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一文字タイトル・1,000文字小説シリーズ

作者: 日下部良介

 今年も雨の予報だった。

「雪よりはマシよ。それに午後には止むでしょう」

 早朝の美容室で着付けをしてもらっている晴美が言った。

「あなたって本当に雨女なのね」

 付き添っている母親の明子がクスッと笑う。

「違うよ。本当の雨女はママなのよ」

 娘の反論に明子は頷く。確かにそうなのかもしれない…。




 その日も雨だった。明子は予定日より早くに産気づいた。夫の俊夫はかかりつけの産婦人科医に電話を入れると、明子を車に乗せて産婦人科医へ急いだ。初産だということもありかなり時間がかかった。無事出産を終えて病室に移された明子が窓の外を眺めると、雨は上がり、朝の柔らかな日差しが差し込んでいた。

「子供の名前なんだけど…」

「いい名前を思いついたのかい?」

「晴美はどうかしら?」

 俊夫は笑みを浮かべて頷いた。


 幼稚園の親子遠足の日。雨の予報に晴美はてるてる坊主をいくつも作って軒先にぶら下げた。けれど、予報は覆らなかった。

 小学校に入って最初の運動会。雨で延期になった。

 中学の卒業式も雨だった。高校の入学式も雨だった。

「二人は本当に雨女だな」

 事あるごとに雨に降られる妻と娘に俊夫が冗談交じりにそう言った。実際、俊夫が出席した小学校、中学校の入学式や高校の卒業式は晴天だった。今まで作ったてるてる坊主の数はどれくらいだったろうか。




 着付けが終わると同時に俊夫が車で迎えに来た。成人式の会場に晴美を送って行くためだ。美容室の軒先で親子三人記念撮影をした。

 成人式の会場に着くと、既に雨は上がっていて、うっすらと日差しがさして来ていた。俊夫はそんな空を見上げて呟いた。

「おっ、雨上がったみたいだな」

「ほらね。雨女は私じゃないのよ」

 晴美がにっこり笑って車を降りる。何人かの友達が晴美を見つけて手を振った。晴美もそれに応えて手を振った

「でもね。私、雨って嫌いじゃないよ。親子遠足も運動会も入学式も卒業式も雨だったけれど、いつもママが一緒に居てくれたから。じゃあ、行って来るね」

 そう言って友達の方へ駈け出す晴美を明子と俊夫は見送った。

「雨、上がって良かったな」

 俊夫が言う。

「やっぱり、雨女は私なのね…」

 明子がそう言って苦笑する。

「そんなことはないさ。晴美だって言っていただろう? どんなに天気が悪くても君が居てくれたから僕の人生はずっと晴天だったんだ。そして、それはこれからも変わらない」

「あなた…」

「さてと…。久しぶりに二人で何か美味いものでも食いに行こう!」





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― 新着の感想 ―
[一言] ふらっと立ち寄ったら、素敵な短編発見☆ 仲良しの幸せ家族に心が温まりました。 ありがとうございます(^^)
[一言] いい夫! 見習いたいです・・・。 自分も極度の雨男なので嫁子供にそう思われるよう努力せねばです。
[一言] 雨女によいイメージがない。そのような書き出しで始まる。 一般的に雨は嫌われます。服は濡れてしまうし、泥水が跳ねる。 そういう鬱蒼とした雰囲気を、雨が止んだように最後にはきちんと落ち着けていま…
2017/01/10 20:48 退会済み
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