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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜三章『勇気ある者』〜
18/80

【魔王、女騎士と戦う】

 

「ほら」


 アレフは引き抜いた剣を無造作にアリスに向かって投げる。彼女はそれを片手で受け止め、剣を構えた。


「お前は剣を使わないのか」

「俺は剣は使えんからな」


(まぁ本当は鬼神きじん流剣術なら免許皆伝なのだが、使ったら魔族だってバレるし)


「ふん、私相手に武器を使わないとは、舐められたものだ、なっ!」


 アリスは先制の攻撃を行った。踏み込んでアレフの間合いに入り斬りかかる。


(なかなか鮮やかな太刀筋。言うだけはあるようだな)


 そのオーソドックスな攻撃をアレフはじっくりと観察して最小限の動きで横にかわした。


「なにっ⁉︎」

「貴様も人を舐めすぎたな」


 アレフは剣を振り切って無防備な背中を見せているアリスの首筋に手刀を叩き込もうとする。


「そうは、いくかぁっ!」


 だがアリスは振り下ろした剣を強引に地面に突き刺し、それを軸にして無理やり体をひねって首への攻撃を避けた。

 だが攻撃は肩の部分にあたり、鈍い金属音を響かせながら彼女はよろめいた。


「ほう、よくかわしたな」

「ぐ……あの程度造作もない!」


(な、何者だこの男。私の初動を見切った上に的確に急所を狙う攻撃。並のものでは無い……!)


 アリスは強気な発言とは逆に焦っていた。というのも最初の一撃で終わらせるつもりだったからだ。


「私は負けぬ! 氷属性、位階下! あられ!」


 アリスが魔法を唱え、剣を片手で持つと、空いた片方の手から無数の氷が発射された。


(氷属性! ふむ、なかなかのレア魔法だな)


 アレフはそれを軽やかなステップでかわしていく。彼女は魔法を使いながらアレフとの間合いを詰めていく。

 そして、剣の間合いに達すると、片手のまま剣を振り始めた。アレフはそれを余裕を持ってかわす。


「片手では先ほどまでの威力は出せんぞ」

「余計な、お世話だっ!」

「むっ!?」


 彼女は先ほどまでの大振りとは違い、コンパクトに攻撃を纏め、手数を増やした。そしてアレフの注意を剣に逸らしたところで魔法を放ったのだ。

 それにより、アレフは霰の猛攻を受ける。


(ち、前が見えん)


「逃さん! 氷属性、位階中! 氷柱つらら!」

「なにっ?」


 アレフが霰によって視界が遮られているところをつき、アリスは再び魔法を唱えた。それによってアレフの足元からは氷が発生し、完全に彼の足元を固めてしまった。


「もらった! はあああああ!」


 アリスは剣を振りかぶり、アレフに向かって突き進む。

 周りにいたギャラリーは完全に試合がついたものだと確信していた。

 だが一人、アレフだけは微塵もそんな事を考えてはいなかった。


(足が動かん。やるな、なら俺も――)


「――少し本気を出すとしよう。底無イレイサー反射板ミラー

「なにっ!?」


 アレフはそこにいる人々全てが驚愕するような動きをした。まず彼はイレイサーによって足は氷で固められたまま、自身が立っている地面を破壊した。

 そしてミラーを使う事でアリスの攻撃を反射し、そのまま彼女に自身の攻撃をお見舞いする。


「う、うぅっ!」


 アリスも並々ならぬ反射神経によって、予想外の自分から自分への剣の攻撃を紙一重でかわした。

 だがそれすらも読んでいたアレフは、足を固められた直立のまま、垂直にジャンプし、一回転を加えると、重力に従うがまま彼女にかかと落とし――両足だが――をくらわせた。


「あぁっ!」


 その衝撃によってアレフの氷も砕け散り、彼の足の自由がきくようになる。するとアレフは息もつかせずそのままアリスの元へと走り出した。


「こ、このぉ!」


 姿勢もふらつく中アリスは近づいてくるアレフに対し剣を振り回すが、アレフはそれを見切りそして彼女の手首を叩くと、剣を落とさせた。

 そして、アレフはそのまま彼女に足をかけ転ばせる。そして落ちた剣を拾い上げ、彼女に馬乗りになると見下ろしたまま喉元に剣を押し付けた。

 瞬間、見ていた観客たちからはどよめきが、とりわけ白薔薇の乙女の兵士たちからは悲鳴とも取れるような声が響いた。

 すると少しばかり汗で濡れた銀髪の髪をかきあげながらアレフは言った。


「ふふ、楽しかったぞ。貴様なかなかやるな。だが、俺には勝てなかったな」

「お、お前は……いったい何者だっ?」

「ん? 何者か? あー……そうだなプロ勇者というやつだ」

「ぐ、ぐぅ! お前もプロ勇者か! そ、そんな奴に私は! 私は……!」


 プロ勇者という言葉を聞いた途端、アリスは狼狽し、悔しそうな顔をし始めた。瞳には薄っすらと雫がたまっている。


(何やらプロ勇者に憎しみを持っているようだな。ふむ、悪い事をしたか)


