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レイスの王  作者: 星崎崑・桂かすが・みかみてれん・理不尽な孫の手・鼠色猫・わい・赤巻たると・ピチ&メル
5/18

泣き顔には鮮度がある

リレー一周目5人目

 ――破魔大樹、通称『やすらぎの木』に三人が辿り着いたのは、壁伝いに歩き出しておよそ三十分後のことだった。


「やっと、着いた……」


 見上げるほど大きな木を目の前に、小さく肩で息をするシャルロットが呟いた。

 その少し後ろ、モニカを背負っていたケイは大樹の大きさに圧倒されながらも、


「そこまで歩けば、なんて気楽に言ってくれたもんだよ。ずいぶん歩かされたじゃないか」


 ぼやくケイにシャルロットが厳しい目を向けてくるが、こちらに意思を矯正してくる紫電はこない。

 それも当然のことだ。なぜなら、


「レイスのお兄ちゃん、ありがとうございます」


 ケイの背中には、今も足裏をケガして歩けないモニカが背負われているのだから。

 迂闊にケイに電撃を食らわせて、モニカを地面に落されてはたまらない。

 高圧的な上に短気な性格のシャルロットではあるが、妹を思う気持ちには偽りはない。

 だからこそ、ケイはシャルロットはともかく、モニカだけはちゃんと手厚く扱おうと思っている。


「いや、気にしないでいいよ。モニカの方こそ、乗り心地が悪くてごめんな」

「ううん、そんなことないよ……ありません」


 言い直す背中の少女が可愛らしくて、ケイは思わず頬を緩めてしまう。

 そんな二人のやり取りを睨むように見るシャルロットだったが、安全な場所へ辿り着けたことへの安堵でその厳しさもいくらか和らいでいるようだった。


 『やすらぎの木』は見上げるほどの大樹であり、幹の太さはちょっとした家屋の坪数に匹敵する。

 その大樹の根元、大地と接する部分にはぽっかりと切り開かれた空間が口を開けており、崖に生じる洞穴のように中に入れるらしい。

 セーブポイント、という先ほどの表現がいかにも適切そうで、中を覗き込んでいるシャルロットが何度か頷く。


「期待はしていなかったけど、やっぱり汚い場所。毛布と火を焚くぐらいはできそうだけど……」

「なんでもいいから、そろそろ中に入ってくれないか? ここで暮らそうってわけじゃないんだ。一晩の仮宿ぐらい、ちょっとは融通利かせてくれよ」

「あ、あなたねえ……」


 顔を赤くしたシャルロットの周囲を、反射的に浮かぶ電気信号。

 彼女の銀髪が淡い紫電を帯び、大気を弾く音を立てて波打ち始める。しかし、ケイはそんな彼女に半身を振り返り、見せつけるように背のモニカを前に出す。

 途端、シャルロットは渋い顔。今のやり取りを聞いていなかったモニカは不思議そうに小首を傾けるだけだ。


「お姉ちゃん?」

「――っ。なんでもない。早く中に入ってその子を降ろして。足のケガ、少しでも綺麗にしてあげなくちゃいけないんだから」


 ばつの悪そうな顔をして、のしのしと中に踏み入っていくシャルロットに続く。

 いくらか、あの高圧的な少女への対処の仕方もわかってきた。この三十分の間、触れ合う距離で交流を深めたモニカを間に挟めば、最初のような乱暴もそうそう働かれまい。


「レイスのお兄ちゃん?」

「ああ、ごめんごめん。ちょっと考え事をしててさ。すぐ行くよ」


 ずり落ちそうになるモニカを揺らして背負い直し、ケイもまた『やすらぎの木』の中へ。入口は低く、体の小さなケイが少し腰を折らなくては通れない高さだった。

 しゃがみ、くぐるようにして中に体を入れる。と、


「――んん?」


 ふいに、真上からスーッと冷たいものが体の中を通り抜けていったような感覚があった。

 水を浴びせられるのとも違う、冷たい風が吹き付けるのとも違う、不可思議な感覚。


 不快でない感覚だったが、言語化しにくいそれを放置しておくのも気持ちが悪い。と、入口で足踏みするケイを見かねて、奥にいったはずのシャルロットが戻ってくる。


「いつまでこんなところにいるの。あなた、自分が誰を背負っているのか、まだわかっていないんじゃないの?」

「……そっちの方こそ、少しはここまでのことで態度を改めてくれてもいいと思うけど」

「なにか言った?」

「別に。ただ、入っていきなりなんか変な感じがしたから戸惑っただけだよ」


 小声のぼやきを聞きつけるシャルロットに内心で舌を出し、ケイは今しがたの違和感を報告する。すると、シャルロットはその美しい銀髪を揺らし、腰に手を当ててケイを見下す視線を放ち、


「破魔の大樹の加護下に入ったんだから、祝福を受けるのは当たり前でしょう? そのおかげでイブリースが入ってこられないのに、いちいち驚かないでよ」

「祝福……ああ、なるほど」


 ぼんやりと、ケイはその『祝福』とやらが、あの悪魔たちを遠ざける効力のある不思議パワーなのだと理解した。RPGなどでおなじみの、敵とのエンカウント率を下げる聖水的な効果を、この『やすらぎの木』は永続的に持っているらしい。


「呆れた。レイスって本当に無知で下賎でどうしようもないのね。都に住んでいるくせに、すぐ近くの破魔大樹のことも知らないなんて」

「悪いけど、こっちは毎日の食事にも苦労する身の上だったんでね。都の外のことなんてとんと気にしたこともなかったんだよ。木の根を齧って生きられるんなら、こいつで何年でも過ごせそうなもんだけど」


