表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜三章『勇気ある者』〜
20/80

【魔王、護衛する】

 


 アレフたちが貴族院に入る2時間ほど前、ロキ=サザンクロスは一足先に貴族院に来ていた。


「さて……迷彩のリンカはいったいどこにいるかな」


 そんな中ロキが真っ先に向かったのは王宮である。理由としては、リンカが王族に気に入られているなら客人として住まわせて貰っている可能性が高いからだ。

 そのためロキは王宮の護衛兵にリンカがいるかどうかを尋ねてみたが、


「今リンカ様はお出かけになっています」


 との事だった。場所を訊いてみたがそれはわからない様子だった。


(ここで彼女が帰ってくるのを待つよりは、探した方が無難か)


 ロキはそう判断し、貴族院をぶらつくことにする。結果としてこの選択は、彼とリンカを結びつける事はなかったのだが、それはまだ彼は知らない。


(へぇ、よく見ると貴族院の中は流石に綺麗にされているな)


 ロキは貴族院の中に建つ建物を眺めながらそんな事を思っていた。

 彼自身も貴族出身のため、この手の大層修飾された建物を見るのは珍しくないが、それ故に少し懐かしさを覚えていた。


「んん? あ! あんたはあん時の試験管じゃねえか!」


 突然ロキには上半身裸で下にも申し訳程度の短パンしか履いていないムキムキの男が話しかけてきた。


(なんだこの変態は……)


 ロキがそう思ったのも無理はない。なにせ行き交う人々もこの筋肉男を何事かと見ていくのだ。


「おいおい〜。忘れちまったのか? ほら俺だよ! 勇試を受けた、ゴレアムだよ!」


(そんないちいちポージングを取られても僕にはさっぱり覚えがないぞ)


 本当に記憶にないロキは、目の前の上半身裸の男がポージングする様をただ見ているという側から見るととてもシュールな事をしていた。


「これならどうだ! ふんぬ!」

「いやさっぱり駄目だ。思い出せん」

「なんだよ〜、けどまぁあんたには一撃も食らわせられなかったからな。覚えられてなくても仕方ねえか」


 そう、この男ゴレアム=マッスルスター。プロ勇者試験の時にアレフの1つ隣に座っていたパンイチの男である。

 アレフのツボに妙にはまってしまったこの男であるが、実は試験は合格していた。


「それで? そのゴリラムが僕に何の用だ?」

「ゴレアムな。いやぁそれがよ、王族でも助けて一発成り上がりを期待してここにいるんだが、なかなかそんな機会がなくてよ!」

「当たり前だ」

「つーかここは白薔薇の乙女とかいう騎士団が巡回してて事件なんか起きそうもねえんだよな。やつらに会うと睨まれるし、なんかしたかな俺」

「それは君が裸だからだろう。上にも服を着たまえ」


 ロキがそう指摘するとゴレアムは「あっちぃんだけどなぁ」などと言いつつ、持っていた荷物から服を取り出して羽織った。ちなみに羽織っただけなのでもちろん肌はだいぶ露出している。


(それにしても白薔薇の乙女か、懐かしい。僕も父様に昔教わったな。それに今団長のアリスは昔に一度会ってるしな)


「つーかよ、そんなお前さんこそ何してんだ?」

「僕は迷彩のリンカを探しているんだ」

「おぉ! そいつこそ俺が目指してる成り上がり方法第一位のやつじゃねえか! ちょうどいい、コツとか教えてもらいたかったんだよ。一緒に探そうぜ!」

「ちょ、おい! 僕は君と一緒に探すなんて一言も言って……おい! 肩を組むな!」


 ゴレアムに無理やり行動を共にさせられたロキは、その後も予定が狂い、酒場に行ったり踊り子を見に行ったりと、むだ足を運び、リンカと会うことはなかった。


 ♦︎


 時は戻って、アレフはクレアに遅れたことの説明をしていた。当たり前だが一時間も遅刻したことによってクレアはカンカンに怒っており、その代償として美味しいと噂のパフェを奢ることになっていた。


「なぁ、俺もそのパフェ食べたいんだが」

「駄目! あんたは料理頼んじゃ駄目よ。アタシが食べてるのを羨ましそうにそこで見てなさい」


 アレフがいかにも食べたそうにしているのをクレアは見て、料理を頼ませない制約をつけた。


(ぐ、ぐぬぬ。何故俺が頼みたいものを頼めんのだ……)


