リアル鬼ごっこ
リレー1周目3人目
門からはまっすぐに街道が伸びていた。
どこまでも続くようなその道の両側には、密度の濃い深い森があった。
夜目の効くレイスだが、さすがに月明かりの届かぬ暗闇までは見通せない。
ケイはわずかに震えた。まるで鬱然とした森の中からなにかがこちらを見つめているような気がしたのだ。
恐らくは気のせいだろう。気配や視力よりも、この力を信じるべきだとケイは思い直す。
そうだ、レイスの力はすごいのだ。木の葉を揺らすように駆けるコウモリ――らしき生物か?――の位置も手に取るようにわかる。
どう表現すればいいだろう。視界の外にレーダーがあり、そこに光点が明滅している……とでも言えばいいだろうか。
その生き物の生命力の多寡により、光の大きさが変わっているようだ。コウモリはネズミよりわずかに小さい。
他にも感覚を研ぎ澄ませれば、虫なども見えてくるようだ。あまりの光に目の裏がチカチカしてきて、ケイは意識を逸らす。
指を伸ばせばいつだって捕まえられそうだ。角材を握った手に思わず力が篭もる。
まるで車を買ってもらったばかりの大学生のように、ケイははしゃいでいた。
この力を試したくて仕方がないのだ。腹はいっぱいになったが、ネズミ程度ではまだまだ物足りない。
もう少し手応えのある生物が現れればいい。
シカか、イノシシか。クマは少し怖いな。あの長いリーチをかいくぐって懐に入り込むのは至難の業だろう。
確かあのミューという少女は、もう自分が十日もなにも食べていない、と言っていたか。
それだけの食事をネズミ数匹で補うことができるのだから、レイスの生命効率は非常に優秀と言わざるを得ないだろう。
ここでまた新たな疑問が生じる。
限界以上に吸い取った生命力は一体どうなってしまうのだろう。
あふれた水のようにこぼれてしまうだけか。一定以上を集めるとパンクし、この体が壊れてしまうのか。あるいは限界などはなく、無限に蓄えることができてしまうのか。
吸えば吸うほど強くなれる! などということすら、あるかもしれない。
だとしたら、自分の行き着く先はレイスたちの王、か?
夜空に描いた夢はパレットに落とした絵の具のように広がってゆく。
さしあたってはあの雑貨屋の店主に痛い目を見せてやろうか。
そしてミューのような少女たちを囲み、夢のハーレムを築きあげるのだ。
あの子は可愛かったな、と思い出す。
さすがにまだ子供すぎるかもしれないが、しかしその将来が楽しみになるような利発な娘だった。
見慣れぬ野草や木々の間を縫うような街道を、どれくらい進んだだろうか。
一本道で風景も代わり映えがないため、まるで自らの頭の中を歩いているような気分すらしてくる。
一時間弱ほど歩いて、エンカウント率の低さと退屈さにそろそろ帰ろうかな、なんて思い始めていた頃だった。
ケイはあくびを噛み殺しながら――
――“それ”を見た。
ブナやシイに似た広葉樹の幹が真っ二つに割れていた。
まるで稲妻が落ちたような有り様だが、それは自然の仕業ではないとハッキリとわかる。
血だ。
まるでクレーターのような凹みがその周囲に作られており、おびただしいほどの血液がそのくぼみに溜まり、そして周りに撒き散らされていた。
誰の、あるいは何の血なのかは判別がつかない。
けれどケイはゾッとした。まだ真新しいのだ。一歩を踏み出せばねちゃりと音が立つ。乾き切っていない。
血があるということは、つまり、そういうことだ。
なにかが死んだのだ。いや違う。そう、誰かがなにかを殺したのだ。
心臓を鷲掴みにされたような気がした。
先ほどまでの淡い冒険心は砕かれ、ケイは現実に引き戻された。
この樹木を荒々しく引き裂くような生物がいて。
それが獲物の死体すら残さずに、事を終えたのだ。
あまりの恐ろしさに身が竦む。
ケイは樹木から目を離せずにつぶやいた。
「……なんだよ、これ……」
帰ろう。今すぐ帰るべきだ。
一体何のために街には城壁があったのか。
それはきっと魔物のようなものから暮らしを守るためだったのだろう。
ケイは後ずさりし、身を翻し……
そして――耳をつんざくような悲鳴を聞いた。
断末魔。そうとしか呼びようがない。
それは森の中から聞こえてきた。それとともに、ケイの生命力レーダーが激しく反応する。してしまう。
