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第十四話 声かけ

 デュラハン討伐はあっさりと終わり、城下町へ戻った俺はギルドで報酬を受け取ってから、トーリエと解散した。報酬はトーリエに譲ると言ったが「こんな金は俺にとってはした金だからいらない」と辞退された。トーリエは明日からカメリアに向かうらしい。


 一緒に戦っていて改めて思う。やっぱりトーリエは天才だと。冒険者育成学校も圧倒的な強さだったが、さらに磨きがかかっている。

 おそらく俺が頼んだトーリエへの依頼は達成される。


 ならば俺は俺のやるべきことを確実に遂行すべきだ。

 アキナの所属するチームを崩壊させる。それこそが俺の目的。そのためにはチームメンバーに、先生考案の策は儲からないとはっきり分からせる必要がある。


 アキナからの勧誘で、チームのビジネスモデルは大体わかったけど、具体的に行動を起こすためにはまだ情報が足りない。それに内部の情報を知る協力者も必要だ。

 俺がチームに所属してしまうのが手っ取り早いが、一度勧誘を断った手前アキナと顔を合わせるのも気まずいからな。となると、まずやるべきことはチームメンバーの引き抜きだ。


 翌日、俺は商店街に来た。

 目的はもちろんチームに勧誘されること。以前アキナはここで声を掛けられたと言っていたし、俺が勧誘する側だとしても人通りの多いところを選びたいはずだから、商店街というチョイスは悪くないはずだ。チームに所属する気はないが誰かメンバーとコンタクトを取らないことにはなにも始まらない。


 俺はくるくると商店街を歩き続けた。

 半日ほど歩いた後に俺は声を掛けられる。


「すいません。この辺でおいしいご飯屋さんとか知らないですか?」

「実は私たちこれから何食べようかなって迷っていて」


 男女二人組だ。アキナが声を掛けられたのも二人組だったし、高確率でこいつらがチームメンバーだろう。

 ただ、確実とも言えないし、もう少し会話をして探るか。

 適当に目に入ったカフェを指さして答える。


「おいしいご飯屋ですか。俺はあそこのカフェのサンドイッチとか好きですね」


 チームメンバーでないのならここで会話は終わり。メンバーならここから勧誘に向けてまだ続くはずだ。


「ありがとうございます。私サンドイッチとか超好きー」


 女性が答えた。男性はカフェのある方を一瞥して、それから俺に向かって微笑んだ。


「ありがとうございます」

「いえいえ、お勧めなのでぜひ」


 俺もなるべく自然な感じになるように笑顔を作った。


「ところでお兄さん? まだ暇っすか? せっかくのご縁なのでカフェ好きなら俺たちの一押しのカフェとか案内しますよ」


 男性が言った。

 ここで着いていったら、アキナが以前勧誘したように、こいつらの上にいる先生と対面することになるのだろう。それで二人が先生を持ち上げることでターゲットにすごい人って錯覚させるのだ。今の段階で対面は避けたい。それにもしかしたら似たような勧誘をしている別の団体という可能性もある。もう少し情報を集めないと。


「実はもうちょっとしたら予定があって。でもカフェは今度行きたいので店の名前だけでも教えてくれますか?」

「そこの道を真っ直ぐ進んだところにあるエンマルってカフェですよ」


 アキナに以前案内されたカフェだ。

 これはほぼ確実と言っていいだろう。


「ちなみにお二人の名前は何ですか?」

「俺はドラゴンです」

「私はエキドナだよー。実はあだ名で呼び合う仲なんだ」

「へー、変わったあだ名ですね」


 やばい。落ちつけ俺。嬉しくて笑ってしまいそう。まさかこんなに早く会えるとは。


「実は俺たちみんなでビジネスを学んでいて、あだ名もそこの先生の方針なんですよ」

「みんな仲良しなんだよー。興味ある?」

「うーん。ちょっと迷いますね」


 興味がある演技を混ぜる。


「同世代の友達もたくさんできますよ」

「それはいいですね……でもこれからちょっと用事があってまた今度聞かせてください」

「いいっすよ。いつにします?」


 ドラゴンは乗り気だが、俺としてはお前に用はないんだよな。それにこいつらの予定に合わせたら十中八九、途中で先生が現れて計画の邪魔をされるだろう。それにせっかくアキナを勧誘した女と会えたのだ。個人的な恨みだけど、エキドナの方にアプローチを仕掛けていきたい。

 チームへの勧誘で俺を養分にしようとしているのだから自分が養分になっても文句は言えないよな。

 俺は俯いた。

 そして必死に言いたいことを言うために、これから必死に勇気を振り絞ろうとしているかの如く振舞う。


「あ、あの……その前に一個質問いいですか?」


 俺はドラゴンとエキドナを交互に見て、最後にエキドナに視線を合わせた。


「なにかな?」


 エキドナが答える。


「……お、お二人は付き合っていたりするのですか?」


 言いながら、真っ直ぐエキドナだけを見つめる。まるでエキドナに夢中であるかのように。

二人は顔を見合わせた。


「いや、俺たちはただの友達だよな」

「うん」


 二人の回答を聞いて、俺はわざとらしく大きく息を吐いた。そしてヘラヘラと笑う。


「あー、よかった。実はビジネスとかあんまり興味なくて……でもエキドナさんに一目ぼれして……それで何とか近づきたいって思って興味あるフリをしてしまいました」

「……一目惚れ?」


 エキドナの表情は困惑しているようだ。

 まあそうだよな。自分たちが勧誘しようとした男からいきなりナンパされたのだ。誰だって最初は驚くだろう。


「はい。一目惚れです。超タイプです。よかったら今度二人でデートしてください」


 俺は大きく頭を下げてエキドナに向かって手を差し出した。

 あー、こんな姿はアキナに見せられないな。

 実際、エキドナのことはタイプでもなんでもない。

 だが、切り崩すには二人組を相手にするより一人を相手にした方が楽だ。二人きりになる口実が欲しいだけである。


 それにエキドナは思うだろう。

 この男は私に惚れている。それならマニュアル通りの方法でなくても勧誘が成功する確率は高いと。

普通に考えたら勧誘なんて成功する可能性の方が低いはず。だったら俺以外にも複数人並行して勧誘しているはずだ。

 であればまず見込みが高いターゲットとして、エキドナの中の俺への優先順位を上げる。そして俺への勧誘に対してリソースを割けば割くほど、これまで俺に対して費やしてきたコストを放棄することが惜しくなって俺から離れられなくなるはずだと。


 人は愚かだから、損切なんて簡単にできないのだ。事実として俺だってスライム狩りに執着してしまっているのだから。

 エキドナは俺の手を取った。


「うん。デートするくらいならいいよ。私もちょうどフリーだし」


 計画通り。


「ありがとうございます。絶対に楽しませてみせますね」


 俺はその場でわざとらしく飛び跳ねて喜びを全身で表現した。喜びの舞とでも名付けておこうか。

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