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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜三章『勇気ある者』〜
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【魔王、讃える】


「はぁ、はぁ、はぁはぁ」

「ぜぇ、ぜぇ。や、やった。倒したぞ」


 貴族街ではボロボロになったクレアとロキが、倒れている魔族、ザードを見下ろしていた。


「く、くそっ。この俺がこんな人間どもに……」

「恨み言は、牢屋で言ってなさい。ファイアボール」

「ぐあっ」


 クレアが放った火の魔法により、ザードは意識を失った。そして彼女はザードを縄で木に縛り付けて王のいる城へと向かい出した。


「王のもとにはワータイガーが向かってるって言ってた。まずいぞ、あそこにはゴレアムが行ったけど、こんな強い相手、絶対勝てない」

「だとしたらもう王たちは殺されてるかもしれないわね。その時点でアタシたちの負けよ」

「冷静に怖いこと言うね君。急ごう」


 そうしてクレアたちは城へと走り出した。

 走ること十分ほどで彼女らは城に到達した。荘厳な城の周りには血だらけで伏した兵士たちの姿があった。


「ゴレアムはまだ城……?」

「城の中から音がするわ! まだ戦ってるみたいね」


 何かが殴られて吹っ飛ぶ音が城の中からは聞こえていた。クレアたちはその音を頼りに城の二階に上がり、王が日頃鎮座する王の間に辿り着いた。


 そこに広がっていた光景は、身体中から流血し吹き飛ばされながらも立ち上がるゴレアムの姿だった。

 そしてそれを笑いながら楽しそうに見つめるワータイガーの魔族。顔は半獣人のようだが体は殆どが獣のようだった。手には太い棍棒を持ち、それにはゴレアムによってつけられた返り血がべっとりと付いていた。


「はははは、本当に頑丈な人間だな貴様」

「お、俺はまだやれる」

「なぜ動けるんだ? 身体中の至る骨が折れているはずなんだがな」

「俺はこーみえても勇者ってやつなんだよ、へへ……」

「下らん」

「ゴレアム!」

「ん? 人間の仲間か」


 ロキたちは倒れているゴレアムの元へと駆け寄った。


(これは……酷いわね。左目は腫れすぎてて見えていないでしょう。内臓に骨が達していなければいいのだけれど)


「お、おお。ロキじゃねえか」

「ゴレアム、君がまさかここまで耐えてくれるとは」

「へ、へへ。俺もなかなかやるもんだろ? 安心しろ。ま、まだ王様たちは殺されてねーぜ。なんてたって出世のチャンスだしな。ごほっ」


 喋っている途中にゴレアムは吐血した。

「ご、ゴレアム。もういい、君はそこで少し休め。あとは僕たちがやる」

「馬鹿言うな、おめーらもボロボロじゃねえか。三人でやるしかねえ」

「そうだけどさ……」

「別にいいじゃないの、本人がやるって言ってんだから。それよりどうやったら勝てるかを考えましょう」


 クレアのスパルタすぎる発言に若干ロキは引いていたが、確かに状況は絶望的だった。まず先ほどの激戦で自分たちは満身創痍。魔力もあまりない上に傷だらけ。とても勝てる状況などではない。


