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第十三話 特別な人(アキナside)

 目を覚ますと、私の視界に映るのは見覚えのない天井だった。

 私はふかふかのベッドの上で横になっていた。


 ここは一体どこなの。

 たしか私はエンマルでハルトと話して、それから先生と話した。そこまでは覚えているのだけど、そこから先が思い出せない。

 ゆっくりとベッドの上から体を起こす。


 部屋の中にはベッドのほかに小さな本棚があった。難しそうなタイトルの実用書が並んでいる。

 きっとここは寝室だ。私でないほかの誰かの。

 ベッドを抜け出して、カーペットの上を歩いた。扉を開けると今度はソファーやテーブルのある広々としたリビングが視界に広がっていた。ほんのりと甘い匂いが漂っていて、どうやらお香が焚かれているようだ。


 ソファーの上では男が座っている。男は私に気づいたのかゆっくりと振り返る。


「目が覚めたようだね」


 男の正体は先生だった。エンマルと変わらない穏やかな表情を見せてくれる。


「ここは……」

「私の家さ。疲れていたのか急に眠ってしまったからここまで運んだんだ。さあ、おいで」


 先生は手招きをした。

 私の体は先生の隣に向かっていく。


「……失礼します」

 ソファーに座った。黒光りして高級感のあるソファーは今まで座ったソファーの中で一番座り心地が良かった。ここが先生の家。ソファーを筆頭に置かれている家具一つ一つに高級感があるのも納得である

「よっぽど疲れているようだね」

「そうかもしれません」

「勧誘とか勉強会とか頑張ってくれるのはありがたいけど、無理をするのは良くないな」

「……すいません」

「なあハルナ……」


 隣に座る先生が口にしたのは以前私が名乗った偽名だった。

 それからわたしにぐっと顔を近づけてきた。思わぬ急接近に焦った。なんだか心拍数が早くなる。私は目を逸らした。頬のあたりが熱くなったような気がした。


「先生……」

「私にとって君は特別だ。せっかく部屋で二人きりなんだ。みんなの前では公平を演出するためにあだ名で呼んでいるが今日だけは名前で呼ばせてほしい」


 そんなことを先生から言われるなんて思ってもいなかった。


「なんで……そんなの……私なんて……」

「そんなに自分を下げる必要はないよ。私の言葉が信じられないかい?」

「だって……エキドナさんとか勧誘上手いし、チームだって私より長く入っている人はたくさんいるし……それに私は……正直先生のやり方に疑問も抱いてしまっているし……」


 先生に特別だなんて言われる理由が分からなかった。

 私よりチームに貢献している人はたくさんいる。

 それにチームメンバーはみんな先生のことを信じている。私も信じていた。でも、さっきハルトと話して先生への気持ちが揺らいでしまった。


「時期なんか関係ない。ハルナが誰よりも頑張っているのは知っている。それに大切なお金を扱っているんだ。むしろ盲信されるより多少は疑っていてくれた方がありがたいよ。もちろん最終的には私のことを選んで欲しいけどね」


 先生の言葉を聞いていると不思議と心が落ち着く。

 私なんかのことを特別って言ってくれる。初めて会ったときに偽名を名乗ったのもなんだか申し訳ないような気がしてきた。

 ハルトのことはもちろんまだ好き。

 でも、それなのに先生を拒絶することができない。


「……どうして私なのですか?」

「ハルナだからだよ。初めてカフェで会ったとき、君の目から類まれないセンスを感じた。運命だと思う。君は特別だ。教師と教え子という関係ではあるが、その先だって考えている」


 先生は私の顎に触れた。そしてクイッと引き上げる。


「ハルナ……君に彼氏と別れろと言うのは早急だったかもしれない。謝ろう。だが、これからも変わらずに私についてきてくれるかい?」

「……はい」


 私は頷いてしまった。

 なんで?

 頭の中からハルトが薄れていくような気がした。

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