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十一話 最強の冒険者

 俺は目を逸らす。モンスター討伐に失敗して死にかけるとか、自分のダサいところを見られたと思うと恥ずかしい。


「何でもいいだろ」

「あのなー、街の近辺でチマチマスライムを倒すならともかく、こんなところまでソロで来たら普通に死ぬぞ」

「そうだな……」


 友達に説教されるのは惨めだが、事実だから反論できない。


「希代の天才であるこの俺ですら仲間と一緒だからな。ハルトにも紹介しよう。サンテとフウガだ」


 トーリエは得意げな顔をして両腕を広げた。だが俺の視界に仲間の存在は映ってこない。思い返すと冒険者育成学校時代のトーリエの友達は俺くらいしかいなかった。強気な性格だし、本人に気にしている様子はなかったが、社会の荒波に揉まれて心に限界が来てしまったか。


「お疲れ様。一度ゆっくり休んだ方がいいと思う。トーリエはよく頑張ったよ」

「えっ、なに。急にしんみりした顔をしてどうした?」

「長い冒険者生活に疲れて幻覚でも見えるようになったのかと」


 トーリエはキョロキョロと辺りを見渡してから、髪をかき上げた。


「ふっ、ついダッシュで来たから着いて来れなかったようだ。まあ俺は足も速いからな。あいつらを置き去りにすることがあっても仕方ない」

「ソロは危険なんじゃないのかよ」


 トーリエは何故か得意げだけど冒険者パーティーとして致命的だと思う。チームワークとかいう概念はないのかな。


「まあ俺は天才だから。それにほら、あっちを見てみろ」


 トーリエが目を配らせた先に二人の人影。十代半ばくらいの白髪の少年で、もう一人は赤紫色の長い髪をした女性だった。見た目から想像するに歳は俺より二つか三つほど上だろうか。二人がさっきトーリエの言っていた仲間のサンテとフウガなのかな。

 二人はオークやキングオークの死体を気にすることもなく、トーリエの隣に駆け寄ってきた。


「もー、置いてかないでよね。私、汗かきたくないのにー」


 女性は甘い声とともにぷくーっと頬を膨らませた。整った顔立ちをしているけどなんというかあざとい。


「本当ですよ。僕もトーリエさんと一緒に戦いたかったですよ」


 少年は心底残念そうにため息を吐いた。


「ははは、すまない。これも最先端のトレーニングという訳だ。急に走ることで瞬発力が身に付く。これは大事な力だ」

「なるほど……さすがトーリエさん、天才だ」


 少年は感心した様子でトーリエの話に頷いた。表情から心酔していることが分かる。一方で女性はハンカチで額の汗を拭きながらトーリエに反論する。


「私は鍛えたくないなー。足太くなったら嫌だし」

「サンテ、それでも冒険者か」


 トーリエが女性に向かってサンテと呼んだ。と言うことは女性がサンテで少年がフウガなのか。


「えー前も言ったと思うけど、私はハイスぺ冒険者と結婚したくて冒険者してるのだからね? 同業だったら出会いもあるかなーって。冒険者なら同じ話題で盛り上がれるだろうしね。トーリエが結婚してくれるなら私はいくらでも頑張るよ!」


 サンテがトーリエの腕に抱きついた。トーリエは巨乳美人に抱きつかれたとは思えないくらい引きつった顔をしている。


「サンテ……その話はまた今度でな」

「で、トーリエさん、この人は誰です? なんか仲良さそうに話してましたけど」


 フウガが言ったことで、三人の視線が俺に向いた。


「俺の永遠のライバルさ」


 ライバルだとか初めて聞いた。その割にはずいぶんと差がついたと思う。

 サンテはトーリエの腕から体を離して、俺の元に向かって歩いてきた。そしてしゃがみ込んでから見定めるように俺の目をじろじろと見つめる。


 近くに来たことで気づく。サンテの目元はアイライナーで線が引かれ、頬は薄いチークで彩られていた。汗とかかいたらすぐに化粧なんて崩れそうな気もするがずいぶんと余裕だな。


