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リロード〜二度目の魔王は世界を巡る〜  作者: ハヤブサ
魔王と勇者〜二章『醒めない夢』〜
11/80

【魔王、夢を見る】

 

 魔物が押し寄せてきたと、駆け込んできた男は言った。

 すぐさまアレフは外へと出る。そこには何かが燃えるような音と、少し奥の空が火で明るくなっているのが見えた。


「本当に襲撃されているな」

「や、やばいじゃない」

「とりあえず、行くか」


 アレフたちは襲撃を受けている方へと向かった。とはいえ、魔物からの攻撃はどんどんその範囲を広げ、移動している間にも辺りが破壊されていく。


 アレフたちがたどり着いた先には、果たして魔物たちがいた。空を飛び、炎の槍を辺りへ投擲する魔物。地上を歩き、問答無用で辺りを破壊していく魔物。

 それは無慈悲の襲撃だった。


「お、人間はっけーん」


 魔物の一体がアレフたちに気づきおもむろに襲いかかってくる。それに対してクレアは念のため持ってきていた杖を構えた。


「くっ。火属性、位階中。レッドスピア」

「んっ? あり?」


 クレアが唱えた魔法により、杖の先端から炎の槍が発射され、魔物の心臓を貫いた。

 魔物は少しの間の後自分がやられたことに気づき、倒れた。


「何よ、この魔物の数。異常だわ。しかも一体一体がグリズリークラスはあるわよ」

「……ふむ」


(確かにな。明らかにこんな片田舎の町を攻め落とすのに使う戦力じゃない。なんだこれは)


 二人とも疑問に思っていた。しかしその間にも町の崩壊は進んでいく。もはや二人が泊まっていた宿屋の方も火の手が上がっていた。


 アレフは魔物たちの行動を観察していた。彼らの【目的】が何かを見極めるためだ。

 すると、彼らにはやはり何か探し物があるようだった。壊した家を一軒一軒見ては何かを探している。


(この町には何かあるのか?)


「危ないっ!」

「ん?」


 アレフが考え事をしていると、クレアが突然走り出し、落下してくる火にまみれた家の残骸から子供をかかえた女性を助けていた。

 どうやら運良く魔物の襲撃から逃れたようだが、逃げられなくなっていたらしい。しかし助けたことによって、残骸が邪魔をしてアレフとクレアは分断されてしまった。


「アタシは別方向からこの人を町の外へ逃すわ! あんたもすぐに町の外へ出なさい! そこで落ち合いましょう」

「わかった」


 そう言ってアレフが向かったのは、町の外とは真逆の方向だった。

 アレフは魔物が進行している方向に、彼らの目的があると考えたのだ。襲ってくる魔物は一撃で葬りさり、魔物が目指す場所へと歩いていくアレフ。するとそこは町の中心、時計台の下だった。


 魔物が時計台を囲むようにして何かを見ている。アレフがつられて陰から覗き込むと、そこには、一人の老人と魔人が時計台の下で話し合う姿があった。


 そしてアレフはその姿に見覚えがあった。老人の方は時計台の作者であるボフォイである。その事はそこまで驚きに値しない。

 だが、問題なのはもう一人の魔人の方だった。


(あいつは……ギルレイド?)


 ギルレイド=テンタルウィン。魔族の中でも相当の実力者であり、何を隠そう彼は【四大帝】の一人である。

 漆黒の長い髪。薄黒い肌。そして見るもの全てを虜にするような絶世の美男子であるギルレイドは、アレフの右腕的存在だった。


(なぜ、あいつがこんなところに。さて、どうする。顔を出してみるか? いや、いやいやいや、今顔を出したら俺の普通な旅は終わりを迎える。やはりここは静観か)


 ギルレイドの目的がよくわからないアレフはそのまま二人の様子を伺った。


「せめて声は聞かんとな。闇属性、位階中。ボイスバット」


 アレフが魔法を唱えると、親指サイズの小さなコウモリが現れた。アレフはコウモリの頭から生えているツノをむしとり、コウモリに命令を与える。するとパタパタと飛んでいき、二人の頭上で止まった。


 アレフはむしとったツノを耳に当てる。するとそこからは、コウモリが聞いている音がそのまま流れてきた。


「――さぁ、渡しなさい。あなたが持っているという事は分かっているのです」

「もうこの会話も聞き飽きた。何万回聞いたことか。そんなものはない、町中探したのだろう」


(ギルレイドは何かを探している? ボフォイがそれを持っているのか)


 ギルレイドはむき出しの剣をボフォイの首筋にぴったりとつけた。


「いいや、あるはずだ。あなたは隠している。時を遡れるという宝具を!」


(時を遡れる宝具だと? そんなものがあったら歴史が覆るぞ)


「そんなものはない。町をこんなにしおって」

「あなたがすんなりと話し合いに出ればこうはならなかった」

「いいや。お前らは私がすぐに話し合いに出た時でも町中焼き尽くしていたよ」


 ボフォイはどこか、確たる自身があるようなそぶりを見せた。


「何を……。とにかくあなたは意地でも認める気はないようだ。ならば死んでもらう他はない」

「ふん、好きにせい。この子が死んだ時点で、この時間にもう用はない」

 

(この子?)


