レイスの王
リレー二周目八人目、アンカーは理不尽な孫の手さんです!
あれから10年の月日が流れた。
レイスとイーグルを支配したケイは、世界へと打って出た。
ケイの求める真の平和をこの世界へともたらすために。
無論、ケイのやり方に異論を唱えるものはいた。
しかし、ケイは己の力でもって、彼らを押さえつけた。
支配種族たるタイガー、シャーク、ホーネットといった種族も次々とケイの傘下へと収まった。
麻雀、チキンレース、ジャンケン、福笑い……。
どの勝負においてもケイはレイスの王たる力を見せつけ、圧倒的な勝利を収めた。
戦って、戦って、戦い抜いて。
やがて、逆らう種族はいなくなった。
全ての種族を支配下に置いたケイは、改めてこの世界の王となった事を宣言した。
誰も虐げられる事のない、本当に平和な世界がやってきたのだ。
いずれケイが死に、彼が定めた法律が破棄されるその日まで、この平和は続くだろう。
短くも儚い平和であるが、ケイは満足していた。
そうした時代があったという事を、後の世の人間が知ることは出来るだろうから。
「ふぅ」
現在、ケイは雑務を全て放り出し、山へと赴いていた。
山の標高は約9000m。
並の人間ではたどり着く前に死んでしまうような場所。
ケイは数々の種族を吸収して得た力を持って、その山を登っていた。
何故山に登っているのか。
それは、この山が世界で一番高いからである。
断崖絶壁にピッケルを突き刺し、一手一手を確かめるように上へと登っていく。
しかし、そのスピードは一流の登山家が目を見開くような速度であった。
ほとんど酸素のない山頂へと到着しても、ケイは息切れの一つもしていなかった。
これも、レイスの王の力である。
「…………」
ケイは山頂から、己の支配した世界を見下ろした。
ちっぽけな大陸だった。
たった10年で支配できてしまうほどの、小さな世界だった。
己の手に入れた世界を眼下に、ケイはつぶやく。
「どうだ、ミュー。ここが、この世界で一番見晴らしのいい所らしい」
ケイはそう言うと、懐から一枚の布を取り出した。
事ある毎に取り出したため、擦り切れて、ボロボロになってしまった布。
ミューの遺品のシャツだった。
「お前のお墓、どこに建てようかって、ずっと迷ってたんだ。
レイスの常識じゃ、墓なんていらないらしいけどさ。
でも、やっぱ俺としては見晴らしのいい場所がいいだろうと思ってさ。
世界中を回りながら、ずっと探してたんだ。
今まで、結構いい場所、見つけたんだぜ?
けど、いざ見つかってみると、もっと見晴らしのいい場所があるかもしれない、なんて考えが浮かんでさ。
だって、レイスの王が作る墓だぜ?
一番いい場所って思うじゃんか」
ケイはそう言って、布を握りしめた。
ここに来るまでに、長い時間を掛けた。
「ここ、絶景だけど……」
ケイは、空を見上げた。
そこには、何も邪魔する事のない、透明な空が広がっている。
もし、前の世界と同じであるなら、あそこには広大な宇宙が広がっているだろう。
ケイは苦笑して、布を懐へとしまい直した。
「お前、人懐っこかったし、見晴らしより、人が多い所の方がいいよな。
こんな所じゃ、アクシオンだって墓参りにこれないしさ」
ケイはそう言うと、ピッケルを握り直した。
飛び降りてもいい。
それだけの身体能力はある。
だが、登ってきた道をまた同様に降りていくつもりだった。
「お前の墓は、お前と最初に出会った、あの町にするよ。
全てが始まった町。そして全てが終わった町に」
ケイはそう言って、山を降りた。
△▼△▼△▼△
さらに1万年の月日が流れた。
もう、ケイの名前を覚えている者は一人もいない。
ケイが死んだ後、また争いが起きた。
何度も何度も、人々は争った。
時には他人を蔑み、時には虐げた。
そして時にはレイスの王や、イーグルの王といった存在が現れ、巨大な王国を作ろうとしたが、彼らも長く君臨する事はなかった。
他の種族に、あるいはイブリースの手によって滅ぼされた。
世界を支配したのは、ただ一人。
『偉大なる世界の王』と呼ばれる男だけだった。
世界は平和にはならず、歴史は何度も繰り返された。
しかし、不思議とあるものだけは残り続けた。
それは一つの石碑だった。
何かに守られるように、その石碑は残り続けた。
雨風にさらされ、文字が読めなくなっても、残り続けた。
そこに書いてあった文字を知る者は、誰一人としていなくなった。
ただ、ある者だけが、その文字を読取ることができた。
その石碑の前に立った時、天啓でも受けたかのように、石碑の文字が脳裏に蘇るのだ。
石碑の前に立った時にだけ『偉大なる世界の王』の記憶が蘇り、文字を思い出すのだ。
その文字を読める者こそが、王であった。
『偉大なる世界の王』の決意と覚悟を受けて、王となるのだ。
レイスの王となるのだ。
その王がケイのように世界を手に入れることはなかった。
ケイほどの力を持つ王は無く、これからも現れることは無いだろう。
だが、ケイの意志は王の中に生き続ける。
真の平和を願ったケイの願いは、世界の中で生き続ける。