「ところでゴレアム、王たちはどこへ?」

「王と王妃たちは奥の部屋で隠れてる」

「なるほど」


 せめてもの救いはまだ王族が生きていることか。死んでいたらその時点で自分たちは死罪の可能性があるのだ。


「おいおい、お前らその傷で俺に勝つつもりかぁ? どうやらザードの野郎はやられたみたいだが、俺はあいつより強い。どうあがいても勝てねえよ?」

「あ、あのホワイトウルフよりも強いのか」

「そうそう。わかったらさっさと帰れ。俺は別に貴族たちへの復讐以外に興味はねえんだ」

「馬鹿ね、あんた倒さなかったらどの道アタシたちは王族守れなかった罪で死罪よ」

「ふん、だったら倒してみろ、このタイグロ様をそのボロボロの体でな。土属性、位階中。岩石落とし」

「きたわ!」


 タイグロの放った魔法により、何もないはずの空間からクレア、ロキ、ゴレアムそれぞれの頭上に縦横1メートルほどの岩石が落下した。


 クレアとロキはそれを難なくかわしたが、ゴレアムは重症ゆえにうまくかわせず直撃しようとしていた。


「ちっ、風属性位階下。木枯らし」

「ぐおっ」


 ロキの放った風がゴレアムに当たり、それによってゴレアムは吹き飛んで岩石の直撃を免れた。


「いてて」

「岩石当たるよりはましだろう!」

「わーってるよ、ってロキ! 後ろ!」

「なにっ?」

「よそ見しすぎだ馬鹿が」


 ロキが後ろを振り向いた時にはすでに、タイグロの拳が目の前まで迫っていた。


(不覚、避けきれない!)


「ファイアボール!」

「ぬぅ!?」

「あんたもよそ見しすぎね」


 間一髪、クレアが放った火の玉がタイグロの側頭部にあたり、奴の気を一瞬そらした。

 その隙にロキはタイグロの背後に回り込み、剣を抜いて背中を切りつけた。


「よし、って斬れない!?」

「あー? 痒いなぁ」


 切りつけた剣は皮膚で止まり、出血することはなかった。

 タイグロはその間に後ろに回し蹴りを行った。


「ごふっ」

「あーい、ワンヒットー」


 その蹴りはロキの腹部に直撃し、めきめきと骨の軋む音を立てロキを吹き飛ばした。

 ロキは何回か地面にぶつかりながら壁にめり込み止まった。


「が……がはっ」


(一発でこの威力。あばらがいかれた。立てない、やばい)


「ロキ! くそっ。無属性位階下。マッスルアーム!」


 ゴレアムの両腕が淡い光に包まれる。そのまま彼はタイグロの方へと走った。


「またお前か。その単調な攻撃じゃ何回やっても俺にはあたらん」

「火属性位階下。ファイアボール!」

「土属性位階中。脈動する岩」

「なぁ!?」


 タイグロの注意がゴレアムに向かっていると踏んだクレアはその隙にファイアボールをぶつけようとしたが、タイグロはそのことに気づいており、魔法を発動させた。

 それはクレアの背後の壁から長方体状の岩が現れるものであり、彼女はそれを避けることができず背中に直撃。そのまま反対側の壁まで岩が伸び、クレアは壁に激突した。


「はいツーヒット」


(背中からの魔法? まずい、まずいわ。流れてる血の量が多い。足が動かない。このままだと死ぬ……?)


 クレアもロキも元々のダメージ量が普通に戦えるような状態じゃなかったため、そこに攻撃を食らった今、立てる道理はなかった。


「最後にお前だ」

「ぬぅ、負けるかぁ!」

「ばーか。誰が正面向かって殴り合いするかよ」

「なっ? 落とし穴!?」

「お前がゴロゴロ転がってる時に仕掛けたのさ」


 ゴレアムの下の地面には穴が空き、そこに彼はこけて倒れた。


「はい、スリーヒット」


 タイグロは転がるゴレアムの顎めがけて思い切り蹴りを放った。

 それによってゴレアムは白目を剥き、その場にうつ伏せた。


「終わりだな。ザードと戦った時にどうやら力は使い果たしたようだったな。位階下のみしか使わんとは、俺を舐めすぎだ」


 そうしてタイグロはそのまま王たちが隠れている部屋に向かって歩き始めた。


(ま、まずい。あいつが王たちのいるところへ行っちゃう。動けアタシの体!)


