第七話 異世界マルチネットワーク(アキナside)
先生が言った誰でも簡単に稼げる方法は、市場での商品取引を利用した方法だった。
まず前提として市場では様々な商品が売買されている。その中で大手冒険者パーティーの出資権やスライムの結晶など取引が盛んに行われている商品は、個人の裁量で価格をコントロールすることはできないため、今回の計画の対象外とする。
だが、マイナーな冒険者パーティーの出資権や世間の関心を集めていない素材などは日々売買される金額が少ないため、多くの市場参加者の注目が集まれば需給のバランスが崩れて一気に価格を動かすことができる。
先生から教えられた計画の流れを思い出す。
まず経済に精通した先生が時流を読み需給のバランスを崩す対象を決める。それから私たちチームの参加者は先生からの指示通りに、需給のバランスを崩さない程度にひっそりと商品を買い集める。買い集めがある程度終わると宣伝担当がその商品の素晴らしさや将来性を街で噂として広げ、私たちは需給のバランスを崩すため一気に商品の大量購入を行う。すると市場では売りたい人より買いたい人が大量に現れたことになるので、商品の価格は上がる。
そうしたら私たち以外の市場参加者はどう思うか。
商品の魅力は日々耳に入り、実際に価格は上がっている。
ならば儲けたい市場参加者はさらなる値上がりを期待して商品を買う。チームメンバー以外の買いが集まることで商品価格はさらに上がる。そうして上がったところでチームメンバーが一斉に売り抜けるというのが稼ぎ方だ。
この方法の凄いところはみんなで一斉に売買を行うため、商品の値上がりのタイミングだけでなく値下がりのタイミングも当てることができるというところだ。
値下がりが起こるタイミングが分かれば、空売りという方法でさらに稼ぐことができる。
通常の商品売買は価格が安いときに買って、値上がりしたときに売ることで稼ぐ方法だが空売りはその逆である。商品価格が値下がりするときに稼ぐ方法である。
値下がりすると思う商品を市場から借りてきてそれを売る。例えばその商品の価格が金貨三枚だとしてそれが後に二枚に値下がりしたとする。商品を借りたということは返さなくてはならないため今度は商品を金貨二枚で市場から買って借りていた先に返却する。
そうすることで差額の金貨一枚が利益になる。
まあ先生が言うことには商品価格の購入は買った商品の価値がゼロになっても投資額を失うだけだが、空売りの場合、予想が外れて大暴騰した場合に投資額以上の損失を被ることになるからあまりお勧めはしないらしい。
意外と堅実派でびっくりした。
そんなわけで私は先生のチームに参加することになった。
最初に購入推奨商品として伝えられたのは、治癒に特化した中堅冒険者パーティーである「ヒーリング」の出資権である。
私は言われるがまま「ヒーリング」の出資権を買った。
宣伝担当は投資対象として「ヒーリング」がいかに優れているかを広めた。なんでも今はカメリアの内乱から武具に使う功績や戦闘に強みを持つ冒険者パーティーの出資権の市場取引価格が高騰しているが、内乱が長引くにつれ今後は治癒に注目が集まるはずとのことだ。
そして先生の指示に合わせて価格操作のための追加購入をした
。
需給のバランスは崩れる。
一気に買いが集まり「ヒーリング」の出資権は値上がりした。
今度は先生の指示に合わせて売ることで私は利益を得ることができた。利益は金貨四枚だった。
すごい。
素直にそう思った。言われた通りに売買するだけで本当に稼げた。これこそ本当に必勝法なんだなって思った
これからも先生のチームに参加したいと思った。
先生からは今後も参加するためには、商品選定のための情報収集にかかる費用と広告担当者への報酬のために毎月金貨三枚は最低でも払って欲しいと言われた。
私は従った。金貨三枚は決して安くないけど先生の指示通りに動けばもっと稼げると思ったから。
正式な加入の後、市場のコントロール以外でもう一つ稼げる方法があると教えてもらった。
それは勧誘による報酬獲得だ。
商品の需給のバランスを崩すためには大量に買いを集める必要がある。つまりチームのメンバーは一人でも多い方がいいのだ。
だから私たちメンバーはチームに誰かを勧誘することが推奨されている。
一人勧誘するごとに参加者が払う月会費の一割である銀貨三十枚が貰える。さらに勧誘した人がまた別の人を勧誘すると最初の勧誘者も紹介報酬である銀貨三十枚の一割である銀貨三枚が貰える。
最初の勧誘は苦労するが紹介者が増えれば増えるほど、監修者の勧誘者が増えて不労所得に近づくというのだ。
私は今日、勧誘活動のデビュー日だ。基本的には男女ペアでの活動となるのだが、ほかの男の人と一緒にいるところをハルトに見られるのも嫌なので、私はエキドナさんと組ませてもらった。
待ち合わせ場所である商店街のアーチ前で待っていると、背中を軽く叩かれた。
「おはよ! リリスちゃん」
いつの間にか私の隣には元気いっぱいのエキドナさんがいた。
リリスというのは私のあだ名である。チームに正式に参加したことで、ハルナという偽名ではなく先生から与えられたモンスター名が由来のあだ名を名乗ることになったのである。
「おはようございます」
「敬語じゃなくていいよ。フレンドリーな方が信頼してもらえる確率高くなるし」
エキドナさんは砕けた口調で笑いながら言う。
「うん。そうだね。ならタメで」
先輩の言うことには素直に従った方がいいだろう。それにしてもこれまでナンパとかで声を掛けられることはあっても、自分から積極的に話しかけることはこれまでの人生でほとんどなかったから緊張するな。
「おっけ。ちなみに基本の流れは覚えてる?」
「大丈夫。まずは声掛け。そこから所定のカフェで勧誘担当者であると合流。先生の話に応じて相槌を打つんだよね」
勧誘はマニュアル化されている。先人たちが積み上げた成功率の高い方法らしい。初めてエキドナさんとイエティさんに声を掛けられたときは、なんであんな割高なカフェに行くのだろうと不思議だったけど場所が指定されていたというのが答えだ。
エキドナさんは私の回答に対して満足そうに頷く。
「正解。私たちが先生の話を真剣に聞くことで、なんだか凄そうっていう空気が伝わり勧誘成功率が上がるんだって!」
「すごいね。よくこんな方法考えたなーって思う」
実際に私は勧誘を受けてチームに参加しているわけだし。
「うん。先生はすごい。私は全然頭良くないけど先生と出会って人生変わったもん。きっとリリスちゃんもそう思えるようになるよ」
キラキラ輝くエキドナさんの目に曇りは一つもない。先生のことをよっぽど信じているらしい。
チームに参加を決めたのだから私も信じるしかないよね。
実際に商品売買では稼げたのだ。勧誘も頑張るしかない。
「そうだね。稼ごう」
「うん稼ごう! 目指せ不労所得だよ」
エキドナさんはおーって気合を入れながら右手を高く掲げた。