 大樹を内側から見上げながら、皮肉を言うケイにシャルロットは軽蔑の視線。

 いい加減、彼女の非友好的な態度にも慣れてきたところだ。

 ケイは背中のモニカがうとうとと、眠そうに頭を揺らしているのに気付いて、


「時間とらせて悪かったよ。奥へ行こう。この子を降ろしてあげたい」

「あ、当たり前でしょ! 早くなさい! いつまでモニカに触れている気!?」

「しー」


 とっさに声を荒げるシャルロットを小声でなだめて、納得いっていない彼女を伴って大樹の中を進む。

 奥、といっても内部はそれほど広いわけではない。

 入口を洞穴のそれと似ていると表現したが、内部もそれと似たようなものだ。


 入口から細い通路を少し進めば、ぽっかりと開けた空間が三人を出迎えた。

 空間の広さは元の世界で、ケイが実家暮らしをしていたときのリビングほどだ。真ん中に団欒用のテーブルを置いたら、あとはそれぞれが寝転ぶスペースを確保できる程度か。


「不思議と、中が明るくて助かるけど」

「エーテルが満ちてるんだから当然でしょ。そこの奥、毛布が敷いてあるから、そこにモニカを降ろして」


 聞き覚えのない単語を当たり前のように言われて、不服な顔をしながらケイは素直に従う。

 薄汚れた毛布はこの大樹に備え付けて置かれていたものらしく、こうして門の外で一晩を過ごすものたちへの配慮が一応は感じられた。

 空間の広さに対して毛布の枚数は多く、地面が波打つ根っこで凹凸が激しいことを思うと、何枚かは敷布団として利用した方がいいだろう。


 眠たげな目つきのモニカを背中から降ろして、両足を伸ばさせるように座らせる。

 ちらと少女の短いスカートの奥が見えたが、姉と違ってそこが濡れているようなことはなかった。もちろん、背負った時点でわかっていたことではあったが。


「……なに?」

「別に。手当て、するんだろ? やったことあるのか?」

「――。イブリースを相手にするイーグルを馬鹿にしないで。都市間の移動で、あいつらに襲われる可能性を考えてないわけないでしょう」


 ケイの胸を掌で押し、「どいて」と割り込むシャルロットが腰から鉄製の筒を外す。

 腰の裏で、外套に隠されていて気付かなかった装備だ。彼女は筒の上部から蓋を外すと、中身を傾けてモニカの足裏に滴らせる。


「モニカ。まずは傷を洗うから、沁みるけど我慢して」

「うん。お姉ちゃ……っ」


 言った直後、幼い金髪の少女の表情に痛ましい色が走った。

 筒の中から外へ流れ出したのは水だ。おそらく、それは携帯用の水筒のような役割の道具だったのだろう。足裏の消毒用に、傷跡の血と汚れを洗い落としていく。

 皮がめくれ、その下の肉まで裂けた傷跡だ。普通にしているだけでも相当な痛みがあるだろうに、それでも傷を洗われるモニカは苦鳴を上げても、泣き言は言わなかった。


 視覚から伝わってくる痛みに顔をしかめながら、ケイはモニカを強い子だと評価する。

 年の頃は十歳前後、今のケイの肉体よりもさらに幼い。自分があの年頃だったなら、あれほどの傷に涙を流さずにいられただろうか。


(絶対に無理だろうな。泣きわめいて、親まで呼んでまた泣くだろな)


 特別、自分が痛みに弱いなどとは思わないが、モニカの足裏の傷はそれほどのものだ。

 激痛の余波で手足を震わせる少女。姉も、そんな妹の懸命さをわかっているのだろう。傷を洗い流しながら、空いた手は救いを求めるように頼りない妹の手をしっかり握っている。

