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レイスの王  作者: 星崎崑・桂かすが・みかみてれん・理不尽な孫の手・鼠色猫・わい・赤巻たると・ピチ&メル
6/18

このチキンレースはいつまで続くのか……

リレー小説1周目6人目

 安らぎの木で一晩過ごす事になったケイたちだったが、先程までの騒ぎは落ち着き静かな物だった。

 泣くのを我慢するシャルロットを、手当てをしながら堪能したケイは今では横になっている。

 限界だったのか、シャルロットも治療が終わると倒れるように寝込んでしまった。最後の方でまたも下着を濡らした事は、口に出していない。

 シャルロットもバレていないと思って安心している様子だったが、ケイはその様子すら楽しんでいた。


 加虐心を煽られたケイだが、それよりも酷く眠い。いや、酷く(ダル)かった。

 思考は出来るのに、体が思う様に動かない。

 この感覚を言い表すのに相応しい言葉を、ケイは思い出していた。


「なんか気持ち悪い……二日酔いみたいだ」


 まるで二日酔いや酒の飲み過ぎのような気分だったが、今のケイには胃の中から出せる物などなかった。

 興奮していたせいか、落ち着くとこの気持ち悪さが非常に厄介である。今までにない感覚に、ケイは無理やり眠る事にする。

 幸いな事に、安らぎの木にはイブリースと呼ばれる悪魔のような存在は襲ってこないようだ。


 安心して眠れると思い込み、ケイは深い眠りにつくのだった。


 △▼△▼△▼△


(苦しい……来ないでくれ!)


 何も見えない暗闇で、ケイは必死に腕を振っていた。

 襲い掛かるのは、ネズミや襲ってきた悪魔たち。


 振り払うが、彼らには肉体が無いのか平気ですり抜ける。そして、ネズミは簡単にケイの体に吸い込まれるように消えていく。


 だが、悪魔は違う。


 まるでケイの体に入りきらないのに、無理をしてでも入ろうとしていた。そんな姿を、一人の少年が見ている。


(イブリース……それも上位種だね)

(お前、誰だ? 何でもいいから助けてくれ!)


 すがる様に伸ばしたケイの手を、少年は掴もうと手を伸ばす。少年はモニカよりも幼い印象を受ける。


 そして、満足に食事が出来ていないのか、服から出ている手足は細く脆そうだった。


(ゴメンね。僕はもう諦めたから手を出せないんだ)


 伸ばした手を掴もうとした少年は、思い出したように呟くとその手を引いてしまった。ケイは、この状況に叫んでしまう。


(何だよ! イブリースとか、何なんだよ!)


 少年の顔は闇に覆われて見る事は出来ないが、口元だけは見えていた。


(イブリースは……天敵? 僕たちレイスの敵ではないけど、他の種族には天敵になるね。でも、本当の敵はイーグルだよ。エルモアを名乗る彼らを、絶対に信じちゃ駄目だ)


 ケイは、出会ったシャルロットとモニカを思い出す。紫電を操るシャルロットによって、酷い目に会っている。

 だが、モニカは? 彼女は純粋だった。

 シャルロットも妹を心配する姿は好感が持てたし、ケイにはとても敵には見えない。


(エルモアってなんだよ。イーグルって何なんだよ! シャルロットやモニカが敵だっていうのか!)


 少年の口元が困ったような形になると、不意に少年の感情が伝わってくる。まるで困ったような、それでいて嬉しいような……複雑な感情だった。


(『鷲の雷槌』を操る一族。それがイーグルであり、レイスを支配した侵略者さ。最も、こんな事実は今では残っていないんだけどね)


 ケイは、薄々と感付き始める。少年の着ている粗末な服が、自分が着ている物と同じであると言う事。

そして、少年の感情が流れ込んでくるというよりも、体からまるで溢れているような感覚だという事だ。


(お前……イオン、か?)

(お兄さんは鋭いね。そうだよ……僕がイオンだよ。レイスのイオン。そして、レイスの王の血族にして、最後の生き残り)

(最後? おい、最後って……)


 ケイが伸ばそうとした手は、今まで大人しかった悪魔によって邪魔される。急に活性化すると、無理やりケイの中に溶ける様に消えて行った。


(なんだよ、コレ!)

