真・レイスの王子様
リレー二周目七人目、執筆者は桂かすがさんです!
逆転の目はある。イオンを睨みつけながらケイはそう考えた。
これはケイの元いた世界のテニスと同じではない。いわばテニヌと言っていい競技だ。40-0のスコアからの一発逆転もあるのだ。
どちらにせよ、多くの血を失ったケイにとってはこれがラストプレイとなる。全てを賭けるしかない。全てを、だ。
ケイはインターハイの最後の試合を思い返す。もう負けて惨めな思いをするのは御免だ。勝って今度こそ全国を制するのだ!
「いい目をしている。だがその体ではもはや勝つすべはあるまい。せめて、楽に死なせてやる!」
そう言ってイオンは手に持ったラケットでまっすぐケイを指す。
コース予告か、ふざけやがって! だがケイにとってはありがたくもあった。もしイオンが安全策で攻めてくれば、このまま為す術なく負けていただろう。
イオンは真っ向勝負を選んだ。それが王だという自負をもって。
「見給え。王者の技を!」
美しいフォームだった。完璧なフォームだった。幾人ものレイスの王が追い求めた、完璧なるテニスがそこにあった。
「さあ!我が腕の中で死に絶えるがよい!真なる王者の鉄槌」
イオンの完璧なるサーブは光の軌跡を描き、空間を切り裂きつつケイへと真っ直ぐに突き進んだ。
だが完璧なるが故、イオンが勝負を求めた故に、その軌跡はケイにも読めた。ケイは極光玉を真正面で待ち構える。
「無駄だよ! 幾代もの王が追い求めた完成形。誰にも止められはしない。ケイよ、我が糧となるのだ!」
だがイオンは見誤っていたのだ。自分の力と、ケイの力を。そしてケイの覚悟を――
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
「なにぃ!?」
ケイのラケットに命中した極光玉はケイをそのまま吹き飛ばすだろうと誰しも思った。それだけの威力を、神威をイオンのサーブは纏っていたのだ。
だが、全ての予想に反して、いやケイ以外の予想に反して、ケイは持ちこたえ、極光玉を跳ね返した。
ケイはそれで力を使い果たし、膝をつく。だがやれることは全て終わった。
「はっ。よくぞ跳ね返したと言いたいところだが、何かね、そのハエの止まりそうな極光玉は!」
ケイの跳ね返した極光玉はノロノロとスロー再生のようにイオンのテリトリーに向かう。
「予言しよう。その極光玉は貴様には受けられない。それ受ければ貴様は最後だ……」
膝をついたケイが絞りだすようにイオンに告げた。
「ふふん。いいだろう。我が神威を見事返した返礼だ。その挑発、受けてやろう!」
イオンが避ければそれで試合は終わりだった。ケイにはもう立ち上がる力さえ残っていないのだ。
だが王者としてのプライドがそれを許さなかった。受け継いだ数多の王の意思がケイの極光玉を避けるのを許さなかったのだ。
全ての観客が固唾を呑んで見守る中、ケイの全てを込めた極光玉はイオンに到達した。
「終わりだ! 天地魔闘の構え(スマッシュレシーブ)」
そう叫ぶと、イオンは渾身の一撃を極光玉にぶつける。
「そう……かな……」
「な!?」
極光玉を受けたイオンの顔が歪む。
迅剣トリノリオン張り付いた極光玉はピクリとも動かない。それどころかじりじりとイオンを後退りさせる。
「そ、そんなバカなっ」
「馬鹿なんかじゃない。俺が今日、どれだけの命を、想いを吸い込んだと思っている? その全てを、俺の命に上乗せして込めたんだ。借り物の体にすぎない貴様では、跳ね返すことなどできはしない!」
「ぐぎぎぎぎぎ。貴様っ、貴様ぁ。わかっているのか! 貴様がやろうとしていることを!」
「ああ。全国への切符は俺が貰う。安らかに眠れ、イオン」
「グワー!」
迅剣トリノリオンごとイオンは吹き飛ばされ、そして倒れた。
「俺の、勝ちだ!」
その瞬間、極光玉に集められた全ての生命力がケイに集まり、真のレイスの王が誕生したのだった。
第一部地方大会編(完)
△▼△▼△▼△
暁の復讐者、街の衛兵、イーグルの貴族、シャルロットやモニカ。全ての観客が見守る中、ゆっくりとケイは立ち上がる。
「イオン……なぜ最後のボールを受けた? お前ほどのレイスなら、込められた力を分からないはずもあるまい?」
ケイは倒れたイオンに歩み寄ると語りかけた。
「ふふっ。ケイの本気の玉を受けてみたかった。ただそれだけだよ。例えそれが、敗北への道だとしても後悔はない、さ」
「イオン……」
「それにね、ケイには感謝しているんだ。このままだと僕はルクシュの宝玉に囚われたまま、レイスの王たちの妄執とともに永遠を生きるところだった。さあ、宝玉を破壊しておくれ」
いつの間にかイオンの手に握られていた宝玉を受け取る。
「わかった」
「アクシオンの体がもう耐えきれそうにない。さようならケイ、君に逢えてよかったよ」
そう言うと、イオンの体から力が抜け、ぴくりとも動かなくなった。
「さようなら、イオン……」
ケイが力を込めると、宝玉はあっさりと砕け散る。そして、自分の生命力をほんの少し、アクシオンに分けてやる。青ざめていたアクシオンの顔に赤みがさし、うめいた。
「なんてことをしてくれたんだ、イオン。いや、ケイと呼ぶべきか」
倒れて満身創痍のアクシオンが目を覚ますと、そう言ってよろよろと立ち上がる。
「こんなものはレイスの新しい未来には必要ない」
「だが、いや……ケイ……お前なら」
その時のケイは圧倒的な生命力、光輝を放っていた。
その力を前に、イーグルも、ファントムも身動きすらとれず見つめるのみ。
そうだ。あの夢を実現しよう。ただし、あの通りじゃない、もう少しだけ違った、もうちょっとだけ多くの人に優しい世界を。
『俺は新たな王になる。この世界に新しい国を作る!』
ケイは今度こそ、心からの決意をもって、そう宣言をした。
執筆者:桂かすが
一言「二時間で書きました。『ニートだけどハロワにいったら異世界につれてかれた』が10月25日にMFブックスから発売されます!」
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明日はラスト! アンカーは世界一位のマゴノテソード先生です!