 この場面だけ切り取ってみれば、美しい姉妹愛そのものだ。


 それを見ていると、自然とケイもさっきまでのやり取りの不満が晴れていく気がした。

 現金、安い奴、偽善者。適当な単語が次々に浮かんだが、頭を振ってそれを無視。決して安上がりな情にほだされたわけではない。

 寛大な、慈悲の心を示したのだ。


 不肖、この武藤ケイ。たとえ肉体は現世を離れて、わけのわからない異世界のストリートチルドレンへと鞍替えしようと、積み重ねてきた魂だけは変わらない。


 特別これといって生き方に主義主張があったわけではないが、そうやって己の矜持を保っておくケイ。

 と、そんなこちらの内心はさて置き、シャルロットが傾けていた筒を床に置いた。彼女は手を伸ばし、そっと妹の頬に手を伸ばして、


「うん、もう大丈夫よ。よく我慢したわ。それでこそ、私の妹よ」

「う、ん……うん……うん」


 泣き言を最後まで吐かなかった妹に笑いかけ、撫でられるモニカがその瞼を落とす。

 気絶に近いほど、唐突に訪れた睡魔だ。あれほど恐ろしい目に遭った上、ケガをして体力までずいぶんと使った。幼い体はとっくに限界を迎えていたのだ。


「寝ちゃったのか?」

「……そうね」


 呼びかけに、警戒心を多分に含んだ返事があった。

 さっきまでの慈愛の表情はどこへやら。ケイは小さくため息をこぼしたが、そんなケイの態度に意識を裂く余裕もなく、シャルロットはモニカの体を眺めている。

 その指先が、何かを求めるように揺れているのを見てケイは疑問顔。が、すぐにその原因に思い至った。考えてみれば当然の話だ。


 傷を洗い終わっても、露出した傷口は今もじくじくと血を滲ませている。逃げる過程で靴を失ってしまった姉妹は、それを塞ごうにも手立てがない。

 生憎、『やすらぎの木』の中には簡易の就寝具は用意されているが、ケガ人が担ぎ込まれることなど考慮の外なのだろう。役立つものは見当たらない。


「包帯とか綺麗なハンカチとか、持ち合わせってないのか?」

「あな、あなたは黙っててよ! ここまで少し役立ったぐらいで、気安く話しかけないでくれる?」

「黙っててモニカの傷がどうにかなるのかよ。つまらない意地なんか張ってないで、家族が大事ならプライドなんか捨てろ」

「な……っ!」


 顔を赤くするシャルロット。しかし、彼女はすぐにケイの言葉の意味を吟味して、それから反射的に口にしかけていた罵詈雑言の類を引っ込める。それから弱々しい声で、


「イブリースから逃げるときに、持ち物のほとんどは森に置いてきてしまったわ。だから私が持ってるのはポーションが少しだけ」

「今、傷口を洗ってたやつか。他になにもないなら……こっちも同じか」


 使えそうなものを、と思ってもケイはそもそも着の身着のままの状態だ。薄汚れたボロのような服以外、財産と呼べるようなものはなにもない。

 ちらとモニカを見るが、眠る少女の格好もシャルロットとほとんど同じ。姉の所持品があれでは、こちらも似たようなものだろう。

 そうなると、とれる手段は一つしかなかった。


「そのコート」

「え?」

「そのコート、外は土とかで汚れてるけど、内側はそんなでもないよな?」


 指差してそう言うと、途端にシャルロットの表情が変わった。

 今のケイの言葉がなにを提案しようとしていたのか、彼女にも伝わったのだ。