 アレフが疑問に思い、ボフォイの周りを見渡す。すると、ボフォイ近くの時計台に寄りかかるようにしてぐったりしている女の子がいた。胸のあたりには火の槍が刺さっている。


(あの様子だと、生きてはいないな)


 ボフォイは女の子を見ながら、どこか諦めたような表情を浮かべた。ボフォイの首が、ギルレイドの剣によって胴体から離れたのはそのすぐ後のことである。

 そして、ボフォイが死んだ、その瞬間だった。


 ――ごぉん、ごぉん。


「鐘?」


 辺りにこの惨状には場違いな鐘の音が鳴り響いた。全てのものが時計台に目を注ぐ。それはアレフも例外ではなかった。


 ふと、アレフが時計の針をみると、特にキリのいい数字ではなかった。そして驚くべきはそんなところではなかったのだ。


(針が、逆方向に回転している……? なんだ? 頭が……)


 針が凄まじい速度で逆方向に時を刻んでいた。そして、それと共にアレフの頭は凄まじい頭痛に襲われた。


「ぐっ。遮断サイレンス


 咄嗟に、自分の頭へ魔法などへの対防御壁を張ったアレフだったが、それでも意識は遠のいていった。


 ♦︎


「ちょっともう、いつまで寝てんのよ!」


 チュンチュンと小鳥がさえずる朝。

 クレアに叩き起こされ、目を覚ますアレフ。アレフはそのまま目をパチクリさせると、自身の頭を何回か叩いた。


「あんた朝から何やってんの? だいたいねー何勝手にベッドで熟睡してんのよ。まぁそういうアタシもベッドで寝てたんだけど。勘違いしないでよね! 別にあんたと一緒に寝たいと思ったわけじゃないんだから! ていうかアタシいつの間に寝たんだっけ?」


 クレアの怒涛の独り言も、アレフは聞き流していた。


(どういう事だ? ここは……宿屋だ。さっきのあれは……いったい。夢か?)


 アレフは頭の中で色々と考えたが、よくわからずクレアの方へと向き直った。


「おい、昨日の夜って何かなかったか?」

「な、何かってなによ? あ、あんたまさか寝てるアタシになんかしたの!?」


(なに言ってんだこいつ……)


「昨日って魔物の襲撃とかあったか?」

「えっ? そんなの聞いてないけど……」


 心底クレアの言っている意味がわからないアレフだったが、とりあえずクレアは昨日の魔物襲撃の件などまるで覚えていないようだった。


(まさかあれが全部夢だってのか? それは正直恥ずかしいな)


 何か釈然としないアレフだったが、とりあえずクレアに促され服を着替えた。


「さ、とりあえずボフォイさんと話せるようにならなきゃ。けどどうしよう」

「とりあえず外に出るぞ」


 そう決意し、アレフは宿の受付の老婆へと話しかけ、チェックアウトをしようとする。

 しかし老婆はアレフたちの顔を見て疑問を浮かべる。


「あり? あんたたちなんか泊めてましたっけ?」

「ちょっとー、アタシの顔忘れたの? 昨日言い争ったじゃない」


 クレアは不満そうな顔をしているが、老婆は全く記憶にございませんとのことだった。


「要領得ないわね、まぁいいわ。とりあえずアタシたちはもう宿出るから」


 そう言ってアレフたちは宿の外へと出た。

 そしてアレフは町を見渡す。しかし昨日明らかに破壊されていた場所もなんの痕跡もなく、皆平和そうな表情だった。


 アレフはとりあえず時計台に向かう事にした。やはり時計台には今日も多くの人が訪れている。


「なんかこの時計台ってやけに惹きつけられるのよねえ」

「時計台……」


(あの夢でも時計台は確か……)


「あなたも時計台を見に来たの?」


 アレフたちが時計台を見上げていると小さな女の子がクレアに話しかけて来た。

 ちょうどクレアと同じくらいの身長だ。


「あらなぁに? ガキンチョ。アタシに用かしら?」


 ない胸を張り、小さな子供に対してマウントを取るクレア。


(どっちがガキなんだか)


 呆れるアレフだったが、彼はその謎の少女にどこか既視感を覚えていた。


「あなたも子供でしょー」

「違うわよ! アタシはオ、ト、ナ!」

「そんな大きな杖持って、勇者ごっこでもしてるの?」

「ごっこじゃないわよーっ! プロ勇者!」

「おい、おいクレア。落ち着け」


 アレフは今にも掴みかかりそうなクレアを止めた。クレアはふーっふーっと鼻息を荒くしているが少しずつ落ち着いて来たようだ。


「で? 何の用なの、この子は」

「あの時計台がさー、なんで【ウロボロスの時計台】って名前か知ってるー?」

「何よ急に。知らないわよ、意味なんてあるの?」

「ウロボロス。蛇が蛇の尾を噛む様子が、始まりも終わりもない完全を表している、だったか」

「そうだよ。おにーさん、よく知ってるねー」

「まぁ知り合いにその手の神話が好きな奴がいたからな」


 そう言って何かを懐かしむように笑うアレフ。彼が言う知り合いはもちろん魔王時代の話である。


「この時計台はね。それを表してるんだってー。お爺ちゃんが言ってた」

「お爺ちゃん?」

「うん。私のお爺ちゃんがこの時計台作ったんだー」


 そう言って、少女は時計台を指差す。


(この子の祖父はボフォイ……!)


 瞬間、アレフは思い出した。思い出してしまった。時計台の下に血だらけでもたれかかる少女。胸に突き刺さった火の槍。


(あれは……間違いなくこの子だ……!)

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