受け継がれる記憶
リレー二周目四人目、執筆者はわいさんです!
エルモアの聖館にて、ケイは腕や足を振るう度にイーグルの猛者たちを吹き飛ばす。
圧倒的な力の差は、まるで別の生物であるようだった。人の形をした何かが、イーグルたちを襲っている。
数人が吹き飛ばされた所で、聖館を守る護衛たちは警戒した。
自分たちが子供相手に気を抜いたと思ったのだろう。
だが、半数が抵抗らしい抵抗も出来ない所で気が付いたのだ。
――自分たちでは勝てない。
――このレイスは普通ではないと。
彼らの構えに怯えが見て取れる。
瞳はイオンに恐怖している。
聖館の外では、襲撃が続いている事を知らせる人々の声が聞こえてきている。なのに、この場は静寂に包まれていた。
聖館に配置された護衛たちは、指揮能力よりも個人の技量を見込まれて配置されている。
剣の腕は無論の事、鷲の雷槌の扱いに長けた者たちが集められている。
イーグルの基本戦術が、紫電で相手の自由を奪ってからの近接戦である。
前提である紫電が利かない時点で、彼らの実力の大半は封じられたに等しい。
「おい、宝玉はどこだ」
怯えるイーグルの護衛たちを前に、ケイは低い声で威圧する。
本人にはそのつもりは無かったのかも知れない。だが、相手はケイの声に震えていた。
吹き飛ばしただけで、ケイは一人として殺していない。
今までと違う体の動きにも、酩酊状態で気が付いていなかった。
――ただ、思うのは二人の少女の事だけではなくなる。
(ミューは、俺に命を差し出した。そしてこの襲撃はレイスやファントムによるもの)
きっと自分は何も救えないのではないか?
聖館を歩きながら、自問を繰り返したケイはある結論に至る。
襲撃したのは暁の復讐者。
彼らが狙うのは、エルモアの聖館にある『ルクシュの宝玉』である。
レイスとファントムの関係はまだ完全には分かっていない。
だが、レイスがファントムに従っているようには見えない。
この襲撃自体、レイスが行ったように見えるだろう。
ケイは聖館への道すがら、気付いてしまった。
シャルロットやモニカが、憎悪の対象にするは自分も含まれるだろうと言う事を。
そして、自分が二人を救う簡単な方法は――。
「至宝だか、宝玉だが知らないが、さっさと出せよ」
真紅の瞳が薄暗い聖館内で不気味に光ると、護衛の一人が一つの扉に目を一瞬だが向ける。
(……そこか)
ケイはアクシオンに振り返ると、両者は頷いた。
二人が歩き出すと、動けるはずの護衛たちが道を作る様に扉までの道を開けた。
圧倒的な実力差と、尋常ではないケイに恐怖したのだろう。
腰が抜けたのか、剣を落とし、床に座り込んでいる者までいた。
「……いいのか? 二人を助けるだろ」
アクシオンの疑問に、ケイは頷いた。
シャルロットとモニカを助ける最善の手段とは、ケイが二人の元にたどり着く事ではない。
この襲撃を止めさせる事だ。
「至宝とやらを奪って、この襲撃を止める。奴らも目的の物が無いならこの馬鹿騒ぎを続ける意味がなくなるはずだ」
「いや、それは間違いないだろうが……成功するかは微妙だぞ」
アクシオンが疑うのも仕方がない。
ケイも今しがた考えたような案だ。成功率や細かな点などに気が回るはずもない。
聖館の中でも一際豪華な装飾がされた扉だ。
鍵穴はない。扉の感触から、部屋の内側から押さえられていると予想する。
ケイが軽く息を吐き、腰を落とす。
力を込めた拳を打ち込み、内側から扉を支えていた棚や椅子、急場の押さえがケイの一撃で扉ごと吹き飛んだ。
アクシオンがケイの力押しに呆れたような、それでいて頼もしいのか口笛を吹く。
「お前、いったいここ最近、何をしてたんだよ? それにしても、象徴とする物を納める部屋だとイーグルも安心するのかね? イーグルに加護なんか与えないってのに」
「……そうだな」
ケイには、アクシオンが何かを知っているように感じた。
ただ、優先順位が今はシャルロットとモニカの姉妹である。
問い詰める事はしない。
至宝が納められているであろう部屋に続く通路を、二人は歩き始める。
(不味いな。アクシオンの言った事が当たっていれば、この先にいるのは護衛対象だ。二人の無事は確認できても、俺は……)
これから至宝を奪うケイを見れば、二人の中で自分の立ち位置は暁の復讐者という事になる。
そうなれば、二人から向けられるのは出会った時の物ではない。
憎悪に染められた視線を向けてくるのは当然だろう。
「ありがとう、か……」
