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レイスの王  作者: 星崎崑・桂かすが・みかみてれん・理不尽な孫の手・鼠色猫・わい・赤巻たると・ピチ&メル
13/18

王の帰還

リレー二周目三人目。書いたのは私、星崎崑です。



 イオン(ケイ)がメルディンと死闘を繰り広げている間にも、暁の復讐者による侵攻は続いていた。

 彼らの目的はエルモアの至宝『ルクシュの宝玉』である。

 しかし、末端の兵はそのことを知らされていなかった。彼らの役目は陽動。

 ただ「イーグルを殺せ」「我らの誇りを取り戻せ」と、それだけを命令されているだけだ。


 では誰が、エルモア聖館を襲い『ルクシュの宝玉』を奪うのか?

 決まっている。

 イオンに倒されたメルディン一行である。


 最も戦闘力の高いメルディン一行による強襲。

 混乱に乗じて速やかに『ルクシュの宝玉』を奪還(・・)

 それがこの作戦のキモであり、わざわざリスクの高い都市襲撃作戦に出た理由でもあった。


 この作戦を立案した者は、イーグルの内部事情に通じ、街の地形にも明るく、なによりもレイスの復権を願っていた。

 エルモア聖館には、師団長クラスのイーグルも詰めているだろう。しかしメルディンの類まれなる戦闘力があれば、失敗などするはずがない――

 その考えは、決して間違ってはいない。事実、全く問題なく作戦は成功するはずだったのだ。


 ――イオン(ケイ)というイレギュラーさえ存在しなければ。



 △▼△▼△▼△



 ミューと共にイオンを追いかけていたアクシオンだが、イーグルの外見的特徴を備えた彼にとって、それは危険極まりない行動だった。

 もはや戦場と化したこの街で、イーグルの姿をした者がウロウロしていれば――

 案の定、アクシオンは暁の復讐者に見つかってしまう。

 ミューにはイオンしか見えていない。

 あっと言う間に見えなくなってしまった。薄情なやつだと、アクシオンは自嘲気味に笑う。


 アクシオンがこれを退け広場に到着したのは、すべてが終わってからだった。



 広場の中心、黄金色に輝く命の奔流にアクシオンは目を細めた。

 