「へー、じゃあこんなにボロボロだけど実は強いんだ? 私と結婚する?」

「辞めておけ、ハルトには彼女がいるからな。そうだろ?」

「あ、おう」


 とっさに肯定したけど、俺とアキナは今でも付き合っていると言えるのだろうか。


「むー、なかなか婚活進まないなー」


 大げさにサンテはため息を吐いた。本気で残念がっていないことは分かるし、サンテにとっては挨拶みたいなものなのだろう。

 ああ、アキナと結婚したかったな。

 とかアキナのことを思い出して悲しくなっていると、トーリエがサンテとフウガに向かって言う。


「さて二人とも、ちょっと先に帰っていてくれないか。俺はこいつと積もる話があるんだ」

「大丈夫っすか? ここはまだ普通にモンスター出ますよ」

「大丈夫。俺は天才だし、それにこいつもお前ら二人よりは強いしな」

「えー、全然そうは見えない」


 サンテが俺の頬を掴んで引っ張る。頬を触られることに対して抵抗する気力も湧かなかった。まあ実際、第一線で活躍しているトーリエのパーティーメンバーなら、きっと俺より強いことは確実なんだろうな。


「サンテ、あんまりハルトで遊ぶな。ハルトは彼女と付き合って長いし、残念ながら今から横から入り込む余地はない」

「えー、顔は結構タイプだったから残念」


 俺が抵抗しないからか、サンテは変わらず俺の頬を引っ張ったり突いたりしている。


「サンテさん、トーリエさんはともかくこいつよりは絶対俺の方がイケメンだと思いますよ?」


 なぜか対抗心を燃やしてくるフウガ。


「フウガ君は弟にしか見えないかなー」

「……そんな」


 フウガが大きく肩を落とした。もしかしてサンテのことが好きなのか。そんな姿を見ていると、急にサンテは俺の唇に唇を重ねた。


「じゃあね。彼女と別れて寂しくなったらいつでも言って」


 唇を離したサンテは妖艶に微笑む。

 一瞬、何が起きたのか分からなかった。


「あんまり本気にするなよ」


 友達が目の前でキスされたというのに、トーリエにとっては見慣れた光景なのか落ち着いた様子で戒める。


「えー、本気にすればいいじゃん」

「まったく……」


 サンテはキスしたことでいったん満足したのか、立ち上がって俺に背を向けた。


「フウガ、ほら行くよ。リーダーが帰れって言うんだ。私も長いこと外にいると紫外線とか気になるし」

「うぃーっす。従いますよ。ではまた」

「またねー。私と結婚したくなったらいつでも言ってね?」


 帰り際、サンテは途中で振り返り、俺に向かって投げキッスをしてからそう言った。

 二人の姿が見えなくなるとトーリエは俺の隣に腰を下ろす。


「騒がしいやつらだろ」

「……そうだな。でも強いんだろ」

「ああ、二人ともめちゃくちゃ強いよ。俺ほどじゃないけど」


 そう言いながらも、トーリエの表情からは二人に対して一定の敬意が感じられた。冒険者育成学校時代は圧倒的なトーリエの才能の前に誰も着いて来れなかったが、今は良い仲間に巡り合えたらしい。


「実際スゲーからな。普通に暮らしているだけでもトーリエの冒険者パーティーの活躍は頻繁に聞くし」

「出資権を買っておいてよかっただろ?」

「ああ、そうだな」

「珍しく素直じゃねえか……」

「…………」

「実際何があったんだ? ハルトらしくもない。せっかく俺が自慢してやろうかと思ったのに張り合いないじゃねえか。ここまで大変だったんだぜ。自慢しようと思ったら街に居ないし、ギルドで聞いたら一人でデュラハン倒しに行ったとか言われるしで」

「それは悪かったな」


 トーリエが来なかったら死んでいたのは紛れもない事実だ。


「謝るなよ。らしくない」

「悪いな。で自慢ってなに?」


 自慢したかったのなら、話くらいは聞く義務があるだろう。


「ああ。カメリア国王から直々に内乱を治めてくれってオファーが来た。しかも前線で戦う一戦力としてではなく中枢で戦略立案担当として。国とのコネクション持てるとか激アツ案件だろ。前線の一兵士として戦うのはモチベ上がらなかったが、やっぱり国王直属なら話は別だよな」