シャルロットの虚勢も、モニカの純粋さも自分は見る事は出来ないだろう。
ケイは覚悟を決める。
「どうした? もしかしたら、この先に二人がいるかも知れないってのに」
「いや、大丈夫だ(そうだ。もう決めたんだ。こんな馬鹿騒ぎを止めさせないと、本当に二人が死ぬ)」
短い通路を抜けると、そこには怯える女子供がいた。数人の若い護衛がいたが、剣を持った女性の護衛だった。
扉が破壊された事で、敵が乗り込んでくると察知していたのだろう。
剣を構え、小さな子供たちを母親らしき者たちが抱きしめている。
どこから運んだのか、酒樽や木材を使って即席のバリケードを作っていた。
ただ、祭壇へは手を加えているようには見えない。
一番奥の祭壇には、エルモアの至宝として『ルクシュの宝玉』が安置されていた。
怯えながらも、責任感があるのか一人の若い女性が前に出てきた。他の護衛は、怯えて涙を流している。
ケイたちがここに来たという事で、他の護衛が死んだと思ったのだろう。
生きていると知れば、きっと罵声を浴びせるだろう。
ケイが余計な事を考えると、護衛の女性は斬りかかってくる。
「こ、この下賤なレイス風情がぁ!」
扉の前に配置されていた護衛たちよりも拙い剣が、ケイを襲う。
型通りの綺麗な剣筋を、ケイは避ける事も無く二本の指で刃を挟むように受け止める。
力を入れても動かない剣を、護衛の女性は懸命に動かそうともがいた。
ケイを見る女性の目は、恐怖で染められている。
力を込めると、脆くも剣は砕けた。
真紅の瞳の眼光で、護衛の女性は座り込んでしまう。
興味を失くしたケイは、真っ直ぐに祭壇を目指す。
部屋に来た時から、二人の事を確認している。
確認してはいるが、二人に特別な行動はとらない。
声をかければ、笑いかければ、それは彼女たちの周りに疑心暗鬼を生む。
(無事ならそれでいいんだ。これでいいんだよな、イオン)
好きか嫌いか、そんな事は関係ない。
ケイは、二人に生きて欲しかった。だから、自分は――。
「これだな」
「あぁ、ルクシュの宝玉だ。間違いない」
アクシオンが肯定せずとも、ケイには見えていた。
この手の平に乗るような宝玉が、強い力を持っている事を。
いや――。
「これは……鍵か?」
ケイの言葉に、アクシオンは笑う。
その笑みは、ケイの知るアクシオンのものではなかった。
目を見開き、まるで歓喜にも似た感情をケイに見せる。
「気付いたな。宝玉を一目見て、鍵だと……イオン、いや」
アクシオンの言葉を遮るように、シャルロットが叫ぶ。
「あ、アンタ! あの時のレイスじゃない!」
「え、でも……お兄ちゃんは死んだって」
即席で作られたバリケードから顔を出したのは、シャルロットとモニカの二人である。
シャルロットは、ケイの隣に立つアクシオンへと視線を向けた。
「どうしてよ。どうしてイーグルが……あの時のお兄ちゃんが!」
シャルロットの向ける瞳は、まるで信じたくないと言っているようだった。
ケイが多少混乱すると、アクシオンがシャルロットに向き直る。
「邪魔をしないでくれるかな? これでも俺はレイスなんだよ。いや、正確には君が蔑むレイスとイーグルのハーフだ。あの時は本当に世話になったね、シャルロット」
「嘘つき……嘘つき! パパの事を守ってくれるって言ったのに!」
「立ち直ったようで何よりだ。けど、俺たちは急いでる。……ここにいる人間は運が良いよ。だって、レイスの王の帰還を目にしたんだから」
そう言って、アクシオンは右手を上げると指を鳴らす。
すると、ケイが殺さなかった護衛たちが雪崩込んできた。
同じイーグルの登場にイーグルたちは喜ぶが、すぐにその表情は青ざめる。
「止めろ、止めてくれぇ!」
「何をする! 俺から出て行け!」
「ちくしょう、ファントムなんかに!」
剣を構える彼らは、ケイとアクシオンを守る様な位置取りをする。
止めてくれと泣き叫ぶが、体は微動だにしない。
ケイがその光景に驚いたのは、アクシオンがファントムを呼び寄せた事だけではない。
操られているイーグルたちは、一体のファントムに操られていたのだ。
そして、幽鬼の形をしながらも、半透明でありながらも、より姿がハッキリと見えるファントムが一体現れた。
「やれやれ、私の任務は護衛なんだがね、アクシオン殿」
「悪いな。でも、それだけの価値はあったんだ」
二人の視線がケイに注がれると、ファントムはその姿を一度だけ大きく揺らめかせた。
アクシオンの反応に似ている。