巨大な赤い光点がひとつ。それに重なり合う青い光があり、しかしその光は今まさに失われてゆく。
なにが行なわれているのかは、わかる。恐らくは捕食活動だ。
生き物が生きるために必要なことであり、その宿命は異世界であろうと変わらないだろう。なにも不思議なことはない。
問題は――
一体“何”が“何”を食べているのか、だ――。
「……おいおい、マジかよ……」
ケイは拳を握りながら震えていた。
赤い光点が移動を始めたのだ。木々の隙間に隠れるべきだと頭のどこかで激しく叫ぶ声がする一方、ケイの体はでくのように動いてはくれない。
固まっていたのは数秒程度だったろうが、それが致命的な遅れだったとケイが気づいたときにはもう、遅かった。
頼りない月光の元、その姿がおぼろげに浮かび上がる。
赤黒い体躯。3メートルほどの大きさだろうか。背中からは不揃いな三枚の翼が生え、体の向こうに垂直に伸びているのは恐らく尻尾だろう。
四足歩行と二足歩行の間のような歩き方をしている。丸太のような前足が長く地についている様は猿人にも似ているが、暗闇の中で真紅に光る両眼は生やさしいものではない。
巨躯の割に頭のサイズは小さい。なのに側頭部から生えた湾曲した角は下手をすればケイの胴体よりも太い。触れるだけであらゆる生物は断裂してしまいそうな硬質な光を帯びている。
そしてその乱ぐい歯の隙間から、なにかが見える。草のように伸びている黒い繊維質の物体は……髪、か。
と、ケイはその生物――なのか?――を一言で言い表す名称を持っていた。
言葉をつぶやくとともに、認識は理解に置き換えられるのだ。
「悪魔、じゃん……」
デーモンが一歩足を前に突き出してきただけで、ずしりと地面が揺れ動いたような気がしたのは、ケイが目眩を起こしていたからだろうか。
目を爛々と輝かせながら近づいてくるその悪魔はもちゃりもちゃりとなにかを咀嚼を続けつつ、首を頻繁に動かしながらこちらに近づいてきた。
その様子だけでも生理的な嫌悪感がこみ上げてくる。ケイは震える手に力を込めて角材を前に突き出した、けれど。
こんなものが到底役に立つようには思えない。なにがモンスターだ。馬鹿か。本当に出てきてしまったら、後悔以外の念はありえない。
ぱらりと悪魔の口からなにかがこぼれた。月明かりに反射して光るそれはペンダントのようだ。
中央に複雑な図形――ナスカの地上絵のような文様だ、紋章だろうか?――が彫り込まれている。持ち帰れば喰われた男の身元がわかるかもしれないが、そんな隙はありえない。
果たして逃げ延びることはできるのだろうか。ケイはわずかに街道の先――街のほうに目を向けた次の瞬間。
バサリ、と樹林に嵐が叩きつけられたような音がした。
ケイがその場を転がったのはとっさのことだった。
目ではなく、レーダーが捉えていた。悪魔が羽ばたき、そしてケイが立っていた位置を瞬く間に強襲したのだ。
土が砕け飛び、間近で粉塵が立ち上る。今しかない。
距離を離すために、ケイはサンダルを蹴り捨てて、裸足で駆け出す。
子供の身体に子供の歩幅だ。どんなに必死になったところで大した速度は出せないけれど。
しかしレーダーで確認したところ、悪魔はその場から動いていないようだった。
もしかしたら食事を終えて――これ以上の獲物を必要とはしていないのかもしれない。だとしたら、逃げ切れる。
「はぁっ……はぁっ……!」
口を大きく開けて酸素を取り込みながら走る。
しかし意外なほどにこの身体は粘り強さを見せてくれた。これもレイスとしての身体能力の一端だろうか。
「頼む、頼むよ……!」
すがるように祈る。
だが、無駄だ。
ケイの希望を打ち砕くように。
デーモンは追いかけてきた――
その生物はまるでテレポートをするように三枚の翼膜を操って飛行ともつかぬ跳躍を繰り返してきた。
ケイの走っていた軌道を塞ぐように次々と着地をしてくる。
そのたびに間近で土砂を浴びるが、ケイは足を止めずに走り続けた。
通常の人物ならば、あの悪魔の襲撃によって体を潰されて――あの木のように引き裂かれ、へしゃげられてしまうのだろうが。
ケイはレイスであり、“目”ではない第六の感覚器によってその悪魔の位置を見極めることができる。
この悪魔の動きは単純だ。
改めて確信する。
大丈夫だ、逃げ切れる――!
