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第二話 可愛い彼女とデート

 翌日、身支度をした俺は、アキナと待ち合わせのために冒険者ギルドへ向かった。アキナは冒険者ギルドで受付嬢として働いている。

 早く仕事終わらないかなと考えながらギルドの入口でぼーっと突っ立っていたら、横から声が聞こえた。


「ハルト、お待たせ」


 俺の名前が呼ばれた。声のする方に顔を向ける。視線の先には無垢な笑顔を向ける俺の彼女がいた。仕事終わりのアキナにしては珍しく綺麗目なドレスを着ている。俺は彼女の名前を呼んでねぎらう。


「仕事お疲れ。アキナ」

「ありがとー。今日はお祝いしてくれるって聞いたから楽しみで気合入れちゃった」


アキナは両腕を広げてくるりとその場で一回転。動きに合わせてドレスと腰まで伸びた黄金色の髪がふわりと動く。


「似合ってるよ」

「でしょ」


 得意げな顔をするアキナ。髪と同じ黄金色の瞳は大きくて目を引く。童顔で可愛らしい雰囲気のアキナの顔立ちは俺以外でもたいていの男なら魅力的に映るだろう。


「じゃあ行こうか」

 俺が言うとアキナは頷いた。アキナが身を寄せ、俺と腕を組む。布越しにアキナの体の柔らかさが伝わってくる。

 石造りの街の中をアキナと進む。


 幸せだ。

 アキナと腕を組みながら街を歩いているだけで、周りの男からの視線を感じる。彼氏として鼻が高い。

アキナは冒険者育成学校の同級生だ。学生時代から交際を始め、付き合ってから三年が経った。一目惚れだった。

 アキナは学校一番の美人と言われていたため、付き合ったときは周りの人から驚かれたし「どうせすぐに別れる」と嫉妬交じりに言われていると又聞きしたこともあった。だがそんな予想に反して俺とアキナはこれまで大きな喧嘩もなく順風満帆だ。


 楽しそうな顔をしたアキナが俺に尋ねる。


「今日はどこに連れて行ってくれるのー?」

「それは着いてのお楽しみ」

「えーなにそれ」

「やっぱり誕生日は驚かせたいからね」


 自信満々でそんな期待を煽るような言葉だって言える。何と言ってもこれから向かうレストランは外国の要人を迎える時にも使われるような国で一番のレストランなのだ。人気は圧倒的で、予約は半年以上前からが必須。一番安いメニューですら金貨五枚。俺が予約したコースはなんと二人で金貨二十枚もする。並大抵の冒険者では入口を通ることすらできないレストランなのである。


 可愛い彼女に楽で高収入な仕事。

 この世のすべてを手に入れたと言っても決して言い過ぎなどではない。

 扉の横にひっそりと立てかけられた小さな木製の看板を見下ろす。


「着いたよ」

「ここ……」

「名前くらいは聞いたことある?」

「タクミノリョウリ……」


 アキナが震えた声で看板の文字を読み上げる。


「そう。やっぱり一番のお店で祝いたかったから」


 俺はアキナに向かって微笑んだ。アキナは目を丸くしている。さすが名店。アキナも名前くらいは知っているようだ。


「すごい……まさか行けるとは思わなかった……」

「年に一度のアキナの誕生日だしな。驚いた?」

「うん! すごい。ありがと」

「まあ料理はもっとすごいだろうからな」


 俺は木製の扉に力を加えてゆっくりとひらく。蠟燭で照らされた薄暗い店内は微かに料理の香りが漂っていて、それだけでシェフの腕の高さを予感させる。


 真っ黒な制服を着た店員に案内されるがままカウンタータイプの席へと座り、あらかじめ予約しておいたコースメニューの到着を待った。

 まず出てきたのは食前酒と金粉が散らされた暖かいスープ。これまで十八歳になっていなかったアキナはお酒が飲めなかったが、今日でようやく解禁された。小さなグラスを手に取り、二人で乾杯した。恐る恐るグラスに口を付けて「美味しいけどジュースと変わらないなー」って笑うアキナを見て俺も笑った。

 初体験の思い出が増えるのはいいことだと思う。それからスープが飲み終わるころに、新鮮な野菜をふんだんに使った前菜が出てくる。そしてマーモンと呼ばれる高級魚の一番おいしいところだけを使った魚料理、最高級食材であるドラゴンを焼いた肉料理と続いた。高級店というだけあってどれも美味しかった。

 残るメニューはデザートだけである。


「アキナ様、おめでとうございます」


 店員がアキナに頭を下げた。それから別の店員が光の灯った蝋燭の刺さった小さなケーキをテーブルの上に置いた。

 蝋燭の光でアキナの顔が照らされる。


「アキナ、十八歳の誕生日おめでとう」

「ありがと」


 アキナは照れくさそうに微笑み、それからふーっと蝋燭に息を吹きかけ火を消した。俺は火が消えたのを確認してから道具袋から白いリボンで装飾された小さな箱を取り出す。


「これは俺からのプレゼント」


 箱をアキナに渡した。


「開けていい?」

「いいよ」


 アキナがリボンを解き、箱を開ける。喜んでくれるだろうか。プレゼントを渡すときは毎回緊張してしまう。中に入っているのは最高品質のダイアモンドを使ったシンプルなネックレスだ。

 箱を開け終わったアキナはネックレスを見つめて固まる。デザインが気に入らなかっただろうか。不安になってきて思わず聞いてしまう。


「……どう?」


 アキナが口を開く。


「……すっごい綺麗。ありがとう」


 すーっと体から力が抜ける。よかった。


「こちらこそいつもありがとう。アキナが喜んでくれて嬉しいよ」

「私こそありがとう。ハルトのこと好き。これからもよろしくね」

「うん。俺も好き。これからもよろしく」

「着けるね」 


 アキナが箱からネックレスを取り出して首にかける。

 見惚れる。

 綺麗だった。ネックレスも、髪をかき上げる所作も、嬉しそうに俺に向かって微笑みかけてくれる表情もアキナの全部が。


「どう? 似合ってる?」


 ってアキナに聞かれても反応が遅れるには。

 確信した。

 俺の彼女は世界一可愛い。

 幸せだ。

 俺はこんな日々がずっと続くことをただ一心に期待した。

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