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第四話 冒険者ギルド受付嬢のアフターファイブ(アキナside)

「ねーアキナ。最近ずっと暇よねー」


 いつものように冒険者ギルドで受付嬢として座っていると、先輩受付嬢から声を掛けられた。先輩を無視するわけにもいかないので相槌を打つ。


「そうですね」


 いつもだったら冒険者で溢れかえっているはずの冒険者ギルドなのだが、ここ最近はずっとガラガラである。


「しりとりとかしない?」

「仕事中ですよ」

「別にいいじゃない。今は客もほとんどいないし」

「そうですけど……」

「浮かない顔してるわねー。もしかして彼氏が冒険者だから?」


 私は力なく頷いた。

 ハルトは主にスライムの結晶を売って生計を立てていた。だが結晶の価格は暴落。私の前だとあんまり落ち込んだ姿を見せないように心掛けているようだけど、長年恋人として付き合ってきたのだから無理して気丈にふるまっているのはバレバレである。


 こんな時は私が支えてあげられたらいいのだけど……ギルドの受付嬢は固定給だし低賃金だ。国が雇い主だから残業も少なく安定しているのはいいことなのだけどね。


「まー、心配なのは分かるけど相当稼げるらしいからね」

「どうなんでしょうね……」


 先輩はハルトがカメリアに行っていると勘違いしているようだ。まあそれも無理もない。内乱が長引いたカメリアは、内乱鎮圧のために戦える有力冒険者を好待遇でスカウトした。

その結果、多くの冒険者はカメリアに移動して、ギルドのモンスター討伐依頼の受付は開店休業状態。だからきっと先輩は私の彼氏もカメリアに行ったと思い込んでいるのだ。

 実際はスライム狩りくらいしかしてないハルトに、そんなカメリアからのスカウトなどは来てないのだけど。わざわざ説明するのも面倒だ。


「それにしてもやっぱり暇ねー」


 先輩は隣で大きくため息をつく。つられて私もため息をついた。


「そうですね」


 受付嬢としての給料だけじゃ心もとないし、なにか稼げる副業とかないのかな。



 一日の仕事が終わった。大きく背伸びをしながら冒険者ギルドを出る。これからの予定は夕食の材料を買って家に帰るだけだ。料理は嫌いじゃない。試行錯誤を重ねるたびに新しい発見があって楽しいし、私の料理をハルトが嬉しそうにしてくれると私も嬉しくなる。


 ハルトは今頃何をしてるのかな。会いたいな。そんなことを考えながら、石造りの街を進み、商店街のアーチを通り抜ける。

 八百屋で特売の野菜を買い、次は魚屋にでも行こうとしたとき、私は「すいません」と声を掛けられた。

 男性の声だったらナンパかと思って無視するのだけど、女性の声だったから応じてしまう。


「何でしょうか?」


 声の先には同世代くらいの男女二人組がいた。男性はパーマのかかった金髪で指や首に華美な装飾品を着けている。女性は黒髪で私より数センチ背が低く爪には黄色の派手なネイルを着けていた。どちらも雰囲気はなんとなく軽そうなイメージ。カップルとかなのかな。最初に男性が口を開く。


「この辺でおいしいご飯屋さんとか知らないっすか?」

「私たち今日の夕食どうしようかなって迷ってて」


 食事処を探していただけか。大した用事じゃなくて安心。


「それならあそこの角を右に曲がったところにある定食屋とか美味しいですよ?」


 私は右手で道の先を指さした。

 定食屋は指先に一件しかないからすぐに分かるだろう。以前ハルトと仕事終わりに行ったお店だ。価格も安くて味も美味しかった。店長は「最近は不景気でなー。それなのに原材料費は上がる一方でぴえんぴえん」と嘆いていたからこの二人組も気に入って常連になってくれたらいいな。


「ありがとうございます」


 女性はぺこりと頭を下げた。

 私は小さく手を振る。話題も一区切りついたし、これで二人とはお別れだろう。


「いえいえ。では私は夕食の買い出しがあるので」

「ええ、ありがとうございます。どんな定食屋か楽しみっす」

「とっても美味しいので期待していてください」


 私はそう言って二人に背を向けた。

 足を踏み出す。


「あっ、待って」


 突然手を掴まれる。振り返ると先ほどの女性が私の手を握っていた。


「……なんでしょうか?」

「私、この人と仲良くなりたい。だめ?」


 女性は男性に向かって首を傾げている。男性は困った顔をして頭を掻いた。


「え、でも急だと迷惑だろうし、俺たちも先生と約束あるからな」

「いいじゃん。すごい親切だし可愛いし、先生だってきっと嫌な顔しないよ」

「でも彼女も予定とかあるだろうし。急に誘ったら迷惑かもだろ?」

「お願い! 一回試しに聞いてみるだけでもいいからさ」

「うーん。そうだな……エキドナがそういうなら」


 私はいったい何を見せられているのだろう。それにこの女性、エキドナって名前なんだ。自分の子供にモンスターの名前を付けるって親はどういうネーミングセンスしているのだろうか。