「あ、あんた。ごほっ、王なんかを殺したら戦争よ?」

「ふん、お前らはそこで王が無残に死ぬ姿でも見ておけ」

「くそぉ、なんで僕の体は動かないんだ!」

「ようやくこれで俺たちワータイガーの悲願が……ん?」


 タイグロが足首に違和感を感じ、それを見る。するとそこにはうつ伏せになりながらもぞもぞと動き、タイグロの足首を掴むゴレアムの姿があった。


「な、なんだお前。なんだお前ぇ!?」


 咄嗟にタイグロはそれを振り払う。彼はここに来てゴレアムの理解不能なその行動に初めて恐怖していた。


「へ、へへ……行かせねーぞ」

「何故、そこまでしてあんな王を守る!? あの王にそんな価値など無い! あいつは罪も無い魔族を排除するような奴だ!」

「し、知らねーよそんなの。俺ぁ出世したいだけだ」


 ゴレアムはうつ伏せながらタイグロを見て笑うとそういった。


「下賎な人間が!」

「だ、だいたいおめーら。罪も無いとか言いながら罪も無いこの王都の一般人も殺してんじゃねぇか……」

「あんな王の統治するこの国に住む人間は全員罪人だ!」

「さ、さっきと言ってることちげえじゃん。それにここでお前を止めねえと、もっとおおくの被害が出る。お、俺は勇者だ。勇者って奴は人を救うらしいぜ?」

「小賢しい偽善だ。お前のその救えもしない自信はどこから来るんだ?」

「自信じゃねえよ。勇気だよ。勇者ってのは勇気ある者のことだろ。だ、だから俺は諦めねえのさ」

「じゃあその勇気とやらのせいでお前は死ね。とどめを刺してやる、跡形もなくな。土属性、位階上。大いなる軋轢」


(あぁやべえ、これは死んだ。俺出世できずに死ぬのかよ。まじかよ。さっさと金貯めなきゃならなかったのに。レイナ、ごめんな)


 タイグロの放った魔法はゴレアムの周りから石が生え始め、それがゴレアムを取り囲むようにドーム状になった。


「圧死しろ人間!」


 その石のドームは徐々に縮んでいく。次第にめきめきという音が辺りには鳴り響き始めた。


「ふん、潰れたか」


 音は鳴り止むことはなく、そして異変が起きた。石がボロボロと崩れ始めたのだ。そして中からは紫色の透明状の何かが見えていた。


「な、なんだ?」


 完全に石が崩れ落ちると中からはゴレアムを覆うように紫の結晶が覆っていた。


(なんで生きてんだ俺?)



 ゴレアムが困惑する中、王の間に一人の男の足音が響く。


「勇者とは勇気ある者、か」

「お、俺の位階上の魔法を破ったのはお前か!?」


 タイグロは狼狽え、焦りながらその男、アレフに訊く。だがアレフは全く聞く気などなかった。


「面白い。勇者が記号と化したこの時代にもちゃんと勇者しているものもいるんだな」

「おいっ! お前に言ってるんだ!」

「ふん、そこの筋肉半裸。名前を聞いておいてやろう。言え」

「え、いやお前と俺は試験の時に一緒だったじゃねえか」

「なに? 全然記憶にないが。いやでも待て? なんか確かに見たことあるような――」

「人の話を聞けええええ!! 土属性、位階上、土大蛇つちおろち


 タイグロの放った蛇の顔を模した石の大蛇は口をぱっくりと開けて猛スピードでアレフの元へと進んだ。


「さっきから五月蝿いぞ貴様、黙れ。闇属性、位階上。黒き渦」


 アレフの放った闇魔法はアレフの差し出した右手から暗黒のエネルギーを排出し、渦のようにぐるぐると回りながら大蛇の口に激突した。

 数秒の間の後、大蛇はぷくっと膨れ、そして破裂した。そのまま渦は止まることなくタイグロに激突し、彼を吹き飛ばした。


「ぐああああ!」

「ワータイガー。頭が高いぞ」

10万字突破しました〜あとブクマ100?なりかけ?

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