「イオン……」


 ミューの亡骸を抱きかかえるイオン。

 アクシオンのほとんど無いに等しい生命力感知能力でも、眩しいほどに輝くその力は痛いほどに感じ取れた。

 足元には、見覚えのある誰かの頭を潰された死体。


 状況は――理解できない。

 理解できないが、理解できてしまった。


 イオンはアクシオンの到着に気付いているだろう。

 もともと、イオンは生命感知能力に秀でていた。

 それでもなにも言わない理由は、イオンの腕に抱かれたミューの姿にあるのだろう。

 アクシオンはイオンに歩み寄った。


「イオン……。ミューは、死んだのか……?」


 イオンが顔を上げる。

 その生気の溢れる姿とは裏腹に、沈痛な面持ちで、ただ、


「……ああ」


 とだけ、短く答えた。


「そっか。……ちゃんと、吸ってやったんだろうな」

「……ああ」

「ならいい。散らしたなんて言ったらぶん殴ってるところだ」

「……俺を、許すのか? アクシオン」


 懺悔でもするかのようなイオンの白い顔を見て、アクシオンはひとつ息を吐いた。

 イオンがなにを気にしているのかは理解できる。

 だが、それはレイスの常識とは離れた考え方だった。

 レイスにとって最愛の相手の命を吸ういうことは、最愛の相手の命と同化し共に生きるということ。それが最大の供養であり、またレイスにとって親愛の表現である。

 死の間際には、ほぼすべてのレイスがこれを望む。

 普段、意識していなくても。

 それがレイスの本能だからなのだろう。


「イオン。ミューはお前を守ろうとして死んだんだろう? なら、こいつも本望だったと思うぜ」

「死んで本望なんてこと、あるかよ……」

「あるだろ。イオン。お前は俺やミューの為には死ねないか?」


 アクシオンには確信があった。

 イオンは自分やミューの為になら、命だって投げ出す。アクシオンの知るイオンはそういうやつだった。


「そうか……死ねる、かもしれない。――ああ、俺、行かなきゃ」


 アクシオンにとって満足の行く答えを口にした後、突然思い出したかのようにイオンは顔を上げた。


「俺、エルモアの聖館に行かなきゃ。まだやることが残っているんだ」

「聖館に……? よし。俺も付き合うぜ」

「いいのか? 逃げなくて。無理に付き合ってくれなくても」

「今更だぜ、相棒。それに俺は見た目がイーグルだからな。下手に歩きまわったらファントムに取り憑かれちまうよ」


 笑って、アクシオンはその銀色に輝く髪をかきあげた。

 輝く銀髪。

 金か銀の頭髪。イーグル特有のものだ。

 それは暁の復讐者を惹きつける格好の目印となるだろう。


「そっか。ありがとう」


 イオンが感謝の言葉を口にする。

 アクシオンが危険を顧みず駆けつけたことに対してだろう。確かに危険はあった。だが、アクシオン自身の思惑も過分にあったのも否定はできない。


 聖館は街の中心部。ここからなら十分もかからないだろう。


「待て、イオン。ミューの亡骸はどうするんだ?」


 イオンはミューを抱きかかえたままだ。


「落ち着いたら、どこか見晴らしの良い場所に埋葬しようと……」


 やはり、どこかおかしいとアクシオンは感じた。

 それは人間の考え方だ。


 レイスは、死体を構成するエーテルを親族で少しずつ吸い取り、故人の魂を引続ぐことを最大の供養とする。故に、肉体を大地に返すという人間式の埋葬方法を採ることは、ほとんどない。


「イオン。ミューを食ったんなら、あいつの気持ちはもう伝わってるんだろ。吸ってやれよ、全部。それがレイスの生き方だ。お前にできないなら俺がやるぜ」


 アクシオンの提案は、レイスなら当然のものだ。

 イオンは一瞬の逡巡を見せた。だが、すぐに決意した。


「そうか……そうだね。俺が、やるよ」


 イオンがミューの冷たい頬にそっと手を当てる。

 俯いたイオンの表情から、その心中は窺い知れなかった。


「さよなら、ミュー」


 一言だけ別れの言葉をつぶやく。

 崩れ消え去るミューの躯。

 だがその魂は、イオンと共にある。



 △▼△▼△▼△



 戦火は広がっている。

 暁の復讐者による侵攻で、街はほぼ壊滅したと言っていいだろう。


 街にはイーグル以外の種族も多く住んでいる。

 むしろ支配種族であるイーグルよりも、多種族のほうが数は多いくらいだろう。そして彼らも暁の復讐者の攻撃対象になった。

 被差別種族だったレイスとファントムにとって、最優先種族がイーグルだというだけで、他の種族とて自分たちを差別し迫害してきたことには変わりがなかったのだ。

 攻撃目標はイーグルのみに非ず。


 しかし、レイスは同族である。

 あえてレイスに攻撃を加える必要はない――


 アクシオンの銀髪をミューの遺品であるシャツで隠し、ケイとアクシオンの二人は無事にエルモアの聖館に辿り着くことができた。


 道中、暁の復讐者らしきレイスとファントムを何度か見かけたが、生粋のレイスであるケイとその同行者に、あえて攻撃を加えてはこなかった。

 彼らがイーグル狩りに夢中だったからというものあるだろうが。


「よし。着いたぜ。ここがイーグルどもの総本山。『エルモアの聖館』だなんて、言っちゃあいるが……なぁ?」


 エルモアの聖館は、街の中心部に建ち、一部風化した石の外壁がその歴史を思わせる建築物だった。

 ケイの日本人としての知識では「教会」とか「聖堂」と呼ばれるものに見える。

 聖館などと言うくらいだ。彼らの神を祀る場所なのかもしれない。


 だが、ケイにとってはそんなことはどうでもいいことだ。

 シャルロットとモニカの無事を確認する。二人を守る――。そのことだけが今のケイの行動原理だったのだから。


「イオン、どうする? いや、ここに何の用があるんだ? イーグルを皆殺しにでもするのか?」


 アクシオンが疑問を投げかける。

 イオンはこの聖館の存在は知っていても、近づくことはなかったはずだ。

 そうでなくとも、街の中心部にレイスが近寄れば、すぐに追い払われてしまう。


 イーグルを皆殺しにする? などと聞いたのは、アクシオン流の冗談だったが、通常のレイスであれば――あれだけの力を手に入れれば――誰でも、それを望むだろう。

 もちろん、ケイがそれを望まないであろうことは、広場の惨状を見た時から、アクシオンにはわかっていたのだが。


 ケイはアクシオンの質問を思い出していた。


 ――あるだろ。イオン。お前は俺やミューの為には死ねないか?


