ある殺人鬼の話
何年か前に書いたもので何で書いたのかさっぱりわからないし、なんの意味があるのかもわからないオチもひねりもない作品です。
主人公が頭の悪い狂人で普通に人を殺していって、それが歴史に残ったらどんなのかなあみたいに考えてたのかもしれない。それくらいその時の自分の状態がわからない作品です。
つまらない。
僕、木内拓人はいつも思っていた。
学業も運動もそこそここなせていたが、僕にはどうしてもそれに満足することができなかった。
いや、何をしても満足することがない。
満たされない。
熱中して何かに取り組むことができないんだ。
この16年余りの人生で一度もそれに出会ったことはない。
それでも時は過ぎていくから、僕はみんなと同じように生活をして行くのだろう。
僕はそれに抗える力はないのだ。
そうあの日までは思っていた。
いつものように授業を終えて学校から帰る。
一緒に帰る友達はいない。
部活にでも入れば違ったかもしれないが、僕は何をしても充実感を味わえないからそんな時間は苦痛だ。
なので僕はすぐに家に帰る。
家に帰ったところで何もしないが、何かしている時よりも苦痛はなくなる。
そうして学校から一目散に家まで帰っていた。
ここ最近、付近では通り魔事件があって犯人がまだ捕まっていないことから
道路の人通りは少ない。
僕はその中を一人で歩いていた。
僕の家までは徒歩でだいたい20分。
その日はたまたま見たいアニメがあったから早く帰ろうとして道をショートカットしようとした。
それがいけなかった。
僕が路地に入ると何か寒気のようなものを感じた。
なんだかいつもの様子と違うような気がしていた。
僕はその異様な雰囲気の道を奇妙に思いながらも、前に進んでいった。
「・・・っ・・・ぁ。」
「ん?」
通りの奥のほうからなにか聞こえる。
はっきりと聞こえたわけじゃないけど、うめき声のように聞こえる。
僕はその音源の方に引き寄せられるように向かっていった。
最初それを見た時、何かわからなかった。
赤いペンキが道の真ん中でぶちまけられているんだなとのんきに考えていた。
不意にその中に変な物体があるのに気づいた。
マネキンのような形。
なんなんだろうと思い、視線を上げていく。
そしてそのマネキンの顔を見た時、僕は固まった。
今の今までマネキンだと思っていたのは人間だった。
「ひっ!?」
短い悲鳴のような声が出る。
僕はようやく気づく。
ここにあるのは大量の血を流した人間の死体。
ついさっき死んだかのように見える。
どうやら最近の通り魔事件の新しい被害者なのだろう。
僕はその凄惨な死体を観察していたが、直ぐに自分のやるべきことを思い出す。
警察に電話しなきゃ。
そうだ。
なぜこんな基本的な事に気づかなかったのだろう。
僕はポケットから携帯を取り出そうとして
「動くなっ!」
鋭い声がして、その動作を止めた。
なぜ気づかなかったのか。
死体の近くには返り血を浴びて真っ赤になった男が大ぶりのナイフを構えて、僕を睨んでいる。
男は僕にナイフの切っ先を突きつけたまま、微動だにしない。
僕は男の目を見る。
血走った狂気をはらんだ目。
こりゃ駄目だ。
僕は目をあわせてわかった。
この男と話し合いで事を収めることは無理だと。
じゃあどうすればいいのかなんて、この状況に混乱した僕にわかるわけがない。
僕はさっき男が言ったとおりにポケットから携帯を取ろうとしたまま、固まった。
これ以上この男を刺激してはダメだと思った。
動くわけには行かない。
そうして男と僕の間に沈黙が落ちる。
僕にとっては人生で一番長く感じた時間。
でもなぜか僕はその時間に胸が熱くなっていた。
そう僕はこの状況に興奮していた。
熱狂していた。
感じたことのない感情。
僕はその感情を不思議に思いながらも、男から目をそらさない。
男はやはり不動のままだった。
動かなくなってどのくらい経つのだろう?
