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幸せのハンムラビ法典  作者: うみみ


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第3章 闘争

「おいおい待ってくれよ。お前人間だったのか??まあでもよく見たら所謂化け物みたいな見た目ではないような…??」


「ははは。驚くのも無理ないよ。私もたまに自分がもう人間ではないことを忘れてしまうからね。」


そう、あれはまだ私が人間だった時の話だ。


「私の両親は偏った人だった。高偏差値高学歴高収入の先にこそ幸せがある。それが1番一般的な幸せの形だと、そう信じて疑わない人だった。


実際に私の両親は共に国立の研究機関で数年のキャリアを積んだのちに起業した所謂エリートだった。かつて隣町と争い、戦いに敗れ、荒れ果てた故郷を復興させたいと。


私にとって両親は神だった。両親の思想こそ私の思想だった。体罰や暴言も当たり前だった。けど仕方ない。だって神様の言うことを守れば幸せになれるんだから。言われるがままに勉強して特殊部隊に入隊したよ。きみたちと同じJitにね。驚いたかな??」


「嘘だろ?!お前みたいなやつJitの真反対みたいな存在だろ!」


予想通りの反応に思わず笑みが溢れる。


「最後まで聞いてエレン!ごめんね。続き教えてくれるかな??」


「ありがとう。最初はJitに入隊できた自分、Jitで活動する自分が大好きだった。きみみたいに優しい子も、エレンみたいに正義感の強い子も、キャスみたいに冷静沈着な子も、沢山たくさんいたけども、彼ら全員に共通していたことは、とにかく誰かのために一生懸命だってことだった。自分は世間的に秀才と呼ばれる軍団の一部である、たったそれだけの事実でいくらでも上機嫌でいられたよ。」


「いまのところ順風満帆に見えるけど、何かあったからこうなってるんだよな…??」


「さすがキャス。その通りだよ。Jitで働き続けて気づいてしまったんだよ。この組織の腐敗具合にね。」


一瞬エレンが血走ったような目をした気がしたが話し続けた。


「きみたちもさっき話していたみたいに、Jit上層部や政府の人間は、自分たちの正義を絶対だと信じて疑わない節がある。自分たちの正義を貫くためなら戦闘員や市民の1人や2人が死んだって構わないと。


目の前でたくさんの仲間が酷使され、改造され、そしてその多くは死んでいった。かつて多くの人の幸せを望んで発足した組織が、目の前にいる仲間の大切さすら認識できないような組織に成り下がる光景にとても心が痛んだ。かつて私が望んだ正義のために、たくさんの仲間や市民が死ぬことに耐えられなかった。Jitは愛を忘れてしまったのだよ。


暫くして、私はJitを抜けた。25歳の時だった。既に体の半分以上はメカだったと思う。」


みんな呆然としていた。あの時の私のように。自分の信じた正義は本当に正義だったのか。自分たちはただの駒でしかなかったのか。若い彼らにはあまりに酷な話だろう。


「Jitを抜けた後は浮浪者のような生活をしていたよ。たくさんの人間に、裏切り者だとか汚いだとか、酷い罵声を浴びせられたよ。


そこで気づいてしまったんだ。私からJitを取ったら何になるんだろうって。そもそも何故私はJitに入隊したんだろうって。富を得るため??名誉を得るため??思いついた動機のすべてが浮かんでは却下されての繰り返し。


だって私は何一つ自分の頭で考えて行動していなかったのだから。小さい時から親の言いなりで、親のやりたいことが自分のやりたいことだった。Jitに入隊するまでに経験した耐え難い苦痛も、親が示してくれた幸せのためだと思えばなんでもなかった。全部全部気づいたのは何年もあとだった。


そんな状況に耐えかねた私はあれほど避けていた実家に戻った。父には「死ね」と罵倒され、母には「私たちのせいで自分の人生が無茶苦茶になった」と言いたいのかと吐き捨てられたよ。


あまりに気づくのが遅すぎた。あまりに視野が狭すぎた。親の幸せは私の幸せではなかった。レールから外れることは必ずしも過ちではなかった。富や名声を手に入れるために捨てた数々の日々が、人間としての深みをつくるはずだったんだって。


かつて馬鹿にしていた、成人するかどうかくらいの年齢で妊娠して結婚していった旧友があれほど羨ましく見えた日はないよ。


私はずっと誰かと繋がっていたかった。そのためには富や名声が必須だと思っていた。でも違った。私の、親に捧げた25年間は無駄だった。両親にとって大事なものは、私より私に付随する肩書きだったのかもしれないと気づいてしまったんだ。全ての苦痛の果ては鬱だった。


両親は私を愛していたんじゃない。私の将来を愛していたんだ。それも何か一定の成果を残す場合のみのね。


耐え難い孤独に殺されそうになったある日、考えてしまったんだ。この世から愛がなくなればいいって。両親から受けられなかった愛、自分の手で築くことのできなかった愛。愛なんて幻想なんだって。


私にとっては愛が全てだった。人間は思ったより弱いし孤独に弱い。誰かに手を差し伸べてもらわないと生きていけない。私にとって勉強はその手段だった。それしかないと思っていた。思わされていた。


彼らと出会ったのはちょうどその頃だったと思う。突然私の目の前に現れてこう囁くんだ。


『今日も新たな犠牲者が続々と誕生しているよ。もしきみが望むのなら、きみの名前と引き換えに愛を消す力を授けよう』ってね。


翌日にはもう行動に移してしまっていた。止まらなかった。自暴自棄だった。手当たり次第に病院を攻撃したよ。もうこれ以上愛に苦しむ命が生まれてこないようにって。


だからハイライトという名前は本当の名前ではないんだ。もう本当の名前は思い出せないけどね。


いま考えれば、私もJitとなんら変わらなかったわけだ。自分の正義のために多くの人を傷つけた。最低だ。」


ああ言ってしまった。分かってもらえるはずがないのにそれでも話してしまうのは、やっぱりどこかで安らぎを求めていたからだって。


張り詰めた空気を壊してくれたのは意外にもエレンだった。


「話してくれてありがとうな。お前のしたことは許されないし、ごみだけど、正直同情する部分も多かった。お前のこと勘違いしてたよ。あとにゃる。もう泣くな、こっちまで貰い泣きしそうになるだろ。」


「だってええ…。それに病院を攻撃したって言ってたけど、ほんとは看板とか建物にとって致命傷にならない部分にしか攻撃してないよね…??実際に病院にいる先生や赤ちゃんには一切危害を加えてない…。あなたは最低なんかじゃないよ…。」


話し始める前は、やっぱりこいつは殺しておくかとなってもおかしくないと思ってたけど、みんな優しいな。さすがはJitだ。いや、隙が甘いとも言えるだろうか。


「私に処罰が下るまでの時間、協力できることはなんでもするよ。今度こそ、自分の意思で動ける気がするから。」


「そう言ってもらえてうれしい。わたしはあなたの味方だから。持ちつ持たれつでいこうね。」


柔らかい声が私を包んだ。


「ずっとここに長居するのもあれだし、そろそろ本部に戻ろう。キャス、出口まで案内してくれ。あと帰ったらお前を唆した奴らについての話も聞かせてくれ。」


奇妙な関係はもう少し続きそうだ。

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