アクシオンがファントムを連れている事に疑問を抱いたケイは、宝玉を握りしめる。
宝玉は熱く、それでいて懐かしい感触だった。
イオンの体にある、宝玉の知識がそう思わせるのかも知れない。
「どういう事だ、アクシオン」
「悪いな。俺の頼みを聞いて貰う番だよ、イオン。……いや、レイスの王よ」
アクシオンがケイに跪くと、ファントムは宙に舞った。
「……無礼を許されよ、新たなる王よ。だが、事は急を要するのです。アクシオン、わしの分体は置いて行く。お前は王を連れて脱出を急げ!」
泣き叫んでいた護衛たちは、急に黙ると無表情になった。
ファントムが天井に溶け込むように消えると、アクシオンは立ち上がる。
「もっと雰囲気のある所で言いたかったんだがな。仕方がないか」
「お前……」
ケイの言葉を遮るのは、モニカの声だった。
「お、お兄ちゃんたちは誰?」
その場の誰もが思った事を、幼いモニカは声に出す。即座に、ケイを守るイーグルの護衛がモニカに斬りかかった。
まるで機械の様に、ただ命令を遂行する動きを見せる、
「止めろ!」
ケイの止める声に護衛は動きを止めた。
ただ、アクシオンの表情は曇る。
まるで、二人の事を気にしているケイを、甘いと言っている表情だ。ケイも理解はしている。ここに来て、甘い事を言っていられる状況では無いと。
だが――。
「……アクシオン、話は後で聞かせて貰う。用が済んだなら帰るぞ」
「仰せのままに」
護衛たちを引き連れ、ケイは聖館を出るために出口へと向かった。
状況について行けないイーグルたちは、黙って自分たちを見送っている。いや、早く出て行って欲しかったのかも知れない。
そんな中で、シャルロットの視線にケイは気付いていた。
気付いていたが、ケイは何も言わない。
「人殺し。卑しいレイスの分際で……」
彼女と人殺しの定義を論ずる事も、言い訳をする事も無くケイは聖館を後にした。
△▼△▼△▼△
聖館を出た二人は、襲撃したレイスとは明らかに違う一団に出迎えられていた。
聞こえていた断末魔は、今は聞こえてこない。
それは、襲撃が終わった事を意味している。
レイスだけではない。ファントム、そして特徴を持った他の種族たちもケイに跪いた。
それが王に向ける物だと、ケイはなんとなく理解する。
横に立っていたアクシオンが、ケイに説明した。
「暁の復讐者の幹部たちだよ」
「……お前もそうなのか?」
「鋭いね。いや、今までのイオンにしては鈍いのか。俺も言いたい事はあるが、時間が無いから手短に話すぜ。俺たちは宝玉を求めて今回の襲撃を計画した」
ケイは頷く。メルディンたちの話と同じであり、それを知るアクシオンの言動は幹部と思わせるに十分だったのだ。
表向き、この襲撃は搖動だと知っていたような口ぶり。
ミューを失って見せた、悲しみを押し殺して計画の遂行を目指した決意。
そして――。
「俺がイオンじゃないと気付いたのはいつだ」
「……さっきさ。ミューの遺体を埋めるといった時だ。いや、本当はもっと前に気付くべきだったな。それにさ。イオンは俺たちのために死ぬとは言わないんだよ。イオンは、堅物でね。そんな状況にさせないって言うんだ」
力も無いのに馬鹿だよな――。
アクシオンは、悲しそうな顔でそう呟いた。
彼なりに、イオンがいなくなった事を受け止めようとしているのだろう。
「話がそれたな。俺の頼みを聞いて貰う。俺たち、『暁の復讐者』を率いてくれ。お前にはその力と資格があるんだ」
「俺は! ……ッ!」
先に動いたのはイーグルの護衛たちである。
ファントムの分体に乗っ取られた彼らは、ケイたちのために命を容易に投げ出した。
激しい紫電が彼らを焦がすと、彼らの命の光が弱くなる。
分体のファントムは消滅し、彼ら自身の命の光も消えようとしていた。
ケイが振り返ると、そこには左腕を突きだしたシャルロットの姿があった。
右手には護衛から奪ったのか、剣が握られている。
装飾された剣を持つシャルロットは、鬼のような形相で左腕から紫電を発生させていた。
左腕の服は弾け、皮膚には火傷の症状が見える。
「殺す。パパを殺したレイスを殺してやる!」
左腕から発生していた紫電は、徐々にシャルロットの体を巡る。
銀色の髪は、紫電を受けてまるで意志があるかのように蠢いていた。
剣を構え、そのままケイに向かって走り出した。
「このアマ!」
アクシオンがケイを押しのけ、シャルロットの前に出た。
ケイは、その瞬間にミューを思い出す。
(また、俺のせいで人が死ぬのか……いやだ。嫌だ!)