この硬直した状態はまだ続いていた。
僕も男も次の手を打てずにいる。
僕はこの状況に苦痛よりも楽しさを感じていたから、今まで動かないでいるが男の方はそうも行かないだろう。
こうして時間が経てば経つほどこの場所に第三者が現れて、通報されてしまう可能性が高くなる。
それなのに、ひょろい僕をナイフで殺すのをためらっている。
なぜなんだろう?
僕が不思議に思っているとようやく男が動き出す。
ナイフを構えて僕の方に突進。
その速度は僕の目では捉えられていたが、肉体の方では満足な反応が取れなかった。
そりゃそうだ、喧嘩はもちろん武道の心得なんかないんだから。
なので、僕はすぐ相手に背を向けて逃げることにした。
そして後悔した。
僕は決して体力が低いやつじゃないけど、通り魔として日々活動している男のほうが体力が多かった。
「はぁはぁはぁっ!」
息も荒く走る。
背中の気配はなくならない。
しかもまずいことに僕の逃げた先は行き止まりだった。
逃げることに必死になりすぎて、考えなしに進んだ結果だった。
僕は後ろを振り返る。
男がナイフを構え、僕と10メートル位の距離で止まる。
ここで男は僕を仕留める気らしい。
「ははっ」
急に乾いた笑いが出る。
脳内はこの状況を楽しんでいるらしい。
自分はこのあとすぐにでも死にそうなのにその恐怖が全然来ない。
むしろワクワクしている。
僕は顔がにやけてきた。
男は僕のそんな様子を気にせずに距離を詰める。
一歩。
二歩。
三歩目を踏んだ瞬間、男は駆け出す。
僕は相変わらず笑みを浮かべたまま。
そして男のナイフが僕の首めがけて、突き出される。
それを僕はゆっくりとなった世界で見ていた。
ゆっくり。
ゆっくりと。
ナイフが僕に近づく。
僕は自分の死期が近づいていることに気づきながらもやはり笑みを浮かべていた。
不意に僕は気づいた。
ナイフが自分にあたってないことに。
いやそれどころか、僕の前で止まっている?
僕は不思議に思いながらも、自然とそのナイフを手に取る。
案外簡単に男からナイフを奪う。
その間男は動かない。
いや、動いているがとてもスローモーションだった。
僕はこの不思議な空間で奪ったナイフを持ち、
男にそのナイフを突き立てた。
「ごふっ」
そして奇妙な時間は始まった時と同じく唐突に終わった。
男の首にはナイフが突き刺さっている。
多分男は死ぬだろう。
ナイフが首に刺さって生きていることなどありえないし。
少しの間男は首に刺さったナイフを抜こうともがいていたが、不意に地面に崩れ落ちた。
近づいて見ると目から輝きが失っている。
死んだのだ。
「ふふっ」
僕の口から含み笑いが漏れる。
なんとも爽快だ。
とても充実している。
なんだ僕の長年の悩みはこんな事で解決できるんだ。
「さてと通り魔さん。今日からあなたの仕事は僕が引き継ぎます。
だってこんなに楽しいことあなた一人にやらせる訳にはいかないから。」
僕はナイフを指で柄の部分を起点にしてくるくる回す。
その時から僕の人生は決まった。
人殺し。殺人鬼の人生に。
「くふふっ。これで8人目~」
僕は次の日から通り魔を始めた。
対象は無差別。
腰を曲げた老婆から僕と同じ学生まで幅広い年代層で。
でも僕は捕まらない。
あの日通り魔を殺した時に僕は変な能力を得た。
その能力は僕の認識を世界に押し付けること。
とんでもないよね。
あの時はただ時間の流れを遅くするだけだと思っていたんだけどそうじゃない。
僕が認識した世界がその世界の法則になる。
僕を認識できない世界だと定めれば、僕は絶対に見つけられない。
いわゆる透明人間になれるってわけ。
他にも色々とできるけど、今のところこれだけかな。
僕の趣味である殺人をするにはこれは非常に使える。
