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レイスの王  作者: 星崎崑・桂かすが・みかみてれん・理不尽な孫の手・鼠色猫・わい・赤巻たると・ピチ&メル
16/18

レイスの王子様

リレー二周目六人目、執筆者はみかみてれんさんです!

「決着をつける」

「ああ」

「これでおしまいだ」

「わかっている」

 

 アクシオン――の体を乗っ取ったイオンは、手のひらを突き出した。

 そこから小さな光の玉を作り出す。

 ルクシュの宝玉ではない。

 それはいわば生命エネルギーの塊である。

 

「出しな、君も。

 レイスの王を決める儀式だ。

 フェアにいこうじゃないか」

「今さらそんな格好をつけられてもな」

 

 ケイもまた、握り拳大の光を生み出した。

 どうやるべきなのかは頭ではなく、体がわかっている。

 これがまた、彼らの流儀なのであるということも。

 光の玉を外に放出した途端、両肩に疲労感が重くのしかかる。当然だ、自らの命を削ったのだから。

 

 ふたりは互いにそれらを放ち、ぶつけあう。

 地に落ちた太陽が爆ぜるような輝きに、遠巻きに見守っていたものたちは皆一応に顔を押さえた。

 

 暁の復讐者、街の衛兵、イーグルの貴族、シャルロットやモニカ。

 彼らの前、衝突した光は融合し、虹色のきらめきを帯びた。

 地表すれすれに衝撃波が巻き起こり、邪魔な瓦礫を次々と吹き飛ばす。

 生命力に満ち溢れたふたりの魂の半分ずつが合わさったその極光玉は、ただそこに存在しているだけでとてつもない熱を放っていた。


「ケイ、もう戻れないよ」

「イオン、俺は後悔などしない」


 向かい合うケイとイオンを取り囲むように、光のフィールドが構築されてゆく。

 その互いのテリトリーはそれぞれ――ケイのいた日本の表記に直すと――8.23mと11.89mほどのスペースだ。

 

 今から処刑が執行される。

 衆人環視の中、ふたりはどちらかが力尽きるまで戦う。

 

 ケイが敗れれば、イオンは自らにとって都合の良い世界を作り出すだろう。

 イオンが敗れれば、ケイはすべてのレイスとともに眠りにつくのだ。

 

 虹色の光を引き寄せ、手の中に浮かべるイオン。

 今この瞬間、戦いが始まる喜びに打ち震えながら。

 彼は口元を吊り上げて、宣誓する。


「――さあ、テニスを始めよう」

 

 

 

 

 テニスとは――本来は――ラケットでボールを打ち合う競技である。

 だがこの異世界において、一体どんな偶然が作用したのか、それは王の決闘として君臨していた。

 

 レイスは古来から、魂の半分を分けた生命エネルギーの凝縮体――ボールを用い、互いのすべてをぶつけ、叩きつけ合う。

 その勝負はどちらかが決定的な死を迎えるまで続くのだ――。

 

「ベットは命。間違いないね」

 

 いつの間にか、彼の手の中には一本の剣があった。

 先の膨張したその剣は相手を叩き切るのには不向きなようだったが。

 しかし、テニスを行なうことにおいて、なによりも重要な意味を持つ。

 選ばれしレイスのみが操ることのできるこの剣を、魂の座(ラケット)と人は呼ぶ。


「問題ない。――喰らい尽くしてやるよ」

 

 同じようにケイもラケットを構えている。

 腰を屈め、わずかな前傾姿勢。それを見たイオンが片眉をあげた。


「へえ……テニスの基礎はできているみたいじゃないか」

「……俺を誰だと思っている。

 全国高校総体――インターハイ、全国ベスト16に入ったこともある男だぜ」

「インター……? よくわからないけれど、自信はあるってことだね」

 

 ボールをバウンドさせていたイオンは薄く笑う。

 と次の瞬間、高々とボールを浮かべ、体を反り返しながら獣のように吠えた。

 魂の座を掲げ、振り下ろす――。


「|選ばれし王たちの狂宴よ、今此処に!《ラヴオールプレイ》!」

 

 来る。

 ケイは身構え、あらゆる知覚を前方に総動員させ。

 ――そして絶句した。

 

 極光玉(ボール)は音の壁をたやすく破り――

 ケイの顔面の真横を掠めた。

 

 地面に衝突したボールは反動で跳ね上がり、そのままテリトリーの壁にあたってイオンの手元に返ってくる。

 微動だにできなかった。


 ケイの頬が風圧で切れ、血が流れ落ちる。

 眼球を動かす暇すらなく。


「……そうかい」

 

