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第六話 就職活動始めました

 冒険者ギルドに併設された小さな個室。

 俺は席について正面に座る大柄の男に深々と頭を下げた。この場において男は面接官であり俺は求職者だ。

 さすが大手の冒険者パーティーの面接官といった感じで、装備している防具も高級感がある。


 今日は冒険者パーティーの採用面接。スライムの結晶価格は下げ止まる気配はなく、背に腹は代えられないため冒険者パーティーに就職することにした。

 給料とか福利厚生が優れている大手から順番にエントリーシートを提出して、ようやくたどり着いたこの面接試験、豊かな生活のためにも絶対に落とすわけにはいかない。


 というか冒険者育成学校時代はどんな大手でも受験できたのに一回フリーランスを挟んだ途端、応募資格すらぐっと減るのだから社会の厳しさをひしひしと感じる。

 面接官が口を開く。


「では、簡単にで構いませんので自己紹介をお願いします」

「ハマノハルトです。十六歳で冒険者育成学校を卒業して、その後はフリーランスで冒険者を行っていました。本日はよろしくお願いします」

「ハマノ様ですね。早速ですが我々のパーティーを志望してくださった理由を教えてください」


 志望動機というのは面接では定番の質問である。本音を言えば大手で給料が高いからでしかないのだが、そんなことを面接の場で言ってしまえば落選してしまう。


 だから定番の質問に対する回答は事前に考えておくことが必須だ。これを用意しないなんて武具を装備せずにモンスターと戦いに行くようなものだろう。当然俺も事前に用意した回答があるため、それを一言一句違わず伝える。


「私があなた方の冒険者パーティーを志望した理由は、あなた方のパーティーの結成の精神である『モンスター討伐を通じて優れた人格形成に励み社会の発展に寄与する』に感銘を受けたためです。先ほどの自己紹介でも申し上げましたが、私はフリーランスの冒険者として活動してきました。だが活動を通じる中、一人で活動するより仲間とともに切磋琢磨しながらモンスターを討伐したいと思うようになりました。あなた方のパーティーは人格教育に力を入れており、あなたたちのような優れた人格を持つ方々と仲間になりたいと思い、パーティーへの参加を志望させていただきました」


「ありがとうございます。ちなみにフリーランスで活動していたとのことですが、これまでどのようなモンスターを討伐してきましたか? 討伐証明などがあればそれも合わせてお教えください」


 これまでスライムしか倒していないので優れた実績などない。だからここは適当に誤魔化す必要がある。


「そうですね……ほかのパーティーに要請を受けてモンスターを討伐していたため討伐証明は持っていないのですが、有名どころのモンスターですと、キングオークやダークドラゴンの討伐には参加しました」


 冒険者育成学校時代にトーリエに連れられて討伐に参加したことはあるから嘘ではない。まあ参加と言うよりトーリエが無双するのを後ろから眺めていただけだけど。


 だが、ダークドラゴンもキングオークも強力なモンスターとして有名だしなんとなく凄そう感は伝わるはずだ。

 面接官は目を丸くして感嘆の声を上げる。


「キングオークにダークドラゴンですか。ハマノ様の若さでそれはすごい実績ですね。討伐時にどのような役割を果たしていたのですか?」


 なんというか白々しいな。口先ではすごいと言うが、表情の機微から疑っていることが丸わかりだ。本当にこの目の前の若手冒険者がダークドラゴンやキングオークの討伐に参加したのかと。


 そんな作戦に主力として活動するような人材なら、きっと何かしら討伐証明を得る機会に恵まれるはず。だからここで俺がアピールするべきはサポート力。


「パーティーの副リーダーとしての役割を全うしました。リーダーとほかのメンバーの間に立ち潤滑油としてパーティーの運営が円滑に進むように努めました。そのため協調性には自信があります!」


 俺は自身を誇張するように堂々と胸を張った。


「協調性ですか……協調性に対する強みを自覚していながらファーストキャリアにフリーランスを選択したのはどうしてでしょうか?」


 面接官が俺に向かって問いかける。声色は先ほどまでと大きく変わらないが、表情から疑いの気持ちがより一層強くなったとことがはっきりと分かる。

 答えを即答できずにいると、面接官は続けた。


「最初からどこかのパーティーに所属した方が活躍できたのではないでしょうか?」


 おっしゃる通りですね。

 そう思いながらもそれを受け入れることはできない。採用に値する有能な人材であるとアピールしないと。

 必死に俺はその後も面接官の質問に答え続けた。だが面接官の俺に対する疑惑の目が晴れることはなかった。面接官は「結果は後日、パーティー内で熟考したのち冒険者ギルドを通じてお伝えしますね」と言ったが、表情からすでに落選を決めていることは明らかだった。