 効果はてきめんだったようで、アレフはクレアを二度と待たせるまいと決心していた。


「それで? 結局あんただけが護衛任務につくってこと?」

「まぁ、そういうことだな。クレアには悪いが」

「ふん、まぁ姫さまの頼みじゃ仕方ないでしょ。つーかなんであんたなのよ。アタシの方が絶対役に立つのに」

「性格に難がありすぎて無理だろ」

「なんか言った?」

「いや……」


 ボソッと本音を漏らしたアレフであった。

 パフェを食べていくうちに、クレアの溜飲も下がったようで、最終的には護衛にも納得した。

 その後、アレフたちは宿を取り、体を休めて次の日に備えた。


「じゃあ行ってくる」

「さっさと終わらせてきなさいよ」

「お前は俺がいない間何してるんだ?」

「魔道書読んだり服見たり、暇なんて幾らでも潰せるわよ」

「そうか、一人行動には慣れてるんだったな」

「うっさいわねー! さっさと行け!」


 アレフはクレアに足で背中を蹴られ、半ば強引に宿屋を出た。

 そのままアレフは王宮の前に赴くと、既にそこにはリリィ姫とカリン、そしてもう一人の護衛、アリスがそこにいた。


「ほう、もう一人はアリスだったのか」

「うん、騎士団長は毎回この護衛につく事が恒例になってるみたいだからね。まぁどうやらアリスちゃんは僕に良い感情は抱いてないみたいだけど」

「気安くアリスちゃんなどと呼ぶな。私はお前のことなど認めていない」

「僕は認めてるんだけどなぁ。それに僕には指摘するのにアレフ君には言わないんだね」

「なっ、なんだと! 別にいちいち言うのがめんどくさかっただけだ! 他意はない!」


 みるみるうちに顔が赤くなっていくアリス。彼女は人にからかわれた経験があまりないため耐性が低いのだ。


「あらあら、喧嘩は良くないですよ。幸先良くないですね」

「ま、任せてくださいリリィ姫! 私がなんとしてでも護衛してみせますから!」

「それは頼もしいですわ」


 ふふふと笑うリリィ姫。この場の状況を楽しんでいるようだった。


「くだらん事言ってないでさっさと行くぞ」

「手厳しいなぁアレフ君は。じゃあ行こっか」


 リンカがそう言って、四人は歩き始めた。ちなみに徒歩なのは咄嗟の時にすぐに行動できるためである。

 彼らが歩き始めて数分、リンカ、アレフ、アリスが違和感に気づく。


「見られてるね」


 そう口にするリンカ。


「何人だ? 一人か?」


 アリスがそう言ったが、アレフには何人いるかわかっていた。


(ふむ、敵は二人だな。となると、この二人のお手並み拝見ってとこだな)


「……来るぞ」


 アレフのその声と同時に、雑木林の中から覆面をした男二人が飛び出してきた。

 男たちはそのまま姫の元へと近づこうとしてくる。


「そう簡単にはいかないよ」

「姫に近づくな下郎が!」


 リンカとアリスがそれに対抗する。

 アリスは腰から剣を引き抜くと、近づいてきた賊に斬りかかる。賊はそれを避けると、手に持っているナイフでアリスめがけて突き刺そうとした。


「遅すぎる」


 アリスは上体をそらし、それをかわすと振り下ろしていた剣を横一線に振り抜いた。それによって賊の腹部からは出血し、そして倒れた。アリスは剣で空を切り、剣についた血を振り落とした。


「やるなぁアリスちゃんは」


 一方リンカは敵の攻撃を軽々とかわすと、余裕からか帽子を深くかぶり直しそんな発言をした。

 そしてそのまま相手の懐に入ると顎めがけて蹴り上げた。賊はそのまま気を失い、倒れる。


「無事ですか? 姫」


 アリスがすぐにリリィ姫の方へと向き直る。


「ええ、お強いですねぇ、アリスさん」

「勿体無き御言葉です」

「堅苦しいなぁ、アリスちゃんは」

「お前が軽すぎるのだっ!」


 のほほんとしたリンカに、アリスが睨みを効かせる。そしてそのままその睨みはアレフへと向いた。


「お前もなんだ! 全く動く気がなかったじゃないか!」

「……相手は二人。ならばこちらも二人で対応すべきだ。姫に一人は付いていた方がいいだろう?」

「ぐぬぬぬ……!」

「アリスちゃん、見事に論破されてるじゃん。ぷぷぷ」

「うるさいっ!」


(まぁ本音はこの二人の実力を見たかっただけだが。あの程度の相手だと良くわからんな)


「皆さん朝から元気ですねぇ」


 リリィ姫はそんな三人を見てくすくすと笑っていた。

 先はまだ長い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