 目を輝かせるトーリエ。自ら冒険者パーティーを結成して、若手のホープと言われ、すでに圧倒的な金も名誉も手に入れている。俺ならもう十分頑張ったってリタイアして悠々自適モードに入りたくもなりそうなのだけど、このエネルギーはいったいどこから来るのだろう。


「そうだな。本当にすごいよ」

「はあー、そうじゃなくてさ、なんかもっとこう昔みたいに俺が熱くなるような言葉をだな」

「なんだよ。熱くなるようなって」

「例えばスライム狩りしてる俺の方が時給換算とかリスクリワードとか考えたら上だとかかな」

「なんだよそれ。スライム狩りはもう稼げないって」


 というか昔の俺はそんなこと言ってたのか? ちょっと性格悪くないか。


「だからてっきり次の新しい何かとか見つけているのかと」

「なんにもないよ。本当に」


 俺は稼ぐ手段を失った。だからこうして少しでもマシな暮らしができるように大手冒険者パーティーへの内定を目指してモンスター溢れる森まで来たのだ。その結果、何も得られず、命を危険に晒しただけだったが。


「昔のハルトなら何度も俺に挑んできたのに変わったな」

「まあ、歳も取ればそれなりに変わるよ」


 たしかに冒険者育成学校時代は実技とか筆記とか何度もトーリエに挑み、そのたびに負けていた。

 だが、戦えば戦うほど圧倒的な差を見つけられるだけだった。

 唯一、俺が勝っていたと言えるのは観察力だけ。俺はそれを活かしてスライム狩りに特化して、年収に対するコスパでは勝ったと自分に納得させたのだ。

 トーリエは大きくため息をついた。


「面白くないやつ」

「俺はトーリエとは違うんだよ」


 圧倒的な才能を持つトーリエとは。出会った瞬間から誰の目から見ても実力は圧倒的だった。常に不遜な態度を取り、周りを寄せ付けなかった。そして先輩も後輩も同級生もトーリエと一度でも関わったみんなが「あいつは俺たちとは違うから」と言ってトーリエから離れていった。


「たしかに俺は天才だ。俺と並ぼうだなんておこがましい。でも俺はハルトと戦っているときは結構楽しかったけどな」

「俺は苦しかったよ」


 トーリエと出会う前と後では自己肯定感が大きく変わった気がする。


「そうか……」

「なんなんだろうな。本当に……」


 トーリエには勝てなくて、かと言って人並みで終わるのも嫌で、その結果として現状は人並み以下だ。


「俺が知りたいさ。というかなんでこんなことをしたんだよ」


 こんなこととは森に単身突撃したことだろう。今思うと冷静さが欠けていた。死んだらすべてが終わるのだ。再チャレンジすることすらできなくなる。冒険者に限らず著名な投資家だってまずは生き残ることが一番大事とか語っていたような気がする。

 トーリエだって忙しいはずなのに、わざわざこんな辺境の森まで来たのだ。理由くらいは言わないといけないよな。


 俺は話した。

 カフェで起きたアキナとのことを。

 アキナが先生と呼ばれる男が主催する謎のチームでの活動にハマっていること。俺を勧誘しようとしてくること。俺にはもうどうすることもできないということを。

 すべてを話し終えた後。トーリエはため息を吐いた。


「なんだよ。そんなことか」

「そんなことって……」


 アキナは俺のすべてだった。だが俺はそれを失ったのだ。


「本当にらしくないんだよ。そんな簡単にすべてを失ったとか言って諦めるのは」

「じゃあどうしろって言うんだよ」

「それは自分で考えることだな。だが、俺にハルトほどの観察力はないが口ぶりからこれだけははっきり分かる。ハルトはまだアキナのこと好きなんだろ」

「…………」


 それはきっと事実だと思う。

 まだ俺はアキナに執着している。

 でも、だからと言ってどうすればいいのか分からなかった。

 黙る俺に対してトーリエは続ける。


「ハルトはどうしてアキナのことが好きになったんだ? 自分のことを好きでいてくれるからか? 違うだろ」


 どうしてか。

 思い出す。

 はじめは顔が好みだった。

 でも、それだけじゃない。

 アキナは表情が豊かだった。いつも笑顔だった。俺は人の表情から本心が読み取れた。たいていの人は、心に隠す本音と表に見える建前として表情を使い分けていた。アキナと付き合ったときだって笑顔で「おめでとう」とか言ってくる男は本心ではすぐに別れろとか思っているのが表情から伝わってきた。「お似合いだね」と言った女の本心ではアキナならもっといい人と付き合えるのにどうしてと不思議がっていた。