「なにを、なにを考えてるの!? この外套の、この紋章が見えないの!? これはエルモアの証で……イーグルにとって、どれだけ重いものか」

「そのなんちゃらの証だとかって、傷が痛くて泣きながら寝てる妹より大事なの?」


 冷めた目で自分を見るケイに、シャルロットは二の句を継ぐことができない。ただ、彼女の視線は自分の背後、寝息を立てるモニカへと向かった。

 静かな寝息だが、時折、頬をひきつらせて身じろぎする少女。外気に触れて血をにじませる傷口は、痛みによる刺激を決してゆるめてはいない。


「一部を、破るだけなら……」

「いや、ダメだ。汚れた部分が傷口に当たることは避けなきゃいけない。あんたの汗で汚れた箇所だって絶対にある。万全を考えるなら、そのコートはもう捨てるつもりになってもらわなきゃ困る」

「あなたはそうやって……っ」


 なおも食い下がろうとしたシャルロットだったが、真っ向からケイの視線を受けて途端に言葉を途切れさせた。

 ケイの言葉があくまで正論で、それが妹のためであることを理解できないほど、銀髪の少女は愚かでもなければわからず屋でもなかった。

 それが彼女の誇りにとって、どれだけの覚悟を必要とするものだったのかはわからないが。


「……やって」


 ややあって、シャルロットは目を伏せたまま、脱ぎ捨てた外套をケイに差し出してきた。

 それを受け取り、腕の中で軽く広げて生地の柔らかさと、汚れていない清潔な箇所に当たりをつける。これならば、問題はなさそうだ。


「ごめんな」


 誰にともなく、言う必要のない謝罪を口にして、ケイは両手に力を込める。

 少し強く力を入れただけで、ケイの手の中で外套はあっけなく音を立てて破かれる。触れた感触ではかなり丈夫な生地のはずなのに、それを易々と破ることができる自分の腕力と、『できる』と躊躇いなく考えた思考に遅れて驚いた。


 ただ、それは本能で理解していた感覚だった。

 今更になって理解する、体から溢れ出すような生命力の奔流。それは間違いなく、あのデーモンをレイスの力で食らったことが原因だろう。

 都の中でネズミを狩り尽くしたときよりも、圧倒的な力が体内をめぐっているのがわかった。だというのになぜか、充実感のようなものを感じられなかったが。


「……よし、これで」


 考え事をしながらも、ケイは手の中で破かれる生地を適当に細い布へ裁断していく。一枚の布に波打つように切れ目を入れると、歪だが長い包帯が出来上がる。

 それを裂き、慣れた手つきでケイはモニカの足裏の傷口に強めに巻いていく。

 傷口を圧迫される感覚に眠る少女が顔をしかめたが、足首までをしっかり固定して巻き終わる頃には、その表情もいくらか安らかなものになっていた。


「……レイスのくせに、ずいぶん慣れた手つきで手当てするのね」

「ボーイスカウトの経験が……ええっと、門の中じゃこうやってケガすることも多いからさ。生きる上で、否応なく学んだ知識ってやつだよ」


 固定を確認して、モニカの治療を終えるケイ。

 なにか言いたげな顔をしているシャルロットに振り返ると、彼女は顔を赤くしてケイからぷいと視線をそらした。

 怒っているのだ。ケイの存在が気に食わないことと。自分の大事な外套を破られてしまったことと。大事な妹のケガを治療してもらったけれど、相手が見下している対象であるレイスであることとに。


