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レイスの王  作者: 星崎崑・桂かすが・みかみてれん・理不尽な孫の手・鼠色猫・わい・赤巻たると・ピチ&メル
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武藤ケイは知る由もない

リレー1周目2人目

 ミューがしっかり握ったそのネズミは拘束を逃れようとジタバタと暴れている。ずいぶんと生きがいい。


「はい」


 ケイは差し出された生きたネズミをどうしていいかわからず見つめるのみ。生で食えとでも言うのだろうか。


「何よ、イオン。この期に及んでまだ食べないつもり? いい加減にしないとほんとに死ぬわよ」


 そう言ってミューはネズミを押し付けてきた。

 ケイはおっかなびっくり暴れるネズミを両手で押さえつける。

 どうしていいのかわからないが、さりとて空腹は耐え難いレベルに達しており、このネズミを逃してはならないと本能がささやいている。


 だがケイが暴れるネズミを抑えようと力を込めた時、それは始まった。

 手のひらから暖かい何かが体に流れこむ。空腹が満たされていき――


 気がつくとケイの手の中のネズミは息絶えていた。今の今まで元気に暴れていたのに、すでにその体は冷たくなっていた。

 そして体に満ち溢れるパワー。

 ケイは即座にレイスの力を理解した。他者の生命力を吸い、食料と、力とする。


「体が軽い。もう何も怖くない」


「あらそう? よかったわね。このミュー様に感謝しなさいよ」


「ありがとう、ミューさま」


「……本当に大丈夫? なんならもう1,2匹捕まえてきてあげようか?」


 妙に素直なイオンにミューは不安を感じる。食事を取って顔色は確かによくはなっているが、本当に大丈夫なんだろうか。


「大丈夫」

 

 ミューは真剣に心配になってきたが、本人がそう言う以上世話を焼くこともできない。それにそろそろ仕事の時間だ。


「そう? じゃあわたしはそろそろ仕事だから行くね」


 とにかくケイが食事を取ったのは確かだ。そう思って安心材料とするしかなかった。

 



 ミューと別れて、ケイは自分の体であるレイスに関して考察する。

 他者の生命力を吸って自分の物とする。

 どうやら先ほどの傷も少し治ってきてるようだ。

 パワーも増している。

 自分より年上の同種族の女性が、簡単にネズミを生け捕りにできる身体能力ももつ。


 ネズミ1匹じゃ空腹が満たされなかったケイは狩りにとりかかることにした。ミューがネズミを獲ってきた路地裏を目指す。

 

「あの娘が5分で捕れたんだし……」


 ミューはこの辺りを知り尽くしており、素手でネズミを捕獲できる運動能力はあったものの、今日はたまたま短時間で獲物がとれたことをケイは知る由もない。

 ケイは自分も獲れるだろうと、軽い気持ちで獲物を探し、そして運良くあっさりと獲ってしまった。

 ケイは知る由もなかったが、そのネズミは妊娠しており出産間近で動作が鈍っていたのだ。

 ネズミの居場所はレイスの持つ、生命力を感知する能力で把握できた。

 都合のいいことにこの体のスペックは極上だった。感知能力が極めて高かった。

 その高度な感知能力ゆえに、元の体の持ち主のイオンは生命を敏感に感じ取り、それを吸って生きていねばならない自分に絶望したのだ。


 だがそんなことはケイには知る由もない。狩りの成功に気を良くしたケイは自信を深めた。いける。異世界でも余裕で生きていける。

 ミューが獲ってきたのより更にまるまると太ったネズミを、ぎゅっと握りしめ生命力を吸い取る。

 罪悪感はなかった。先ほどの飢餓感に比べればネズミの命ごとき何ほどでもない。


 ケイはゲーム感覚で路地裏を巡ってネズミを狩りまくった。狩れば狩るほどパワーが増す気がした。

 もちろん気のせいである。飢餓状態からエネルギーを十二分に補給したので単に元の力が戻ってきただけなのだ。

 傷が治ったのもただのプラシーボ効果である。ケイは知る由もなかったのだが、レイスという種族はその性質上、精神の状態が肉体に大きく影響を及ぼす。ケイが傷が治ったと思い込んだゆえに、その傷は早急に治ったのだ。


 だがそんなことを知る由もないケイは万能感に浸っていた。レイスの能力すごい。無敵じゃないだろうか。

 もちろんこの時点のケイは知る由もないことだが、そんなにレイスが強力な種族なら路上生活などしてるはずもないのである。


 既に辺りは薄暗くなっていたが、生命探知で狩りに問題はないし、なんとなく夜目も効く感じがしたので町の外に出て狩りを続行することにした。気分はスライム狩りに飽きた冒険者だ。

 全く知らない世界でいきなり町の外に出て、いるかどうか不明な魔物を狩ろうなどと無謀としかいいようがないのだが、ケイはこの時体内から溢れ出る生命力に酔っ払った状態だったのだ。

 ケイには知る由もなかったが、レイスは生命力の取り過ぎで酔っ払う。


 さすがに素手はまずいだろうと、路地裏で拾った丈夫そうな角材を手にし、ケイは門を抜け、町の外に踏み出した。

 ケイは知る由もなかったのだが、この数分後、町の門は閉ざされた。もう朝まで開くことはない。



執筆者:桂かすが

一言「『ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた』が10月25日にMFブックスから発売されます!」 http://mypage.syosetu.com/268339/

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