 二人は揃って私の方に顔を向ける。


「決まりだね。あの、すいません! これから時間ありますか? これから私たち先生にビジネスの話を聞いてもらうのだけど、あなたもよかったらどうかな?」

「えっ……」


 いきなりの謎の誘い。なんというか胡散臭い響きだ。

 女性はグッと顔を私に近づけて上目遣いで見つめてくる。困る。可愛い女の子に見つめられると弱いんだよなー。


「お願い! 先生の話はきっと役に立つし、せっかくここで合えたのだから私はあなたと友達になりたいの!」

「迷惑かもしれないっすけど、一度こうなるとエキドナは強情なんで。それに先生はすごいっすよ。年収で金貨一万枚は超えてるっす」


 年収で金貨一万枚。男性が言った金貨一万枚はさすがに驚く。国の平均年収はたしかだいたい金貨四百枚。私の年収はだいたい三百五十枚。以前それとなくハルトに聞いたときは千五百枚くらいと答えていてすごいと思ったのにそれより上だなんて。いったいどんな仕事をすればそんなに稼げるの?


「金貨一万枚……」

「そうっす! 先生はめちゃくちゃ稼いでて、それで未来ある若者に稼ぎ方の指導とかをしてくるんすよ。俺、先生と出会ってマジで価値観変わったす!」

「私も三百六十度くらい価値観変わったよ!」

「それって何も変わっていないんじゃ」


 一周して同じところにたどり着いている。

 女性は驚いた様子で目をぱちぱちと大きく瞬きをした。


「あっ……でもすごいね! 私、全然気がつかなかった。頭いいね」

「すごいっす。きっとビジネスのセンスもあるっす。どうっすか。それに先生と話すって言ってもそんなに大層なことじゃなくてカフェで話すだけなんで!」


 すごいのかなー。

 自分のこと頭いいって思ったことがないから少し照れる。


「うーん。カフェくらいなら行ってみようかな」


 気づいたら私は二人の誘いを承諾していた。もともと副業として稼げるアイデアは探していたし、もしかしたら何かヒントとかもらえるかも。それでハルトの支えになれたら嬉しいな。


「決まりっすね」


 男性は満足そうに頷いた。

 女性は満面の笑顔を見せる。胡散臭い誘いだと思いながらも笑顔は可愛かった。


「やった! よろしくね。私エキドナっていうの」

「俺はイエティっす」

「さっきから気になってたのだけど、それって本名ですか?」

「違うよ。あだ名。先生がチームのメンバーにあだ名をつけてくれるんだ」

「一体感ってやつっす!」

「仲良さそうなんですね」


 あだ名がモンスター名っていうセンスは謎だけど。


「あなたもチームに入ればきっといい名前もらえるっすよ。あっ、チームって言うのは先生の元でビジネスを学んでる人たちの団体名っす。正式名称ってわけじゃないのだけど、先生が特定の名前を付けない方針だからみんなチームって呼んでるっす。ところで俺たちはなんて呼んだらいいっすか?」


 聞かれて考える。

 二人があだ名なのに私が本名を教えるのもちょっと警戒心が足りないよね。


「うーん。ならハルナって呼んで」


 ハルトのハルとアキナのナを合わせた名前。いつかハルトと結婚して、女の子が生まれたときに名付けようかなと妄想していた時に考えていた名前だ。

 あー、ハルトと結婚したい。付き合って三年経つのだしそろそろプロポーズとかしてくれないかな。お洒落なお店で指輪をもらったり、それか家で自然な流れで「結婚しよ」とか言われるのもいいな。


 しまった。妄想が顔に出ていたみたい。なんか適当に誤魔化さないと。初対面の女とその彼氏との惚気話なんてどこにも需要ないだろうし。


「い、いや、先生がどんな人か楽しみだなって!」

「そうっすか! 楽しみならよかったっす」

「ハルナちゃんかー。いい名前だね。よろしくね!」

「はい。よろしくお願いします!」


「どうしたっすか? そんなにニヤニヤして」

 こうして私は初対面の二人組とカフェに向かうこととなった。


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