真正面から刺しても相手は抵抗もできず死ぬ。
目の前に僕がいるのにね。
そうして8人ほど殺した。
最初の二人は時間を遅くしてだけど。
今じゃこのほうがいいよ。
遅くなった時間の中だともがき苦しむ様子が観察できないからね。
「さてと今日の日課はこれで終わりっと。
家に帰って宿題でもやらないといけないな~。」
僕は足取りも軽く、帰宅した。
「ねえ、聞いた例の通り魔事件。」
「聞いた聞いたまだ捕まってないんだって。」
「しかも事件が起こっているのって今までと違って昼間とかなんだって。」
「そうそう。でも犯人が何でか捕まんないんだよね。」
「ホント不思議だよね。」
クラスの女子が通り魔事件について話すのを何気なく聞く。
こうして聞く限り僕が目撃されたとかっていう情報はないらしい。
まあ当然だよね。
この僕の認識を押し付ける能力は最強だ。
僕が認識できないとしている間は何をしようとも感知できない。
そのおかげで殺し放題だ。
僕は机でお気に入りのラノベを読みながらニヤける。
ああそうそう能力は学校でも使っているよ。
認識できないだと困るから、僕が何をしようが気にならないとしたけど。
そのせいで授業中にラノベを読んだり、お菓子を食べたりしていても先生は注意してこない。
周りもそれが当たり前のこととして処理する。
いやあ最高だよ。
この前までは話を合わせなきゃいけないクラスメイトと話していなきゃいけなかったからね。
クラスで孤立しちゃうと色々と面倒なんだ。
だから、趣味の読書をして時間を潰せなかったんだよね。
今からはそんな煩わしい人間関係に苦労することもない。
高校を卒業したら、悠々自適に殺人三昧さ。
ああ、生活はどうするかって?
そんなのこの能力を使って食べ物を盗めばいいのさ。
寝床も人んちに勝手に侵入すればいいしね。
これが勝ち組ってやつだよね。
将来になんにも不安なんてないんだから。
さてと残り一年とちょっと頑張ってみますかっ!
そしてあれよあれよという間に季節は過ぎていき、僕は高校を卒業した。
この時点で殺害した数は三桁を超えている。
一日一殺を心がけていた僕は4ヶ月目で百人を殺した。
その前から騒がれていたけど、マスコミが百人目の被害者が出たと報じたときはすごかったなあ。
被害が十人を超えた時もマスコミは警察を締めあげたけど、百人にもなるとすごかった。
周りには何かの市民団体もいて、会見場は怒号がうずを巻いていた。
警察の方は幹部から警視総監まで全員並んで、平身低頭して謝っていたけど。
それからも被害者も出続けて、今じゃこの辺一帯に住人は激減した。
被害者はここでしか出てないからね。
僕の高校でも何十人もやめていき、3年生になるときに学校がここから移されることになった。
まあ仕方ないよね、ここらに史上最悪の殺人鬼がいてまだ捕まっていないんだから。
そうしてとなり町に移ってからも僕は殺しを続けた。
場所は前の場所と変わりない。
移動した先でも起こしたら、もっと面倒になるからね。
少しは自重したんだよ。
そうして僕は高校を卒業した。
長いようで短い期間だった。
僕は卒業証書を受け取ると一人会場から出ていく。
能力は使っているから誰も見向きもしない。
さて、これからは夢の生活だ。
殺して殺して殺しまくるぞっ!
ぐっと拳を握り、天に向かい決意する。
無差別虐殺事件被害件数28184人。
対象が無差別で犯行は1日1回というところしか分かっておらず、場所も特定して警邏も密にしているのになぜか犯行は行われた。
時には警備中の警官の目の前で行われることもあった。
78年続いたこの事件はある日パッタリと止み、その犯行があまりにも常軌を逸していたため悪魔などのオカルトを相手にしているかのように取り上げられることが多かった。