表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜三章『勇気ある者』〜
21/80

【魔王、墓穴を掘る】

 

「はぁ!」


 アリスの一撃が、襲ってきた賊を斬りふせる。

 既に歩いてから20分。この短期間でアレフたちは何度も襲撃を受けていた。


「敵多すぎじゃない? 姫さま、毎回こんな感じなの?」

「い、いえ。いつもはここまで多くはないんですけれど……」

「切っても切ってもキリがないな……痛っ」

「なんだ、怪我してるな」


 アリスの異変に気付いたアレフは、隠そうとしていたアリスを抑えて、右腕を見た。すると先ほどの襲撃でやられたのか、切り傷から血が出ている。


「こ、このくらい平気だ! 心配などいらん!」

「馬鹿、貴様の心配ではない。応急処置くらいしろ。万が一貴様の反応が遅れて姫に何かあったらどうする」

「え、え?」


 自分が心配されていると勘違いしていたアリスはその指摘でカーッと顔が赤くなり、俯いてしまった。


「どうした、顔が赤いぞ」

「な、なんでもない!」

「なになに、アリスちゃん怪我したの? だったら早く言ってくれれば良かったのに。診せて」


 リンカはアリスの右腕を見ると、そこに右の手のひらを被せるように向けた。


「回復属性、位階下。ヒール」

「こ、これは! か、回復魔法だと⁉︎」


 アリスが驚いたのも無理はない。回復魔法を使えるものは闇属性などのレア魔法よりさらに希少なのだ。

 その能力と希少さ故に、回復魔法の使い手は国が保護するほどのものだ。


「はい、もう大丈夫だよ」

「ば、馬鹿な。何故回復魔法の使い手などがプロ勇者などやっている? 国の大神官にだってなれるぞ?」

「僕そういうの興味ないからなー」

「な、なんだと?」


(回復魔法……ふむ。なるほど、一度姫を救っただけにしては不自然なほど近い関係だと思っていたが、そういうことか)


 アリスが驚きを隠せていない一方でアレフは考察していた。


「おい、リリィ。あんたがリンカとそこまで親しくしているのはこれが理由だな?」

「おいお前、姫に向かって呼び捨てなど!」

「まぁまぁアリスさん、良いんですよぉ。アレフさんはどうやら普通・・の方ではないようなので」


 アレフの問いかけにリリィ姫はにこりと笑うと、歩きながら語り始めた。


「その通りです。実はこの前の盗賊による襲撃の時、私は死にかけたんです」

「何?――」


 ♦︎


 アレフが疑問を投げかけた時からおよそ2週間以上前。

 その日も貴族院の中は平和で、いつもの日常が送られるはずだった。


「姫! 姫? リリィ姫〜っ!」


 王宮の廊下ではリリィ姫の侍女である者が姫を探して声を荒げていた。


「姫……ぜぇはぁ。い、いない。さてはまた勝手に外に出ましたね……」


 侍女の言う通り、リリィは外に出ていた。彼女は幼い頃から勝手に外に出る癖があり、王宮の人々は様々な対策を取ってきたのだが、毎回破られるのだ。


「今日もいい天気ですわ」


 姫は貴族院の中の店をいろいろと見て回っていた。そこには王宮などでは見られない、品物が売っていたり、何より様々な人たちがいる。

 もちろんお金など持っていないので何も買えはしないのだが、ただ街並みを見るだけでも彼女は満足だった。


 だから、彼女は気づかなかった。不幸というものは突然訪れるということを。

 そう、突然だった。突然、目の前に黒い服とフードを被った男が現れたのだ。


「あらら? 私に何かようですか?」

「……」

「え?――」


 姫の綺麗な服が、紅に染まっていた。そう、男がナイフで彼女の腹部を刺したのだ。

 何が起こったのかわからないまま、リリィ姫はその場に倒れた。


「き、きゃああ! 人が刺されたわ!」

「だ、誰か騎士団を呼べ! それかプロ勇者だ!」


 周りの人々が一斉に声を上げる。しかし男は姫の前から立ち去ろうとしていなかった。そう、一撃で仕留めようと思っていたのに、場所がずれ、姫が死に至っていないためにとどめを刺そうとしていた。


(お腹があったかい……まるでお風呂に入っているような……これは私の血ですか? 私は死ぬの? 嫌です、嫌。私はまだ……)