(お兄さんが無理に吸収するからさ。イブリースの生命力は強いのに、いきなり吸い込んだりするから。数日は苦しむと思うよ)

(くそ~)


 悔しがるケイは、ゲームのようにはいかない事を実感していた。

 現実はそんなに甘くないといった所だろう。しかし、イオンから残念な知らせが入る。


(もう僕は消えるけど、お兄さんは僕の体に魂が定着しちゃった。だからお兄さんはこの世界で生きなくちゃならない)

(ッ! そうだよ。どうしてこんな事に!)

(僕にも分からないよ。本当は、一人で静かに死にたかったんだけどね)


 悲しそうな感情を理解したケイは、口を閉じてしまう。


(お兄さんは最後のレイスの王族になったんだ。でも、これってレイスには都合が良かったのかもしれないね)

(都合がいい?)

(だって、お兄さんは鷲の雷槌が利かないから)

(いや、結構苦しんだんだけど?)

(うん、でも……お兄さんは逆らえているでしょ? それが理由だよ)


 イオンの言葉に、ケイはシャルロットの紫電を思い出す。あの時に感じた感情は、何かに抵抗していたのではないか、今ではそう思えてならない。


(イーグルはね、かつてはレイスの庇護を受けた一族さ。鷲の雷槌は、ただの攻撃じゃないよ。イブリースやレイスにとって屈辱的な従属の魔法。そして僕たちレイスは全ての一族から蔑まれる身になったんだ。古い……とても古い話だけどね)

(じゃあ、一生を奴隷として蔑まれて生きろって言うのかよ!)


 ケイが叫ぶと、イオンは段々と薄れていく。

 レイスとなったケイには理解できた。これは、イオンの魂が消えると言う事を。

 赤い光点が青い光を捕食した時のように、イオンの光は薄れていた。


(僕が消えれば、お兄さんに鷲の雷槌は効果を発揮しない。アレはレイスの魂に刻まれた契約だからね)

(お前、俺に押し付けて、勝手じゃないか……)

(ゴメンね。本当は色々と教えたいんだけど、僕にはもう時間が無い。きっと、後は僕の体に流れる血がお兄さんを導くよ)


 血が導くと言った時のイオンは、とても悲しい顔をしていた。


(俺にどうしろって言うんだよ)


 落ち込むケイに、イオンは無理やり笑顔になる。


(ゴメンね。でも、僕は嬉しかったよ。お兄さんが、イーグルの姉妹を敵だと言わなくて。きっとお兄さんなら……でき……)