ケイの握りしめていた宝玉が光を放つと、主の意志に反応して本来の姿を取り戻す。
宝玉は祭壇に安置されるような物ではなく、本来のあるべき所とは――。
(そう言う事かよ……)
ケイはアクシオンの肩を掴むと、強引に自分の後ろへと投げた。
向かってくるシャルロットに向かって、宝玉を投げる。
すると、宝玉は本来の形を取り戻した。
「な、何よソレ! キャァァァ!」
シャルロットを、黄金の鎌が斬り裂く。
だが、血は一滴も流れていない。
紫電をかき消し、シャルロットをすり抜けた。
シャルロットの後方で床に突き刺さる鎌は、黄金の鎌である。
柄から刃に至るまで、全てが黄金で作られていた。
それは、ケイのエーテルの輝きに酷似している。
鎌は、まるで吸い込まれるようにケイの元へと戻ってくる。
大きな刃の部分には、文字だか絵だか分からない模様が刻まれていた。
その鎌を肩に担いだケイは、自嘲する。
宝玉が鍵となり、イオンの力を解放したのだ。その記憶と共に。
(まるで死神の鎌だな。いや、その物だ)
どういう理屈かは知らないが、ケイにはこの世界の言葉が理解できた。
そして、ケイは自分たちがレイスだと頭が理解したのである。
(レイス……不死者。そうか、そういう事かよ)
生き物から生命力を吸う自分たちは、死ねば同族がその体を構成するエーテルをも吸収する。
彼らには死者が自分たちの中で生きるという概念だ。
それは、死んでも生き続ける事を願っている。
イブリースである悪魔をも退け、魂として取り込んでしまうレイスは、確かに強力だろう。
イーグルの鷲の雷槌などよりも、よっぽど恐ろしい力だ。
イオンが本当に恐れていた事を、ケイはこの時に知ったのだ。
全ての生命の上に立ち、命を刈り取る自分たちの存在を――。
過去の栄華と、その結果起きたイーグルの裏切りを――。
(イオンの奴、本当は力の使い方も戦い方も知ってたな。知っていたから、恐れたのか)
イオンは頭が良かったのだろう。
だから、きっとアクシオンの事にも気が付いていた。
その結果を予想する事も可能だったなら、容易に想像が出来る。
血で血を洗う種族間の争いだ。
かつてのイーグルがレイスにした事を、長い年月が経った今になってレイスがやり返しているだけだと知っていたのだ。
知っていたから、彼は死を選んだのだろう。
膨大な歴代の王たちの記憶と、虐げられたレイスの記憶を受け継いだイオン。
彼は、それ故に死を選んだ。
「お姉ちゃん!」
シャルロットが心配になり飛び出してきたのか、モニカがその場に現れる。
アクシオンが剣を拾い、構えるのをケイは手で制した。
「やだよぉ。お姉ちゃんまで居なくなったら、私、わたし……」
横たわる姉にすがり付き涙するモニカに、ケイは心が痛くなる。
鎌の柄を一度だけ床に打ち付けた。
金属の音色とは違い、まるで鐘の音のような響きが辺りに広がる。
すると、憑りつかれたイーグルの護衛たちが息を吹き返し、シャルロットも目を覚ました。
(成程、まさに自分たちが神に等しいと錯覚する程の力な訳だ)
命を落としてからも、散るまでには多少の時間がある。
宝玉はそのわずかな間だけなら、相手の体さえ無事と言う条件付きで命の吹き込めるのだ。
「おぉぉぉ!」
「まさしく伝説の通り!」
「王の誕生だ!」
現場を見ていた暁の復讐者たちが騒ぎ出すと、アクシオンも信じられないといった表情をケイに向けてくる。
「伝説なんて嘘だと思っていたんだがな。死者を生き返らせる事が出来るのか?」
言葉には出さないが、ミューの事を言いたいのだろう。
ケイは首を振る。
「そんな万能なもんじゃない」
ケイが幹部たちに振り向くと、高らかに宣言する。
「俺は暁の復讐者に入る気は無い」
「イオン!」
アクシオンが、ケイの言葉に反応して近付く。
だが、ケイはまだ終わっていないとアクシオンを睨みつけて制した。