 つぶやくのが精一杯だ。

 テニスのサーブの初速は200km/hを越える、が。

 先ほどイオンの叩き出した速度は、それの何倍以上にも及ぶ。

 これがレイス同士の決闘――その凄まじさか。


 イオンはつまらないものを見るような目で、

 反応することすらできなかったケイを眺めていた。


「まさかとは思うけれど、このまま終わることなんてこと、ないよね」

「……さてね」

「練習が足りなかった、なんておかしなことは言わないでくれよ。

 レイスならテニスの技術は一流でしかるべきだ」

「……」


 そうだ、彼の言う通りだ。

 実際にミューも忙しいその日暮らしの間を縫って、朝昼晩とテニスの稽古に励んでいた。

 レイスならできて当然。それこそがテニスだ。

 

 ケイは頬を拭い、血紅を引き。

 ――口元だけで笑う。


「悪いな。球があまりにも遅くて、

 待っている間に寝ちまっていたんだよ」


 その減らず口を聞いて、イオンは目を細めた。


「なるほど。なら、もう一段階威力(ギア)をあげることにしようかな」

 

 イオンの怜悧な瞳がケイを刺し貫く。

 再び、来る――。


「――|分かたれた幽魂よ、我に従え!《フィフティーンラブ》」

 

 魂の座(ラケット)極光玉(ボール)が接触した瞬間、神殿内にはまばゆい光が輝いた。

 テニスは筋力で行なうものではない。レイスの生命エネルギーを振り絞り、叩きつけ合うのだ。

 

 パァァァァァン――と凄まじい爆発音がし、エネルギーを与えられた玉は加速する。

 その速度は先ほどのサーブの比ではない。


「――!」


 狙いはひとつ。

 ケイのその、首だ。

 

 あのボールを受けてしまえば、今度こそケイの体は吹き飛ぶだろう。

 だが――。

 

「精確無比なショットが来るとわかっていれば――!」

 

 ケイは半身になりラケットを振るう。

 ともすれば腕が吹き飛んでしまいそうな威力だったが、ラケットはケイの命令に応えた。

 弾丸を剣で切り裂いたような感触とともに、ボールは跳ね返る。

 イオンのその胸元に――。


「やるね! あれを返せるとは思わなかった!」


 見事な片手バックハンドでボールを打ち返すイオン。

 生命エネルギーをそそぎ込まれた光球はさらに勢いを増した。

 

 今度こそ肉眼では視認しかねるほどの速度。

 しかしそれが命で作られたものであるのなら――レイスには捉えるすべがある。


「わかっている。ここだろ!」


 すでにケイは回り込んでいた。 

 弾着し跳ね上がるボールのその上昇途中を、飛び上がりながら渾身の力で叩く。


 片足での着地姿勢が『ナイフが地面に突き刺さった形』に酷似していたことに由来する、バックハンドでの一撃必殺の攻撃手段。

 ――ジャックナイフ。


 ケイはこの技でインターハイを勝ち上ったのだ。

 その鋭さは一日二日で身に付くようなものではない。ケイはこの技に絶対的な自信があった。

 虹色の軌跡とともに飛翔するボールは見事ケイの足下に突き刺さり――。


「魔弾! そんな技も使えるとはね。

 王を名乗るだけのことはある。それなら僕も――」

 

 イオンの持つラケットは、すでに異形――。

 本来の楕円形ではない。それはまるで先端に鋭利な三角形をくくりつけた剣のようだった。

 

 魂の座(ラケット)は持ち手により千差万別だが、その多くはチューニングの違い程度でしかない。

 あそこまで大胆に形状を変化させる相手など、聞いたことがない。

 

「迅剣トリノリオン――その力を僕に示せ!」

 

 彼の剣は極光玉を正面から向かい打ち、そして反射した。

 ケイが見たのはただ光で埋め尽くされた世界だった。

 

 遅れて、痛みに気づく。

 左肩の肉がえぐりとられていた。極光玉が直撃したのだ。


「――ッ!」

 

 血が滴り落ちてテリトリーを濡らす。

 歯を食いしばっていなければ絶叫をしていただろう。

 そんな彼の気力を繋ぎ止めたのは、祈るようにこちらを見つめているシャルロットとモニカの姿だった。


「……」

 

 彼女たちは目の前で行なわれている偉大なる決闘を、どんな気持ちで眺めているのだろう。

 イーグルにはテニスの風習はない。だからきっと、この戦いの意味がわからないのかもしれない。

 あるいはとても――そう、とても滑稽で、奇妙な光景に見えてしまっているのかもしれない。


 でもそれでもいい。

 ケイはこの戦いに命を賭けている。それだけが事実としてあればいい。

 

「次の射手(サーバー)は君だよ。

 好きなように打ち込んでくるといいさ」

「……ああ」

 

 極光玉を受け取り、ケイは静かに息をつく。

 武藤ケイが元いた日本のテニスとは、多少ルールも変わっているようだけれど。

 

 でもどんな状況でも逃げるわけにはいかない。

 ケイは左腕を持ち上げ、ボールを放ろうとして――。


「――ぐっ」

 