それが生き続ける限り、いつか世界は平和を取り戻すだろう。
いつか、レイスと、イーグルと、その他大勢の種族が手を取り合って生きる世界になるだろう。
今。
また一人、石碑の前に立つ者がいた。
少年であった。
イオンやケイの面影を持つ、レイスの少年だ。
彼は石碑の由来など知らなかった。
ただ、その前に立っただけだ。
しかし、幻視でもしたかのように、石碑に文字が浮かび上がって見えた。
『レイスの王イオンと、その友ミューよ、安らかに眠れ』
同時に、『偉大なる世界の王』の意識が流れこんできた。
「……」
この少年がこの後どういう人生を歩むのかは、誰も知らない。
FIN
△▼△▼△▼△
さらに10万年の月日が流れた。
実はケイは死んではいなかった。
レイスの王たるこの男は不死身であり、肉体的な死は存在していなかった。
「ここまで来るのに、随分と時間が掛かったな」
ケイは宇宙に広がる数億を越えるであろう頼もしい大艦隊を見渡した。
世界を手に入れたケイは、それだけで満足しなかった。
ケイにとって、あの世界は狭すぎたのだ。
狭すぎる世界で大きすぎる力を持ったケイが、広大な母なる宇宙へと進出するのは自然な流れであったと言えよう。
「提督……!」
「ああ」
現在、ケイが立つのは巨大としか言い様がない宇宙戦艦の艦橋だった。
全長1000キロメートル。乾燥重量はゆうに800メガトンを越える。
数万年の歳月を持って培われた知識、経験、そして一握りの天才の叡智。
そして渦巻く野望と執念が作り上げた、一個の巨大破壊兵器。
計画から竣工までに、100年近い期間を要したこの大戦艦には『シャルロット』という名が付けられている。
はるか昔、ケイに屈辱と覚悟を与えてくれた、一人の少女の名である。
さらにその隣には、『シャルロット』の半分程度の大きさを持つ姉妹艦『モニカ』が付き従っている。
銀色の巨体を持つ『シャルロット』と、金色の『モニカ』。
二つの超弩級戦艦は艦隊の中でも異様な存在感を誇っていた。
大戦艦と周囲を取り巻く宇宙艦隊。
それらは芸術品とも言えるべき優雅さを持っていた。
「イブリース共、この戦艦を見たら腰を抜かしますよ」
「いいや。油断するなフェルナンデス。奴らはこの程度では、ものともしない」
『シャルロット』の艦長であるフェルナンデスに対し、ケイは冷ややかとも言える声音で言い返した。
ケイの大艦隊を迎えうつのは、イブリースと称された者達の艦隊であった。
イブリース。
そう、あの小さな世界で悪魔として生きていた生物は、実はこの大宇宙を支配する生物の先遣隊だったのだ。
ケイの宇宙進出は奴らに何度も阻まれた。
何度も敗北を喫した。
しかし、その度にケイは立ち上がり、より強い艦隊を作り上げ、イブリースを押し返した。
一進一退の攻防を繰り返しつつ、ケイは進軍を続け、ついにイブリースの本星へとたどり着いた。
「……いえ、いけますよ提督。この艦ならば、奴らを滅ぼせます」
『シャルロット』の主武装は大出力トリノリオン砲が850門。
タウミサイル砲門が200門。
1000を越える圧倒的火力は、己の艦隊を小一時間で滅ぼせるほどである。
艦首に取り付けられた波動砲は、イブリースの本星を貫き爆破するだけの破壊力を持っている。
これならばと誰もが言った。
しかしケイは油断していない。
イブリースは強い。
ケイたちが宇宙に進出するずっと前から宇宙を支配していた悪魔どもは、死に物狂いで反抗してくるだろう。
「追い詰められた鼠は、誰よりも強い」
ケイはかつて、この世界にきたばかりの事を思い出した。
ミューにもらった鼠。
あの鼠が今の自分を形作っている。
「だが、俺達はそれ以上に強い」
ケイは手を振り上げた。
「進軍!」
レイスとイブリース。
最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
今夜、どちらかの歴史が終わる。
――To be continued
執筆者:理不尽な孫の手
一言「優位に立つイブリースの攻勢にさらされ、絶体絶命のレイス軍第2艦隊。だが、ケイには起死回生の策があった。次回『レイスの王』 第233話「イブリース本土決戦」
レイスの歴史がまた一ページ。」
企画:星崎崑
制作進行:ネトオク先生
監督:桂かすが
演出助手:ニトロワ先生
編集:みかみてれん
宣伝:つらたん先生
録音:理不尽な孫の手
協力:無職プロダクション
原画:鼠色猫
主題歌:『Reゼロでにゃんにゃん』
動画:ディンディン
彩色:赤巻たると
背景:わい
美術進行:ドラグーン先生
音響:ピチ&メル
美術:お師匠様
監修:なっちゃん
http://mypage.syosetu.com/288399/
編集後記:はじめてのリレー小説でしたが、みなさんいかがでしたでしょうか! みなさん達者で、さすが上位ランカーどもめ……技術もハートもありやがる……! と驚愕しきりでした。また、いつかやりたいなと思います。その時の参加者はあなたかもしれない!(どじゃーん)
最後まで読んでいただきありがとうございました!




