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第一話 スライムを倒すだけで大金持ちに

 城下町から少し歩いたところにある森の中、冒険者用の軽装を身に纏った俺は大木を背に呼吸を整えた。

 すぐそばに居るのは下級モンスターであるスライムの群れ。数は三十匹ほど。スライムは薄水色の液体状で、少々動きは素早いが攻撃力はほとんどなく、冒険者なら確実に負けないし、普通の商人が適当にナイフを振り回すだけでも勝ててしまう。いわゆる最弱のモンスターだ。俺は冒険者としてそんなスライムを専門で狩っている。

 大木から半身を出してスライムに向かって手のひらを伸ばす。


「……ファイア」


 手のひらの前から火の玉が生まれ、火の玉は群れの中にいる一匹に向かって飛んで行った。ファイアは冒険者なら誰でも使える簡単な魔法だが、スライム相手なら攻撃としてこれで十分だ。

 火の玉はスライムに当たり、スライムは焼失する。瞬間、俺が狙ったスライム以外のスライムは危機を感じたのか、持ち前の素早さを活かして一目散に逃げて行った。


 こうなれば今日の仕事は終わりだ。

 俺はスライムの焼け跡に向かって足を進める。

 スライムの焼け跡を見下ろすと、自然と笑みがこぼれる。予想通りだ。

 焼け跡の中で一際目立つ小さな水色の結晶を見つけたのである。


 俺はその結晶を拾い、天へとかざした。

 綺麗だ。

 木漏れ日に照らされる半透明の結晶はキラキラと輝いている。

 結晶の名はスライムの結晶と言う。小指の爪ほどのサイズ、そして宝石のような透明感、ここ最近の市場取引価格を参考にするなら、このスライムの結晶は金貨三十枚ほどで売れるだろう。


 十八歳。俺と同世代の若手冒険者は一日の仕事の報酬として金貨一枚が相場だ。その三十倍の大金を雑魚モンスター一匹倒すだけで手に入れたのだ。こんなに楽な仕事はない。時給換算したら国内トップクラスの冒険者たちにも劣らないだろう。

 戦果である結晶を眺めながら考える。


 こんな石ころ一つが金貨三十枚になるなんて夢みたいだと。

 スライムの結晶。それはスライムを倒したときにごくわずかな確率で中から出てくる薄水色の結晶。特徴は見た目が綺麗というだけだが、その希少性から隣国であるカメリアの富裕層を中心に結晶を用いた装飾品がステータスになっている。そのため結晶の市場取引価格はカメリアの国力と連動し、過去十年で三倍になっている。カメリアは世界でもトップクラスの大国だから今後もますます経済成長するだろうし、同様にスライムの結晶の価格も上昇が見込まれる。

 要するにスライムの結晶は夢と希望で満ちた結晶なのだ。


 誰もが倒せるモンスターから出てくる高価な結晶。どう考えても狩りつくされて価格が暴落しそうなものだが、そうはならない理由がある。

 多くのスライムは群れで行動する。そしてその中の一匹が攻撃されると一目散で散っていく。逃げに専念したスライムに人間が追いつくのは不可能だ。過去には大規模魔法を用いて一撃で群れをすべて殲滅すればいいと考えた人もいるが、そういった大規模魔法は強力すぎて結晶自体を壊してしまう。大量の人間を引き連れて同時に攻撃しようとした人もいるが、スライムは危機に敏感なので、大量の人間が一度にスライムに接近すると気配が隠せず逃げられてしまう。


 つまりたまたま最初に倒したスライムが結晶持ちだったという幸運を除いて、スライムの結晶を手に入れるためには群れの中から結晶持ちを見つけてピンポイントでそいつに攻撃を仕掛ける必要があるのだ。

 俺は平均的な体格だし、冒険者として自由自在に剣を振り回す筋力も魔法のセンスもない。だが観察力だけはあった。群れの中の立ち位置や微妙な表情の変化から結晶持ちのスライムを当てることができた。

 これができる人は俺の知る限りほかに居ない。もしもそんな人がほかに居たなら、遥か昔に結晶価格は暴落しているだろうからこの先も安泰だろう。だから俺は結晶持ちのスライムを専門で狩っている。


 スライムの結晶を腰に掛けた麻製の道具袋に仕舞い、俺はうーんと大きく背を伸ばした。

 思っていたより早くスライムの群れに遭遇できたので今日の仕事は終わりだ。明日は恋人であるアキナの誕生日を祝う予定だし、早めに帰って家で半身浴をするなどしてゆっくり過ごすことにしよう。せっかくのデート前に肌荒れとかしたくないしね。日々の肌ケアは大事。


 それにしても、毎日確実に稼げるとは限らないとはいえ、一日の労働で金貨三十枚とかこんなにコスパの良い仕事は他にないと思う。この調子で大金を稼ぎ続けたら、一生働かずに暮らせるだけのお金が手に入って、いわゆる経済的自由を獲得できるのではないかなんて期待してしまう。

 こんな結晶をありがたがってくれるカメリアの富裕層さんはマジで神様。これからもカメリア経済を成長させていってください。それにしてもカメリアと違って俺らの国は数十年に渡って不景気とか言われているからちょっとくらいカメリアを見習ってほしいものである。

 そんなことを考えながら、俺は浮足で城下町へ戻った。



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