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第十話 スライム以外との対決

 冒険者ギルドでモンスターの討伐依頼を受注した。対象はこの町から半日ほど歩いた先にある、古城に住み着いているらしいデュラハンだ。

 デュラハン。それは首のない騎士。戦死した数多の兵士の怨念が魔力となり鎧を動かしているらしい。


 デュラハンに恨みはないが、ギルドの掲示板に張り出されている今日の依頼の中で最難関に指定されていたから俺のために討伐されてもらおう。

 通常、一人でモンスター討伐に挑むことはない。ひとたび街の外に出れば、都合よくターゲットのモンスターとだけ戦闘できるわけではなく何が起こるか分からないのだ。命を復活させる魔法なんてないしどう考えても危険すぎる。


 だが、それを一人で成し遂げたら。

 俺の戦闘能力は実績として証明される。

 優れた実績があれば中途採用で大手冒険者パーティーに就職できるはずだ。そうすれば年収アップは間違いない。

 完璧な計画。


 ――だったはずなんだけどな。


 俺は右手で剣を構えながら、こめかみから流れる血を左手で拭った。

 乱れる呼吸を落ち着かせながら、俺は対面するキングオークを睨む。


 まさかデュラハンのいる古城にすらたどり着けないとは。

 古城に向かう途中、俺はオークの群れに遭遇した。オークは人型で好戦的なモンスターであるため、俺を見つけるとすぐに襲い掛かってきたのだ。


 剣術や魔術を駆使して応戦した。

 町の傍の森でスライムくらいとしか戦ってこなかったから、本格的な戦闘は久しぶりである。数年まともに戦っていないと、想定以上に体は衰えていたのだと気づいた。


 あたりには十匹のオークの死体が転がっている。あとは一匹のキングオークだけだ。

 だが、その一匹の討伐が遠い、

 キングオークはオークの群れのボスとされており、体格は俺の二倍ほど。皮膚も固く、俺が使える簡易な攻撃魔法ではダメージを与えられる気配はないし、剣で攻撃するために近づいて、万が一、直接攻撃を受けたら即死である。


 こういうときにパーティーを組んでいたら撤退も容易なんだろうけどな。だが、単身で多くのモンスターが棲む森に入った以上、これは分かっていたリスクのはずだ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


 キングオークに向かって駆ける。キングオークは大きな拳を天にかかげ、それから俺に向かって振り下ろしてきた。

 俺はそれを避ける。砂埃が舞った。小枝が折れる音がした。俺は体を捻って剣でキングオークの腕を斬る。

 が、効かない。思いっきり斬ったはずなのに。キングオークの腕にはかすり傷しかつかなかった。

 とっさに俺は後退して距離を取った。


 マジかよ。トーリエが倒しているのを見たときは、そんなに強敵にも見えなかったんだけどな。これが俺とトーリエの差なのか。悲しいけど悲しみに暮れているほどの暇はない。キングオークが俺に向かって突進してきたのだ。

 避ける時間はない。


 ならば俺に残された手段は一つ。

 どんなモンスターでも柔らかい箇所はある。それは目だ。


「アイス」


 左手をキングオークに向け、ちょうど目に入るサイズの氷柱を作り出す。

 氷柱はキングオークに突き刺さる。


「ぐぎゃあああああああ」


 キングオークは仰け反った。だが致命傷にはならない。おそらく人間でいうところの目にゴミが入った程度だろう。

 だが、隙ができたのは事実。勝てる気がしないしここは逃げ一択だ。

 俺は動こうとした。だが足は動かない。


 え。

 何が起きた。

 足首に感触がある。

 下を向く。死んだと思っていたオークはまだ生きており、俺の足首を掴んでいたのだ。


「くそっ」


 剣を振り下ろし、オークの腕を切断した。これで今度こそ逃げられる。そう思った。だが無理だった。

 もうすぐそばまでキングオークの拳は来ていたのだ。避ける時間も魔法を使う時間もないくらいの距離まで。


 どうやら今度こそ死ぬらしい。

 思わず尻餅をついてしまう。


 誰にも負けたくなかった。誰かの養分にはなりたくなかった。でも、結局、モンスターに殺されて死ぬのか。キングオークに食われるのか、このままここで放置されるのかは知らないけど。

 冒険者の仕事は命がけ。それなのに単身で挑むとか馬鹿みたい。危険は分かっていて、それでも実績のためにリスクテイクしたはずなのに、やっぱり想像が現実になると思うとちょっと怖いな。


 これが俺の最後か。

 死を確信した。目を瞑った。

 だが拳は俺に届かなかった。


「ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 キングオークが大きな悲鳴を上げている。キングオークには右腕がなかった。切断されていたのだ。何者かによって。

 俺とキングオークの間には男が一人。こいつが助けてくれたのか。

 男は悲鳴を上げるキングオークに向かう。キングオークは左手で男に殴りかかる。


 男が高くジャンプして拳を避けた。

 そして剣を振る。

 キングオークの首と体は分裂した。頭と体が離れて生きていられるキングオークなどいない、つまりキングオークは討伐されたのだ。


 一瞬の出来事だった。

 男は振り返って、俺に視線を向ける。俺を助けた男は、これまで何度も見てきた顔だった。俺は男の名前を呼ぶ。


「……トーリエ」

「よう。何してんだよ」


 トーリエは剣を鞘に仕舞いながら呆れた様子でため息をついた。


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