 先日の面接の結果を受け取るために、俺は冒険者ギルドへ向かった。面接官の表情から結果が分かっていても、ギルドで直接聞かないといけないルールであるから逆らえない。

 ギルドに直接来させることで、併設の飲食コーナーでの食事やモンスター討伐依頼を受注してもらいギルドも一稼ぎしようということなのだろう。


 ギルドの入り口でため息が漏れる。

 採用試験の結果を聞くには受付嬢と話さなくてはならない。担当がアキナだったら最悪だ。誰だって落選という自分のダサいところを恋人に見られたくなどはない。

 担当がアキナ以外でありますようにと願いながら、就職担当の窓口へ向かった。


 呼び鈴を鳴らす。奥から受付嬢は出てきた。

 受付嬢は深々と頭を下げてから口を開く。


「お待たせしました。ご用件をどうぞ」


 顔を見て安堵する。よかった。アキナじゃない。


「すいません。先日ギルド経由で冒険者パーティーの面接を受けたので結果を教えて欲しいと思いまして」

「承知いたしました。ではお名前を教えてください」

「ハマノハルトです」

「ハマノ様ですね。承知致しました。少々お待ちください」


 受付嬢はテーブルに置かれた水晶に向かって手をかざした。水晶には魔力が込められており、受付嬢が装備した指輪と反応して様々な情報が表示される。


「たしかに結果が届いていますね。では読み上げさせていただきます。ハマノ様。このたびは選考にご参加いただきありがとうございました。慎重に検討した結果、ハマノ様のご期待に沿えない結果となりました。誠に申し訳ございません。理由といたしましてはより条件に見合う応募者がいたためです。最後になりますがハマノ様の今後のご活躍をお祈り申し上げます。以上ですね」


 予想通りの結果だ。分かっていても直接明言されると悲しい。


「落選ですか」

「そうですね。やはり大手は倍率百倍くらいあるので中々難しいですよ」

「倍率百倍ですか」


 高倍率なことくらい分かっている。やはりみんな大手に行きたいのだ。大手冒険者パーティーと中小冒険者パーティーでは待遇の差は天と地ほどある。もちろんすべての大手が優良な働き先とは限らないし中小でも優良な働き先はあるだろうが確立として大手の方が優良である確率が高いのは事実である。


「はい。ハマノ様のこれまで経験と過去の求職者のデータを加味するとこのあたりの求人なら採用確率が高いと思うのですがいかがでしょうか?」


 受付嬢が表示する求人は、中小冒険者パーティーや立ち上がったばかりのベンチャー冒険者パーティーばかりだ。月給は金貨十五枚から十六枚ほど。スライムの結晶の全盛期なら一日であれば余裕で稼げた金額であり、命がけの仕事をするとは思えないほど低賃金である。


「もうちょっと待遇いいところないですか?」

「うーん。やはり大手の中途採用は冒険者パーティーに所属した経験を求めていますので。ハマノ様はまだお若いですし、大手にこだわる必要はないと思いますよ。大手より中小の方が裁量権とかあってやりがいあるって話も聞きますし」


 受付嬢は笑顔で答える。だが、表情の機微から「この求職者たいした実績もないのに高望みばかりして面倒くさいな」という思いが明瞭に伝わってくる。


 まあそうだよな。受付嬢だって仕事だから見込みの薄い冒険者は早いところ人手不足のパーティーに入れてしまいたいのだ。俺が大手へ就職するに値する実績を持ち合わせていないことは事実なわけだし。

 だが、俺が欲しいのは裁量権とかやりがいとかではなく豊かに暮らせるだけの金一択だ。こんな悪待遇を受け入れるわけにはいかない。それにアキナの彼氏として肩書きが大手じゃないのは見栄えが悪すぎる。


「分かりました。ちょっと考えます」


 態度が悪いと思われるとますます悪待遇の求人しか紹介してもらえないような気がしたから、とりあえず検討するフリだけしておいた。

 受付嬢は営業スマイル。


「ではまたいつでもお待ちしております」

「はい、ありがとうございました」



 受付から離れて、今度はギルドの掲示板へ向かった。掲示板では魔力を込めることでモンスター討伐の依頼情報だとか様々な商品の市場取引価格情報などが確認できる。

 俺の目的は市場取引価格のチェックだ。市場では、冒険者パーティーの出資権を筆頭に土地や貴金属、鉱石や食料など様々なモノの売買がリアルタイムで行われている。俺にとってスライムの結晶の市場取引価格を確認することは日課となっていた。


 結果を見て、ため息を吐いた。

 スライムの結晶の取引価格は前日比マイナス二パーセント。また今日も下がっている。また商品がその日に売買された総量を表す出来高も下がっている。それだけスライムの結晶に対する市場参加者の関心が薄れていっているということなのだろう。ついでにトーリエの冒険者パーティーの出資権の価格も確認する。価格は前日比で一パーセント上がっていた。


 本当にすごいな。

 トーリエが冒険者パーティーを結成するときに俺は出資権の一部を買った。スライム狩りの力で当時はそれなりに金を持っていたし、トーリエの凄さは冒険者育成学校時代によく知っていたし、トーリエからは「絶対に大成する予定だから買っておけ」と直接熱弁されたしで、断る理由などなかった。トーリエの圧倒的な才能に多少の嫉妬はもちろんするが、気の置けない友人でもあるわけだし。


 そしてトーリエの冒険者パーティーの出資権が市場で取引されるようになってから、俺の持つ出資権の価格は購入時の十倍になっている。

 それだけトーリエの冒険者パーティーには価値があると市場参加者から思われているということだ。

 中小冒険者パーティーでしか雇ってもらえない俺とは大違いである。


 この世に金で買えないものなどない。冒険者パーティーの出資権を買い占めればその冒険者パーティーは出資者に逆らうことなどできないし、金で雇われている冒険者は雇用主の冒険者パーティーのリーダーに逆らうことなどできない。


 そして俺たち人間を含めたすべての商品の価格は需給のバランスで決まる。

 トーリエには高値を出しても欲しいと思われるだけの需要があって、俺には需要がないというそれだけの話。むしろトーリエが活躍すればするほど俺の資産も増えるのだから感謝するしかない。


 分かっている。

 分かっているはずだ。

 だが、胸の中のモヤモヤが消えることはなかった。


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