ケイは転ばないように慎重に、だがその速度をさらにあげる。
いける、このまま街まで逃げられる。
悪魔はまだ追いかけてくるが、さすがに人里まではやってこないだろう。
助かる。命が助かるのだ。
こんなわけのわからない場所で殺されることはない。
「なんで、おれが、こんなめに……っ!」
歯を食いしばっていなければ、恐怖で泣き出してしまいそうだ。
人間を捕食する生物に追いかけられる経験を持つものがいたら、きっとこの気持ちをわかってもらえるとケイは思う。
つらたんなどという言葉では言い表せない。
辛い。辛すぎる。
片時もレーダーから目を離さず。
そしてケイは――再び絶句した。
「……まって、くれよ……マジで、かよ……」
やがて視認する。
レーダーに浮かぶ青い光がふたつ。
ふたりの少女が必死に――けれどケイよりもずっと遅い足取りで――街道を駆けている、その背が見えたのだ。
大きな少女と小さな少女。ひとりはミューよりもわずかに年上だろう。銀色の長い髪を下ろしており、こちらをちらりと見たその横顔は勝ち気そうな瞳を恐怖に歪めていた。
もうひとりはミューよりも小さい。ふわふわの金色の髪を両側で結んでいる。ツインテールだ。銀髪の少女に手を引かれて、今にも倒れそうな足を精一杯動かしている。
ふたりはそれぞれいかにも走りづらそうな外套を身につけている。その肩にあったのは、悪魔に喰われたあの男が身につけていたペンダントと同じ紋章であった。
やはり、そうだったのだ。
きっと街道沿いで悪魔に襲われてチームはバラバラになり、このふたりの少女たちだけが生き延びたのだろう。
だが、このままでは――追いつかれて死ぬ。それは間違いない。
ケイだってがむしゃらに逃げていただけだったのに、多分連れてきてしまったのだ。あの悪魔を。
ケイはすぐにふたりの少女に並ぶ。銀髪の少女はこちらを一瞥しただけで、すぐに前に向き直る。余裕がない。お互いに。
「……っ」
顎を引いて速度をあげながら、ケイはふたりの少女を引き離してゆく。
思う。
――もし自分が彼女たちを逃がすために森に入ったらどうなるか。
悪魔が自分を追いかけてきた場合、人の手が入っていない森で自分が同じペースで走り続けることは不可能だ。それにレーダーは付近の野生生物をも捉えてしまう。
もしかしたら悪魔の姿を見失ってしまうかもしれない。そうなったら、自分は押し潰されて殺される。ふたりの少女が逃げ延びられるかどうかは、運次第だろう。
思う。
――自分が立ち向かえば、あの悪魔を倒せるだろうか
触れて生命力を吸い尽くす? 不可能だ。その前に引き千切られておしまいだ。誰も助からない。無駄死にだ。
思う。
――このふたりを抜かして走り続ければ、自分は生き延びれる。
……だが、少女たちは死ぬ。
そう、間違いない。
縁もゆかりもない少女たちだ。
助ける義理などどこにもない。
大体、見目麗しい少女だからなんだというのか。
死ねばすべては土に還る。皆同じ、肉人形に変わる。
自分はまだこの世界に来たばかりだ。
理もなにも知らない。無知無能だ。
そんな自分に比べて、ふたりの少女は町の外に出るためには準備を十分に整えてきたはずだ。