 でもアキナは違う。表情と本心が一緒だったのだ。

 俺はアキナのそういうところに惹かれたのだ。

 打算とかそういうのが一切ない笑顔を見せてくれるアキナに。

 周りがトーリエから離れる中、俺が友人で居続けたのも同じ理由だ。才能に嫉妬し、自信家で不遜なところにムカつきながらも、それが本心と変わらないため付き合っていて気楽だったのだ。


 じゃああの時、カフェでのアキナの表情はどうだった?

 俺はアキナの本心を直視することが怖くて目を逸らしてきた。自分に自信なんて全くと言っていいほどないから、お金とか大手冒険者パーティー勤務の肩書きとか、そういう自分以外の何かを盲信して、そういう自分の価値を証明する何かがないとアキナの気持ちは離れていくと思い込んで一人でビビっていたのだ。


 俺を養分にしようとかじゃなくて、本気で稼げると思って提案してきたとしていたとしたら。スライムの結晶が暴落して稼げなくなった俺を支えてくれようとしていたなら。

 思い浮かぶ可能性。

 これだってきっと都合よく現実を捻じ曲げて解釈しているだけかもしれない。

 だが、それでも、そこに可能性があるのなら。

 やっぱり好きな人には幸せになって欲しい。


「悪いなトーリエ。思い出したわ」

「ようやくか」

「ああ。ようやく俺のするべきことが決まった。俺はアキナが大好き。だから取り戻したい」

 チームを潰す。そしてアキナを開放するのだ。そうと決まれば森で長居している暇はない。

 俺は立ち上がる。合わせてトーリエも立ち上がった。トーリエは満足そうな顔をして俺の胸を叩く。

「それでこそ俺のライバルだ」


 と言っても相手はそれなりに大きな組織。真っ向から対立したり、アキナにチームを抜けるように説得するのは難しいだろう。

 まずは金が必要だ。そして今から大量に金を稼げる方法はたった一つ。


「ということでちょっと一個だけお願い聞いてもらってもいい?」

「なんだよ」


 俺はトーリエに耳打ちをした。城下町から離れた森だからほかに聞いている人はいないとは思うが念のためだ。

 トーリエにとっては予想外のお願いに驚いたのか目を丸くする。


「それ……本気で言ってるのか?」

「ああ、できるだろ。勝算はそれなりにあると思う。どうせカメリアに行くのだからついでくらいに思っておいてくれ」

「失敗しても恨むなよ?」

「失敗しないだろ? だってトーリエは天才なんだろ?」


 トーリエが上手くかないところなんて想像がつかない。


「ああ。それもそうだな。じゃあ景気づけにサクッと終わらせようぜ」

「終わらせる? 何を?」


 気持ち的には終わりというよりこれからが始まりだ。


「そんなのデュラハン討伐に決まっているだろ。せっかくここまで来たのだからな。俺がいれば楽勝だろ」


 そういえばそうだった。もう大手冒険者パーティーへの就職はあんまり興味ないが、受注した依頼くらいはクリアしないとだよな。

 たしかにトーリエと一緒ならデュラハンくらい楽勝だろう。


「そうだな。だがこの依頼を受注したのは俺だ。メインは俺にやらせてくれ。それでトーリエは俺がやばくなったら助けてく欲しい」

「ハルトはそんなに戦闘好きだったか?」


 冒険者育成学校時代から基本的にモンスターとの戦闘はすべてトーリエ任せだった。デュラハン討伐は今後の目標達成に大きな影響を及ぼすわけではないし、トーリエが戦った方が早く終わるだろう。