 死を賭してなど、言葉で言うほど簡単なことではないと思う。

 だが、自分は見ず知らずの少女達を命懸けで助けた。あの暴力の塊のような悪魔から。文字通り命を懸けて。

 あの時の自分は、見ず知らずの少女たちですら、助けられるなら死んで本望と思い行動していたのではないか。

 そして、今、その少女達の命が危険に晒されている。


 一度助けた命だ。他の者に奪わせてなるものか――


「昨日、俺といっしょにいたイーグルの少女たちがここにいるはずなんだ……。俺は二人を助けたい。アクシオンも見ただろう? 俺はあの娘たちを助けなきゃならないんだ」

「助ける? イーグルの娘を助けるのか?」

「ああ、イーグルかどうかなんて関係ない。俺が、そうしたいんだ。これはただの我侭で、こんなことに巻き込んで本当に悪かったと思ってる。ミューのことも……」

「ストップ。いいぜ、イオン。お前がそうしたいなら、俺は手伝うだけだ」

「悪い」


 ケイは頭を下げた。


 真紅の輝きを見せるケイの瞳。

 立ち昇る程の輝きを見せる、その力強い黄金色の生命力。


 シャルロットとモニカを助ける。ケイのその覚悟は本物だった。


 ――何から助けるのか。誰から助けるのか。ケイ自身、よくわかっていなかったとしても。


 聖館の扉を開けようとしていたケイに、アクシオンが後ろから声を掛ける。


「でもな、イオン。お前の用事が終わったら、今度は俺のほうの頼みも聞いてくれよ?」

「ああ。なんでも聞くよ」


 ケイは気負いなく承知した。


「頼んだぜ」



 △▼△▼△▼△



 エルモアの聖館には十数人のイーグルの護衛が残っていた。

 しかし、鷲の雷槌の効かないイオンの敵ではない。

 少女の居場所を教えないイーグルに苛立つイオンは、枯れ枝を払うように男たちを跳ね飛ばしていく。


 イオンの目指す先は、エルモアの二人の少女。

 あの(・・)師団長が連れていた、二人の子どもだろう。

 なぜ、あそこまでイオンがあの少女たちに固執するのかはアクシオンにはわからなかった。

 そのせいでミューが、メルディンがという気持ちも正直に言えばなくはない。


 アクシオンには、イオンとメルディンがぶつかった理由も、ミューが死んだ理由もだいたいは推察できていた。

 暁の復讐者の参謀の名は伊達じゃない。


 メルディンがイオンを仲間に引き入れようとして振られ戦いになったのだろう。

 普通に戦ってイオンがメルディンに勝てるはずがない。

 いくら王の血族であろうと、あれだけの命を溜め込んだメルディンに勝てるレイスはいないと言い切れる。それほどメルディンは規格外だったはずだ。


 だが、イオンは勝った。

 我々が待ち望んだ、王としての力を呼び起こして。



 暁の復讐者のいない聖館でイーグルを蹴散らしながら突き進んでいくイオン。

 その姿は、暁の復讐者そのものだったが、本人は気付いていない。

 強い力――おそらくメルディンの力だろう――を吸い、一時的に酩酊しているのかもしれない。

 それとも、あの黄金色に輝くの生命力によるものか。

 つい今朝まではなかったはずの力。


 大地のエーテル。

 黄金色に輝く星の生命力。

 それはつまり、イオンの王としての覚醒を意味していた。


 いずれにせよ、計画が半ば頓挫した今、イオンが聖館で暴れてくれるのは、アクシオンにとっては好都合だった。



 ――広場での惨状を見た瞬間。アクシオンは作戦の失敗を悟った。


 長い年月を掛けた作戦だった。

 アクシオンは、暁の復讐者の幹部の一人として準備を重ねてきた。

 特にイーグルの外見を持つアクシオンは、情報収集能力という点で他のレイスにはできない仕事ができた。

 闇夜に乗じ、殺したイーグルの数も両手では足りないだろう。


 一昨日、エルモア最強の騎士とされたグランド・イーグル・アンダーフォレットを殺すことができたのも僥倖だった。

 足手まといの子どもを二人も連れていなければ、危ないところだっただろう。護衛だと油断させ、自分とファントム一体だけで打倒せしめた。

 イブリースの横槍がなければ、あの二人の少女も殺せていただろう。


 そして今日の決起。

 末端の兵には、「イーグルの抹殺」が目的だとしか伝えていない。それゆえ、イーグルの姿をしたアクシオンは作戦に参加せず、彼にとって掛け替えの無い兄弟分であるイオン、ミューと共に隠れているつもりだったのだ。

 あとは、バカだが抜群に強いメルディンが『宝玉』を奪還してくるだけだった。

 数年にわたる計画が成就する――


 すべては、イーグルから宝玉を取り戻し、有るべきところに戻す事が目的だった。


 あれは本来、レイスの王が持つべきものなのだから。



執筆者:星崎崑

一言「リレー小説なんて楽しそう! 楽しい! と始めたのはいいけど、他作家様と執筆力だの文章力だの比べられて凹む可能性は考慮してなかった! 浅はか!」

http://mypage.syosetu.com/183419/


次回執筆者はわい先生です! 君は刻の涙を見る……

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