 最後の言葉を聞き取れなかったケイは、そこで体を揺すられて目を覚ます。


 △▼△▼△▼△


「お兄ちゃん……レイスのお兄ちゃん!」


 揺すられた事で、ケイは強制的に目を覚ました。

 モニカはケイの顔を覗き込み、心配そうな顔をしている。

 目には、薄らと涙が溜まっていた。


「……イオンは?」

「イオン? それはお兄ちゃんの名前?」

「いや……そうだよ。俺はイオンだ。レイスのイオンだ」


 自分に言い聞かせるように呟いたケイは、注意深くモニカを観察した。

 自分にとって厄介である紫電を操ったシャルロットは、妹を守るために気を這って疲れていたのか、未だに眠っている。

 レイスやイーグルなど関係なしに見れば、妹思いのいい姉であろう。


 二日酔いにも似た感覚で、思考は酷く鈍い。

 頭痛、吐き気がケイを襲う中で、モニカはずっとケイを見つめていた。


「どうかした?」

「う~ん、お兄ちゃんが昨日より大きく見える」

「え?」


 モニカの不思議そうな顔を見て、ケイは自分の体を触り始める。

 そこには、昨日と同じ姿の自分ではない少年の姿があった。

 肉が削げ落ちたような手足は、血色がよくなり子供らしく柔らかそうな肉がついている。


 それだけではない。

 気分が悪いだけで、体は妙に軽い。

 気分が高揚した時と比べれば劣るが、この世界で目を覚ました時と比べれば違いは明らかだ。


 背丈が伸びた訳でなく、イオンの体が十分に栄養を吸収した姿だった。

 ただ、モニカの反応はそれだけではない。


「ねぇ、お兄ちゃんは本当にレイスなの?」

「……あぁ、レイスだよ」


 ケイは、目の前の少女がとても自分の敵には見えなかった。

 イオンも、敵でないと言ったケイの発言を喜んでいた。

 イオンとの会話は有益だったが、同時にケイを混乱させている。

 姉と違い、天使のような妹のモニカも敵なのだろうか……。ケイはどうしても身構えてしまった。


 すると、モニカは幼い子供らしい笑顔を向けると、お礼を述べる。


「昨日は本当にありがとうございました」


 明るい笑顔でお礼を言われたケイは、不思議と身構えていたのが馬鹿らしくなる。

 イーグルの力か、それともモニカの純粋な心か……ケイは、頷いて応えるだけだった。


 △▼△▼△▼△


「モニカ、何でお姉ちゃんを先に起こさなかったの!」


 日が昇り、安らぎの木を後にしたケイたち三人は、昨夜追い返された門を目指していた。

 少々、日が昇り過ぎたのは、昨日の夜の事を考えると仕方がないのかも知れない。


 シャルロットは、先に起きたモニカがうなされていたケイを起こした事が気に入らない。

 レイスなんか信じてはいけないと、起きてから繰り返している。

 地味に堪えているようだ。


「はいはい、それよりもこれからどうするんだ?」


「レイスには関係ないわよ!」


 半ば八つ当たり気味のシャルロットを、ケイは昨日とは違い余裕を持って対応している。

 多少気分が悪いだけで、体には力がみなぎっている。

 モニカを背負いながら歩いても、全く疲れない。


「お姉ちゃん……」


 悲しそうな顔をする妹を見て、流石にシャルロットも八つ当たりを止める。


「わ、分かったわよ。レイスは門の所までモニカを背負えば、後は好きにしていいわ。くれぐれも、私たちに関わらないで!」

「そうですね。でも、流石にこの状態で門まではいけないから、俺は適当な所でモニカをおろし――」


 モニカ、そう言葉にしたケイに、シャルロットは厳しく睨みつけた。紫電がその腕にまとわりついており、モニカがいなければケイに紫電を浴びせていただろう。


(試したかったけど、今はいいか)


 気分が悪いのに、わざわざ紫電を浴びる事はないと思いケイは無言になる。

 門までついて行き、シャルロットが困ろうが関係ないと割り切る事にした。


 だが、門の近くまでたどり着くと、旅人には見えない一団が門衛と話しているのを見かける。

 彼らはまるで何かを調査しているようで、門衛に問い詰めている様子が見えた。


 イオンの体は優秀なのか、非常に目が良い。ケイも驚くほどに鮮明に見える視界で、門を見るのだった。

 面倒事なら嫌だと思いつつも、好奇心から気になっている。


 好奇心から見た光景は、昨日の惨劇を思い起こさせた。

 一団の中で、一人の男が手にしているのは昨日のペンダントだ。

 激しく門衛に問い詰め、門衛たちはオドオドとしているだけだった。


 血の付いたペンダントを門衛に突き付け、男の怒声が聞こえてくる。


『答えろ! 昨日、本当に何もなかったのか! 血の跡がこの門まで続いているのに、昨夜は門を開けなかった理由を!』


 ケイは思い出す。

 昨日の夜に消えた、青い光の事を――

 追われた悪魔が捕食した青い光、そして二人と共に移動していた人物。


(不味い)

「なぁ、何かあったみたいだから、門には後で――」


 だが、少し遅かった。

 ケイの背にいるモニカには理解できていないが、姉であるシャルロットには全てが理解できていた。


 目が優秀であるのは、イオンだけではない。

 寧ろ、視力の良し悪しは個人差があるものだ。

 そう、たまたまシャルロットの目が良かっただけである。


「パパ……」


 シャルロットの頬を、一筋の涙が伝う。



執筆者:わい

一言「もっと上位陣が来ると思った? 残念でした! 文章力の無さってリレーでやるとどうしても出てくるね。これが地力の差か……

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追伸 リレー小説ですが、執筆者のみなさん感想をすっごく楽しみにしています。よかったらどしどし好き勝手な事を書いてくれるととっても嬉しいので、安心して書き込みしてくださいね! ……って、物欲しそうな顔でつらたん先生が言ってました。

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