 左肩に激痛が走り、その体勢が崩れる。

 当然だ、平時ならばとても動かせるような状態ではない。

 けれどそのまま、ケイはラケットを振り切った。

 

 結果――。

 ボールはケイの周辺テリトリーに着弾することなく、壁に当たって跳ね返ってくる。

 

因果応報(フォルト)

 

 静かにつぶやくイオンの涼やかな視線を浴びながら、ケイは「ああ」とだけ息を漏らす。

 決闘中の手当はどんな状況であっても禁止されている。真剣勝負の最中に『待った』などありえないのだから。


 肉体が傷つけられたことにより、刻一刻と体力が奪われてゆくこの状況は、ケイにとって明らかに不利だった。

 ラケットでボールを打つためには生命エネルギーが必須だ。そうでなければ反動でこちらの魂の座が砕かれる。

 

 だから、狙うならまずはイオンの足だ。

 彼の移動力を封じてしまえば、まともにテニスもできなくなるだろう。

 

「いくぜ、イオン……」

「今度はこの枠内に入れておくれよ?」

「抜かせ……!

 |開けよ門! 反逆の狼煙を焚け!《サーティーラブ》!」

 

 それは左肩をまともに動かせないケイにとって、今放てる限りの最高の一打であった。

 ダウンザラインを狙ったボールはその狙い通りに突き刺さる。

 もし相手が並の敵ならそれだけでサービスエースを取れていただけの出来映え。

 しかし、今目の前のコートに立つのは――レイスの先王イオンなのだ。


「悪くはないよ。僕の器になるだけの資格はあっただろうね。

 けれど、決裂させたのは君だ」

 

 トリノイオン一閃――容赦なくボールはテリトリーの最奥に弾き返された。

 荒い息を繰り返しながらケイはボールを追う。

 手を伸ばし、なんとかそれを拾い上げた。

 しかしその落下地点にはすでにイオンがいる。


「レインフォール!」

 

 魂の座から放たれたのは、いくつもの黄金の輝き。

 それらは流れ星のようにケイのテリトリーを強襲する。


「うあああああ!」

 

 一発一発がまるで弾丸のように重く鋭い。ケイの体は強い雨に打たれた砂の城のように削り取られてゆく。

 それでも抗う。光の中からただひとつの極光を見つけ出し、叩く。

 

 ボールは再びふわりと舞い上がる。

 はからずともロブのような形になってしまったけれど、イオンはそれすらも読んでいた。


 絶好のポジションを位置取り。

 なにもかもを従属させる王の如く口調で命ずる。

 

「このまま決着をつけてあげるよ」

 

 迅剣トリノイオンのその先端に、光が宿る。

 一目でわかった。それは逃亡すらも許さぬ慈悲なき断罪なのだと。

 

 急速に視界が狭まってゆく中、イオンの目と極光玉、そして剣だけが浮かび上がり。

 そして、イオンがその口を開いた――。


光あれ(スマッシュ)

 

 打ち込まれた極光玉は――。

 ――ケイのわき腹を突き破った。

 

 

 

 

 痛みはもはやなかった。

 ただ体が冷たくなってゆく。

 

 寒い。

 瞬きひとつで意識を失ってしまいそうだ。

 

「……おや?」

 

 けれど、立つ。

 されど、ケイは立つ。

 

「生きているのがやっとのようじゃないか。

 そんな死人のような顔色で、どうしてまだ戦おうとするのかな?

 すべてを僕に委ねれば、もはや苦楽すらもなくなるというのに」


 血の塊がぼとりと落ちてコートを叩く。

 ケイはイオンを見つめていた。

 

 自分のために死ぬと言い切ったアクシオンのことを思い出していた。

 自分に力を委ねてくれたミューのことを思い出していた。

 

 イオンはまさしく最強の敵だった。

 鼠よりもあの悪魔よりも、ファントムよりもメルディンよりも、ずっとずっと強い。


「諦めて、這いつくばれよ。

 もう一度最初から始めるんだよ。

 ルクシュの宝玉はなにもかも許してくれる――」

「――黙れよ」

 

 なのに、声は強く。

 意志は金剛石のようだった。

 

「40ー0。まだゲームは終わっちゃいない」

「……それは、ね」

「さあ」

 

 イオンを見上げ、ケイは壮絶に笑う。


「――テニスの続きをやろうぜ」



執筆者:みかみてれん

一言「犯人は「本当はテニスなんて書きたくなかった。ケイとミューちゃんが幸せそうにイチャイチャしている平凡な日常回を書ければそれでよかった。ついカッとなってやった。今は反省している」などと意味不明な供述をしており、余罪について追求をしてゆく方針である……」

http://mypage.syosetu.com/178437/


投稿代行者から一言「予約投稿をミスってつらたん。本当に申し訳ありませんでした……。というわけで、先行配信!」


次回は、著書の出版が間もない、桂かすが先生です!

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