 でも、体を動かしたい気持ちだった。これからの自分の可能性を信じたかった、


「そういう気分なんだよ」

「まあいいけどな。たまにはハルトの戦闘も見たいし」

「レベルの低さに驚愕するなよな」


 トーリエはサンテとフウガに二人より強いと言ったが、それはきっと二人に帰ってもらうためのリップサービスに過ぎない。


「ははあ。あまりにショボかったら全力で笑ってやるさ」

「なんだよそれ」

「じゃあ行こうぜ。無駄に長引くと二人が心配するだろうからな」


 トーリエは古城に向かって歩き出す。

 パーティーメンバーの二人と違って俺をダッシュして置いていかないあたり、それなりに気を使ってくれているんだろうな。


「あ、待った」


 呼び止める。

 トーリエは足を止めて振り返る。

 俺は歩いてトーリエの隣に並んだ。


「なんだよ。まだ何かあるのか?」


 正直ちょっと照れくさい。でも言わないといけない気がした。今を逃したら一生タイミングを逃しそうだったから。


「……ありがとな、助けてくれて」


 俺は言った。小声で目を逸らしながら。


「礼は後でいいさ。無事にアキナと復縁したらアキナのつてで受付嬢との合コンでも開いてくれ」

「合コンって」


 予想外のお願いに吹き出してしまう。


「サンテを見てると俺も婚活とかそろそろした方がいいのかなって」

「サンテと結婚すればいいじゃん」


 美人だったしお似合いだろう。サンテもトーリエと結婚したいって言っていたし。


「俺は仕事とプライベートは分けたいタイプだから」


 はっきりと明言するトーリエ。どうやらサンテとの脈は本当になさそうだ。まあ本人が付き合う気がないのなら、俺が無理に仲介する理由もない。


「了解。無事に仲直りできたらな」

「なんなら復縁できなくても合コンしようぜ。代わりの女を見つけよう」

「そんな簡単に見つかるわけないだろ」


 アキナ以外に好きになれる人に出会えるとは思えない。トーリエと違って俺は無職みたいなものだし。


「分からんぞ。人の人生に三回はモテ期ってあるらしいからな、もっともハルトはアキナで一回は消費してるだろうが」

「……そうだな」

「まあギルドの受付嬢は顔採用って噂もあるくらいだし本命はそっちで頼むわ」

「了解。アキナと復縁できたら受付嬢で二番目に可愛い人を呼んでもらうよ」

「そこは一番だろ」

「一番はアキナだからな」


 ここだけは譲れない。


「くっそ。惚気やがって。本当にアキナはどうしてハルトを選んだんだ……」


 俺も謎である。昔アキナに「どうして俺と付き合ったの?」って聞いた時は照れくさそうな顔をして「えー、秘密」って言われて誤魔化された。そんなことを言う表情すら可愛かったからそれで満足して深く追求しなかったのだ。

 だから俺は冗談交じりに応える。


「まあ俺の人徳かな」

「なにが人徳だよ。大して友達いないくせに」

 た

しかに冒険者育成学校の同期で未だに交流があるのはアキナとトーリエだけだ。でもそれは他人の表情と本心のギャップが苦手であんまり深く交流してこなかっただけだから。トーリエと違って学校で話す程度の仲の人はそれなりにいたから。

 というか学校で雑談する人すらいなかったトーリエに友達いないとか言われたくない。


「俺が友達いなかったらトーリエはもっといないだろ」

「天才とは常に孤独なものなのだよ」

「そうですか……」


 まあ正直トーリエならそう言うと思った。予想通りである。

 トーリエは小さく息を吐いて、それから俺の背中を叩く。


「でも、よかったよ。こうして軽口が言い合えて。やっぱりハルトとはこうじゃないとな」

「そうだな。ありがと」


 気づく。

 いつの間にか憂鬱な気持ちはほとんどなくなっていた。

 というかトーリエの言う合コンだって本気でしたいとかじゃなくてきっとアキナと別れた場合の俺のためなんだろうな。トーリエくらいのホープが交際相手に困っているとは思えない。


 本当によくできた友人だと思う。

 これからトーリエとともに古城に向かって、デュラハンと戦う。控えめに言って、負ける気がしなかった。

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