「死にたくない……!」

「死なせないよ」


 姫の振り絞るような声に応えるようにして、ある一人の女が、一瞬のうちに襲った男に蹴りを加えて地面に叩きつけた。


 男は倒れるや否や、すぐに体勢を立て直しそのまま女に襲いかかる。


「悪いけど、寝ててもらうよ」


 だが彼女はその攻撃をさらりとかわし、足をかけて男を転ばすと、首元に思い切り肘鉄を食らわした。


「ぐぁっ! な……で」


 それによって男は気絶する。

 彼女は攻撃を終えると、少しずれた帽子を深くかぶり直した。


 その光景を目の当たりにした人々は歓喜の声をあげた。


「す、すごい! 彼は何者だ?」

「あれは彼じゃなくて彼女よ! 私知ってる、迷彩のリンカ! プロ勇者よ!」

「迷彩のリンカ! 凄いぞ!」

「いや、でも刺された子はすごい出血だぞ……」

「あれはもう……」


 リンカはそのままリリィ姫の元へと歩くとその場にしゃがんだ。


(腹部に刺された跡がある。致命傷じゃないね、いける)


「あ、あなたは……?」

「喋らなくていいよ。僕はリンカ。プロ勇者さ。回復属性、位階中。巡再生ヒールバック

「こ、これ、は……回復、魔法……?」


 じゅわじゅわと、回復魔法特有の音がする。やがて刺された皮膚はふさがり、血は止まる。そして姫が刺された跡は完全に消え失せていた。

 時間にして15分ほど。リンカのひたいからは大量の汗が吹き出ていた。


「ふぅ。これでもう大丈夫だよ。まだどこか痛む?」

「い、痛くないですわ」

「そう、なら良かった。でも駄目だよ、一国の姫がこんなに不用意に歩いてちゃ」

「な、何故私が姫だと?」

「これでも僕は情報に関しては右に出るものはないと自負しててね」


 そう言って、リンカはリリィ姫に片目を閉じてウインクをする。

 盗賊をやっつけたばかりか、死にかけていた貴族の女性をプロ勇者が助けた。その噂は瞬く間に広まり、そしてさらにその女性が王族だった事も知らされ、街中が迷彩のリンカを称えた。


 白薔薇の乙女が駆けつけたのは、リンカが姫を救ってから十分も後のことだった。それにより、騎士団への批判は激化することになる。


 ♦︎


「――という事があったんですわ」

「あっさりいう割にかなり危機的状況だったな」

「そ、それでは何故この女が回復魔法を使えるという噂は回ってこなかったのですか?」

「ああ、それはね僕がお願いしたんだ。その場で見ていた人たちにね。回復魔法持ちが広まると面倒だから」


 そう、リンカはすぐに周りにいた人たちに回復魔法についての情報だけは漏らさないように伝えた。

 というより、盗賊団を倒したという事実の方を強調して噂を流して貰うようにしたのだ。


(このリンカとかいうやつの生き方。隠したがりの俺と少し似ているな)


「ふん、それにしてもその時襲った盗賊とやらは有名な奴らだったのか? 何せ何も盗んでないのに盗賊団・・・だとわかったんだろう?」


 その言葉にリンカはニヤリと口元を歪ませた。


「察しがいいね。その通り。彼らは最近有名になってきてる盗賊団【銀の槍】。特徴としては右肩に特有の槍の刺青をしてるんだ」

「なるほど、盗みをやる奴らが刺青とは……馬鹿なのか?」

「ま、挑発でもあるね。それほど自信があるってことさ。ちなみにだけど、さっきから襲ってきてる奴らもほとんど銀の槍だよ」


 そう、実はリンカは倒した族の右肩をすべてチェックしていた。中には普通の山賊もいたが、ほとんどは銀の槍の刺客であった。


「ほう……そいつらの目的は?」

「それがよくわからないんだよね。ただ人を集めてるみたい。人さらいを生業なりわいとしてるらしく、金払いがいいから銀の槍に人を売る商人もいるみたいだよ」

「人を売る商人……」


 アレフの脳裏には一番最初に訪れた街で、商人たちが人さらいをしていた事が蘇っていた。


(ふん、なるほど。奴ら盗賊団が元締めか)


「まぁ僕でもアジトがどこにあるかよくわからないからね。潰すのは難しいかな」



 そんな話をしつつ、アレフたちは目的地へ歩いた。驚く事に、最初はあれだけ襲ってきていた賊たちは、後半一向に現れることはなかった。


「ふん、おおかた私たちに恐れをなしたのだろう」

「だといいんだけどね」


 そして、そのままアレフたちは目的地である石碑がある場所にたどり着いた。

 あたりには何もないが、その場所は綺麗に石で土台ができていて、その上に白い石でできた石碑が立っていた。


 リリィ姫はその前まで行くと、目をつぶり手を合わせて祈りを捧げる。リンカとアリスも同じようにしていたがアレフはしなかった。


(護衛者が目をつぶってどうする。それにしてもこの石碑に書かれているのは……)


『友との誓いを果たす為、その証を此処に。過ぎ去りし時は、形を変え精霊と共に』


「いったいこれは何の石碑だ? 友とは誰だ?」


 アレフは何気なくリリィ姫にそう言ったが、彼女たちにとってその一言は驚きのものだった。


「え……? あ、アレフさん、この古代文字が読めるんですか?」

「ん? あ? なるほど……」


(墓穴を掘ったな俺……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