 感謝すべき場面であることはわかっていても、感謝すべき相手であることを認められないシャルロットの意固地さ。そうやって自分の内側の感情に煩悶としている少女を見ていると、いくらか溜飲の下がる感覚もあった。

 だからケイは、シャルロットのその表情をもっと歪めてやろうと思って。


「ほら、今度はそっちだ」

「え?」

「隠しててもわかってるよ。モニカだけじゃなく、そっちだって靴も履かないで外を走り回ったんだ。同じようにケガしてるんだろ」


 図星を突かれたシャルロットが、ケイから隠すようにそっと足を引く。が、両方の足を視界から遠ざけるなどどだい無理な話だ。

 ケイが少し体を前に倒してみれば、「あっ」と弱々しい少女の声とともに、その傷だらけの足が視界の中に飛び込んできた。


「ほらな。意地張る必要なんかないよ。さっさと足を出してくれ」

「いったい、なにを企んでるの。さっきまであんなに反抗的だったくせに、急にこんなに協力的だなんておかしいじゃない」


 ぱちぱちと、大気がまたしても紫色の光とともに弾け始める。

 威嚇行為に、全身を痙攣させられるトラウマを回想しながら、ケイは声に怯えが出ないように注意しつつ、


「心を入れ替えたとかいうつもりはないし、俺はあんたが嫌いだよ」

「それなら……っ」

「それでも、痛そうなケガした女の子を放っておくってことをするつもりはないし、偶然にも今は包帯がもう一人分残ってるんだ。使わないのももったいない」


 言って、ケイは破かれた外套で作った包帯をもう一組、シャルロットに見せつける。

 一瞬、呆気にとられた顔をするシャルロット。が、すぐに彼女は理解した。


 ――自分の外套が、最初から二人分の包帯になるように目算されていたことを。


「その外套はね……私たちイーグルにとっての大事な、そう大事なものなの。エルモアである証で、それを汚されたり、ましてや失うことなんて考えられないくらい」

「うん」

「だから、そんな大事なものを破って包帯にまでしたのに、余らせるなんて考えられない」

「だから?」


 キッと、シャルロットが赤い顔を上げてケイを睨みつける。

 射殺しそうなほどの目つきを向けられて、ケイが小さく両手を広げる。

 そんなケイを指差して、シャルロットは言った。


「仕方なく――そう、仕方なく、あなたに私の傷を手当てさせてあげる」


 ずいぶんと、傲岸不遜な要救助者もあったものだ。

 ただまあ、言いたいことはどうにかわかった。


「わかったよ、わかりましたよ。手当て、させていただきます」

「素直でけっこうなことよ。ただし、変なことは考えたりもしたりもしないこと。そんなことがあったらどうなるか、自分でわかってるでしょう?」


 ぱちぱちと、紫電の威嚇を行うシャルロットに肩をすくめて、ケイは地面に手を伸ばす。

 不埒な考えも、これまでの報復をしようなどと考える必要もない。

 だって――。


「――ひぎぃっ!!」


 傷口を洗い流して、思いっきり包帯で絞めつけて、間近でこの銀髪の美少女の痛みに苦しむ顔を見れる大義名分があるのだから。

 ――これ以上を望むのは、いかにも欲張りというものである。



執筆者:鼠色猫

一言「いい話だと思った? 残念! 鼠色猫ちゃんでした!」

http://mypage.syosetu.com/235132/

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