知っていてそのザマなのだから、これは彼女たちの自己責任だ。
そうだ、自分はなにも悪くない。
たまたま居合わせただけで、だから、だから――。
ケイは、追い抜いた彼女たちに一度だけ振り返った。
一度だけ。
それだけだ。
そう、ただそれだけ。
目が合ったのだ。
その、金髪の小さな女の子と。
彼女はなにも言わず、泣きそうな顔で息を切らせて足を動かしながら、ただ、その小さな手を伸ばしていて。去ってゆく父親を必死に引き止めるように、手を伸ばして。伸ばしているから、その手を、だから。ケイはだから、
だから――。
立ち止まり、身を翻す。
馬鹿なことをしていると、自分でも思う。
矮小な正義感に酔ってさらに死体を増やすだけだ。
ケイは血が出るほどに強く拳を握り締めて、震えを押し殺す。
ケイの横をふたりの少女が駆けてゆく――。
いいんだ、これで。
ケイは自分に激しく言い聞かせる。
いいじゃないか、こんな風に生きたって。
ここはだって、異世界なんだろうから。
通りすぎてゆく彼女たちを見ないように、
ケイはまっすぐに悪魔だけを睨んでいた。
悪魔はケイの眼前に降り立ち、その牙を剥くけれど。
ケイは腹に力を込めて、見返しながら告げるのだ。
「――子どもはさ、嫌いじゃないんだよな、俺はさ」
両膝に力を込めろ。その瞬間を見逃すな。
動きは単純だ。入り込め。懐に。決意しろ。
覚悟を持て。迷うは捨てろ。絶対にしくじるな。
倒す必要はない。時間を稼ぐのだ。
できる。間違いない。できる。
この体と、このレーダーがあれば、できる。
ずしりと巨体を引きずりながらやってくるその悪魔に。
ケイは告げる。告げればそれが真実となる。
都合の良い真実が。
今の自分には、必要なのだから。
転生憑依した子供ではなく。
まるで世界を統べるレイスの王のように、告げるのだ。
「来いよバケモノ。――その命、喰らい尽くしてやるよ」
しくじれば自分だけではなく、あの少女たちが死ぬ。
チャンスは一度だ。悪魔が跳躍、着地したその瞬間に潜り込むのだ。
問題は位置と速度だ。
近すぎれば巻き添えを食らい、遠ければ間に合わない。
悪魔が態勢を整えたときにぶち当たれば、あの巨木のような腕のなぎ払いを食らう。
そうしたらこんな体は一瞬でバラバラだ。
ギリギリを見極めて、最高速度で突っ込むのだ。
逡巡は命取りだ。ネズミは三秒程度で命を吸い尽くすことができたが。
あの悪魔には何秒かかるだろうか。
いや、別に殺す必要はない。動きを鈍らせればいいのだ。それだけでいい。
レーダーの端にはまだあの少女たちがいる。
予想以上に遅い。稼ぐ時間は1分や2分では足りないだろう。
「……日頃から運動をしておいてくれよ」
そういえば、と思い出す。
あの銀髪の少女は、ずいぶんと走りにくそうな胸をしていたな、なんて。
その瞬間――悪魔が跳んだ。
ケイはレーダーを頭上に伸ばす。凄まじい速度で飛び降りてくる、その着地地点を推測する。
いや、するまでもない。自分が立ち止まっているのだから、やつはここ――自分の今立っているところに降りてくるはずだ!
