【魔王、偉そう】
「アレフ、王様に呼び出されたんだって?」
「ああ」
「怒られるんじゃないの? あのふてぶてしい態度で。もしかしたら死罪かもよ、ふふ」
「あのヒゲにそんな度胸があるとは思えんな」
「ひ、ヒゲって……王様のこと?」
「そうだ」
クレアはアレフに突っ込む事をしなくなった。とにかく彼の自信はどこから来るんだろうか、とそんなことを思っていた。
アレフは堂々と王の間に入ると、そのまま王が座る椅子の前まで行き、そのまま座っている王に話しかけた。
「で? ヒゲ。俺に言う事はなんだ?」
「ひ、ひげ? ……ふぅ、貴様の態度の大きさにはもう何も言う気が起きんな」
「貴様も態度がでかいだろう」
「いや私は王なんだから当たり前だろ」
「ふふふふ、面白い人ねアレフさんて」
王の隣に座る王妃がアレフを見て微笑んだ。王妃はとても美しく、三十も後半になるとは思えないほど若々しい肌をしていた。
「まぁいい、アレフとか言ったか。貴様には誉ある役職を与えてやる。聞いて驚け、王の騎士だ。王の騎士はここ過去数十――」
「断る」
「へ?」
アレフの言った言葉に、周りにいた人々は一瞬完全に静止した。
皆が聞き間違えかと思ったのだ。
「俺はそのキングナンチャラに興味ない。用はそれだけか? 帰らしてもらう」
「ま、待て! 自分が何を言っているのかわかっているのか? 王の騎士になるということはこの国で王族の次に実権を持つということだぞ?」
「興味ないな、そんな地位。だいたい貴様な、逆だろ?」
「ぎ、逆?」
アレフが言った言葉に王は意味がわからず思わず聞き返してしまった。
「さっきからどうも上から目線だ。ヒゲよ、貴様は俺が強いからそばに置こうとしてるんだろ。つまり俺に守ってもらいたいわけだ。にも関わらずなぜ命令してるんだ? 逆だろ。私が弱いので守ってくださいお願いしますアレフ様、だろ」
「な、何を……ふざけるのも大概にしろ貴様ーっ! この国から今すぐ出て行けーっ!」
「言われなくとも出て行くさ。馬鹿な王だ、国と命より自分のプライドを取るとはな」
そう言ってアレフは王の間から出て行った。そして部屋に戻り、ゴロゴロ魔道書を読むクレアに荷物が入ったリュックを投げると、
「出発だクレア、行くぞ」
「えーっ!? なんでなんでなんで!? もっとゆっくりしていきましょうよ! アタシ傷だらけなんだけど!」
「ヒゲに出て行けって言われた」
「あちゃーまぁあんだけの態度でそれだけで済んで良かったか。しゃあない、行きますか」
クレアはやれやれと重い腰を上げ、出発の準備をして部屋から出た。
城から出ようと廊下を歩いていると、そこにはパンイチで立ちふさがっているゴレアムがいた。
「よぉ」
「なんだ貴様か。ふふ、相変わらず面白いなそのパンイチ。思い出したぞ、勇者試験の時のやつだな」
「一言よ、あんたとお嬢ちゃんに礼を言っておきたくてな。ありがとう」
「まぁアタシもすぐやられたけどね」
「ふん、次は自分で解決できるように精進するんだな。貴様、名はなんという?」
「ゴレアムだ、あんたはネームレスでいいのか?」
「よし、ゴレアム覚えたぞ。あれは偽名だ、俺はアレフ」
「そうか、アレフ。またあんたには会いてえぜ。じゃあな」
「ふっ、そうだな。また会おう、ゴリラ」
(もう忘れてんじゃねえか……)
ゴレアムは振り向かず手を挙げ去って行くアレフの姿を見て、そんな無粋なことは言えず、グッとこらえた。
ちなみにロキはというと、
「う、うーん、ネームレスめ。 この僕をコケにしやがってぇ」
部屋のベッドでうなされながら寝ていた。
そして、城を出るとそこには待ち構えていたアリスとリリィがいた。
「なんだお前ら」
「あ、アレフ。お前には責任を取ってもらうぞ!」
おもむろにアリスはアレフを指差すと、顔を赤らめそう宣言した。
「は? 何言ってんだお前」
「私の事を抱きしめたり綺麗だと言ったり、そ、そんなことをしておいて放っておく気じゃあるまいな!?」
「なにあんた、アタシに隠れてそんな事してたの?」
「いや、まぁ……」
隣にいるクレアが全身から炎が燃え盛っているような幻覚を覚えたアレフであった。
するとリリィも便乗したのか急に自分の体を抱きしめ、頬を赤らめながらこう言った。
「私だってそうですわ! わ、私殿方にあんなに力強く抱きしめられたことなんてなかったですもの! そ、それにお姫様抱っこだって……責任とってください!」
「お姫様抱っこ……?」
「なんだそれは、私も聞いていないぞ?」
「ふむ……」
クレアからはさらに炎が巻き上がってるように見え、アリスからは凍てつくような氷が襲っているようにアレフには見えていた。
(これ、幻覚だよな?)
思わず自分の目を疑ってしまうかのような状況で、アレフが出した結論は、
「三人も連れて行くなんてめんどい。だいたい姫が旅なんてできるわけないだろ」
というど正論だった。
「う、それは、そうですけど」
「暇な時に遊びに来てやるからそれで我慢しろ」
「絶対ですよ? 絶対来てくださいね! できれば週三で! いえ、やっぱり週五日、いやいや週七日で!」
「毎日じゃねーか。無理に決まってんだろ」
アレフがそういうとリリィはしばし顎に手を当て考えるようなそぶりをした。
「まぁなら気が向いたらでいいですぅ」
「やけに物分りが良くなったな」
(その一日で既成事実を作ればいいのですから)
リリィがとても恐ろしい事を考えているとはアレフは全く知らない。
「わ、私は別に姫じゃないから旅についていけるぞ!」
「まぁそうなんだが、邪魔になるかもしれんしなぁ」
「ま、マゾリネス家の力があれば色々と融通が効くぞ!? 情報だって集めやすいし、入れない場所に入れたりする」
「それは確かに魅力的だな」
(こ、この女、プライドも何もかなぐり捨ててアタシたちの仲間になろうとしてるわね)
アリスの捨て身の攻撃にクレアは密かに恐怖を感じていた。
「じ、じゃあいいだろ? いいよな?」
「まぁいいか」
「や、やた!」
「ち、ちょっとアレフ!」
「まぁいいだろクレア。一人くらい」
アリスはその場で何回もジャンプして歓喜した。
「そういえばお前、騎士団とやらはどうしたんだ」
「あぁ、それならさっき辞めてきた」
「はぁ!? あの名誉ある白薔薇の乙女騎士団を!? あんた馬鹿じゃないの?」
「ふん、あいつらはしっかりしている。私がいなくても十分やっていけるさ」
アリスは自信たっぷりにそんな事を言っているが、その白薔薇の乙女といえば、
「わあああ、団長がいなくなっちゃったあああ」
「お姉様ああああああ」
「これから私たちはどうやって生きていけばいいのおおお?」
このようにお葬式のような光景になっていた。
「じゃあ行きましょう」
「そうだな」
「ふ、この王都から離れる日が来るとはな」
「絶対遊びに来てくださいねー」
リリィが見送るなか、アレフたちは王都を後にした。