健気な女だ」

「だ、だって」

「旦那に申し訳ないと思わないのか?」

「あんな軟弱な男、政略結婚じゃなければ絶対結婚しなかった! ダムド、あなたともっと早くに会えていれば」

「まぁいい。ほら、こい」

「きゃっ」


 ダムドはアレイリの腕を掴むと、そのままベッドに投げつけた。


「ふん、アレイリ。どうせ普段娘には厳しくしているんだろう?」

「そ、そうだけど」

「それがっ!」

「あうっ」


 ダムドは急にアレイリの頬を叩いた。

 しかしアレイリは嫌そうな顔どころか、頬を赤らめ喜んでいた。


「それが叩かれて喜ぶ変態だとばれたら娘はどう思うだろうな」

「む、娘は関係ないだろう」

「今日は楽しくなりそうだな」


 そう言ってダムドは卑しく笑った。


 ♦︎


「アリスちゃんは母様のどんなところを尊敬してるの?」

「そんなのは決まっている! 強くて、美して、そして誰にも媚びないその姿だ!」

「な、なんだか難しい言葉を使うね」


 結局、アリスはその後から現在まで自分の母の本質に気がつくことなどなく、育っていった。


 そして成長するに従って、彼女は着実に強くなっていく。そして彼女が17の時に彼女は白薔薇の乙女の団長となった。


「ま、参りました」


 騎士団員と稽古で戦い、団員を鍛える日々。たまに相手から攻撃をもらうこともあった。その度にアリスはモヤモヤを感じていた。


(母上からの攻撃は受けても気持ちよかったのに、なんで他の人だとダメなんだろう……はっ、ダメだこんな邪な事を考えていては! 私は名誉あるマゾリネス家だぞ!)


 そう、騎士団になってから彼女は母親から叱られることはほとんどなくなった。そのため他の団員からの攻撃などで心地良さがあるのかと思っていたがそんなことはなかったのだ。


 彼女はそのモヤモヤを抱えたまま、日々を過ごし、アリスが二十二の時、事件が起きる。

 王族襲撃事件である。

 その時の失態により騎士団の地位は堕ちる。リンカというプロ勇者に手柄を取られ、彼女はイライラしていた。


 そんなある日、彼女が街を巡回していると、


「なるほど。要はプロ勇者に自分たちの手柄を取られた間抜けな騎士団というわけか」


 そんな声が聞こえてきた。

 それに激怒したアリスはその男に決闘を申し込んだ。だが彼女はあっさりと負けてしまう。


 そしてあろうことか男に馬乗りになられてしまった。この時点でアリスのプライドはボロボロだった。だが、アレフの一言が彼女を変える。


「そんな顔をするな。綺麗な顔が台無しだ」

「な、なにをするっ! 綺麗などとっ!」


 この時、彼女の中では色々な変化が起きていた。

 幼い頃からずっと言われてきた男は頼りにならずどうしようもない、というものが、アレフの圧倒的な力と、どこか漂うカリスマ性によって少し崩れたのだ。

 そして何よりその言葉を言われてから、彼女はアレフに乗られているこの状況を、


(す、少しだけ気持ちいい。はっ、わ、私はなにを!)


 と、思ってしまったのだ。

 その後もなんだかんだでアレフと縁があったアリスは徐々に彼に惹かれていき、やがて彼女はアレフの冷たい言葉に対しても興奮を覚えるようになってしまっていた。


 結果的にアリスは恥も外聞も捨ててアレフについていく事を決意した。その裏で彼女が、


(私は変態になってしまいました。母上、申し訳ありません。誠実で美しい貴女を追いかけることはできませんでした)


 そんな事を思っていたことは誰も知らない。そして思いっきり母親の後を追いかけているということも誰も知らない。

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