 アレフはそれを見て反省をすると、首に突きつけた剣を放り投げ、彼女の目元に手をやると涙を拭った。


「貴様が何に悔しいのかはわからんが、そんな顔をするな。綺麗な顔が台無しだ」

「な、なにをするっ! き、綺麗だなどと!」


 アリスは顔を赤くすると、アレフの手を振り払った。


「ふむ、元気は戻ったか」

「馬鹿にしてっ! お前などに私の気持ちがわかるか!」

「さぁな。だが悩みが解決せず本当に何にも頼れなくなったら俺を頼れ。解決してやる。久々に楽しませてくれたお礼だ」

「ふざけるなっ!」


 アリスは右手でアレフに向かってパンチをした。それをアレフは受け止めると、不敵に笑った。


「全く……知り合うのは強気な女ばかりだな」

「くっ、くぅぅ」

「じゃあな、あまり張り切りすぎると体壊すぞ」


 そう言って、アレフは彼女から離れるとその場から去ろうとした。

 周りで見ていた人々は何も言うことができず、ただただ彼を見ていた。

 するとアリスは息も絶え絶えに起き上がると、大きく叫んだ。


「お、お前、名前はっ!」

「アレフだ」


 そう言うとアレフは振り返りもせずにそのまま何処かへと歩いて行ってしまった。

 彼が行くなり白薔薇の乙女の団員たちは、アリスの元へと駆け寄った。


「あ、アリス様! 手当をっ!」

「うるさいっ! 放っておきなさい!」

「あ、アリス様……」


 手を差し伸べる部下たちを拒否し、アリスは一人考えていた。


(アレフ……! 私に恥をかかせるなんて……許さない!)


 ♦︎


 アレフは服についた汚れなどを手で払いながら、なるべく人通りの少ない道を選んで歩いていた。


(思ったより目立ってしまったな。ふむ、面倒だ)


「おにーさんっ」

「ん?」


 アレフは道の横の路地から誰かに声をかけられた。アレフがそちらを見ると、少し茶色がかった金色の髪を短く整え、その上にツバの短い帽子をかぶっている人懐っこそうな顔をした背の低い人物が立っていた。


「さっきの、見てたよ。凄かったね」

「そうか。俺は急いでるんだ、またな」


 そう言って、アレフは進もうとするが、慌ててそれをその人は引き止める。


「わわわ。ちょっと待ってよ。迷彩のリンカを探してるんでしょ? さっき言ってたもんね」

「何か知ってるのか」

「ふふん、何を隠そうこの僕が迷彩のリンカさ!」


 そう言って、自称リンカは胸を張る。特に隆起していないその胸を見てアレフは素直に疑問に思ったことを訊く。


「リンカは女と聞いたが」

「あーっ、胸を見て僕を男だと判断したでしょ! 失礼だなぁ。僕はれっきとした女だよ! なんなら裸を見るかい?」

「いや、それはいい。しかし貴様が迷彩のリンカか。思ってた人物と違うな」


 アレフはてっきりリンカはもっと暗い人物だと思っていたのだ。情報を扱う人物は闇の情報も扱う為に冷静で冷徹であることが多いからだ。

 しかし目の前にいるのはどう見ても看板娘でもやってそうな笑顔が眩しい少女だ。


「ほら、これが僕のライセンスカード。ちゃんとリンカって書いてあるでしょ」


 そう言って彼女が渡してきたカードには確かにリンカ=ダブルストラと書かれていた。


「ふむ、なるほど確かに貴様がリンカで合っているようだな」

「でしょう? じゃ、確認できたとこで行こっかー」

「む、どこに連れていく気だ?」

「僕が今泊まらせて貰ってるとこさ」


 そう言って彼女はアレフを引っ張りつつある場所へと連れて行った。


(ふん、まさかこの俺がこんな場所に訪れるようになるとはな)


 美しくそして壮大なその白い城は、この国を治めている王が住まう家を表すものとして十分だった。


「ここが王宮さ」

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