「俺は……俺は新たな王になる。この世界に新しい国を作る!」
「……」
幹部たちが黙る中で、起きたイーグルの幹部たちは唖然としていた。
黄金の鎌を肩に担いだ少年が、高らかに王になると叫んでいるのだ。
普通に聞けば笑い話だが、今のケイにはそれだけの力があった。
一人、また一人と、ケイに向かって跪く。
その堂々たる姿は、まさしく王の風格であった。
△▼△▼△▼△
――三年後。
街にある一番立派な屋敷の書斎には、ケイとアクシオン――それから、シャルロットとモニカの姿があった。
今では彼らの仕事部屋であり、一年前から屋敷は政庁の役目を担っていた。
「ちょっといい加減にしなさいよ!」
「悪かったって言ってんだろうが!」
「お姉ちゃん、落ち着いてよ」
アクシオンはいつものやり取りを聞きながら、飽きない連中だと頭をかいていた。
イオン――改め、ケイにシャルロットが掴みかかっている。
少しは大人びて来たかと思えば、ケイには相変わらずの対応だ。
逆に、妹であるモニカの方が大人の対応をする。
王になると宣言したケイに、全ての暁の復讐者が従った訳ではない。
それは、ケイの掲げる理念に賛同できないからだ。
「おやおや、また喧嘩かね?」
ファントムであり、自分たちの護衛や伝令を兼ねるボルバル・ファントムが、壁から顔を出してきて呆れていた。
「飽きない連中だよな、本当に……それで?」
ボルバルが来たという事は、何かしらの伝令が来たのだろうと判断した。
嫌な報告は聞き飽きたので、ここ最近で聞けるようになった嬉しい報告をしてくれと、若干祈りながら。
「たいした事じゃない。また受け入れてくれと難民が流れてきただけさ。ただ、最近は色々と嗅ぎまわっている連中も多くてな」
「……何人だ?」
「五十人ばかりに三人も紛れ込んでいたよ。いずれもレイスだったがね」
「たっくよぉ」
イーグルか、それとも暁の復讐者から送り込まれた連中の対応に苦労する。
圧倒的な力を持つケイだが、戦闘以外ではほとんど役に立たない。
ケイではなくイオンがいてくれたらと、内心で思った回数は優に百を超えている。
時折、ケイが素晴らしい閃きを示すのだが、それは実現不可能だったり、詳細な部分の知識が欠けておりアクシオンが苦労する事が多かった。
このままではどんどん髪が抜けると思いながらも、アクシオンは頭をかいてしまう。
ケイが武闘派なら、彼は知能派だ。
役割分担をしてきた事で、今までは十分だった。
だが、基本的に虐げられてきた自分たちは武闘派が多い。
勉強などしている時間がなかった事も大きいが、集まってくるのはどちらかと言えば力を持たない女子供に年寄である。
イブリースに支配された街を解放したまでは良かったのだ。
ただ、そこを拠点にしてからがアクシオンの苦悩の始まりである。
「なんで歴代の王の記憶があって、こんな統治しか出来ないのよ! もっと、知識を有効に使いなさいよね!」
「言ってるだろうが! 断片的な知識はあるけど、それを俺が理解できないんだよ! お前が言う程に、便利じゃないんだからな!」
アクシオンが言いたい事を、シャルロットが代わりにケイに言ってくれている。
自分が担いだ事もあり、ケイには強く言えない部分だ。
「……二人とも、夜は仲良しなのに」
モニカの声に、二人の動きが止まる。
アクシオンは、ボルバルを伴って部屋から退散するのだった。
出て行った部屋からは、シャルロットの叫び声が聞こえてくる。
執筆者:わい
一言「やってやった! やってやったぞぉぉぉ? とういうわけで、次の人が困るであろう展開を丸投げしてみました。 ドラグーン~竜騎士への道~1 発売中!」
http://mypage.syosetu.com/218376/
明日は受験頑張ってる赤巻たると先生です! 3年後には受験終わってるはずです。