飛び退く。直後、悪魔は下降してきた。狙いはドンピシャだ。
巨石のような質量が叩きつけられ、わずかに鳴動する地面を飛び越えるようにしてケイは襲いかかった。
伸ばした指先が触れる、その左腕に。ゾウの皮膚のように硬い。ぬめっているのは血だろう。関係ない。抱き込むようにして――
食らいつく――
――喰らい尽くす。
「ああああああ!」
ネズミを捕まえたときは暖かいものが流れ込んできたと思っていたが。
今は熱い。焼けるようだ。血が沸騰し、沸騰した血が全身を駆け巡るように頭のてっぺんからつま先までが燃え上がる。
堪え切れず、ケイは叫ぶ。
「ああああああああああ!」
悪魔は左腕を振り回す。ケイはしがみついて離れない。まるで腕力ではないなにか違うもので結びついているようだ。
もっとだ、もっと、もっと命を、もっと。
ケイの中にあるなにかが叫ぶ。あるいはそれはレイスの本能だったのかもしれない。
全身で悪魔の生命力エネルギーを吸い取りながら、ケイはあまりの熱量にただ吠えるより他ない。
どれくらいの時が経っただろう。
悪魔の臭気と唸り声、今にも頬をかすめる右腕の爪と、巨大な角。息の根を止めるための殺意を全身に浴びながら、しかしケイは立ち向かう。
一瞬でも気を抜いたら地面に叩きつけられてめちゃくちゃにされる、
どころの話ではない。向けられた敵意だけで失神してしまいそうだ。
そんな風に思っていたのだけれど。
もう無理だ、と何度も思ったけれど。
やがて――
終わりは、唐突に訪れた。
まるで糸が切れたように、悪魔は突如として地面に倒れ込んだ。
うめき声もなにもない。あのネズミと同じだ。先ほどまで暴れまわっていたと思えば、はたとその動きを止めたのだ。
危うくその下敷きになりかけて……ケイは手を離し、地面に尻餅をついた。
「……へ」
乾いた声が漏れる。
すでに悪魔の体は冷たくなっていた。
レーダーからも、
あの赤い光点は完全に消え去っている。
自分が。
……倒した?
「……」
信じられない。
あの少女たちのために、時間稼ぎをするつもりだったのに。
これだけの相手を、自分が倒せただなんて。
まだ血は燃えるように高ぶっている。
「……ホントかよ……」
やった。
自分が、やったのだ。
生命力を吸い尽くした。
ネズミなど物の数ではなかった。
自分は悪魔を倒したのだ。
この魔物はもうぴくりとも動かない。
レイスの力はすごい。
改めて思う。これは自分だけが与えられた特別な能力なのではないか、と。
そうだ、気づく。
「……あの子たちは」
辺りを見回すと……いた。
自分が道を戻ったからか、心配して見に来てくれたのだろうか。
あの子たちも心優しい子だったのだな、と思う。
救ったかいがあったのだ。なんだか少し、嬉しくなる。
高揚感と勝利の余韻に浮かされながら、
ケイはふたりの少女に歩み寄る。
銀髪の少女も、その彼女に抱かれている金髪の小さな女の子も、どちらも靴を脱ぎ捨てて、白い足の裏を血まみれにしている。街道を必死に走ったのだろう。
今はしゃがみこみながら、三日間は起き上がれないような顔で荒い息をついている。
彼女たちの元に、ケイもまたよろよろと歩み寄る。
「あの、大丈夫、だった?」
ケイはふたりに声をかけた。
その時だ。
銀髪の少女が立ち上がり、毅然とした目の端に涙を浮かべながら、こちらを見下ろす。
自分よりわずかに背が高い彼女は、震える手を片手で押さえながら――。
「……下賎なレイスが、もっと早く助けなさいよねっ!」
誰も見ていない、誰もいない森の街道の中。
――甲高い平手の音が、響き渡った。
執筆者:みかみてれん
一言『100位以内じゃないけど累計作家って名乗って……いい、んですよね……?』
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